前回の記事の続報的な話になるのかな。前回、FA-50をポーランドに輸出したら色々トラブルがあったよという話を紹介している。情報が錯綜していたので、イマイチ何が起こったか掴めなかったのだが、今回は答え合わせが出来そうである。
FA-50の内情。ポーランドのプログラムの次なる目標は?
31.10.2024 09:04
FA-50の製造元である韓国航空宇宙産業(KAI)がポーランドのジャーナリストのために企画したプレスツアーで、私たちは泗川の航空ショーを見学し、KAIの製造施設を見学し、現存する世界最大のFA-50航空機基地を訪問する機会を得た。また、KAIの上級担当者にしばしば難しい質問をする機会もあった。なぜFA-50PLは納入遅延の危機にあるのか?少なくともポーランドの状況において、FA-50の生産と計画の将来はどうなるのか?
Defence24より
ポーランド語の翻訳なので、イマイチ正確な情報かどうか自信はない。だが、まあ、気軽な内容なので肩の力をぬいて読んで欲しい。
FA-50軽戦闘機はいつポーランドで運用出来るのか
やっぱり12機中12機は飛べない
さて、これに関しては既にMoney1様のところが記事にしている。
後追い記事的な話になるのだけれども、同じ記事構成にしても仕方がないので、ここでは前回の記事の情報整理などを踏まえて行きたいと思う。
前回、ポーランドが購入したFA-50軽戦闘機にトラブルがあるという紹介をした。
引用したDefence24の記事はその後の話について触れていて、答え合わせができる内容となっている。
泗川市での航空ショー中にポーランドのジャーナリストとの短い会合の際、私たちは韓国航空宇宙産業のカン・グヨン社長に会いました。
同氏が述べたように、ポーランド訪問中の2024年10月初旬には、12機のFA-50GFのうち11機が運用可能な状態になる予定だった。
Defence24「FA-50の内情」より
前回の記事は10月初旬の話で、10月の段階で11機が「運用可能な状態になる予定だった」とされているので、少なくとも10月の段階では12機何れも飛べない状態にあったという理解で良さそうだ。つまり、前回の「納入された機体の12機中11機が飛べない!」という噂は正しかったということになる。
……いや、正確に解釈すれば、少なくとも11機運用可能な状態になる予定だったけど、運用可能にならなかったということなので、もしかしたら何機かは運用可能な状態だったかも知れない。
運用準備率?
ただし、前回引用したこちらの記事にあったように、飛べないのは問題だ!という話ではなさそう。
ポーランド輸出FA-50軽戦闘機12機、一部飛行不能…「整備・部品需給の問題」
2024.09.26.4:41
ポーランドに販売された国産軽戦闘機FA-50「ファイティングイーグル」12機のうち、一部が正常な飛行が困難な状態であることが明らかになりました。
韓国航空宇宙産業KAIの関係者は、輸出した飛行機の一部が飛行が困難な状態であることを把握したとし、整備と部品需給問題のためだと説明しました。
YTNより
この記事を読むと、ポーランドに納入された段階で既に飛べる状態になっていなければおかしいよね?というニュアンスを感じる。
実際に、韓国のKAI工場で組み立てられた後、2023年12月までに納入されたFA-50GFは、直ぐにでも運用が可能であるかのように報じられていた。
この式典は、マリウス・ブワシュチャク国防相率いるポーランド代表団の訪韓の重要なポイントとなる。ウクライナに移送されたMiG-29戦闘機の代替となる12機のFA-50GF(ギャップフィラー)航空機の迅速な納入は、国防省の最も重要な決定の1つである。組み立てはKAI工場で完了し、戦術番号5001と5002の2機がポーランド色に塗装され、8月にポーランドに到着し、2023年のラドム航空ショーに参加する予定である。
Defence24「最初のFA-50ユニットは既にポーランドに納入されている」より
韓国はかなり急いだらしく、契約締結から15ヶ月以内に約束を実現したようだ。
また、12機のFA-50GF(ギャップフィラー)の納入は、契約締結から15ヶ月以内、2022年9月から2023年12月の間に実施されることも強調した。
Defence24「FA-50の内情」より
ただし、残念なことに2024年10月の段階では納入された機体の殆どが運用出来ない状態にあったようだ。
対照的に、FA-50の運用準備率は過去12ヶ月の平均で77%であり、非常に良い結果であった。
Defence24「FA-50の内情」より
「運用準備率」という翻訳が、「稼働率」という意味であれば既に運用可能であったと理解すべきなのだが、記事を読む限りそれもなさそう。
そうすると、全部の機能が使えないので運用可能ではないけれど、飛行訓練か、地上訓練くらいは出来る状況だという理解をすべきのように思う。この辺りハッキリ分かったら又お伝えしたい。
機体の性能は高い
さて、こちらの記事もMoney1様のところが記事にしていて、韓国のホルホルっぷりがちょっと微笑ましいのだが、記事に書かれていることを斟酌すれば、FA-50がポーランドで飛行不能であることと、ポーランドのパイロットがFA-50の飛行訓練をしたということは矛盾しないようだ。
「韓国戦闘機FA-50に驚いた」…ポーランド戦闘パイロットが絶賛した理由は
2024-12-01 12:01:00
「FA-50は若いパイロットが未来を準備するのに非常に適した航空機だ」
韓国航空宇宙産業(KAI)でFA-50パイロット教育を受けたポーランド空軍のバルトシュグワ(37)中佐は先月28日、慶南四川KAI本社で記者たちと会ってFA-50の性能に対してこのように満足感を示した。
2022年7月、KAIはポーランドと計48台のFA-50輸出契約を結んだ。以後、ポーランド空軍のFA-50GF(ギャップフィラー)とFA-50PL(ポーランド版)操縦入門教育を国内で進行したが、FA-50PLを運転することになるパイロットがインタビューを通じて所感を伝えたのは今回が初めてだ。
クワ中佐は「訓練を通じて経験したFA-50は、性能が非常に優秀で、パイロットに優しい機体だった」とし、「パイロットの立場で期待以上の驚きを発見することもあった」と話した。
~~略~~
彼は約6ヶ月間韓国とポーランドを行き来し、空軍とKAIなどで飛行教育を受けており、今回は1週間の日程で訓練に参加した。
毎日経済より
記事の内容に違和感を覚えるのはMoney1様のところと同じではあるのだが、そこは誤解があったと理解して読んでいくと、少なくとも訓練飛行ややっているハズだということになる。
そしてその訓練は韓国国内で行われたとされているため、少なくともFA-50軽戦闘機をポーランドのパイロットが体験をしているのは事実である。
だが、「FA-50PL(ポーランド版)操縦入門教育を国内で進行」というのはどうにも怪しい。
KAI設計チームの責任者であるチャ・ジェ・ビョン氏は、FA-50のPLバージョンの納入が2025年11月に開始される予定であることを認め、これは「2025年第4四半期」に納入が開始されるという以前の予測を裏付けるものとなった。同時に、ポーランド情報筋が言うように、必ずしも9か月もかかる必要はないが、遅延する可能性が高いというポーランドからの報告を認めた。
Defence24「FA-50の内情」より
FA-50PLというポーランド版の軽戦闘機は、未だ納入予定であるからだ。もし訓練を行ったという事であれば、シミュレーターか、或いはFA-50 Block20のプロトタイプ(ADEX 2021で公開されている)を利用したという事でないと話が矛盾してしまう。
ポーランド軍のパイロットが「FA-50の性能が非常に優秀」と感じた理由は、ポーランド空軍が保有している戦闘機(Mig-29が主力で、F-16 Block 52を訓練機として運用中である)より先進的に感じだという意味なのだろう。
FA-50軽戦闘機の飛行性能については、そもそも訓練機として設計されているのだから取り扱いやすいという意味で優れていることは不思議ではない。
FA-50GFの武装は揃った
さて、FA-50PLの納期が遅れそうだというのは、恐らくは間違いない。そして、FA-50GFも運用出来る状態にないというのも、間違いなかろう。
韓国人が言うように、その理由は彼らのせいではない。 FA-50とサブシステムおよび武器の統合に関する米国政府の同意は、ワシントンの承認が必要だが遅れている。これには以下が含まれます。 AIM-9X サイドワインダー ミサイル、データリンク、ナビゲーション システムおよび通信装置。ポーランド政府は米国側からこれらの同意を取得することになっており、現在ポーランド政府だけでなく韓国側からもこの件に関して交渉と圧力が続いている。
興味深いことに、KAIはレーダーの承認と統合に関して遅延を予想していません。最初の装置は2025年前半に泗川工場に到着する予定で、その後すぐにそれを搭載した飛行が開始される予定だ。これは、PhantomStrike レーダーが政府間取引 (FMS) ではなく、直接商業販売 (DCS) を通じて入手できるためである可能性があります。
Defence24「FA-50の内情」より
その原因がアメリカにあるにせよ、そもそも輸出の約束をした段階でアメリカに根回しをしていなかった韓国側に問題があるし、「約束が違うじゃないか」と言われても仕方がない。
そして、KAIが調子の良いことを言っているのは、韓国あるあるなので不思議な話でもない。
問題はどちらかというと、大急ぎで導入したFA-50GFが使えるか?と言う点である。
FA-50の武装の真実【解説】
2024/09/16 13:02
国防副大臣のチェザリー・トムチクは議会演説の中で、FA-50航空機の購入方法、特にこれらの航空機の武装の欠如を批判した。彼は本当に正しかったのでしょうか?事実を見てみましょう。
同副大臣は、FA-50は「おそらく世界初の非戦闘訓練機である(…)。したがって、我々は訓練はしているが戦闘ではない訓練兼戦闘機を保有している」と述べた。これは、航空機が武装なしで購入されたことを意味します。
~~略~~
ポーランド国民に広まった情報に反して、ポーランドは現在、FA-50GF航空機にいくつかの兵器システムを搭載することができています。これらは我々がF-16用に購入した兵器と同じであるからです。これらには、レーザー誘導の AGM-65 マーベリック ミサイル、古典的なマーク 82 航空爆弾、JDAM 精密爆弾、20 mm M61A2 エアガン用の弾薬が含まれます。後者は、F-16 で使用されている M61 バルカン航空機砲のスリム化バージョンです。そして同じ弾薬を使用します。
~~略~~
唯一の例外はAIM-9サイドワインダー短距離空対空ミサイルです。FA-50GFは、この兵器の旧バージョン(AIM-9LとM)を使用することができるからです。そして、トムチク副大臣がFA-50用の武器は「もう買えない」と言ったのは、おそらくこれらの戦闘資産を念頭に置いてのことだと思います。
Defence24より
全ての兵装が使えないというわけではなく、一部が使用不能だということを説明しているのだが、前回の記事との齟齬があるわけではないんだよね。
- AGM-65「マーベリック」空対地ミサイル → 使用可能
- Mk.82通常爆弾 → 使用可能
- JDAM精密誘導キット → Mk.82に取り付けて使用可能
- 20mm M61A2「バルカン」機関砲 → 使用可能
- AIM-9「サイドワインダー」空対空ミサイル → AIM-9LとM(第3世代)を使用可能
前回の記事でも1~4までは問題なしということになっていて、5に関しては「AIM-120 AMRAAM空対空ミサイルを使えるという話だったのに使えないよね?何で?」という問題提起であった。
なお、AIM-9「サイドワインダー」空対空ミサイルの最新版である第4世代は使えない模様。最新版はAIM-9Xとその改良版のAIM-9X2だけれども、技術的にはAMRAAM用に開発された技術をフィードバックしているようだ。
ポーランド空軍が問題視したのは、「AIM-9の最新版をF-16と共用したかったのに結果的に使えなかった、どうしてくれる?!」という意味だろう。
そうなると、FA-50GFは少なくとも空対空ミサイルが使えない状態(前回の記事では、中古のミサイルを探すとあったので、ポーランド空軍の手元にはないのだろう)で、従って、FA-50GFが「使えない」という意味は、兵装の一部が使えないので任務に就けないという意味で「運用出来ない」のではないかと推測できる。
アップグレードされれば!
ただ、記事にある様に、FA-50GFは最終的にはFA-50PLにアップグレードされる予定である。
彼は「まだポーランドに韓国武器が導入されたばかりではなく、深く評価するには早い段階」とし「韓国武器がポーランドに徐々に導入されており、今後ポーランド国防体系にどのように運営されるか見守らなければならない」と話した。
毎日経済より
したがって、現段階でポーランド空軍保有のFA-50GFが「使えない状態」にあったとしても、2025年までは評価を保留しても良さそうである。
この話は、結局のところは韓国のセールストークをポーランドが鵜呑みにして導入してしまったという点が問題であって、未だ見ぬFA-50PL評価を今しても仕方がない話だ。若干、ポーランド側が「FA-50PLは凄いんだから、今は使えなくても仕方がない」と、無理矢理納得している空気を感じるけど、多分ソレは気のせいである。
追記
そういえば、FA-50開発にお金を注ぎ込む話がどこかにあったな。
韓国航空宇宙産業、未来飛行体・FA-50単座型開発に100億円投資
2024年3月13日 11:00
韓国航空宇宙産業(KAI)は8~7日の理事会で、未来型飛行機体(AAV)とFA-50単座型の開発に総額908億6000万ウォン(約102億円)の投資を決めたと発表した。
KAIはAAV開発の第1段階事業に553億ウォンを投入する。KAIは今回の投資を手始めに、AAV開発をコア技術段階から体系開発に転換し、AAVの商用化に取り組む予定だ。
AFPより
この話は単座機開発ということで、どちらかというとロッキードマーティン社と狙うアメリカ軍の需要を見込んだものに関係している可能性が高いだろう。
アメリカの高等練習機(TX)プログラム受注獲得争いに敗れてしまい、T-7A「レッドホーク」の後塵を拝する格好にはなってしまったが、ゴスホークの後釜(米海軍練習機の後継機)は未だ残っている。
T-7A高等練習機のスケジュールが狂ってしまって、入札は後ろにずれ込んだこともあり、チャンスは残されているのだ。
FA-50の単座型開発にも355億6000万ウォンを投入する。FA-50はこれまで世界138機が輸出され、既存の運用国を中心に単座型に対する需要が確認されている。
単座型は複座型と比べて後方席の位置に燃料タンクを追加で装着することができ、作戦任務半径が拡大するなど多目的任務遂行能力が強化される可能性がある。また、多様なオプションを提示し、顧客のニーズを満たせる。
KAIは輸出と国内事業化など計450機余りと予想される単座型市場で50%以上の市場占有率を達成し、最大300機以上の市場創出が可能になると展望した。
AFP「韓国航空宇宙産業、未来飛行体・FA-50単座型開発に100億円投資」より
確かに、単座機になればコンピューターを拡張して設置したり、燃料タンクを追加で装着したり、色々夢は膨らむだろう。
そして、300機以上の市場創出というのも、これまで200機程度のT-50高等練習機とそのファミリーを製造してきた事を考えれば、強ち間違いではあるまい。需要があれば、という限定付きではあるが、その需要は結構高い。
このクラスの軽戦闘機って他に殆ど見当たらないからね。
コメント
深掘り記事を興味深く拝読いたしました。
ポーランドが、ウクライナ戦争勃発後いち早く軍装備の脱ロシア化を実行した先見を評価しておりますけれど、組んだ相手が韓国だったので、すんなり行くとは思っていませんでした。
KAIはポーランドはじめ、バルト三国や一部の中・東欧諸国に航空機、武装車輛、果ては潜水艦まで売り込んでいると聞き及びますから、最初のポーランドで躓くわけにはいかないんでしょうね。その裏ではかなり無理しているのかなと推察しています。
初見のカタログスペックは重要ですが、韓国は世界的な盛り師ですから気を付けないとw
KAIがポーランドの救いとなるかどうか、(面白いので)見守っていきましょう。
グリペンNG(JAS 39E/F)を買うのがイインジャナイかな?とは思いましたが、ポーランド空軍にとっては色々都合があるのでしょうね。
実際にポーランド空軍、2002年の比較選考でグリペン採用を検討した時期があったんですけど、その時はF-16C/Dの採用したみたいです。
でも、グリペンって色々な国にリースしていますが、継続採用を選んだ国はないんですよね。何か理由があるのでしょう。
今回、FA-50戦闘機を選んだというのは、そういった機体より「色々と制約が少ない」ことがポイントなんだと思います。
韓国は色々な兵器の製造ラインを持っていますし、メンテナンスの意味でも現在韓国軍でも採用されている兵器ですから、余り心配しなくて良い。……そんな風に考えていたんでしょうね。
こんにちは。
FA-50は、素性は良いと思います。
なんと言っても、ロッキードマーチンの作った、F-16のダウンサイジング版ですから。
ただ、今のご時世、使いどころは難しくなって来たかなと。
超音速は軽爆撃機には要らないし、制空戦闘するには何もかも足りない。
基本的にアメリカの紐付きなので、反米国では買えない。
だからKF-21でミーティアとか抱えて飛ぶつもりでしょうけれど……どこまでシステムインテグレーション出来るやら……GCAPの方が早く戦力化されたら大笑いですが。
まあ、「T-4の後釜にどうニダ?」とか寝言は寝て言えって話ですし、もうしばらくはドタバタで楽しませてくれるでしょう。
こんにちは。
そもそもFA-50って、ご存じの通りT-50高等練習機に武装した機体なんですよね。
だから練習機としてならともかく(T-4の後継機の話はお断りです!)、戦闘機としては使い勝手が悪いのは当然でして。
それでも、COIN機としてなら悪くないと思いますから、練習機として使いつつ暴動鎮圧にも使う感じなら使いドコロはあると思っています。ただ、その為に用意するには高価なんですよね、アレ。6200万ドル(約87億円)相当というから、それなら支那からJ-10Cを買った方が……。
そもそも契約ではアメリカとの交渉はポーランドが行い許可をもらったらKAIが納品したFA50の改修を検討するというものなので、KAI的には契約書通りにやっているだけだと思いましたね
ほう、その話は知りませんでした。
良ければ、詳しく教えて下さい。ソースがあるとなお嬉しいですが。