不思議な話があったものである。
韓国航空機事故、衝突4分前からデータ記録停止-原因究明調査に痛手
2025年1月12日 7:53 JST
韓国南西部の務安国際空港で着陸に失敗した済州航空機の残骸から回収されたフライトレコーダーとボイスレコーダーには、胴体着陸して壁に激突する直前のデータが記録されておらず、同国史上最悪の航空事故の原因究明に役立つ情報を得られなかった。
Bloombergより
そもそも、フライトレコーダーやボイスレコーダー(この2つでブラックボックスと呼ばれる)は、事故原因を究明するために使用されるために、極めて頑丈な構造になっている。
事故原因の究明は困難に
ブラックボックスはとても頑丈
航空機が事故を起こした際に原因究明するためには、事故で壊れていたら意味がない。だからこそ頑丈に作ってあるのだ。

ブラックボックスはこんな形状をしていて、機体の床下最後部に設置されていることが多い。その部分が航空機が事故が発生した時に最も壊れにくいとされているためだ。

写真で見る限り、この部分は破壊されずに残っているように見えるんだよね。

そして、一般的に知られているブラックボックスに課される試験内容は以下の通り。
- 衝撃静破壊試験 : レコーダに3400Gの衝撃を与える。 連続した約2.2トンの力を各軸方向に5分間加える。
- 耐火防護試験 : 1100℃に30分 炎がケースの100パーセント覆う。
- 海水防護試験 : 海水に30日間、約3m の深さに沈める。
- 深海圧力試験 : 6000m 相当の深度海水に30日沈める。
- 液体浸食試験 : 航空機燃料、潤滑油、作動油、トイレ洗浄液、消火器薬剤に48時間沈める。
当然、水中に沈んだ場合には、自動的に起動するビーコンによって超音波信号を発信する仕組みになっていて、その為の電池も積んでいる。当然、事故発生時に電源喪失をすることが考えられるため、多くのブラックボックスには蓄電池が内蔵されている。
電源供給の途絶?!
したがって、航空機の電源喪失がブラックボックスの電源喪失には繋がらないはずなのだが。
「ブラックボックス」と呼ばれるフライトデータレコーダーは、最も激しい衝撃や火災、長時間の水没にも耐えられるよう設計されている。航空機のパフォーマンスに関する主要パラメータやコックピットの音声などを記録し、事故調査官が解析に使う。
「これは電源が供給されていなかったことを示唆している」と、アラブ首長国連邦(UAE)と香港で航空事故調査部門の責任者を務めた経験のあるダレン・ストレイカー氏は指摘。電気系統の重大な故障ないしは電源供給の中断の可能性を示していると述べた。
Bloomberg「韓国航空機事故、衝突4分前からデータ記録停止」より
だが、残念なことに今回の事故の手掛かりを持っていたはずのブラックボックスは、回収時に一部が損傷していたことが明らかになっている。
韓国機事故、フライトデータレコーダー主要部品失う-調査遅れも
2024年12月31日 16:53 JST 更新日時 2024年12月31日 21:46 JST
韓国南西部の務安国際空港で乗客・乗員181人のうち179人が死亡したチェジュ(済州)航空機の事故を巡り、原因究明の手掛かりとなり得る装置で重要な部品が欠けていることが分かった。当局が明らかにしたもので、今回の事故を巡る調査が遅れる可能性もある。
高度や対気速度などを記録するフライトデータレコーダー(FDR)は、務安空港で29日午前に胴体着陸して滑走路の壁に激突し、炎上したチェジュ航空機の残骸から韓国当局が回収した2つの「ブラックボックス」のうちの一つ。FDRはデータ記憶ユニットと電力貯蔵ユニットをつなぐコネクターを失っていたと、運輸当局の高官が語った。
Bloombergより
これが、回収されたフライトレコーダーだ。

汚れているようではあるが、損傷しているようには見えない。引用記事には「重要な部品が欠けている」として、「データ記憶ユニットと電力貯蔵ユニットをつなぐコネクターを失っていた」と説明されている。何故、ピンポイントでそんな大切な部分を失っているのか。
大切な部分が欠損している
結果、残念なことにデータの一部が記録されていなかったようだ。
チェジュ航空の務安事故、衝突4分前から記録なし フライトレコーダー解析
2025年1月12日 08:58 JST
韓国の国土交通部(日本の国土交通省に相当)は現地時間1月11日、南西部の務安国際空港で昨年(24年)12月29日に起きたチェジュ航空(JJA/7C)のバンコク発務安行き7C2216便(ボーイング737-800型機、登録記号HL8088)事故で、CVR(コックピットボイスレコーダー、操縦室音声記録装置)とFDR(フライトレコーダー、飛行記録装置)には、空港のローカライザーに衝突する4分前からデータが記録されていなかったと発表した。
事故機のCVRは、抽出したデータを韓国で音声データに変換。FDRは損傷状況から韓国国内での解析は不可能と判断し、米国でNTSB(米国家運輸安全委員会)の協力を受けて解析した。国土交通部によると、CVRの音声データは事故の4分前から記録が残っておらず、米国でFDRを解析したところ、いずれも事故の4分前からデータが保存されていなかったという。
Aviation Wireより
しかし……、4分前か。
- 08:54 事故機が滑走路01の方向に、管制塔に対して着陸許可要請
- 08:57 管制塔から「バードストライクに注意」と伝達
- 08:58 機体から最後のデータ送信(Flightradar24)
- 08:59 パイロットから遭難信号「メーデー」を受信
- 09:00 ゴーアラウンド後、再接近を試みる
- 09:01 滑走路19の方向に着陸許可要請
- 09:02 滑走路に胴体着陸
- 09:03 ローカライザー設置のコンクリート塊に衝突して炎上
パイロットがメーデーをコールした直後から記録が無いってことになる。そうすると、遭難信号を出した理由あたりは、ギリギリ分かるかもしれない。
ただ……、不穏な情報も出ている。
衝突4分前から記録中断された事故機ブラックボックス・・・「シャットダウンの可能性」
2025年1月11日18:11
12・29済州航空惨事事故機で収拾したブラックボックス2種とも防衛閣施設(ローカライザー)に衝突する直前4分間記録がないことが確認された。
~~略~~
とても珍しいことだとし「航空機には電源停止時を備えた補助電源装置(APU)があるが、動作させる時間的余裕がなかったと推定される」と話した。キム教授は「補助庭園装置が作動していなければ、室内にも電源が供給されなかっただろう」とし「(ブラックボックス資料がないから)事故の原因を究明するのに時間がかなりかかるしかない状況」と説明した。航空機補助電源装置の他にブラックボックスに非常用バッテリーを装着する方法があるが、事故機には関連装置がなかったことが分かった。
Daumより
非常用バッテリーがない?!そんなことある?
この事故はまだまだ色々出てきそうである。
追記
コメントを頂いて、追記。
世の中には凄い情報を持っている人がいるものである。この手の配電図は、探せば何処かにあるのだろうが、そもそも存在することを知っていて探し出せるところが凄い。ネットの集合知とは良く言ったモノである。
そして、僕が気になっていたことは、やっぱり気にされている模様。
両エンジンが停止した状態で電源喪失をするとなると、電源喪失直前まで油圧があったものとしても、徐々に失われていく。電力喪失までには予備のバッテリーがあったはずなんだけど、発電機を失ってもバッテリーの電力が即時に失われるとは考えにくい。
したがって、残存電力と油圧を使って胴体着陸を選択したって事になるのだろうけれど、通信は別途、予備バッテリーを持っているはずなんだけどな。それは使えなかったのか、どうだったのか。
何れにしても、電力が生きていたであろう4分前までの情報を駆使して、原因究明に努めて欲しいと心から願っている。
追記2
未だ事件の概要はハッキリしていないが、多数の人が死傷した原因になったコンクリート製のデストラップは撤去することにしたようだ。
韓国、務安空港のコンクリート構造物撤去へ 旅客機事故受け
2025年1月22日午後 3:23
韓国国土交通省は22日、務安国際空港で先月起きたチェジュ航空機事故を受け、同空港に設置されたコンクリート製構造物を撤去すると発表した。
事故原因については調査が続いているが、専門家らは航空機を誘導する「ローカライザー」と呼ぶ装置が備え付けられた構造物が滑走路の端に設置されていたことが、被害を大きくした可能性が高いと指摘している。
当局は務安と済州国際空港を含む7つの空港で、同様の装置を備え付けた新たな構造物を地面より低い位置に設置したり、容易に壊れる作りにするなどの調整を行う方針を示した。
務安空港では既存のコンクリート製構造物を完全に撤去し、壊れやすい構造のローカライザーを再設置するという。
ロイターより
当然の判断だとは思うが、直ぐに壊れやすい構造のローカライザーが再設置されるとは思えない。そのうちに「なかったこと」になるかもしれないしね。
それと、バードストライクによってエンジンは2基ともダメになっていたようだということが判明している。
両エンジンに鳥の羽毛や血痕 韓国事故調、務安空港事故で初期報告書
2025年1月27日 22時25分
韓国南西部・全羅南道の務安国際空港で昨年12月、バンコク発の済州航空機が着陸に失敗し179人が死亡した事故で、韓国の国土交通省・航空鉄道事故調査委員会(事故調)は27日、初期調査の結果をまとめた報告書を公表した。事故機の両方のエンジンから鳥の羽毛や血痕が確認されたという。事故調は、バードストライクの影響も含め事故原因について、さらに調査を進めるとしている。
朝日新聞より
今後もう少し状況がわかってこれば、何かまた対策を立てられると思う。
頑張って調査して欲しい。
コメント
続報を待つです。
ブラックボックス解析して、墜落直前からデーターが失われてる。んな事あるの?
昔、航空機事故について20年前くらいたけど調べた事があるんですよ。月の潮汐がヒューマンエラーに関与してる説(バイオタイト理論でしたけ?)に興味持って。
その時に数十件は事故後の情報を調べて、
それぞれ原因は様々だけれど、ブラックボックスから事故直前データーが消えたケースは1件も無かったと記憶します。
極めてレアなケースな事はたしかで。
工学的な知識は無いので、あり得ないとまで断定はてきないのてすが。他に類例が無いならば、消去法で考えて怪しい!!
怪しまれる事や、信頼性の失墜のリスクを考えると「やるか?」とも想うんですが。
こればかりは続報待ちですねぇ。
墜落前からデータが欠損しているのは確実で、どうやら電源喪失が要因であったことは間違いなさそうです。本来なら、あり得ない話だとは思いますが、実際にそういうことが発生するのが韓国の凄いところ。
ブラックボックス回収不能、とか、ブラックボックスが完全に破損してデータが読めないケースは過去にありましたが、一部だけ読み出しできないというのは、初めて聞きますね。
ただまあ、可能性としてあり得ないようなこととはいえ、実際に発生したのでその原因は追及しなければなりません。詳らかになれば、後に活かせる事もあるでしょうから。
ジェジュ航空には、相当に安全運行上の問題があった、という証言が元従業員や現役の整備員から漏れ出ているので、事故機には元から不備不良があったのかもしれないですね。
事故機にばかり目が行きがちですが、ジェジュ航空自体への重点調査も不可欠と思います。
今回の事故では、バードストライクを基点として、奇妙なことが起こり過ぎているように見えます。世界中の航空関係者が注視しているので、事故原因は徹底的に調査され、当局は余すことなく公表することが求められます。
韓国は政変にかこつけて、何ひとつ隠ぺいしてはいけません。やりそうだけど。
済州航空が慢性的な人手不足で、メンテナンス面で不安があったという話はチラホラ見かけますね。
おそらくは整備不良の話はあったのでしょう。
ただ、バードストライクで1基エンジンが死んでしまったとしても、もう1基あるわけですから、そちらも故障するというのは天文学的な数字のように思います。
操縦士は何を見て「メーデー」をコールしたんでしょうかね。
こんにちは。
ネット上でチラ見した情報をまとめると、
・B-737は基本設計が古いので、ブラックボックス回りの配電も規格が古い←二重化、無停電電源化されていない
・無停電化が推奨されるようになったのは2010から、らしい←該当機は設計時点で対象外、らしい
・左右エンジン共に停まると電源が完全に失われる。
・なお、未確認ながら、バードストライクしたエンジンと反対側を間違って止めた説あり
・最初のギヤダウン~ギヤアップまでは、少なくとも片肺で油圧は来ていた
・理由はともかく、最後の4分で動力喪失、背風&距離不足覚悟で接地を決意したというのは、状況証拠的に立証された?
こんな感じのようです。
本当に、パイロットは(間違ってエンジン停めた、というのがデマであれば)賞賛されて然るべき操作と決断なのですが……
……ランウェイエンドのトーチカが……アレさえなければ、全員無事だったでしょうに……
こんにちは。
ブラックボックス回りの配線規格が古いとは言え、外部に電源を持っていると緊急時に記録が出来ないので、電源コネクターが欠損していたという話はにわかには信じ難いのですよね。ありそうな話としては、ブラックボックス用の蓄電池交換を行っていなかった可能性ですが……、そんなことはなかったと信じたい。
そして、無停電電源化していないというのは、調べが進んでいないので言及は避けますが、そうだとすれば、そのような機体が今尚複数飛行していると言う事になりそうですね。
しかし、左右のエンジンが同時に破損するというのも、信じ難い話。1基故障したのは画像で確認できるわけですが、2基目がバードストライクで破損というのは本当なんでしょうかね。そうだとすれば不幸だったとしか言えないわけですが、間違ってエンジンダウンしてしまったとすると、再始動出来ずにメーデーをコールした可能性はあるのかもしれません。
でも、それでもゴーアラウンドしてやり直した方がマシだったと思います。
完全に電源を喪失していて、着陸時にフラップ操作が行えなかったのであれば、操縦士は一体何を使って胴体着陸の姿勢制御したんでしょうか?という話になるわけで。現時点では電源喪失説も、やや疑念を持っている状況なんですが。
https://x.com/MADCOINX/status/1878049002668609563
主に↑のスレを参考にしています。
・左右エンジンが同時に落ちるのは本当のレアケースなので、フライトデータレコーダとコクピットボイスレコーダの電源を左右に振り分けてどっちかが生き残るようにするのはフェイルセーフ的に有り得る話
・墜ちた機体の製造は2009年だそうで、コクピットボイスレコーダのバッテリバックアップ指示が2010からなので、未対応の可能性が大
・電源喪失しても、ラムエアタービンでの最低限の電気は確保出来るはずなんだが……と思ったらB737にはRAT付いてないんですって。終わった……
・B737NG系はFBW未対応、なので機力操縦系は油圧、昔の油圧パワステの車が油圧喪失した時(ものすごい勢いでハンドルフルロック左右交互にやると起きる)みたいに操縦桿重くなるだろうけど、油圧ならアシスト無しでも一応操縦可能……かな?速度遅いし。
・ギヤが出なかったのも油圧が無くなったから。当然フラップも下りない。
左右エンジン同時停止の理由だけが不明ですが、それ以外は一応、腑に落ちる説明が出来るようです。
情報ありがとうございました。
なるほど、辻褄は合いそうなんですが、そうだとすると何とも救われない話ですね。普通は2基のエンジン両方止まるとは思わない。
そして、今尚、同型機は世界の空を飛んでいるわけで。
しかし、電源喪失後も直ぐに油圧が抜けるわけではないし、電力だってバッテリーである程度賄えるハズなんですが、電源系統そのものを損傷したって事なんでしょうかねぇ。このあたりはなんとなく腑に落ちません。
消えた?
消した?
壊れてた?
さあ、どれが一番もっとらしい想定でしょうか?
まあ、Kクオリティですから、なんでもありなんですかね!
ブラックボックスのうち、フライトレコーダーもボイスレコーダーも両方とも4分間の情報がないわけで、なおかつ片方が韓国国内で、もう片方はアメリカに持ち込んだわけですから、両方とも爆発の4分前から記録がなくなる理屈は説明が付きにくいですね。「消えた」が一番可能性としては高いのでしょう。
「消した」の可能性は極めて低い。韓国国内で解析したボイスレコーダーだけならまだしも、アメリカで解析した方のデータをアメリカ企業が消すメリットはちょっと分かりません。
「壊れてた」は……、検証が難しそうですね。