新しく「防災庁」を作ろうという話が出ている。
政府「防災立国推進閣僚会議」設置を決定 防災庁の設置準備へ
2024年12月17日 12時06分
激甚化する災害への対応が課題となる中、政府は「防災庁」の設置に向けた準備などに一丸となって取り組む必要があるとして、石破総理大臣をトップにすべての閣僚をメンバーとする新たな会議を設置することを決めました。
NHKニュースより
石破氏の発案だったと思うが、どういう組織を作る気なのか?という疑問はあれど、基本的には賛成である。
未だナニも決まっていなくて、中身のない記事になってしまうが、少し触れておきたい。
日本は災害が多い国
有事対応が本業の自衛隊
近年、かなり「気軽」に自衛隊派遣を求める自治体が増えている。もちろん、必要であればそのような手続きをして貰った方が良いのだろう。

実際に自衛隊には災害派遣というルールが定められていて、近年の仕事の多くは災害派遣活動になっている。
だが、自衛隊の本業は有事対応である。災害派遣と防衛出動が重なった時に、何れを優先するかは明白なのであるが、では災害派遣活動中に防衛出動が決まったときに、現地をそのままにして引き上げられるのか?というと、恐らくかなり難しい。
災害対応も見越して、かなり自衛隊内にノウハウが溜まっているということもあって、今までズルズルと任せてきてしまったのだが、近年はかなり要請が増えてしまっている。
しかし、自衛隊員が災害派遣に特化しすぎて、本業の訓練が疎かになってしまうと、軍隊としては弱体化してしまうからね。
防災庁は民間活用を予定
今回設置される「防災庁」は、災害時の民間活動を促進する目的で、司令塔的な役割を果たすことが期待されているようだ。
そして、災害時の避難所での生活環境を改善させるため、プッシュ型支援を迅速に行うための経費におよそ27億円を充てるほか、キッチンカーやトレーラーハウスを直ちに活用できるようデータベース化しておく制度の創設を盛り込んでいます。
また専門的な技能を持つボランティア団体などの登録制度を構築する事業の費用や自治体と連携した防災訓練などを拡充するための経費も計上しています。
さらに災害対応の司令塔機能を強化するため「事前防災対策総合推進費」を新設して17億円を計上し、関係省庁の取り組みなどを後押しするとしています。
NHKニュース「防災庁関連予算」より
直ぐに自衛隊の果たしてきた役割の全てを代替できるとはとても思えないけれども、やらないよりはやった方が良いだろう。
一方、広域災害対応組織なら、消防庁も一応持っているのだがとても人員が足りないんだよね。各地から消防隊員をかき集めて、被災地に派遣する体制を採っているのだけれど、あくまで消防庁が中心になった「消防の広域化」であって、災害派遣を前提としていない。
「防災庁」の議論の方向性がどうなっていくのか、現時点では良く分かって居なけれども、そもそも防災が地方自治体の単位で分かれているのが問題なのである。
広域にわたる災害が発生すると、何処が音頭をとって災害対応するのか?というアホな話が発生してしまうのである。災害が発生した時に陣頭指揮を統轄できる組織は絶対必要で、人員の話はまた別で考えねばならないのだが……。
民間団体を活用するのに金が出るのであれば、災害対応株式会社みたいなのも成立するのだろうか?
まあ、災害の多い国である。その災害対応を地域の首長に任せるのは、地域の状況をよく知っているという意味では正しいのだろうが、防災におけるノウハウを持っていない地方自治体が多すぎて、結局国民にしわ寄せが行ってしまう。
それを考えたら、災害対策の専門家団体を養成していくというのは、考え方としてはアリ。寧ろ、何故今までなかったのか?という気さえする。理由は予算を何処から出すのか?という話が決まっていないからなんだろうけども。
人員については……、予備自衛官みたいな方々もいるし、除隊された方々の受け皿になって貰うというのは、アリなんじゃないか?とは思っている。ちょっと申し訳なくは思うけれども。もちろんそれだけでは人手としては足りないのだが、現場で組織を動かすノウハウ持った人材は極めて貴重なのだ。
追記
コメント頂いて、長文でお返ししてしまったのだけれど、コメントスペースでは文章の推敲にはむかないということもあって、少し追記という形で整理し直したいと想う。なお、ちょっと小難しい内容が含まれるのはご了承願いたい。
そして先ずは、冒頭の「防災立国推進閣僚会議」設置が決まった段階で、中身が明らかにならない状況である点を押さえたうえで、読んでいただきたいと思う。
自衛隊の災害派遣、その問題点
先ずは、自衛隊法に触れておく。
自衛隊の任務は、自衛隊法第3条の規定により、「主たる任務」(同条第1項)と「従たる任務」(同条第1項及び第2項)に分けることができます。わが国を防衛するために行う防衛出動が「主たる任務」に該当し、これは唯一自衛隊のみが果たすことのできる任務です。
令和4年版防衛白書より
先ずは防衛白書より引用。自衛隊法の3条について言及している。参考までに3条も引用しておこう。
(自衛隊の任務)
第三条 自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。
2 自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であつて、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。
e-Gov「自衛隊法」より
一 我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動
二 国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動
(災害派遣)
第八十三条 都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる。
e-Gov「自衛隊法」より
関連条文第83条も引用したが、自衛隊の「主たる任務」はあくまでも「国土防衛」であり、災害派遣はは「従たる任務」に位置づけられている。その中身が第83条なんだよね。
良くも悪くも、このように条文で定められているが故に、そこを曲げて運用することは適切ではないことをまずご理解いただきたい。そのうえで、近年の状況を。
(災害派遣要請件数)
- 令和3年度 315件 総動員数述べ約45,000人
- 令和4年度 317件 総動員数述べ約50,000人
- 令和5年度 387件 総動員数述べ約13,000人
災害派遣といっても、地雷除去から鳥インフルエンザ対策、豚コレラ対策と様々な活動に動員されているのが実態である。口蹄疫の時にも随分と動員されている。
「非代替性」
そして、災害派遣は、公共の秩序を維持するために人命や財産を保護するという『公共性』、さらに人命に関わり一刻を争う『緊急性』、民間業者には難しい、自衛隊でなければ対処できないという『非代替性』の3要件を満たす必要があるのだが、現実はそうなっていないと思う。
「自衛隊に頼めば只でやってくれる」という認識で呼ぶようなケースも、自治体によっては見られるようなのだ。断ればメディアに叩かれるという悪循環を招くので、あまり断ったケースは知らない。
自然災害時等の緊急事態における自衛隊「マンパワー」の活用というのは、自衛隊が嫌悪されてきた時代の名残りでもある。したがって、現在のような災害派遣の実態は、本来業務に支障をきたしかねないリスクがある。
ココまではおそらく異論がある人は少ないのではないか。
有事想定
では、実際に有事発生の際には、何が想定されるのだろうか。
専門家ではないので、実に甘い想定になるのだが、次のようなシナリオが考えられる。
日本の政治家や官公庁は、リスクを伴う決断には慎重になりがちだ。しかし、武力攻撃予測事態の認定が遅れると、日本は「戦わずして負け」になりかねない。なぜならば、予測事態のあいだに作戦準備、すなわち自衛隊と国民の大移動に着手する必要があるからである。このタイミングで、全国の自衛隊の南西方面シフトを進めるのと同時に、南西諸島の住民を本土に避難させなければならないのだ。
しかし、自衛隊数万~十数万人の人員と装備品、補給物資を北海道や本州などから南西諸島に輸送し、同時に南西諸島の150万人の住民を避難させるミッションはとても数日では終わらない。日本に対する本格的な武力攻撃が発生してから、作戦準備を開始したのでは間に合わない。国民の生命を守り、有事に対応できるかどうかは、政治家がいかに迅速に情勢を判断して武力攻撃予測事態の認定を出せるかどうかにかかっている。
キヤノングローバル戦略研究所のサイトより
台湾有事を想定した場合に、沖縄上陸、九州上陸辺りまでは想定して動く必要がある。事態がそこまで発展するかは不明でも、それに備えるのが自衛隊の役割であるからだ。
そうすると、南西諸島の防衛とともに引用したキヤノングローバル戦略研究所の指摘のように、兵站の確保とともに避難民誘導という任務が発生する。これが陸上自衛隊の受け持つ任務になるというのは、容易に想定できるわけなのだが、そこに投入する人員はどの程度必要なのか?
有事の際の国民保護における問題点として、国や自治体の当事者意識の欠如が挙げられる。いざ有事が起きれば、自衛隊が「すべてやってくれる」「頼んだら何とかしてくれるだろう」という過度な期待があるようだ。実際、自衛隊は災害派遣で活躍しているイメージが定着しているが、有事になれば主な任務は敵の撃破となり、国民保護に割ける戦力はほとんどない。一方、国民保護法では避難方法の提示や避難誘導は基本的に地方自治体の事務だと明記されている。それにもかかわらず、多くの自治体は国民保護について真剣に考えることはせず、実効性のある避難計画の策定や自治体間での事前の調整も進んでいないのが現状である。
キヤノングローバル戦略研究所のサイトより
現状では、地方自治体が避難誘導までやれるとはとても考えられない。もちろん、そうあるべきだし、そのような記載になっているはずだが、訓練すらしていない状況でできるはずもなし。
自衛隊の人材を投入してやらざるを得ない。その時必要な人数は何人ですか?というところは、国防に関わることなので知る由もないが、例えば10万人を安全に避難させるために必要な人員は5千人か、1万人か。災害派遣と二正面作戦やれるほどの余裕があるかはかなり怪しいのが実情だと思う。
リソースが足りないとなった時に、先に災害派遣が決まっており、その後に上陸されるリスクの高い紛争が起きた場合に、災害派遣を打ち切って防衛に手を回す事が可能なのか?その辺りは明確になっていない。
訓練が必要
そして、自衛隊の主たる任務が防衛出動である以上は、そのための訓練は必須である。
にも関わらず、災害派遣の件数が増えてしまうとその訓練に必要な時間が削られることになるし、物資も損耗する。現状、自衛隊には災害派遣を想定した専用装備を持っておらず、例えば半長靴や作業服なども消耗が激しいと自腹を切らねばならないと聞く。
装備的な話は、予算を計上すればある程度解消することかもしれないが、訓練時間の方はどうにもならない。
そして、構造的な問題として、撤収の問題がある。
◇ 派遣された自衛隊の撤収について、自衛隊の災害派遣に関する訓令では、都道府県知事等から撤収の要請があった場合又は派遣の必要がなくなったと認める場合に撤収を行う旨規定。
◇ 都道府県知事等からの撤収の要請は、基本的には、自衛隊及び地方公共団体において、派遣要請時からの状況の変化(被害の復旧状況や被災者による支援の利用状況等)を踏まえ、三要件(緊急性、公共性、非代替性)への該当性を勘案しつつ、撤収時期を調整した後に行われている。
災害派遣に対する実態調査より
地方自治体の首長は、出来るだけ自衛隊を引き留めようとする傾向にあるらしく、「いてくれる間は何でもやらせたい」と思う傾向が強いようだ。
その弊害として、どの程度の復旧が進んでいて、本当に「非代替性」の要件を満足している状態にあるかどうかを判断する材料が地方自治体側から降りてこないという事態が起きている。
もちろんその辺りはしっかり撤収の時期を見極めることになるのだろうが、恐ろしいことに、「主たる任務」が同時に発生した時のことが想定されていない。
特化チームが欲しい理由
こうした問題の多くは、地方自治体の首長に災害復旧の全権が与えられていて、にも関わらず多くの地方自治体の首長にはその適格がない素人であるという点に帰属するのだと思う。
さて、そういった観点から、要求されるのが防災庁の存在である。
前節で明らかにした課題に対する改善の方向性としては、「防衛省中央(統合幕僚監部等)に一定の権限を与えることによって集権と分権との対立を緩和させること」及び「政府ニーズを取り込む枠組みを構築することによって、融合と分離との対立を緩和させること」の2点を含めること必要である。これに対する具体的方策は2つ考えられる。第一に、防災庁(いわゆる日本版 FEMA)を新設し、その中に防衛省・自衛隊の災害派遣に関する調整を行う枠組みを構築すること、第二に、災害派遣制度をマイナーチェンジすることであり、具体的には、「自衛隊の災害派遣は、統幕長による災害派遣措置要求を創設し、統幕長以下による機動的な災害派遣を可能とする」こと及び「要請派遣ではなく、自主派遣を基本とする」ことである。
「自衛隊災害派遣制度の行政手続き的検討」より
このレポートは、もっと詳細に色々解説されていて、一読の価値があると思うのだが、要約すると災害派遣された自衛隊が十全にその能力を活かせていないので、改善すべしという内容となっている。
そして、その中身は現場において指揮命令系統が混乱しがちなので、整理してくれという切なる要望が見て取れる。
本編では「非代替性」について民間活用の話に焦点をあてて書いてしまったため、分かりにくい部分があったのだと思うが、こういった指揮権の整理が先ずは重要であると、そのように思っている。そして、地方自治体の首長にはその能力がないにも関わらず、現状で責任を負わされている実情があるので、防災庁でそれを整備して欲しいというのが本旨である。
民間活用の話は、結局のところ司令塔がないので上手いこと行かない話になってしまうわけで、そこの司令塔の役割も、防災庁が担ってくれれば良いと、そのように思っている。
イメージが沸かない
なお、保守派で人気の高い高市氏にも、防災庁についてはこのように苦言を呈されている。
高市氏、防災庁創設の首相に異論 月刊誌で「イメージわかない」
12/20(金) 18:44配信
自民党の高市前経済安全保障担当相は20日発売の月刊誌「Hanada」のインタビューで、石破首相の看板政策「防災庁」創設に異論を唱えた。「イメージがわかない。防災庁をつくるよりも各省庁の予算を増やす方が目的に資する」と述べた。
防災庁は災害対応の司令塔機能を担う新組織で、政府は2026年度中の創設を目指し、設置準備室を発足させた。高市氏は防災庁の設置より、復興庁設置法の改正で防災機能の強化を図るべきだとの立場だ。「復興庁に蓄積されたノウハウを全国の被災地で生かせる」と主張した。首相が総裁選で掲げた政策の打ち出しが不十分だとも指摘。「新たに何をしたいのか見えてこない」と語った。
Yahooニュースより
高市氏の「復興庁設置法の改正」というのも悪くない話ではあるが、復興庁設置法を読むと随分と悠長な組織設置手続きを要する構成になっているように思える。
そもそも復興庁は、東日本大震災復興を主目的として東日本大震災復興法に基づく建付けになっている。これを一般化しようというのが高市氏の主張なのだと思うが、僕が考える問題点はこれでは解消されない。
すなわち、災害復興の主体が地方自治体となり、その首長の裁量でかなり差が出てしまう点である。
一方で、高市氏の言う「イメージが沸かない」という批判も正しいと思う。多くの国民は自衛隊の出しているレポートを読んではいないだろうから、何が必要なのか、どんな問題があるのかを認識していないわけだ。
そういったことも今後解消していく必要があるだろうし、その力量が石破氏にあるかは怪しいのだが……。
コメント
こんにちは。
防災庁ですか。
独自の行動部隊を持たずとも、自衛隊に対するサポートが出来れば良いかなと思います。
※自衛隊に対する命令権など持たせたらダメのダメダメ。指揮系統が混乱の極みになる……けど、ゲルだからなぁ……
個人的には、迅速に災害現場に駆けつける1号指揮車と、数々の装備を満載した2号3トン半トラックくらいは装備してほしいところです。
もちろん、1号は目立つ銀色、2号は威圧感のない緑色で……
※空から観察出来る複葉機の6号も欲しいところ。
こんにちは。
以前は「不要だ!」と思っていたのです。でも、災害復旧の手腕が自治体の首長に任されている現状は、かなり駄目だと思い知りました。
役所の職員の手が足りずにトラブルになる。
今後、少子化が進むともっと悲惨なことになりそうですね。
そして、……そのネタには残念ながらついていけません。多分、国際救助隊的なアレだと思うんですが。
>自衛隊の本業は有事対応である。災害派遣と防衛出動が重なった時に
恥ずかしながら、自衛隊や日本の国土防衛のしくみを良く知らないので質問です
仮に自国土上で戦う防衛戦争を自衛隊の最終任務とします。
この防衛戦争では、戦地≒最大の被災地 なので冒頭の問題は起こらない
その上に、人命救助/避難誘導/復旧土木工事の多くが非武装では不可能な状況
ならば自衛隊の最終任務のためには、自衛隊内部組織や予備役の大幅拡充(予算つけ)と権限向上、
セットで現行の知事の過剰な権限縮小が大切で
変な組織を増やすのは先頭増やして山に登らせる行為に感じますが、、、
それとも日本は諸島型?海洋国家なので 軍の最終任務≒自国土上の防衛戦争 て前提が間違ってますかね?
ご指摘の点に関して、前提として自衛隊の指揮命令系統のことに踏み込むには知識が足りませんので、粗い回答であることをご承知おきください。
で、ご指摘の点なんですが、防衛に関してはまずは海上自衛隊と航空自衛隊が国防にあたり、陸上自衛隊は上陸作戦の段階になってからでないと出番がないという、内容であると理解しました。その上で、災害救助活動も非常時の一環として捉えれば、自衛隊の所掌であるようにすべきであると。
そのご指摘は、正しいのだとは思います。
ですが、もうちょっと細かく考えていくと、先ずはマンパワー的な切り口から現状では不安があります。
非常事態が海上での紛争程度で事態が収束すれば問題ありませんが、例えば、敵側の作戦が沖縄上陸を想定してきた場合には、出番があることを想定して陸上自衛隊を沖縄に投入しておく必要はあるかと思います。或いは対馬が狙われた場合には、上陸阻止は必須でありますし、上陸されてしまった後に奪還作戦を行うためにはやはり陸上自衛隊投入を想定しなければならないでしょう。その時に「足らない」では困るのではないかという風に考えています。
人命救助/避難誘導/復旧土木工事のためのマンパワーを、例えば東日本大震災クラスの災害が起きた時に、あの時と同程度の人的リソースを投入していたと想定すると、おそらく離島奪還作戦を行うような準備ができるのかは疑問です。逆に言えば、大災害を受けた時に防衛能力が欠落するという風に疑われるところが一番心配なのです。災害と防衛の二正面作戦を行えるだけのリソースが自衛隊にあるのかどうか。理想論ではありますが、最悪のケースは想定しておく必要があると思います。
リソースが足りないとなった時に、先に災害派遣が決まっており、その後に上陸されるリスクの高い紛争が起きた場合に、災害派遣を打ち切って防衛に手を回す事が可能なのか?が、心配という意味になります。
次に、これもマンパワー的な話と関連しますが、訓練時間が削られる問題があります。
近年は自衛隊の災害出動要請が増えており、規模の大小はありますが、令和3年度は315件、令和4年度は317件、令和5年度は387件であります。大規模な災害出動要請が増えると、訓練時間が削られて軍事組織としての実力が落ちてしまいます。本業はどこなのか?を考えると、少々この状態が続くのは宜しくないと考えています。
加えて、自衛隊には災害派遣を想定した専用装備を持ってはいません。前線で必要な装備を流用可能であるという点では専用装備と言えるのかもしれませんが、例えば半長靴や作業服なども消耗が激しいと自腹を切らねばならないと聞きますから、これは災害派遣を想定した予算増額すれば対処可能な話かもしれませんが、隊員に大きな負荷をかけている状況である点は解消されなければなりません。
自衛隊の持つ能力を有効活用しようとすれば、変な組織を増やすよりは自衛隊にお願いするほうが効率的であるとは思います。が、どうにもそういった配慮が欠けている現状であるようです。
もう1つ、本編でも言及しましたが、現状、地方自治体に主体になってもらって災害対処を行うスタイルになっていますが、「自衛隊に頼めば只でやってくれる」というおかしな認識が広まっていることと、そもそも災害復旧に割くための人材不足が各地方自治体で深刻になっています。ノウハウも不足していますし。
そして、地域をまたぐ災害の場合に、片方の首長は災害派遣を要請したけれども、片方の首長は「必要ない」と断るケース(実際にあるようです)では、災害復旧の足かせになってしまうような事案が少なくありません。
このような点を鑑みると、災害救助に特化した組織を作るというのはさほどおかしな提案ではないと感じた次第。ただし、ここでポイントなのは災害派遣特化型のチームは地方自治体と折衝してある程度の独自裁量で動ける組織である必要があると思っています。なんなら指揮命令系統は災害派遣チームとトップに移譲されて地方自治体はそのサポートに回るくらいの状況が望ましいと思います。
可能であれば消防にその辺りの役割を担って欲しいのでありますが、消防隊員の数が足らないこともあって、現状では難しいでしょう。そうすると、自衛隊にその役割をというのは合理的ではありますが、現状の法律ではそれはできない事になっています。憲法に非常事態の規定が無いのがネックですね。
文民統制の思想がある以上は、選挙で選ばれた素人が陣頭指揮せざるを得ないのです。だったら、専門的な組織が似た動きができたら良いのに、というのが僕の意見です。もちろん法改正や新たな法律の立案は必要となりますが。
自衛隊にお願いするなら、憲法改正は必須。それよりは災害庁管轄で有事にあたることが出来る状態になれば、ハードルが低くなるかなと考えています。
尤も、議論が始まったばかりなので、クソみたいな組織が出来上がる可能性は否定できませんし、変な組織が増えて船頭を増やすリスクに繋がる可能性もあるんですけどね。
まとまりが無く、長くなってしまいました。もうちょっと推敲できればよかったのですが、ひとまずはココまでで。