流石、破壊王(褒め言葉)だな。
河野太郎氏、年末調整の廃止や原子力潜水艦配備の議論の必要性に言及 政策発表会見
2024/9/5 15:13
自民党総裁選(12日告示、27日投開票)に立候補を表明している河野太郎デジタル相は5日、国会内で自身の政策についての記者会見を開き、将来的に年末調整を廃止し全ての納税者を確定申告に一本化する案を主張した。
~~略~~
また、安全保障の分野では、自衛隊への原子力潜水艦配備について議論する必要があるとの認識を示した。
産経新聞より
年末調整の話も面白いのだが、今回は原子力潜水艦配備の話について書いていきたい。以前も触れた話題ではあるんだけど、総裁選のところにぶっこまれた辺りが素敵である。そんなわけで、思い出す意味でも少し整理しておこう。
あれ、意図した訳ではないが、潜水艦の話が2連続になってしまった。まあ、良いよね。
オーストラリア海軍は原子力潜水艦が欲しい
原子力潜水艦保有を目指す
まず、原子力潜水艦とは一体何か?というところから。
以前、日本がAUKUSに参加するためにという話を書いたのだけれど、その話は実現にいたってはいない。部分的に参加するという話も出ていたけれどね。
で、AUKUSというのはオーストラリア海軍に原子力潜水艦を保有させようという国際的枠組みである。
これって凄く政治的な話で、実現可能性とか色々考えると「目的」あるいは「建前」であるハズの「オーストラリア海軍に原子力潜水艦を保有させよう」というのはちょっと怪しい。だがその部分は脇においておこう。
まず、そもそも「原子力潜水艦」とは何なのか?という話なんだけれど、単純には艦内に原子炉を持っている潜水艦ということになる。大雑把に言えば、ディーゼルエンジンも発電機関なので従来の仕組みと大きく変わらない。
が、艦内に原子炉を持っているというところがポイントになるのである。原子炉は、燃料の体積当たりの発熱量が極めて大きいので、補給なしで長期間潜水航行ができるよということに繋がる。隊員が必要とする酸素ですら電気分解で得ることが出来るのだから、「息継ぎ」の必要もない。
何故欲しいの?
そもそも、何故オーストラリア海軍が原子力潜水艦を欲しがっているのか?という話なんだけれども、これは単純に対支那戦略の一環である。
詳しい話はこちらを読むと勉強になる。というか、これさえ読んで頂ければ宜しいのかなと。


ええと、オーストラリア海軍が原子力潜水艦を取得するロードマップは、以下のところを引用しておくと良いと思う。
2030年代初頭から、米国が豪州にヴァージニア級潜水艦3隻を売却し、必要に応じてさらに2隻を売却する。さらに2030年代後半、英国が最初のAUKUS級原潜を豪海軍に引き渡すとともに、2040年代前半には、豪海軍が自国で建造された最初のAUKUS級原潜を入手することになっている[1]。
笹川平和財団のサイトより
ただ、ヴァージニア級潜水艦はアメリカが保有する最新の攻撃型原子力潜水艦である。そう簡単に引き渡すことが出来るのか?ということは、疑問視されてはいる。だって、ヴァージニア級潜水艦は現在も調達中で、年間2隻ずつ建造していく計画になっているのだけれど、アメリカ分が建造完了するのが2027年頃といわれていて、これがちょっと遅れ気味なのだ。
で、可能かどうかはさておき、手に入れられれば、艦内で莫大な電力を生み出し続ける潜水艦であるので、最大船速で海の中を移動可能である。これによって潜水艦による防衛範囲が広げられるというメリットが得られる。
オーストラリアの周辺海域で色々とちょっかいをかけてくる支那海軍に牽制をするためには、広大な海を高速で移動できる必要がある。そういう意味で、オーストラリア海軍にとっては原子力潜水艦の保有は魅力的である。
潜水艦の種類
次に、原子力潜水艦の種類について説明しておきたい。
1つは攻撃型原子力潜水艦で、もう1つが戦略ミサイル潜水艦である。昔は戦略級原潜とか言われていた艦だね。厳密に言うと色々細分化されているのだけれど、使用目的を考えればこの2種類で良いだろう。
アメリカ海軍保有の原子力潜水艦でいうと、攻撃型がヴァージニア級潜水艦で、戦略ミサイル型がオハイオ級潜水艦(コロンビア級を建造中)である。
で、攻撃型潜水艦という括りだと魚雷や機雷などを主兵装とし、敵の水上艦艇や潜水艦などの攻撃を任務とする潜水艦である。
一方、戦略ミサイル潜水艦は文字通り戦略ミサイル(弾道ミサイル)を発射出来る潜水艦で、ここで言う戦略ミサイルは核兵器のこととなる。潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の発射により、核攻撃を受けたときに報復ができるというのが、戦略ミサイル潜水艦のキモであり、その為に求められる能力として長距離潜水航行することだ。確実に報復するためには、発見されて破壊されては意味がない。長期間潜航していれば、その居場所の特定は難しくなる。把握できていない場所からの反撃が、抑止力になるという理論なのだ。
自衛隊は原子力潜水艦を保有すべきか
維持費の問題はある
とまあ、そんな感じの前提情報を色々書いたのだけれども、こういった知識を前提にしないと話ができない。
日本近海であれば、日本が保有している通常動力潜水艦を不特定の海域に潜ませておく待ち伏せ作戦でも有効に機能するし、ずっとその戦略を海上自衛隊は採ってきた。
核兵器を保有しないという建前も守れるし、静粛性の高い通常動力潜水艦での待ち伏せ攻撃はそれなりに有効だ。自分の庭で待ち伏せ攻撃をするのだから、地の利も活かせるしね。
ただ、現在では日本を取り巻く状況はずいぶん変化している。
そういう意味で、河野太郎氏がこの話を持ち出したことには、非常に大きな意味がある。河野太郎氏の意見を支持している訳ではないが。
ロシアによるウクライナ侵攻や台湾有事などを念頭に「日本も原子力潜水艦を配備し、東シナ海から太平洋へ出るところをしっかり首根っこを押さえる戦略を取る議論をしていかなければいけない時代になってている」と語った。
産経新聞「河野太郎氏、年末調整の廃止や原子力潜水艦配備の議論の必要性に言及」より
河野太郎氏は、「長距離航行をする前提に立つと、原子力潜水艦が必要なんじゃないの?」という論点を出している。これの意味するところは、おそらくシーレーン防衛にも潜水艦を使うべきだという話である。
僕自身、この視点は大切だと思っているが、コレの話をする時に「たいげい型潜水艦」の能力はどうなの?という話をすべきだと思う。明らかにできないのは、戦術的な理由もあるのだろうけれど、大型のリチウムイオン二次電池を搭載しているので、大雑把に言えば従来よりは潜水した状態での航行距離は伸びているのだろうけれど、長距離航行できるのか?高速で潜航移動できるのか?というと、やはり原子力潜水艦に劣る部分はあるのだろう。どの程度劣るのか?艦体をデカくしたら、メリットが出るのか?という議論をした方が良い。
その上で原子力潜水艦の方がメリットがあるというのであれば、そこで議論すべきなのだ。オープンな議論が必要かどうかは微妙なところだが。
で、前回も、原子力潜水艦保有にあたってかなりの建造費・維持費がかかるけど、大丈夫なの?という話はした。
僕の結論はそれでも持つべきだとは、思うのだけれども。
そして核の傘の議論
で、戦略ミサイル潜水艦とするかどうかの議論なのだけれども、核兵器不拡散条約(NPT)の話があるので難しいところではあるのだが、それでも核の傘の話とNPTの意義を現状を踏まえて議論すべきだ。
その上で、アメリカの核の傘の下に入ることができていないのであれば、自分で傘を広げるより他にないのでは?という議論をすべきだと思う。
核シェアリングの話も含め、何が日本のベストなのかはしっかり話を付けて欲しいと思う。
なお、別の話として海上自衛隊は色々準備を行っている。
海自の潜水艦が大進化!? 「海中からミサイル垂直発射」実現へ 防衛省が研究本格化
2024.09.01
防衛省は2024年8月30日、来年度予算の概算要求を公表。その中で、潜水艦に搭載可能な「垂直誘導弾発射システム」(VLS)の研究を本格化させる方針を明らかにし、イメージも公開しました。
日本政府は、2022年12月に発表した「防衛力整備計画」に、垂直ミサイル発射システム(VLS)を搭載した潜水艦を開発することを盛り込んでいます。
VLSを搭載した潜水艦は、アメリカ、中国、ロシア、北朝鮮、韓国などが建造していますが、日本は保有していません。防衛省は来年度予算の概算要求に、「水中発射型垂直発射装置の研究」として300億円を計上。発射プラットフォームのさらなる多様化や水中優勢獲得に向け、研究を進める方針を示しています。今後、2025年度から研究に着手し、2029年度までに成果を検証するとしています。
乗り物ニュースより
VLS搭載の潜水艦を保有できるようになれば、保有を曖昧にしておくだけで「核弾頭も撃てるのでは」という話もできるわけで。
これも「頑張ったなぁ」と思う次第。
議論と準備は別の話なので、日本としては始めた下準備を色々加速して欲しいと思っている。そのうえで、議論もしっかりして欲しい。タブー扱いにする時代は終わったと。そういう意味で河野太郎氏がこの時期にこの発言をしたことは、歓迎したいところだ。流石!空気を読まない男だ!と。
ああ、自民党総裁になって欲しいという意味ではないので悪しからず。
コメント
核弾頭搭載SLBM発射できる原潜は、いつかアメリカから独立というか、彼らが勝手に手ていく日に必要になる。
なので先ずは原潜。原子力というと何でもゴジラ級の悪者にされる世論を潰すためにも。そういう意味では大嫌いな河野氏もよくやってくれた!
でも総裁は落ちれ!
アメリカから独立というのが正しいのかはわかりませんが、独立できるだけの戦力があるのか無いのか、ということはずいぶんと違うのでしょうね。
木霊様へ記事取り上げ依頼ですm(_ _)m
かなりウクライナ情勢に危ない話が…
前に海外派遣を断ったマリ共和国ですが。
あそこで反政府軍鎮圧をしてるワグネルの関係で、ウクライナ政府がマリの反政府組織に武器供与してる疑惑が出てきました。
ワグネルに正義あるとは欠片も思えないけれど、国連加盟国の反政府軍に武器供与してるとなると「テロ支援国家」になってしまうかと。すると軍事支援が受けられなくなる可能性が出てきます。
米仏は武器輸出大国ですから、自国利益の為に、昔から武器密輸の監視組織ある。
米国は事が真実でも沈黙するてせうが、マリの宗主国でありながら追い出されたフランスが黙ってかどうか。
事は出方でウクライナが軍事支援を受けられなくなりかねない。
私はロシアが軟着陸して、今後、極東で中国と邪魔し合う事を望んでますが、
「ロシア帝国の再建」は望みません。
ロシアの完全敗北→解体も望まないが、ウクライナがボロ負けして、ロシアが隆盛し、極東に力を入れてくるのも困る。
要は適度に中国の極東進出の邪魔を(互いの疑心暗鬼で)する程度の余力を残して終結して欲しいだけ。
仮にマリ北部や南部の武装反政府組織に武器が流れているとしても、シリア経由が大半で、ウクライナにそんな余裕ないと想うのですが。なにぶん似たことを日本も日露戦争で明石大佐がやってましたしね。
ロシアがボロ負けで解体されるのは困るが、ウクライナがボロ負けして、ロシアが必要以上に強国になるのも困る。
てか!調べてもこの話、どこがソースか解らないんですよ。ロシアがワグネルへのテコ入れでガセ情報流してる可能性もあるし。
木霊様の推察を読みたいものです。
m(_ _)m
依頼を受けちゃいましたが、僕の手には余りますねぇ。
折角なので記事にはさせてもらいましたが、ご指摘の内容についてはご要望を叶えることはできませんでした、申し訳ない。
情勢的にはアフリカでもロシア対西側諸国の代理戦争っぽい情勢になりつつあるみたいですけれど。
何故河野氏はこの話を持ち出したのだろうか
混乱させたい?
核アレルギーを沸き起こさせ原潜保有、核保有の話の芽を摘みたいのかな?
ああ、そういう方向もあるか……。
何事も疑ってみるのは大事ですね。
とはいえ議論の俎上に載せるのは必要とも想うのてすが。はたして……
引っ掻き回すことで、選挙を有利に戦いたいのでしょう。
河野太郎氏は敵が多いため、味方を増やすための論点を探っている感じはしますね。
原潜保有は内部で何度も議論されてきたんですけどね、対中国ということを考えるとどうなんでしょうかね
東シナ海にしても、沖縄列島以西は水深が浅くて大量排熱する原潜は格好の標的になりますからな
戦略型原潜を配備するぐらいなら南西諸島の離島に移動式ミサイルを大量配備すれば十分ということになります。
戦略型原潜保有は威圧目的にはなり得ますが、場所がわかってしまったら効果も半減しそうですし。
建造費、維持費がとにかく膨大なのでそれに見合うメリットがあるかどうかですな
内部で議論された話は、退職された方から噂程度に聞き及んでおります。
正直、戦略ミサイル型を保有するメリットは、核兵器保有の議論が前提だけにかなり厳しいでしょう。
ただ、攻撃型であれば使い道がありそうだと。正直、日本の海上自衛隊が保有潜水艦だけで領海全てカバーするというのが非現実的ですから、複数のチョークポイントで防衛するような構想みたいなんですが、潜航時の速力を上げることが出来るのであればやれることは増えるとか。特にシーレーン防衛に持ち出すという事を考えると、原子力潜水艦はアリらしいです。
それが戦略として正しいかどうかは、難しいらしいですけれど。
ただ、世論が「許容する」という結論を出せば、保有できるという余地が生まれるのですから、有効かどうかの議論はやったほうが良いと思っています。
議論するのはありだと思います。原子力潜水艦の建造費は通常型10隻分作れるぐらいですからそれならたいげい型10隻作った方が良いみたいな結論になったような、ならなかったような。