お次は、対空自走砲である。
対空自走砲といえば、 航空機やヘリコプターなど、飛行中の目標を破壊するための対空機関砲等を積んだ戦車の親戚と呼べる位置づけの車両だ。ミサイルを積んだり、高射砲を積んだりするバリエーションもある。

この手の車両はシャシーを共通化して上物だけすげ替えるような手法が使われることが多いようだ。同じファミリーにしておけば、整備もし易いしね。
韓国軍にそのような思想があったかは知らないが、このK-30はK-21の前身であるK-200装甲兵員輸送車と共通のシャシーを利用して作られている。
なお、K-30には「飛虎」という愛称が付けられているらしい。なかなかのセンスだと思う。
K-30 対空自走砲
登場したときから時代遅れの兵器
で、K-30対空自走砲そのものに問題があったとは聞いていないけれど、こんなニュースがあった。
【ミリタリーtalk】 50億の「最新型対空砲?」知ってみると、30年前時代遅れ!
記事入力2014-11-25 16:01
~~略~~
韓国サイトNAVERより
さらに、1980年代には、攻撃ヘリの脅威に対抗して装甲車に搭載された30
mm級自走対空砲が流行したので、私たちの軍隊も1983年には、次期自走対空砲事業を始め、1999年に開発を完了した、これはK-30「飛虎」自走対空砲であった。
問題は、意思決定と開発にも多くの時間を使って「最新国産名品」という修飾語をつけて登場した時点で、すでに流行にしばらく遅れ、時代遅れの武器を作り出したのである。
飛虎は約3 kmの射程距離を持つ30 mm機関砲2門で構成されている。
最大17 kmの標的を探知して、7 kmから追跡に入り、1番に1つの標的と交戦が可能である。問題は、外国では、これらの性能の武器が30年前に登場したというものである。
もう、タイトルからしてお笑いの要素を感じるね。
この記事によると、K-30の残念なところはターゲットが単一目標にしか対応できず、その射程範囲は3km程度というところだ。
スペック的には、搭載しているTPS-830Kレーダーが、17km先の範囲から追跡できる仕様になっているそうだが、対応できるのが単一目標だけ。対空兵器としては残念の一言に尽きる。
実のところ、対空機関砲搭載タイプは地対空ミサイル搭載タイプに取って代わられるような状況になっている。
日本で言うと89式自走高射砲(1987年制式化)、ドイツで言うとゲパルト自走対空砲(1973年調達開始)などがK-30の設計思想に近いモノのようだ。
が、89式自走砲は改修が断念されているし、ゲパルト自走対空砲の方は対空機関砲に加えてスティンガーミサイルを搭載している。ハイブリッド化したということらしい。
そんなわけで、他国に遅れて1999年より配備の始まったK30対空自走砲だが、記事によると400両調達される予定が2006年に国会の予算審議で大幅削減が決定されて、作られたのは167台。
調達が始まった時点で時代遅れだった!
実に残念である。
なお、対空自走砲に拘って開発を続けているロシアは、2K22 ツングースカ-M1や、その後継にあたる96K6 パーンツィリ-S1などがあり、機関砲と短距離対空ミサイルとを装備している。シーンによっては使えるので、陸続きの場所の多いロシアでは積極的に開発する動機はあるようだね。


ロシア製の兵器は、何か男心をくすぐる気がする。
魅惑のハイブリッド化
そんなわけで、K30対空自走砲もハイブリッド化を進めて、ミサイルを取り付けようという話が出るのは自然な話なのかも。
ところが取り付けようとしたのは、韓国が独自で開発した「神弓」という携帯式ミサイルシステムである。名前からして中二病を感じる痛さだ。
この「神弓」携帯式ミサイルシステムは、 開発費として8年間に700億ウォンを費やし、延べ1,000人余りが投入されて国産化率90%を達成したと言われている。開発できなかったのは弾頭部分らしく、これはロシアから供給してもらっている模様。
それって心臓部分じゃねーか!!
おっと、それはともかくK30対空自走砲に「神弓」を取り付けたらどうなったかというと、単一目標にしか対峙できない課題はそのまま残り、射程距離も5kmという残念っぷりである。
だって、携帯式ミサイルシステム「神弓」の射程が3~5kmで、最大射程7kmという仕様なのである。そのまま取り付けたらそりゃ、射程距離が伸びるわけも無い。
そして、非常に重要なレーダーが単一目標に対応する仕様のままなのだから、ハイブリッド化したところで複数の目標を狙えるようにならないのは自明の理であろう。
なお、AH -64アパッチや中国のZ-10などの攻撃ヘリ、この手の兵器は概ね射程が8 km以上の対戦車ミサイルを発射できる。A-10攻撃機やJ-10戦闘機などは10〜20 km離れたところで精密誘導爆弾を投下できる。
……つまり、K30対空自走砲は単なる的にしかならないというわけだ。
なお、北朝鮮軍は旧式兵器中心の構成になっているので、K30対空自走砲でも良いかもしれないが、何機か配備されていると言われている航空機には対抗できない。
調べてみると、北朝鮮はSu-25(20機)、MiG-23(48 – 50機)、MiG-29(30機)、Mi-24(20機) あたりを持っているといわれ、射程の長いミサイルが装備できるらしい。K-30を鴨打にできるね!
車輪型も開発
さて、このK-30のアップグレードの話を待っていたら、なんと車輪型が開発されたというニュースが飛び込んできた。

開発された段階なので、今後制式化されていくのだと思う。名前は未だ報道されていないようだし、スペックも今のところハッキリしない。
韓国軍、新型車輪型対空砲を開発…国産化率95%以上
2019年06月05日13時31分
作戦能力が大きく向上した新型30ミリ車輪型対空砲が開発された。
韓国防衛事業庁はハンファディフェンス・ハンファシステムと提携・開発した30ミリ車輪型対空砲が最近、試験評価の結果、軍の要求基準をすべて満たしたと5日、明らかにした。
「中央日報」より
ただまあ、装軌車両タイプでは無く装輪車両タイプをチョイスしたということは、舗装した路面を高速に移動する必要があるという判断なのだろう。
もちろん、装輪車両タイプの場合は撒布界(複数の弾が着弾した際、その最も遠い弾着点と最も近い弾着点の離隔距離)が装軌車両タイプよりも不利になる傾向にあるので、デメリットもある。その辺りの対策がされている感じでもないのは気になるね。レーダーもオミットされている気がするし。
他の国が開発しないようなアイテムを開発するのは良いんだけど、それが売れるかどうかはまた別問題なんだぜ?
え?対ドローン仕様?
さて、K30対空自走砲は、時代に合わせた変化を求められる兵器のようで、ハイブリッド化の話が出てきたと思ったら、なんと、対ドローン仕様の話まで飛び出した。
確かに、ドローンによって攻撃されるという手法は現代において非常に問題視される戦術で、中東辺りではかなり深刻な問題を引き起こしていると言われる。
韓国ではこれに対抗するための兵器としてK30対空自走砲を利用しようという発想に至った模様。

これがその構想に基づいた図らしいのだけれど、具体的にK30にレーザー兵器を搭載して対ドローン兵器として売り出すとまでは書かれていないので、どの辺りまでが具体的になっているかは判然としない。
ただ、この報道が出た時には「そんなアホな」と思っていたが、最近はこの対ドローンを想定した対空自走砲が見直されている。

ろくでもない計画が進んでいるのではないかな?と、そんな風に危惧を覚えたものの、意外に今の時代にはマッチした兵器になるかも知れない。続報が見当たらないのが残念である。
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