オウベイガー!
ドイツ下院、国防費の歴史的増額を可決 基本法改正へ
2025年3月19日
ドイツ連邦議会(下院)は18日、国防費とインフラ支出の大幅な増加へ向けて、財政規律を緩和するため、基本法(憲法に相当)の改正案を3分の2以上の多数で可決した。上院にあたる連邦参議院での審議を経て、21日にも成立する見通し。この決定はドイツにとってだけでなく、欧州防衛のあり方を一変させる可能性がある。
BBCより
ドイツデハ!
戦後レジームからの脱却
憲法改正は民主主義国家ではあたりまえ
この話は以前、ブログで触れている。
こちらの記事で、「ドイツの憲法には「債務ブレーキ」というルールがあり、債務を国内総生産の0.35%未満に抑えろということが決められている。」と紹介したのだが、ドイツはこれを突破するために憲法改正を行うことを決めたようだ。
この基本法改正によって、ドイツは厳格な財政規律から、防衛と安全保障への支出を除外する。また、5000億ユーロ(約82兆円)のインフラ基金を創設する。
BBC「ドイツ下院、国防費の歴史的増額を可決」より
ドイツ基本法というのが、現在のドイツの憲法にあたるものなのだが、実はドイツ、敗戦後に67回にも及ぶ憲法改正をやっている。
本稿では、憲法改正が行われた単位ごとに憲法改正の回数を数える。したがって、同日に行 われた憲法改正であっても、それが(複数の改正法等に)区分されている場合には、それぞれ 1 回とする。また、新憲法の制定が戦後に複数回ある国について戦後の憲法改正の回数を通算 する際には、2 回目以降の制定も憲法改正として扱う。 この数え方によると、戦後、アメリカは 6 回、カナダは 19 回、フランスは 27 回、ドイツは 67 回、イタリアは 19 回、オーストラリアは 5 回、中国は 10 回、韓国は 9 回の憲法改正を行っ ていることになる。なお、第 2 次世界大戦終結前に制定された現行憲法も記載した。
諸外国における戦後の憲法改定【第8版】より
寧ろ、憲法は時代に合わせて変化させていくことが当然のものなのだ。時の権力者の都合に合わせて変えられてはたまらないという主張にも一理はある。だが、民主主義国家において、その根幹たる憲法の見直しというのは、常に行う必要のあるものだ。
70年以上、憲法に全く手を加えていない日本が異常なのである。
財政規律の見直し
特に、ドイツにとってこの財政規律を縛るために規定されていた債務ブレーキというのは、かなり重要な条文である。
何故ならば、かつてヒトラーが財政規律を無視して国債を増発し、その結果、戦争の道をひた走ることになったという解釈がなされているからである。
伝統的に借金を嫌うドイツにとって歴史的な議決。ロシアによるウクライナへの全面侵攻が続き、ドナルド・トランプ米大統領が北大西洋条約機構(NATO)と欧州防衛に積極姿勢を示していない状況において、欧州にとってドイツのこの決定は極めて重要な意味を持つ可能性がある。
~~略~~
ドイツはかねて、1945年にさかのぼる歴史的な理由だけでなく、2009年の世界金融危機の経験からも、防衛支出拡大に慎重な姿勢を貫いていた。
それだけに今回の採決も僅差が予想されたが、結果的には賛成513、反対207で、基本法改正案の可決に必要な3分の2の賛成を優に上回った。
BBC「ドイツ下院、国防費の歴史的増額を可決」より
記事には、「伝統的に借金を嫌う」と暈かして書いてあるが、ドイツのトラウマを封印するための大切な条文ではあるのだ。
だが、国防のためにそこに手を入れるというのが、今回のドイツの決断であり、周辺国としても「ドイツは再び間違えるのでは」という懸念はあるのだろうが、概ね好意的な反応となっている。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、ドイツ議会の投票結果を「素晴らしいニュース」と歓迎した。
デンマークのメッテ・フレデリクセン首相との共同記者会見で、フォン・デア・ライエン委員長はドイツ議会のこの議決が、「ドイツは巨額の防衛投資をする覚悟だと、非常に明確なメッセージを欧州に送るものだ」と述べた。
フレデリクセン首相も、ドイツ議会の議決を「すべての欧州人にとって素晴らしいニュース」と評価した。
BBC「ドイツ下院、国防費の歴史的増額を可決」より
日本で、これにあたる条文は憲法9条なので、非常に大きな抵抗が予想されるが、当然ながら、日本が軍隊を手に入れるためには書き換えねばならない条文である。
そして、トランプ氏の判断によっては、日本は大きな決断を迫られるのだ。
特定の国家が反対してくると思うが、何れも敵性国家だ。気にすることはない。やりたまえ。
追記
なかなか、戦前回帰というか原点回帰というかなんというか。
フォルクスワーゲンが戦車工場に?…苦境のドイツ自動車業界の「構造改革」
2025年3月17日(月)15時00分
ドイツの老舗軍事企業ラインメタルが、独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の国内工場を買収して、戦車の製造拠点に転用する計画が浮上している。
買収が検討されているのは、VWやポルシェの組み立てを担ってきた北西部オスナブリュックの工場で、数年以内に操業が停止される予定だ。
Newsweekより
自動車産業が苦境に立たされているドイツだが、相変わらず技術力がある。そこへヨーロッパ全体で戦力の増強をするトレンドが出てきて、なおかつアメリカ製の兵器を忌避するところも出てくる流れである。
そりゃ、自動車だけではなく戦車を作るよ。
一方、防衛産業は欧州全域で需要が高まっており、ラインメタルの昨年の売り上げは30%以上増加。
Newsweekより
ラインメタル社の株価がかなり上がっているニュースを見かけたが、戦車の砲塔はラインメタル社一強の状況で、「戦車も欲しい」という国家が多数。でも、ドイツ国内の生産能力はかなりシュリンクしていて、生産能力が低い。
だからこそ、韓国製のK2戦車が流行った訳だが、ドイツが量産体制を整えれば、「やっぱりドイツ製を」という話にもなる可能性はある。ドイツにとってのビジネスチャンスだよね。
追記2
コメントいただいて、「あー、そうか」と。
この記事を書いている川口マーン惠美氏は、割と有名なライターさんなのだが、「やや要注意」な記事を書かれることもあるので、注意しながら読んでいきたい。
もうアメリカには頼っていられない…!いまドイツ国民の7割が「徴兵制の復活」に賛成する「驚きの事態」
2025.03.19
3月6日、公共第1テレビARDの夜8時のニュースで、EU担当のベテラン女性記者、ティナ・ハッセル氏が言った言葉には、思わず耳を疑った。
「ヨーロッパは、対ロシアに加え、どんどん攻撃的になって我々を敵視してくる米国に対しても、軍備を整えなければならない」
ドイツでは驚くべきことが進行している。ロシアと米国を相手に、二面戦争をする気か?
現代ビジネスより
確かに、ロシアやアメリカの方針あるいは方針転換がヨーロッパにとっての脅威となっていることは間違いない。
だからこそ、軍備増強すべきであるという思惑は分かる。ただし、ここまでの方向転換が本当に国民に受け入れられた結果だったのか?という点はやや疑問に思えた。
選挙の結果を見るに、移民問題に対して際限ない受入方針は方向転換されるべきという話は分かるが、軍備増強に関してはそこまで注力されていなかったような……。だが、「債務ブレーキ」まで乗り越えて軍備拡張という路線をという話に現状ではなっている。
ドイツには、「債務ブレーキ」と呼ばれる法律があり、公的債務残高の年間の増加がGDPの0.35%を超えてはならないということが基本法(憲法に相当)で定められている。そして、そのブレーキを外すためには基本法を改正しなければならず、基本法の改正には議会の3分の2の賛成が必要になる。
ところが、先月の総選挙の結果では、CDUも社民党も過去最低(CDUは最低から2番目)の得票数であったため、3分の2の票数には到底満たない。たとえ緑の党を引き入れたとしても、まだ足りない。
そこで、メルツ氏は思いついた。あと数日でお払い箱になる旧議会なら、緑の党も加えればぎりぎり3分の2が得られると。そこで、メルツ氏は緑の党にも擦り寄らざるを得なくなった。
現代ビジネスより
でまあ、その方針を決定した時期首相のメルツ氏が取った作戦が、選挙結果を反映しないような旧議会での憲法改正発議だったんだよね。報道では下院で通過したみたいな話で、ちょっとだけ引っかかってはいたんだ。
だが、こういう解釈もアリだというのが、川口氏の論説を見て理解できる。
そこで、AfDと左派党がそれを阻止しようと、緊急で憲法裁判所(最高裁に相当)に訴えたことは不思議でも何でもなかった。法律的にはギリギリセーフであっても、民主主義の精神に照らし合わせればどうなのかとは、誰もが考えることだ。
ところが、憲法裁判所は15日、これは合法であるという判断を下した。しかも、未だに誰も新議会を早急に招集しようとも言い出さず、なぜかギリギリまで旧議会が生かされている(新議会は選挙後30日以内に招集しなければならない)。私には、ドイツの民主主義はすでに満身創痍のように思えてならない。
現代ビジネスより
まあ、裁判所が言うように確かに合法だけどさぁ、民意に沿った話ではなくて騙し討ち寄りの判断と言われても仕方がないよね。
更に、かなり経済状況的に傾いているドイツの自動車メーカーや関連国内産業を救うための戦略だという指摘も確かに分かる。そういう側面はあるのだろう。
さて、では、軍拡に8000億ユーロを注入すれば一体何が起こるのか? 軍需産業は儲かるだろうが、製品は武器庫に収まる。ドイツでは、落ちぶれてしまった自動車メーカーが軍用車輌の生産に励むという希望的憶測もあるが、その軍用車も国民が乗るわけではない。国民の消費につながらない投資でも、好景気をもたらしてくれるのだろうか。
現代ビジネスより
ただ、この指摘はちょっと怪しいと思う。ドイツの作る戦車はEU全土に売られることになるはずで、そうすると外国に輸出することになる。国民が戦車や軍用車に乗る訳では無いが、経済効果は確実にある。
徴兵制の復活については、昨年5月のアンケートでは、61%の回答者が賛意を表明していた。反対は38%。年齢別では、50歳以上の人のほぼ7割が賛成で、16歳から29歳では3割。
ところが、今年の3月になると、賛成が全体の7割に増加し、16歳から29歳の54%が賛成に変わっていた。ドイツ人の心境にどんな変化があったのかはわからない。
個人的には、日本での徴兵制導入が無理だと思えるのと同じくらい、ドイツの徴兵制も無理のように感じる。現在40歳以下の人たちは、国防という概念さえ教わっていない。
しかし、ひょっとすると、若者はコンピュータゲームで戦争をしすぎて、現実と非現実の区別がつかなくなっているのかもしれない。もしそうだとすれば、それが、皆が果敢に戦争に突き進んでいく原動力となるのだろうか。
現代ビジネスより
……あの、川口さん?
コンピューターゲームで戦争をしすぎたら、徴兵制度導入賛成が増えるんでしょうかね?それはちょっと無理があるんでは。
というわけで、今回のこの件、結構危ない橋を渡った判断で、下院が入れ替わった後では決議できなかった可能性というのはあるとは思う。でも、今回文句を言ったAfdを含めて、「債務ブレーキ」に関して問題を感じている政党は多い。
ただ、それを軍備増強に使うのが民意かというと、どちらかというと移民問題とかエネルギー価格高騰にメスを入れてくれってな選挙結果だと理解していたから、今回のこの振り切れ方に違和感があるのは事実ではある。ちょっと、徴兵制の話をぶっこんだところは理解不能なんだけれども。
コメント
ドイツが動き出した。欧州メディアは、「ドイツ再軍備宣言」が発せられたと。
ちょうど、川口マーン氏がいまのドイツの動きを論評していたので読んでみました。
もうアメリカには頼っていられない…!いまドイツ国民の7割が「徴兵制の復活」に賛成する「驚きの事態」(ゲンダイ3/19)
https://gendai.media/articles/-/149262?imp=0
ドイツ再軍備を主導しているのは、メルツ次期首相とフォン・デア・ライエンEC委員長-ライエン氏は独連邦軍を無力化させたメルケル第3,4次政権の国防大臣でしたが。
川口マーン氏の論評の中で、特に注意を引く部分は、『信任のない旧議会が基本法改正を行った』『憲法裁判所が基本法改正を合法と判断した』という事実。
カネの問題より、選挙結果が蔑ろにされたことのほうが危険じゃないですかね。かつて
法と選挙結果の歪曲がどんな結果になったのか忘れちゃったんですかね。
ありがとうございます。
確かに、ご指摘の点はかなり厄介な感じでして、問題ですよね。ただ、法律構成的には違法ではないので、裁判所と言えど違法と判断するのは難しそうです。直近の民意を反映しているかは怪しいのですが、前政権もやっぱり民意で選ばれたわけですから民意を無視しているとまでは言えない感じなんですよね。だから裁判所としては「怪しいけど合法の範囲内」と言わざるを得なかったのかと。
とはいえ、本来、直近の民意を反映した政治をやるべきですから、民主主義国家としてはかなりの禁じ手をやらかした印象が強いですよねぇ。