トランプ氏の関税政策が、各方面に多大な影響を及ぼしているな。
EU、米に報復関税最大4兆円発動へ 酒類やバイクなど
2025年3月12日 16:10 (2025年3月12日 16:38更新)
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は12日、米国の鉄鋼・アルミニウム製品に対する追加関税への対抗措置をとると表明した。合計で最大260億ユーロ(約4兆1000億円)相当の米国からの輸入品に報復関税を発動する見通しだ。
日本経済新聞より
当然ながら日本も対応する必要があるのだが、トランプ氏の判断は明日どう転ぶかが不明である。
貿易戦争勃発
鉄鋼・アルミニウム製品に対する関税
EUで問題となった鉄鋼・アルミニウム製品に対する関税問題だが、日本でも勿論問題となる。
トランプ政権 鉄鋼・アルミ 25%関税 きょう発動へ 日本製にも
2025年3月12日 10時04分
アメリカのトランプ政権は輸入される鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課す措置について、予定どおり日本時間の12日午後1時すぎに発動する構えです。日本から輸出される製品にも関税が課されることになり、懸念が高まっています。
NHKニュースより
この点、経済産業大臣の武藤紙が渡米して対応して貰うように掛け合ってみたが、不発だった。
武藤経産相 訪米し商務長官らと会談へ 関税除外を直接申し入れ
2025年3月7日 12時44分
武藤経済産業大臣は、アメリカのトランプ政権で関税と貿易政策を担当するラトニック商務長官らと会談するため、3月9日からアメリカを訪問することになりました。12日に発動が迫る鉄鋼製品とアルミニウムへの25%の関税措置や自動車への関税措置の対象から日本を除外するよう直接、申し入れる方針です。
NHKニュースより
日本だけ例外としてくれは通用しないとは思ってはいたが、やっぱり無理だったようで。
トランプ氏の外交基本戦術は、とにかく攪乱して有利な条件をもぎ取ることらしく、最終的に何処に着地するのかは中の人でも分かっていないかも知れない。
対カナダ関税
アメリカがカナダに対する関税を課す話は、二転三転していて、昨日の時点ではこんな風になっていた。
トランプ大統領 カナダの鉄鋼など関税50%と表明も見直し言及
2025年3月12日 7時56分
アメリカのトランプ大統領はカナダから輸入する鉄鋼製品とアルミニウムへの関税を25%ではなく50%に引き上げると表明したことについて、一転して見直す方針を示しました。
カナダのオンタリオ州がアメリカ向けの電力に追加料金を課すことを一時停止すると明らかにしたためで、カナダに課される関税は予定どおり25%となる見通しとなりました。
NHKニュースより
もはや意味が分からない。
が、意味が分からないのは鉄鋼・アルミニウム製品の関税だけではなくて、電力に関してもである。
そして、アメリカによる関税措置への報復としてアメリカ側に供給する電力に25%の追加料金を課すとしていたことについて、「一時的に見送ることで合意した。冷静に対処することで双方が一致した」と述べました。
NHKニュース「トランプ大統領 カナダの鉄鋼など関税50%と表明も見直し言及」より
電力に関する関税というのは、アメリカにとってマイナスになるだけだと思うのだけれども、そうではないのだろうか。
対アメリカ関税
で、EUやカナダとしても、放置するわけにもいかないので報復関税をと口にしているのがEUとカナダ。
これに対し、EUは12日、対抗措置としてアメリカから輸入する製品に来月1日から2段階で関税を課す方針を明らかにしました。
対象はオートバイやバーボンウイスキーのほか農産物なども含まれる見込みで、日本円にしておよそ4兆2000億円相当にのぼるとしています。
また、カナダ政府も13日から対抗措置に踏み切る方針を明らかにしていて、アメリカから輸入している鉄鋼製品やアルミニウム製品など日本円にしておよそ3兆円分に25%の関税をかける方針です。
NHKニュース「米関税にEU カナダが対抗措置」より
結構な分野で関税比率の引き上げの応酬が行われる模様。ただし、コレに対する報復的な行動もアメリカは予定しているらしいので、「話し合えよ」とため息をつきたくなる。
ただ、トランプ氏的には交渉の糸口にする手法の1つとしてやっている可能性が高いので、なんというかコレまでの常識でははかれないものがある。
米の鉄鋼・アルミの国別輸入
アメリカ商務省によりますとアメリカが去年輸入した鉄鋼製品について国と地域別に、重量ベースでみると ▼カナダが最も多く全体の22.6%、 ▼ブラジルが15.5%、 ▼EU=ヨーロッパ連合が14.8%と3つの国と地域で半分を超えます。
次いで、 ▼メキシコが12.1%、 ▼韓国が9.7%、 ▼ベトナムが4.7%、 ▼日本からは4.0%となっています。
また、 ▼中国からの輸入については規制の影響で1.7%にとどまっています。
一方、アメリカが去年輸入したアルミニウム製品については、アメリカ商務省によりますと、国別では ▼カナダが58.0%と半分以上を占めていて、次いで ▼UAE=アラブ首長国連邦が6.3%、 ▼中国が4.1%などとなっていて、 輸入量の多いカナダへの影響が大きくなります。
NHKニュース「トランプ政権 鉄鋼・アルミ 25%関税」より
カナダからは特に鉄鋼・アルミニウム製品を輸入していて、25%も関税を引き上げると、アメリカ国内の製品も当然値上がりする。インフレを誘発するのである。
それも、コストプッシュ型のインフレなので、アメリカ経済にプラスの影響を及ぼすかというと怪しい。労働者の懐が温かくならないと、アメリカ経済を良くすることに繋がらない。
尤も、アメリカ経済の構造そのものを変える目的で、大鉈を振るっているということであれば、必ずしもダメな政策とまでは言えないのである。
というわけで、日本も言うべきは言う必要がある。「遺憾である」とか言っている場合ではない。
米ファースト
そういえば、アメリカは日本に対してもおかしなことを言っていたな。
トランプ米政権、日本がコメに「700%関税」と非難-標的の可能性
2025年3月12日 13:19 JST 更新日時 2025年3月12日 15:47 JST
トランプ米政権は、日本が輸入米に高い関税を課していると批判した。米国が今後数週間のうちに相互関税の適用を目指す中、コメと日本が標的となる可能性が高いことが示された。
ホワイトハウスのレビット報道官は11日の記者会見で、インドや欧州連合(EU)など各国の関税率が記載されたとみられる図表を示し、日本は「コメに700%の関税を課している」と指摘。この図表には、日本が米国から輸入する牛肉や乳製品に課している関税率も示されていた。
Bloombergより
もうちょっと調べてから発言して欲しいものである。
林官房長官、日本のコメ関税改めて説明 米大統領報道官が水準誤認か
2025年3月12日午後 12:11
林芳正官房長官は12日の記者会見で、米ホワイトハウスのレビット報道官が日本のコメ関税率が700%と発言したことに関し、ミニマムアクセス(最低輸入量)が無関税であるのに加え、そのほかの輸入米も1キログラム当たり341円の関税になっていると反論した。
341円の関税が700%の率になるには1キロ約49円の低価格である必要があり、誤認とみられる。
ロイターより
過去には関税が700%であるという話もあった(2005年に米に対して778%に相当する関税をかけるという話があった)けれども、自分のところは高率関税をかける一方で、日本の殆どの製品には関税がかけられていないのに特定品目だけ取り上げて「700%だ」というのは、交渉のやり方にしても酷い。
日本の農業政策については別に言いたいことはあるが、それはさておき特定品目を守るために高率関税をかけるのはWTOのルール的にも許されているし、国際的合意に基づいた話でもある。
トランプ氏との交渉は面倒極まりないけれども、これと戦える人物を日本のトップに据えないとなかなか戦っていけない。交渉のテーブルにつくためには、下手に回っていてはダメなのだ。
追記
言及するつもりで忘れていたので、こちらも追記。
日本の自動車貿易、改めて批判 トランプ氏「米国製受け入れない」
2025年03月13日08時27分配信
トランプ米大統領は12日、ホワイトハウスで記者団に「日本(からの自動車輸入の規模)はあまりに大き過ぎる。しかし、日本は米国の自動車を受け入れない」と改めて批判した。
時事通信より
いやいや、アメリカで売られている日本製の自動車は、アメリカで製造されているモノが多いから。そして、アメリカの自動車は日本国内では売れないのよ。別に関税をかけているわけじゃないし。
その辺りは故安倍晋三によって説明された話なんだけど、忘れていらっしゃるんだろうねぇ。
改めてご説明にあがらねば。
補記
ちょっと纏まらなかったので本文に書かなかったことを補記しておきたい。
1930年関税法
学校で教える歴史の授業で取り上げられた記憶はないのだけれど、近代史を学ぶと「1930年関税法(スムート・ホーリー関税法)」という話が出てくる。
時は1929年10月、アメリカのウォール街ではとんでもないことが起こっていた。ダウ工業株平均は6年間上がり続けて当初の5倍になり、1929年9月3日に最高値381.17をつけた後、株価は一気に下がり始めて1ヶ月間その下げ傾向が止まらなかった。大暴落初日となった1929年10月24日(ブラックサーズデー)には1,290万株が取引された。翌月曜日の28日には「ブラックマンデー」を迎えることになる。その日のダウ工業株平均は13%下落するという記録的なものになった。
コレを皮切りに一気に不景気が加速し、世界的な情勢となっていく。そう、世界恐慌の引き金を引いたのである。
この時にアメリカ大統領であった共和党出身のハーバート・フーヴァーは、国内産業の保護を優先するために保護貿易政策を採用した。これが「1930年関税法(スムート・ホーリー関税法)」である。なお、この1930年関税法は今尚有効である。
ブロック経済に移行
この1930年関税法は、簡単に言うと高率関税を農作物などに課すことで、農作物価格などの引き上げを図ったものだ。そして、保護の対象は工業製品にも及んでいた。外国からの農作物輸入や工業製品輸入を制限することで国内産業の保護を図ったのだ。平均関税率は40%前後にも及び、20,000品目以上の輸入品に対して高率関税をかけた。外国からの輸入が滞ることで、アメリカ国内の製品は値上がりするハズだった。
しかし、コレに対抗して各国が報復関税をかけ、結果、世界経済は停滞することになった。
ウォール街の暴落はアメリカ経済に大きな打撃を与えたが、しかし当時の市場経済規模は小さかったため、アメリカ政府の動揺がなければ国外に大きな影響をもたらすには至らないはずだという指摘もあるし、その後のアメリカ政府が選択したニューディール政策(1932年)がなければ事態を悪化させないで済んだという分析もある。
だが、実際には債務拡大政策の実施によって、アメリカの債務残高は1936年にはGDP比40%に膨らんだだめ、慌てて1937年には財政支出大幅削減予算を実施。その結果、更にアメリカ経済は悪化する。
世界経済も悪化して、各国は大混乱に陥る。特に第1次世界大戦の後始末を課せられていたドイツは、ハイパーインフレ(1921年~1923年)を乗り切った後始末に奔走してたため、世界経済の停滞の影響を受けて脆弱だった経済が吹き飛び、あっという間に失業率は40%を超えてしまった。その結果、1933年1月30日、ヒトラー首相が誕生するのである。
一方、イギリスは当時植民地支配をしていた国々の中で経済を活性化させるためにブロック政策を実施し始めた。
そして開戦へ
こういった世界的な経済の混乱のなかで、イタリアにはファシスト政権が誕生し、ドイツでは国家社会主義ドイツ労働者党の躍進によって、順調に軍国主義が育っていった。
ソ連は世界各国が大恐慌に苦しむ中、計画経済で経済発展を続け、経済成長と科学技術の発展を遂げて、ヨシフ・スターリンの神格化が進んでいった。
支那は1928年に成立した南京国民政府(中華民国)が国政を任されていたが、国際社会では唯一金本位制ではなく銀本位制を採用していたがために世界恐慌の影響を受けずにいたが、支那産品への世界的な需要によって対外貿易は顕著な輸出超過であったために、世界中の銀が支那に流入する羽目になる。この結果、支那国内の物価が高騰。支那経済は麻痺状態に陥ってしまっていた。
そして、満州事変の勃発(1931年9月~1933年5月)やイギリスの金本位制の離脱を受けて、銀流出傾向に転換して国内の物価の下落や商工業・海外貿易の縮小が起きた。アメリカが銀の法定備蓄を開始(1934年)した影響で銀の国債価格が急騰したことも、銀流出に拍車をかける結果となった。詳しい解説は省略するが、支那は経済危機に陥ったのである。
支那の経済危機の引き金を引いたのは日本にも責任の一端があり、満州国建国(1932年3月)などの事情も重なって、日中戦争(1937年7月~1945年8月)に発展していく。
そして、ドイツもまたナチスによる経済政策の推進と共に軍備拡大が進んでいき、ついにドイツ軍のポーランド侵攻(1939年9月1日)に結びつき、2度目の世界大戦に突入していくこととなる。
1930年関税法の話から随分と話が脱線してしまったが……、要はブロック経済化をまねく関税戦争勃発は、戦争開始リスクを高める事になるという話である。
まさか同じプロセスを辿るとは思わないが、少なくともこのまま行けば世界経済の停滞は避けられないだろう。
コメント
こんにちは。
>まさか同じプロセスを辿るとは思わないが
ヒトは、自分が経験していない事は、容易に繰り返すんですよね。
どんなに熱いと分かっている火中の栗も、自分は火傷したことがないから拾いに行く。
あるいは、下っ端に拾わせる。
で、栗が爆散して大惨事が起きる、と。
書物は知識と経験の蓄積に役立つのですが、ちゃんと役立てるだけの素養が受け側にないと意味を成さないのですな……