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「技術の日産」の凋落が始まったのは「今」ではない

科学技術
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ここまでとは。

「もう二度と、あんな失礼なことは言われたくない」…プライド傷つけられた「技術の日産」

2025/02/17 17:36

ホンダとの経営統合協議の撤回が発表された13日、日産自動車の幹部が語気を強めた。「もう二度と、あんな失礼なことは言われたくない」

讀賣新聞より

名のある大企業に務める人々は、それなりの自負を持っているものである。僕自身は仕事の関係で、いくつかの大企業との打ち合わせをしたことはあるのだが、様々な企業に様々な企業風土があると身に染みて感じている。

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ハイブリッド車戦争の敗者

その時、日産は

残念ながら日産の技術者にお目にかかったことはないが、讀賣新聞のタイトルは随分と日産をバカにしたものになっている。

まあ、そういうことなのだろうね。

感想はさておき、日産の戦略ミスは一体何処からだったのだろうか?

一連の協議で、ホンダが日産に求めたのは、破談のきっかけとなった、ホンダによる日産の完全子会社化だけではない。日産がリストラを断行すること。さらに、日産独自のハイブリッド車(HV)システム「eパワー」を捨て、ホンダのHVシステムに一本化することが提案されていた。

ホンダの提案は、かつて、「技術の日産」を 標榜した日産のプライドを刺激した。

讀賣新聞「もう二度と、あんな失礼なことは言われたくない」より

えぇ……。プライド高ぇな。

個人的な感想を交えて話すが、企業文化という意味においてハイブリッド戦略についてはトヨタは謙虚だったように思う。

開発開始当初、トヨタの技術者の話によれば、トヨタは「エンジン技術は他社に一枚落ちる」との認識を持っているようではあった。

実際にハイパワーユニットを、となると現在に置いてもヤマハ発動機の力を借りているのだから、それも無理もない話。なお、HV用のモーターや二次電池に関しても、専業には勝てないという認識であったようで、トヨタのHVシステムの基礎が出来上がった時代には、トヨタは完全に挑戦者の立場であった。

一方のホンダはというと、本田宗一郎という偉大な創始者を擁する技術集団であったが故、エンジンでトヨタに負けるはずがないという自負はあったようだ。だが、インサイトが出来上がったとき、トヨタの技術者は「アレはスゴイ」と感心したものの「製品としてはダメだ」と判断したようだ。

車として尖りすぎていて、一般ウケしないという風に認識されたのである。

ホンダのインサイトの発売は1999年。トヨタの初代プリウスの発売は1997年。当時、業界人には「ぷっ、利薄」と揶揄されたプリウスだが、2代目以降には爆発的なヒットになったのは言うまでもない。

もちろん、トヨタとしてはプリウスの販売は大きな賭だった。利が薄いどころか大赤字で、売れば売るほど損をした。利益が多少出るようになったのは販売開始から3年経った頃である。なお、初代はバッテリーの無償交換をやったので、実際は完全に赤字であった。

だが、他社に笑われようとバッテリー無償交換はトヨタの戦略だった。公然の秘密だが、トヨタは完全に初代プリウスを「社外実験協力」の報酬的な位置づけにしたのである。販売店網を使って、バッテリーの劣化状況をチェックし、劣化したら回収してデータ取りに回した。

今のトヨタのハイブリッド用二次電池技術は、その経験の上に成り立っている。モーター技術に関しても、1/4戦略という頭のおかしい技術目標を掲げていた。製造単価を1/4にしろという至上命題を課したのである。開発技術は3レーン立ち上げて社内コンペをやり、数々のアイデアが闇に葬られた。とにかく莫大な労力とお金を開発に注ぎ込んだのである。

その時、日産は何を販売していたんだっけ?そう、赤字に喘ぎ、ルノーと資本提携し、CEOにかのカルロス・ゴーン氏を迎えたのが1999年のことである。5代目のフェアレディZ Z33が発売されたのは2002年だったが、日産全体で見ると車の販売は低迷していた。

が、ゴーン氏就任以降、抜本的な改革がなされ、自動車販売台数自体は伸びた。そして、日産リーフが販売され始めたのは2010年からである。が、日産の技術力は次第に衰退していった。ゴーン氏の合理化は技術開発陣を物理的に萎縮させてしまったのだ。

手に入れたハイブリッドはe-POWER

さて、日産とてハイブリッド戦略を考えなかったわけではない。実際に、かつて名車を次々と生み出してきた自動車会社にとって、技術力はその力の源泉である。

ハイブリッド技術開発だってやった。ただ、あまり本腰を入れた感じではなかったが。

「ハイブリッドじゃないと売れない」 日産、営業部門の悲痛な叫び

2022.03.24

今や日産自動車(以下、日産)を代表する電動化技術となった「e-POWER」。エンジンを発電のみに使うシリーズハイブリッドのシステムで、搭載したクルマの売れ行きも好調だ。だが、ハイブリッド車で後発となる日産にとって、開発は一筋縄ではいかなかった。当時パワートレーンの開発でリーダーを務めた仲田直樹がe-POWERの開発に至るいきさつを振り返り、開発メンバーがそこに込めた思いを語る。

日経XTECHより

日産が選択したのはシリーズハイブリッド。

日産自動車のシリーズハイブリッドシステム「e-POWER」

実は、エンジン戦略を考えるとトヨタの選んだパラレルハイブリッドの方が茨の道であった。

簡単におさらいしておくと、ハイブリッド方式には主に3つの方式があると言われている。

  • パラレル方式:主にホンダが採用(IMAシステム)
    • 搭載している複数の動力源を車輪の駆動に使用する方式
  • シリーズ方式:主に日産が採用(e-POWERシステム)
    • 発電機を駆動することのみにエンジンを使用し、その電気でモーターを駆動し走行する方式
  • スプリッド方式:主にトヨタが採用(THSシステム)
    • パラレル方式とシリーズ方式を組み合わせた方式

技術開発の困難性でいうと、シリーズ<パラレル<スプリッドという感じで、シリーズ方式は大型車に搭載するのであれば比較的開発は容易に行うことが出来るとされている。

2012年、日産はダウンサイジングエンジンを搭載したコンパクト車「ノート」で勝負に出た。排気量を小さくして燃費を抑えつつ、トルク(回転力)が必要なときは過給機で補う仕組みだ。欧州発の、いわゆる「ダウンサイジング」ブームに乗った自信作だった。

ところが、非情にも市場はそっぽを向いた。当時人気が沸騰していたトヨタ自動車(以下、トヨタ)の「プリウス」や「アクア」をはじめとするハイブリッド車に歯が立たなかったのだ。特に、売れ筋のコンパクト車ほど、多くの顧客がハイブリッド車に熱視線を送っていた。

日経XTECH「ハイブリッドじゃないと売れない」より

e-POWERは、かなり技術的には電気自動車に近い技術で、なかなか考えられたシステムと言えるのだが、しかし日産の風土に合っていたか?というとやや疑問だ。

実は、e-POWERは高速域で燃費の伸びが悪く、この辺りの改善に随分と日産は苦労したようだ。

ホンダにとってe-POWERは魅力がない

よって、e-POWERは日産の労作となったのだが、ホンダにしてみればそもそもシリーズ方式を選択しなかった為に、ウリに出来る技術ではない。

ホンダからすれば、自社システムの販路が拡大できれば量産効果が高まり、結果的には日産の調達コストの削減にもつながるとの思惑があった。子会社化するつもりだった日産の選択と集中にも効果があるとの目算だった。

電気自動車(EV)の量産化では世界に先駆けた日産だが、HVの導入にはトヨタ自動車やホンダに大きく遅れた。ホンダ幹部は13日、「HVは、我々に一日の長があるのは自明」と語った。

讀賣新聞「もう二度と、あんな失礼なことは言われたくない」より

ホンダにとってIMAシステムこそがハイブリッドシステムであって、e-POWERはEVカテゴリーの技術なのだ。

どちらに優位性があるかについて議論するのは難しいが、IMAシステムから更に進化させたスポーツハイブリッドi-DCDこそが、今後売り出していくべきハイブリッド(コメント頂いたが、今は更に違うe:HEVという方式を採用したとのこと。情報が古くて申し訳ない)であって、e-POWERに魅力を感じないのだろう。

実際に、売れていないんだから仕方がない。

「長距離移動が多い海外で重視される高速燃費でも優れた性能を発揮できる」。13日の記者会見。日産社長の内田誠は、破談理由を説明した後、次世代eパワーの投入に言及した。高速域での燃費は、従来比15%向上したという。25年に欧州で、26年度から北米に投入する計画だ。ある役員は「会見直前になって発表に押し込んだ。これでホンダとも戦える」と話す。

讀賣新聞「もう二度と、あんな失礼なことは言われたくない」より

日産は刷新したe-POWERに自信を深めてはいるようだが、シリーズ方式の弱点はある程度改善したものの、トヨタが投入しているTHSシステム(THSとしては第5世代となっていて「トヨタシリーズパラレルハイブリッド」が公式名称となっている)にはどうしても見劣りしてしまう感じは否めない。

交渉打ち切り

結局、ホンダとしてはまだi-DCDの方が戦えると考えているのだろう。エンジン技術はトヨタより優れているとの自負はあるだろうし。

ホンダ、日産の内田社長が退任すれば統合交渉再開へ=FT

2025年2月18日午前 10:01

ホンダは、日産自動車の内田誠社長が退任すれば両社の経営統合交渉を再開する意向だと、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が17日、関係者の話として報じた。

両社は13日、昨年末から進めてきた経営統合協議を打ち切ったと発表した。

ロイターより

ホンダとしては、日産に「社長を辞任させて出直せ」と。

日産が間違えたのは、多分、ルノーと組んだ辺りだと思う。エンジン技術は徐々に衰退傾向にはあるのだけれど、ハイパワーエンジンユニットについては日産に太刀打ちできるのはホンダとヤマハくらいである。そちらの分野で頑張るべきだったのではないだろうか。

「いつかは日産の高級車」と、そう言われる路線が良かったのだと思うのだけれど、残念である。

追記

ええと、ホンダのi-DCDが売り出し中なのは知っていたけれども、これ数年前の話で最新の情報ではなかったことをお詫びしたい。

現在は何かというと、e:HEVという方式のようだ。

Honda独創のハイブリッド方式 e:HEV

~~略~~

ハイブリッド方式として一般的には、エンジンで発電しモーターだけで走る「シリーズ方式」と、エンジンが主役でモーターがアシストする「パラレル方式」、そして、エンジンとモーターの両方で走る「シリーズ・パラレル方式」があります。
e:HEVは、モーターが得意とする低・中速ではシリーズ方式と同様にモーターで走り、エンジンが得意とする高速クルージング時はパラレル方式と同様、シンプルにタイヤに直結したエンジンで主に走行。シリーズ方式とパラレル方式、それぞれのよさを活かす、Hondaならではの賢いハイブリッドシステムです。

ホンダのサイトより

日産が技術革新について行けていないという記事を書いたら、自分がついて行けていなかったというオチがついて情けない限りではあるが……、このe:HEVは○○式と表現するのがちょっと難しい。敢えて言うのであれば、パラレル方式だろうか。

高速域ではクラッチ繋いでエンジンで走るらしいが、これはホンダの高回転エンジンあってことってことだろうね。もともと高回転域では弱みのあるモーターは使わないという発想は好感が持てるんだけど、これって遊星ギア使わない代わりにクラッチ使うってことだから、コスト的にはちょっと高くなるのでは?

もちろん、優位性があるからこそ採用したのだろうけれど。

コメント

  1. 山童 より:

    ども。気になってたニュースなので、税理士さんのブログで読んだ後(こちらは日産の組織面、企業文化から観た記事)に、交渉決裂のトリガーとなった日産方式とHONDA方式の違いについて知りたいと思ったところへの記事で、とても助かりました。
    日産が防衛関係の仕事もグループて請け負ってるのは知ってるので、下手に企業売却とかなると技術が敵性国家に渡る可能性ある。30年以上前だかに、高校の同窓が入院して見舞に行ったら、日産の航空宇宙研究所に勤めてたんですよね。それで防衛庁(当時)の依頼で「空力」の解析をしている事を話してた。あー何かミサイルか何かの飛翔体の研究しとるな……と思った。
    まぁ、そこが気になるわけでして。

    • 木霊 木霊 より:

      日産は確か固体燃料ロケットを作ったりしていたはずで、生き残って欲しいと思っております。
      何というか、金になるか分からない技術開発をスポイルしてしまうと、厳しい競争についていけないという話になってしまうわけで、残念至極であります。

  2. 海坊主 より:

    いつも記事を拝見させていただいております。
    記事中のホンダのハイブリッド方式についてですが、i-DCDは一世代前のものになり、現在はe:HEVというシリーズ•パラレル式のものが採用されております。

    • 木霊 木霊 より:

      おおっと、不勉強でした。
      そういえば、去年の年末にホンダのディーラーに行った時に紹介されたのは、そんなシリーズでしたっけ。
      修正させて頂きます。

  3. 七面鳥 より:

    こんにちは。

    昔は「トヨタの80点主義」とか言われましたが、トヨタが凄いのは、80点の技術で100点の製品(≒顧客満足度)を作ってしまうこと。
    ホンダも日産も、100点の技術を持ってても、顧客満足度はシンパ100点(色眼鏡付き)一般60点くらいにしかならなかった。
    90年代までの日産は本当に「技術は」凄かったし、特に今でも人間工学関係は凄いんですが、製品にするときにずっこけるんですよね。
    初代プリメーラは本当に良い車だったのに……二台目でダメになった、こんなんばっか。
    初代インサイトも「よくこんなの造ったな(MTのハイブリッド)」ではあったけど、商品としては「なんだこりゃ」でしたからね(七面鳥的には、いまだに最高のプリウスは初代プリウスです)。
    ハイブリッドも、熱効率と変換効率とその他いろんな効率の良いところ取りのTHSが「最初にして完成」過ぎたのです。欧州とかの高速巡航に弱いと言う弱点はありましたが、高速巡航ならガソリンを高効率領域で回すだけでいい、そもそもハイブリッドいらない。
    e-POWERはいいシステムなんですが、基本、街乗り特化なんですよね。そして、それなら、エンジンも少し小さくして、常時一定回転で、常にキャパシタに充電しておく方が効率がいい。
    確か日産はキャパシタもやってたはずですが、結局モノに出来ませんでしたね。

    そして何より、モータは高速で効率が悪化する。
    BYDなんかも、デカいモータにデカいバッテリで吹け上がってますが、あんなん非効率の極み。
    トヨタは、慎重にその辺りを検証しているようですが。

    とか言いつつ、P910ブルーバードで運転を覚えた七面鳥は、(90年代までの)日産シンパでもありましたので、複雑な思いではあります……

    ※510/910/U12ブルーバードは名車。SSSを称えよ!
    ※ブルーバードという車を日産が見限ったとき、七面鳥は日産を見限りました。

    • 木霊 木霊 より:

      こんばんは。

      トヨタの自動車って「車」としては評価高くないんですが、「移動手段」として考えれば十分に使えるという。
      壊れないし、修理部品豊富だし、とまあ、そんな感じですかね。

      e-POWERは悪くないと思っていますよ。でも、部品点数とか考えるとちょっとキツイかも。価格戦争向きではないですよね。
      e:HEVの方が優位性があることをかんがえても、ホンダは「バカをイウナ」という感じでしょう。

      日産はHVとか追いかけるんじゃなくて、ハイパワー高級路線が良いのだと。まあ、売れないと困るのでしょうけれど。
      ブルーバードは名作でしたね。僕は180SXとか憧れましたが。