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フランス保有の核抑止力を欧州に拡大へ

北欧ニュース
この記事は約10分で読めます。

マクロン氏らしい目立ち方なんだけど、それが可能かどうかはまた別である。

マクロン大統領 “仏保有の核抑止力を欧州に拡大 検討へ”

2025年3月7日 9時06分

フランスのマクロン大統領は5日、ウクライナ情勢をめぐってテレビで演説を行い、ロシアの脅威がヨーロッパに差し迫っているとして、フランスが保有する核兵器による抑止力を、ヨーロッパにも広げることについて、検討を始める考えを明らかにしました。

NHKニュースより

フランスが核兵器を保有していることは有名ではあるが、ではどの程度の能力なのかは余り知られていない。

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大言壮語は実現できるか

世界4番目

公式な数字ではないが、ストックホルム国際平和研究所の報告書から大凡の能力は判明している。

ストックホルム国際平和研究所の報告書によりますと、2024年1月の時点で、フランスが保有する核弾頭の数は290発とみられ、ロシア、アメリカ、中国に次いで4番目に多くなっています。

世界の総数は推計で1万2121発で、ロシアとアメリカの2か国だけで全体のおよそ9割を占め、イギリスも225発を保有しているとしています。

NHKニュース「マクロン大統領 “仏保有の核抑止力を欧州に拡大 検討へ”」より

「世界で4番目」というとスゴイ気はするけれど、列記してみると上位陣とは大きな差がある(2023年版のデータより)

  1. ロシア:保有核弾頭数5,590個(作戦配備数1,674、作戦外貯蔵2,815、退役待ち1,400を含む)
  2. アメリカ:保有核弾頭数5,244個(作戦配備数1,770、作戦外貯蔵1,938、退役待ち1,536を含む)
  3. 支那:保有核弾頭数410個(2024年時点で600個あるとアメリカ国防総省は見ている)
  4. フランス:保有核弾頭数290個(作戦配備数280、作戦外貯蔵10)
  5. イギリス:保有核弾頭数225個(作戦配備数120、作戦外貯蔵105)

トップ2は4桁で、3位の支那は猛烈な勢いで保有核弾頭数を増やしている。

中国、核弾頭600発保有 35年まで急速拡大―米報告書

2024年12月19日08時19分配信

米国防総省は18日、中国の軍事・安全保障分野の動向に関する年次報告書を公表した。中国が核戦力を急速に拡大しているとして、今年半ば時点で運用可能な核弾頭数が600発を超えたと分析した。前年から100発増加した。

報告書はまた、中国の核弾頭数が2030年までに1000発を超え、35年まで急速な拡大を続ける公算だとも予測した。

時事通信より

支那は恐らく今年もこの数を大幅に増やす。軍事費をかなり注ぎ込む予定である事は先日言及したが、その体制は今年も維持する気らしい。

経済状況を考えるとそれが可能かどうかは良く分からないが、恐らくは優先事項であるだろうから推進するんだろうね。

フランスにその能力が?

先日、ドイツがフランスに核共有をお願いするような流れになっている話を出したが、今回のフランスの発言はその延長線上にある話。

ドイツとしては、「フランスの核抑止力をヨーロッパ全体に」という意図がある様で、メルツ氏はそれをイギリスにも求めているようだ。

フランスは、第2次世界大戦後に核兵器の開発を進め、 ▽1960年、当時、フランス領だった北アフリカ アルジェリアのサハラ砂漠で初めての核実験を実施し、南太平洋のフランス領ポリネシアにあるムルロア環礁でも核実験を繰り返しました。

東西冷戦が終結すると削減にかじを切り、 ▽1996年には、核兵器の材料になる核分裂性物質の生産終了を宣言 ▽2008年には、核弾頭の数を東西冷戦時代の半分にあたる300発以下に抑えると表明しました。

また、地上発射型の核ミサイルも廃棄していて、現在保有するのは、潜水艦や航空機から発射するタイプだとしています。

NHKニュース「マクロン大統領 “仏保有の核抑止力を欧州に拡大 検討へ”」より

ただ、フランスは核兵器の材料の生産を終了している(注:公式に生産終了を宣言したという意味)ので、簡単に増やすということは難しい。一方で、290発で足りるのか?という点も気になるところ。何より、地上発射型の核ミサイルの廃棄をしてしまっているので、即応性という意味でやや不安な面がある。

フランスにとってこの手の核兵器を保有し続けることというのは、軍事費を圧迫するので苦しいのだが、或いはその費用の一部をEUに負担させるような狙いがあるのかも知れない。

そして、フランス空軍が保有する戦闘機「ラファール」は102機で、ミラージュ2000D は輸出のために核攻撃能力を削除された機体なので核攻撃機たり得るかは不明。核攻撃を行うのにまさか戦闘機1機だけで飛ばすわけもないので、複数機でエスコートする必要がある。102機のうち1/3が稼働する計算で30機程度がスタンバイしているとして、2機でエスコートするなら同時に10機飛ばす程度の能力しかないことになる。他国の戦闘機でエスコートさせるにせよ、足りないよね。

このように不安な面があるとはいえ、未だ核抑止力を保有し続けている状態なので、有効に利用出来るような画策をするというのは悪いことではないだろう。でも実現できるかは結構不安だ。

それと、ラファールもそろそろ20年選手なので、今後は稼働率も気にしていかねばならない事情もある。まだ若手なんだけどね、戦闘機の世界では。

フランスの潜水艦事情

一方の潜水艦の方はより心配である。

イギリスは潜水艦からの核兵器発射のみを想定しているが、フランスは戦闘機による爆撃の他に潜水艦からの発射という手段を確保していることになっている。

フランスの潜水艦と言えば、オーストラリアの話を思い出す。

豪首相、フランスにうそはついていないと反論 潜水艦開発契約の破棄めぐり

2021年9月20日

オーストラリアのスコット・モリソン首相は19日、アメリカとイギリスと結んだ安全保障の新たな枠組み「AUKUS(オーカス)」のために、フランスとの潜水艦建造契約を破棄した決定を擁護した。

BBCより

オーストラリアの次期潜水艦計画に売り込みをかけて、見事の潜水艦事業を勝ち取ったモノの、それに基づき計画されたアタック級潜水艦計画は頓挫。

アメリカの横槍を受けてAUKUSを実行するために解約されたような報道もなされたが、色々な情報を集めてみるとかなり双方グダグダで、フランス側にもオーストラリア側にも問題はあったようだ。

現在、フランス海軍はリュビ級潜水艦3隻とシュフラン級潜水艦3隻を保有していて、恐らくは同時運用可能なのはこのうち2隻だと思われる。

オーストラリアで計画されたアタック級潜水艦は、シュフラン級潜水艦を通常動力潜水艦に改造する話だったのだけれど、フランス側がなかなか計画を出してこない、一方のオーストラリア側はオーストラリアでの建造に拘り、合意形成が出来なかった状況だったようだ。

さておき、フランス海軍の潜水艦から攻撃する想定の核の傘というのは、ちょっと危うい感じではある。そもそも、核の傘議論は、最前線に戦術核兵器を投下するという考え方なので、攻撃地点の誤差があるのは困る。そういう意味でもちょっと不安な面は大きいんだよね。

そんなわけで、そもそもフランスの核抑止力はアメリカの核抑止力ありきの補間勢力的な位置づけだったからこそ意味があったのであって、アメリカ抜きで本当に成り立つのかは疑問である。イギリスの方は更にその傾向が強い。

そうすると、イギリスとフランスが組んでも、EU全体に核の傘を広げるためにはかなりの投資が必要に思われるんだよね。マクロン氏も当然分かった上でだとは思うのだけれど、「アメリカ抜きで成り立つ」というのは、ね。

防衛力強化で前のめり

先日はこんなニュースも。

ヨーロッパの防衛力強化へ 最大125兆円規模の計画発表 EU

2025年3月5日 6時37分

EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長は4日、ヨーロッパの防衛力を強化するため、最大で8000億ユーロ、日本円にして125兆円規模の資金の投入を目指す計画を発表しました。

NHKニュースより

また、大きく出たな。

125兆円という目標をぶち上げたのは良いんだけど、実際の話し合いとなると他人の財布をあてにする展開になるのは手に取るように分かる。

現状のヨーロッパ諸国の財政事情を考えると、その半額だせるかも怪しい。

具体的には最大1500億ユーロ、日本円にしておよそ23兆円を融資する新たな枠組みを作り、加盟国による兵器の共同調達などを後押しするほか、加盟国に対する財政規律を緩和し、財政赤字の拡大を一定程度、容認することで国防費の増加につなげるなどとしています。

NHKニュース「ヨーロッパの防衛力強化へ」より

財政赤字でなんとか賄うって構想みたいだけれど、いやこれむりでしょう。フランスもそうだけど、ヨーロッパって全体的にそういうところあるよね。欧州の空気感はこんな感じなんだけれども、どんな風に纏まっていくのやら。

追記

本文の話は、マクロン氏や現フランス政府のスタンドプレー的な話か、というとそうでもないようだ。

仏大統領発言 欧州委 元トップ “核の安全保障 必要な場合も”

2025年3月6日 22時52分

EU=ヨーロッパ連合の執行機関、ヨーロッパ委員会のバローゾ元委員長がNHKのインタビューに応じ、フランスのマクロン大統領がフランスの核兵器による抑止力を、ヨーロッパに広げる検討を始める考えを示したことについて「核兵器の使用には反対だが、残念ながら核による安全保障を提供することが必要な場合もある」として、理解を示しました。

NHKニュースより

このバローゾ元委員長というのは、ジョゼ・マヌエル・ドゥラン・バローゾ氏のことで、2004年11月22日から2014年11月1日まで欧州委員会委員長を務めた重鎮である。ポルトガルの第117代首相も務めた人物だね。

そのうえで「誰も核兵器を使いたくはないし決して使われないことを望むが、残念ながら求められれば核による安全保障を提供することが必要な場合もある」としてマクロン大統領の考えに理解を示しました。

NHKニュース「仏大統領発言 欧州委 元トップ “核の安全保障」より

基本スタンスとしては賛成ということらしく、これだけでEU各国が同じ方向を向いていけるとは判断できないのだが、現状は比較的好意的に受け入れられている印象だ。

トランプ氏の言動を鑑みるに、アメリカが「やらない」といったら安全保障体制が崩壊してしまうわけで、EUとしては少しでも安心材料を増やしたいという思惑が透けて見える。

追記2

そうそう、フランス内政の話を少し追記しておこう。

マクロン仏大統領の支持率21%、就任後最低を記録-最新世論調査

2025年1月27日 14:08 JST

フランスのマクロン大統領の支持率が、2017年の就任以降で最も低くなった。仏日曜紙ジュルナル・デュ・ディマンシュの委託で、仏世論研究所(Ifop)が実施した最新の世論調査結果で明らかになった。

Bloombergより

大統領のマクロン氏への支持率低下は続いていて、過去最低になった。

フランス、バイル内閣に対する不信任案を否決-25年予算確保へ

2025年2月6日 3:53 JST

フランスの国民議会(下院)は5日、バイル内閣に対する不信任決議案を否決した。これで数カ月に及ぶ政治的な混乱が収束し、2025年予算の確保にこぎ着けたことになる。

Bloombergより

2025年予算を巡っても、かなり揉めたようで。歳出削減を巡って、政治的な混乱を招いており、黄色いベスト運動の辺りからずっとこんな感じなのである。

ドイツ経済も酷いものだが、フランスもまた経済的に苦しんでる。

低成長に陥るフランス経済、政治的混乱が足かせ-新首相は打開目指す

2024年12月18日 13:28 JST

フランスの政局や財政を巡る手詰まり感で、国内経済は低成長に陥りつつある。就任したばかりのバイル首相には内閣を発足させ、2025年度予算を早期にまとめるよう圧力が強まっている。

ユーロ圏2位の経済規模を誇るフランスの内需は弱く、異例なほど堅調だった輸出による支援も減速し、来年1-3月(第1四半期)と4-6月(第2四半期)の成長率はわずか0.2%増にとどまる見通しだ。同国の統計機関による最新予測が示した。

Bloombergより

オリンピックを開催する国は経済状態が悪化するという俗説があるが、実際のところフランスはパリオリンピックなど開催しているような余裕はなかった。

フランスは技術力も経済力もある国家で、農業も盛んだ。しかし、ヨーロッパ全体の傾向として支那の安い製品に押されて随分と競争力を落とした。そして、手厚い福祉サポートや労働環境を巡る法律と、移民を多数入れたことによる治安悪化などが足を引っ張って情勢が悪化。そういった不安定材料が政治にも影響して、結果的に国際的な市場からの信用を落としている状態である。

こういった複合要因がフランス経済を悪化させ、政治を不安定にしている。マクロン氏はこういった状況に抜本的な対策を打てないでいるのだ。

コメント

  1. 山童 より:

    戦力核ばっか持ってても現実的な抑止力にならない想うけど。小型核弾頭を食らったら戦略核でモスクワ蒸発させるのかね?
    核弾頭の種類と数を計算してこその抑止力で、核弾頭の数だけ書いても意味がない。

    • 木霊 木霊 より:

      フランス保有の核抑止力を、ヨーロッパに広げていくというマクロン氏の発言に注目させて頂きました。

  2. 砂漠の男 より:

    欧州の国防力低下と、米国の欧州批判の間で、ザ・スタンドプレーヤー・フランスが、
    核を使って踊りだしたいまの状況を、各国は本音では嫌がっているんじゃないですか。
    国防の強化と核戦力は、とりあえず別だろうと。
    木霊さんのご指摘のように、フランスがEUのカネで自国の核戦力を維持・整備しようと
    目論んでいる可能性はありそうです。

    • 木霊 木霊 より:

      マクロン氏、随分特選しているみたいですからねぇ、内政で。
      国際的なプレイヤーだってことをアピールしたい感じはしますよね。

  3. 匿名 より:

    この仏の動き(陰謀絡みも或るかもですが)大義名分(タテマエ)は
    米が NATOや国連を脱退しそうなので、米なしでやってく準備ですよね?

    流石の仏も「なり振り構ってられない」ポーズな訳で、、、

    ならば「わーくに」はNATO加盟のチャンスでは?

    仏は(アジア人差別で?)日本のNATO加盟を牽制してましたが、今は付け込むチャンス?

    歴史を遡れば日英同盟も日独伊同盟もロシア牽制でしたし今は仏も拒否しにくい?

    米の今の方針は、グローバル化は止めて、世界は、米・中・露・・・その他、etc、ぐらいのブロック分け、なので

    (数万年スケールの人類生き残り戦略としては正解、でも短期は痛み酷い。出来るのか?(笑)

    「わーくに」は「その他」陣営ですが「安倍さんご存命なら」FOIP推進 ~追加でAUKUSにも加入とか

    がベストの選択肢だったでしょうが 石破では無理。
    転がり込んだチャンスでNATO加盟出来ないかな?

    • 木霊 木霊 より:

      NATOが良いかはわかりませんが、アメリカに頼らない軍事同盟は構築を考えるべきでしょうね。
      とはいえ、FIOPやAUKUSの推進が必要とはいえ、NATOのように何処かが攻撃されたら自動参戦という義務を課すのはアジア圏では難しそうなんですよね。
      頼れる国がいないというのは辛いところ。
      イギリス辺りとの軍事同盟を画策するのはアリかもしれませんが、NATOのような強固な枠には……。
      何れにせよ、憲法改正が必須なんですけれども。

  4. 匿名 より:

    フランスの核戦力
    アルビオン高原に配備されていたICBM退役、元々北京を狙える射程は無い
    SLBMはモスクワを狙った物
    空中発射核ミサイルは戦術核兵器