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マッドマン・セオリーに誘われるアメリカ

北米ニュース
この記事は約11分で読めます。

狂人理論マッドマンセオリー」という言葉がある。アメリカ第37代大統領のリチャード・ニクソン氏の外交政策の要として知られる理論なのだが、トランプ氏はまさにそれを地で行っているようだ。ああ、大変申し訳ないけれど、この記事も書きっぱなしの可能性が高い。

トランプ氏「米国は戻ってきた」、100分間の施政方針演説 混乱も

2025年3月5日午後 3:18

トランプ米大統領は4日夜、上下両院合同会議で施政方針演説を行った。2017年に自ら成立させた減税を延長するよう議会に訴えたほか、4月2日に相互関税を導入する方針を改めて示した。

演説は100分間に及び、アメリカン・プレジデンシー・プロジェクトによれば大統領の議会演説として米近代史上最長となった。

ロイターより

凡そ感動的な演説だったようだが、何処まで行くんだろうね、トランプ氏は。誘ういざな先は何処に?

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マッドマン?トランプ

高関税の代償

マッドマン・セオリーをトランプ氏が意識しているかどうかは不明だが、結果的にはそうなっている。すなわち、アメリカがとる行動が予測不可能であると思わせることに成功している。

おっと、ここで言うマッドマン・セオリーというのは、アメリカ第37代大統領のリチャード・ニクソンの外交戦略のことで、彼は好んでこの外交戦略を使用したと言われている。なお、プーチン氏もそう評されることがあるので、案外その部分で波長が合うのかも知れない。

さておき、トランプ氏の決定で、カナダは対応せざるを得なくなった。

カナダ、米国に報復関税 トルドー首相が発表

2025.03.05 Wed posted at 07:06 JST

カナダは1550億カナダドル(約16兆円)相当の米国製品に対し25%の関税をかける方針を発表した。トルドー首相が4日の記者会見で明らかにした。

CNNより

アメリカがカナダからの輸入製品に対して高関税をかけたため、報復関税としてカナダはアメリカ製品に対して25%の関税をかけることにした。多分、カナダはアメリカがこのような行動をとるとは直前まで考えていなかったのだろう。

特にトルドー氏が首相をやっていたお陰で、カナダの政府もかなり混乱気味であり、アメリカの動きをしっかりと察知できていなかった可能性が高い。

9 主要貿易相手国・地域(2023年)

  • (1)輸出:カナダ、メキシコ、中国、オランダ、日本
  • (2)輸入:メキシコ、カナダ、中国、ドイツ、日本
外務省のサイトより

アメリカの主要貿易相手としては、2023年のデータによれば輸出がカナダ1位、メキシコ2位、支那3位であり、輸入がメキシコ1位、カナダ2位、支那3位である。

一方、カナダはアメリカへの輸出が輸出額の77.1%を占めていて、いきなり関税が引き上げられたことで大打撃を被る可能性が高い。そりゃまあ、「報復を」ということになるだろう。

ただ、アメリカがカナダから輸入しているものは、石油や天然ガスが含まれ、その次に自動車と来る。石油や天然ガスはアメリカ国内でも掘れるのだが、自動車はそうはいかない。

何しろ、カナダから輸入される車は、フォードやGM、テスラやスバルなどが含まれている。というか、生産国はカナダであってもアメリカや日本のメーカーが製造しているんだよね。これは、アメリカとカナダとの自由貿易協定があってこその話。

構図的にはメキシコも同様である。

そうすると、車社会のアメリカでは物価が引き上げられることになる。Amazonのようなネットショップが発達しているアメリカにとっては、かなり大きな影響を及ぼすだろう。送料が引き上げられるって事だからね。

経済理論が理解できない?

トランプ氏は、恐らく経済理論をご存じだとは思う。が、そうであるならば、ここで不景気対策などという話にはならない。そうすると、知ってはいるが気にしないようにしているか、後から挽回する手法を考えているか何れかだろう。

だが、何れにしても短期的に考えるとアメリカのインフレ傾向は高まる。そして、不法移民を絞ることで人手不足は加速するだろう。……因果律は逆かもしれない。人手不足が加速してインフレになると言うべきか。

米ISM非製造業総合指数、2月は上昇 インフレ・関税懸念の声

2025年3月6日午前 6:14

米供給管理協会(ISM)が5日発表した2月の非製造業総合指数は53.5と、前月の52.8から上昇した。価格指数が上昇し、最近みられる工場での原材料価格の急騰と相まって、今後数カ月でインフレが加速する可能性を示唆した。ロイターがまとめたエコノミスト予想は52.6だった。

ロイターより

トランプ氏としては、不法移民を締め出したいだけで移民政策を否定しているわけではないから、この辺り、バランスをどうとるのかは知らないけれども労働力を増やす算段はあるかもしれない。

トランプ氏は民主党のバイデン前大統領を非難し、移民の犯罪者を「野蛮人」と呼び、「トランスジェンダー・イデオロギー」を攻撃。選挙戦中の集会をほうふつとさせた。

ロイター「トランプ氏「米国は戻ってきた」」より

ただし、今のところは前政権を批判するばかりで、具体的にどうやって人手不足を解消していくかは不明である。

単純な経済理論に基づく話で、多くの人がそれを体感しているのだから、具体的な方策が示されない限りは現状打破は難しかろう。

東芝の話

それと、もう1つ懸念がある。

これは今に始まったことはないのだが、アメリカの労働者の質が随分と落ちてしまっているのである。それが分かり易いのが東芝の話だ。

東芝を沈めた原発事業「大誤算」の責任

2017/04/03 9:00

アメリカの原子力事業で7000億円を超える巨額損失を計上し、一気に経営危機に陥った東芝。債務超過を避けるために、すでに売却してしまった東芝メディカルだけではなく、シェアトップのTEC、稼ぎ頭の半導体事業を分社化して株式を切り売りすることなどを模索している。

~~略~~

以前にも指摘したことだが、これは経営能力もないのにキャッシュだけは持っている日本企業が陥りやすい世界化の罠の典型的なパターンである。

President Onlineより

分かり易く失敗した東芝だが、原子力事業はウエスチングハウスの買収をした上で新規原発をアメリカに建設しようという試みをやって失敗した。

そして、巨額の損失を出して経営危機に。

何故そんなことになったかと言えば、アメリカでの新規原子力発電所建設は34年間なかったから。もちろん、東芝の見通しが甘いという理由はあるのだけれど、原発建設の現場で初歩的な技術もない作業者が集まってしまい、碌な工事が出来ずに遅延に遅延を重ね、結局、テキサス州での原発計画から撤退してしまった。

東芝、米テキサス州の原発計画撤退 - 日本経済新聞
東芝は31日、米テキサス州の原子力発電所新設計画から撤退すると発表した。東芝本体で手掛ける改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の海外輸出第1号として2008年に計画に参画したが、進捗が大幅に遅れていた。18年末に撤退を完了する予定。関連で発生す...

お粗末な話ではあるが、今、日本で原子炉を作ろうとしても似たことが起きる。

同じ事をトヨタも体験したし、日本車輌も体験した。トヨタは現地工場建設時にも、工場稼働時にもアメリカ人作業員の質が悪くて教育から始める必要があったことと、サブマリン特許を喰らって訴訟を起こされことなど、非常に苦労していた。日本車輌は受注した車輌製造をアメリカでやったら、まあ酷い状況だったそうで。詳しくは書かないが。

つまり、アメリカに製造工場を作っても、直ぐには利益を見込めないのである。それどころか権利を盾に色々と騒ぐ輩が湧いて出るので、これの対策にも巨額の費用を必要とする。

文化の違いといえばそれまでだが、だからこそここまでアメリカの技術が衰退してしまったと言える。そして、日本も他山の石どころか同じ穴の狢になりつつある。

多分、日本製鉄だって似た苦しみを味わうに違いない。

GAMA実現には時間が必要

というわけで、トランプ氏の夢、「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」を本当に実現するためには、教育から見直さねばならず、教育に携わる教師や教育を受ける子供の親のマインドセットから変える必要がある。

そうすると、10年や20年で実現する話ではなく、100年単位の壮大な計画となってしまうのだろうと、そんな風に思うのである。

「世界最強」誇った米国の造船業と海軍が崩れる…韓国にはチャンス

登録:2024-11-27 06:41 修正:2024-11-27 08:30

「今後10年間で最も重要なのは艦艇の建造スピードを上げることだ」

 今年9月、米下院外交委員会の聴聞会に出席したカート・キャンベル国務副長官は「この25年間、地上軍と特殊部隊に多くの投資をしてきたが、今は海軍の時代だ。造船業を復興させなければならない」と強調した。

 米国覇権の柱である海軍が揺らいでいる。世界最強を誇っていた米国の造船業が徐々に崩壊し、船の建造と修理能力が著しく低下したためだ。米海軍は軍艦の数を増やすどころか、維持も難しくなっている。「グローバル1位」で造船業の崛起を完成した中国は、海軍艦艇の数においてすでに米海軍を上回っている。

ハンギョレより

今や、アメリカの造船業も非常に危うい立場にあって、確かに最先端の技術はそれなりに持っているアメリカだが、レトロな技術は廃れて久しい。

アメリカにとっての太平洋戦争の時に、強大な軍事力を支えたアメリカ造船業は、今や見る影もなく韓国にもあざ笑われる始末である。

なお、支那の造船業はかなり多数の技術者を擁して活気があるが、これを指摘する韓国の実情はかなり危うい。我が国も衰退の一途を辿ってはいるが。

狙いは不法移民流入阻止と

成果も出ている

なお、トランプ氏の妄言ばかり注目されるが、結果的に成果が出ている部分はある。

米国への不法越境者が9割減少、バンス副大統領が成果誇示 テキサス州エルパソを視察

2025/3/6 08:02

バンス米副大統領は5日、メキシコとの国境に近い南部テキサス州エルパソを視察し、米国への不法越境者が劇的に減少しているとして、トランプ政権による国境警備強化の成果を誇示した。ホワイトハウスによると、2月の南部国境での拘束者数は前年同期比約95%減の約8300人だった。

産経新聞より

バイデン氏の甘い政策による「旨い汁」が吸えなくなることが伝わった結果、不法越境者が激減したというのである。

こういう分かり易い成果はイイヨね。

そういえば、バンス氏。過去にはこんなことも言っていたな……。

ロシアの態度次第ではウクライナに米軍派遣も バンス副大統領、米紙インタビューに

2025/2/14 23:36

バンス米副大統領は、ウォールストリート・ジャーナル紙が14日報じたインタビューで、ロシアがウクライナとの和平交渉に誠実に応じなければ、米軍をウクライナに送る選択肢もあると述べた。ヘグセス国防長官は派遣を否定したが、よりロシアに厳しい姿勢を見せた。

バンス氏は、米政府が使う影響力として「経済的手段と、もちろん軍事的手段もある」と強調した。ロシアにさらなる経済制裁を科す可能性も示した。

産経新聞より

マッドマン・セオリーはこの人にもしっかり根付いているのかもしれない。

というか、トランプ氏の狙いが移民阻止であって貿易に関する混乱は二の次だということであれば、不法移民が減った事での副次的効果が出てくる頃に、再び何か手をうつかもしれない。前トランプ政権でも、不法移民問題を主眼において取り組んでいたから、ある意味分かり易いといえば。

ただ、自国経済をある程度犠牲にしてでもやるというのが、信じられないだけで。

強力なマインドは国家の推進力となる

そして、トランプ氏の信念を現段階で否定する積もりはない。

トランプ米大統領とTSMCが米国史上最大の外国直接投資を発表

2025年03月04日

米国のドナルド・トランプ大統領と半導体ファウンドリー(受託製造)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は3月3日、アリゾナ州における先端半導体製造事業に対して1,000億ドルの追加投資を行うことを発表した。同発表によると、これは米国史上最大の外国直接投資となる。

JETROより

強いリーダーの下には多くの投資が集まり、そして、無理を通した結果、技術も蓄積される。

トランプ政権によるカナダ・メキシコ・中国製品への関税により、アボカドから自動車まで、あらゆる品目の価格が上昇すると予想される。

ロイター「米ISM非製造業総合指数」より

短期的には苦しみを伴うだろうが、10年、20年のスパンで努力を続ける事ができれば、恐らくはその分の蓄積ができる。

労働力の流動性の高いアメリカに、効率的な技術の蓄積が実現するかは不明だが、しかし、努力なくしてその先に得られる成果はない。

その前に解体されてしまわなければ、だが。僕自身は、トランプ氏の狂人っぷりにアメリカ国民がついていけなくなるのが概ね1年程度。あとはレームダックになって政治が前に進まないようなことになるリスクが高まりそうだ。なお我が国も……。

ただ、予想を常に裏切っているのが、今のトランプ氏の在り方なので、良くも悪くもブレイクスルーに繋がる可能性は否定できない。分かり易い成果を出し続けることができれば、トランプ氏の言動ではなく結果を評価するのが、合理的なアメリカ人である。

残念ながら、ブログを書く側からすると予測するのが極めて困難なので、困ったものなのだが。

追記

トランプ劇場はなかなか興味深いな。

米報道官 “メキシコ カナダからの自動車への関税 1か月延期”

2025年3月6日 13時52分

アメリカのホワイトハウスは4日に発動したカナダとメキシコからの輸入品に課す25%の関税のうち、自動車については、自動車メーカーからの要請を受け、1か月間、対象から除外すると発表しました。

NHKニュースより

ああー、心配した部分は当然手当てはするんだ。

そして、この決断はトランプ大統領がフォードやGM=ゼネラル・モーターズなど自動車メーカー3社から要請を受けた結果だと説明し、「相互関税は4月2日に発動するが、自動車メーカーが経済的な不利益に直面しないよう大統領が1か月の除外期間を与えた」と述べました。

NHKニュース「米報道官 “メキシコ カナダからの自動車への関税」より

そりゃ、GMやフォードは文句を言うよね。

それにしても、トランプ氏の政策というのは大雑把に「バーン」と多きなことを打ち出しておいて、後から細かい部分を修正する手法をとることが多いね。分かり易いと言えば分かり易いかもしれないのだが、関係者は振り回されて大変そうだ。

コメント

  1. 七面鳥 より:

    こんにちは。

    マッドマン・セオリーと聞いて、一昨日にチラ見したXの投稿を思い出しました。
    https://x.com/mania_3/status/1897300757961171079
    ※一読の価値はあります。

    アメリカの工業関係の宿痾は、今に始まったものではありません……けど、造船とか、軍艦の整備も新造もおぼつかないのは本当に困ったものです。
    船だけじゃなくて飛行機もですが……現場もそうだけど、国防総省の決めた手順がもうダメダメでどうにもならない(書類通すだけで無駄な時間と金が費やされる)のだと、少し前の航空万能論GFさんの所で読みましたが、本当にどこかで、いろんなもののグレートリセットが必要なんですね、アメリカも、日本も。
    https://grandfleet.info/us-related/hudson-labs-burn-down-and-dismantle-the-department-of-defenses-weapons-development-process/

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。

      なるほど、ビジネスマンとしてはアメリカの経済状態をもう少しマシな状態にしたいという風に思っても不思議はありませんね。
      そして、お金を注ぎ込んでいる部分をバッサバッサと切っているという見方をするのであれば、ウクライナでの戦争を続けるためにお金を使うのは無駄でしかない。なんとか無理矢理でも停戦をもぎ取りたいと。そのためにウクライナを悪者にして、プーチン氏の呑める最低ラインまで譲歩させるなんてことはあるのでしょう。
      しかしまあ、それはそれとして経済の根幹たる技術力が痩せ細っているアメリカの現状はかなり酷い。日本もそうなりつつあるだけに、やはりその方向を向いていてはいけないと思いました。

      • 七面鳥 より:

        >経済の根幹たる技術力が痩せ細っているアメリカ

        これ、旧世紀からの負の遺産なんですよね……

        七面鳥のとこの親会社は、GMに救済してもらった過去があるので、あまり酷い事言いたくはないですが……日本がバブル後遺症に苦しんでいた頃、アメリカはM&A大はやりで猫も杓子も買収して、その結果として株価は上がったけど技術が消えてしまった、ので、数年後から凋落が始まった、とおおざっぱに理解してます……
        ※四半期毎の業績と株価にしか投資家(≒ウォール街)の興味がなくて、地味で業績に表れない(何なら赤字要因)の長期的技術開発は全く見向き去れなかった……あれ?これって日産の事じゃ……

        • 木霊 木霊 より:

          > 日本がバブル後遺症に苦しんでいた頃、アメリカはM&A大はやりで猫も杓子も買収して、その結果として株価は上がったけど技術が消えてしまった

          そうでしたか。
          日本も技術を大切にしないと、二の舞になりそうですね。
          「技術大国ニッポン」というフレーズはいつの間にか使われなくなりましたが、製造技術を蔑ろにするのは悪手ですよね。