三菱重工が受注に失敗したアレの関係の話だ。
ついに完成! 北欧生まれの自衛隊向け戦闘車両 現地大使館が画像を公開
2025.02.25
在フィンランド日本国大使館は2025年2月上旬、陸上自衛隊に導入されるパトリア社の装輪装甲車AMV(8×8)の初号車が完成し日本に出荷される機会に、工場を訪問、視察したとして、その様子を画像とともに公開しました。
乗り物ニュースより
スケジュール、どうなっているんだろうか。車両は完成したみたいだけれども。
実績は重要
96式装輪装甲車
あまり触れたことはなかったが、装輪装甲車の需要は世界を見てもそこそこあるようで。ウクライナ戦争が始まってからは装軌装甲車の需要も見直されているが、それでも日本国内で使うことを考えると装輪装甲車の方が素早い展開が期待できるという点で優れていると言える。
ただし装輪装甲車は悪路走破性に問題があるので、全部が置き換わるというものではないだろう。
そうそう、装輪車両関連で最近配備が進んでいるのがこちら。
16式機動戦闘車両である。

詳しい説明はしないが、10式戦車と同じコンセプトで作った砲塔を備えた装輪装甲車であり、戦車とは違うんだよね。
で、96式装輪装甲車の後継機を選定する時に、三菱重工はこの16式機動戦闘車両と同じファミリーでの装輪装甲車を提案していたんだ。

この96式装輪装甲車は小松製作所が開発した車両なんだけれども、イラク派兵の際に問題になった耐地雷性能やIED防御能力に難があった。
耐地雷性能
これにはこんな経緯がある。
自衛隊に駆けつけ警護できる戦闘能力はない その4防御力編 後編
2016/11/13
陸上自衛隊は情報、火力、防御力すべての面でとても先進国の軍隊とはいえないお寒いレベルである。率直に申し上げてトルコは勿論、中国以下である。このため駆けつけで激烈な戦闘を行った場合、他国の何倍も戦死者や四肢を失う隊員が発生するだろう。
~~略~~
そして耐地雷性能が殆ど考慮されていない。特に96式は車体下部構造が凹型なので、むしろ地雷の威力を強めてしまう。しかも近年の装甲車では常識の触雷の衝撃を緩和するフローティングシートや四点式シートベルト、衝撃吸収用の床材なども使用されていない。このため対戦車地雷を踏むとほぼ確実に大損害を出す。
Japan In-depthより
キヨタニ記事を引用するのは業腹なのだが、しかし問題視された点を明確に言及している点では優れている。
イラク派兵するにあたって、持ち込んだ車両が余りに脆弱だったことが問題になった。
実際、アメリカ軍もMRAP(Mine Resistant Ambush Protected)の配備にあたって耐地雷性能やIED防御能力に気を遣った。PG-31装輪装甲車などはMRAPの一種で、まあゴツイ。
RG-33装輪装甲車はもっとゴツイけれども。


ただ、やり過ぎて重く高価になってしまった点は否めない。
小松製作所は離脱
では、96式装輪装甲車の後継機をどうするのか?といった時に、96式装輪装甲車改が提案されたのだけれども、その案は潰えた。
コマツが装甲車輌から引かざるを得ない理由
2019/03/03 11:00
世界2位の建機メーカーで、自衛隊向けに砲弾や装甲車輌を生産してきたコマツが、装甲車輌の開発、生産から事実上撤退する。新規開発は行わないが、既存の装甲車輌の保守だけは一定期間行う旨をコマツ広報担当者は説明している。
~~略~~
さらに現用の陸自の96式装甲車の後継となるべき8輪装甲車、「装輪装甲車(改)」の調達も頓挫した。これは三菱重工業との競作となり、コマツが試作を受注したものだった。だが防衛省は昨年7月27日、「装輪装甲車(改)」の開発事業の中止を発表した。コマツが、同省の求める耐弾性能を満たす車輌を造れなかったためとされている。だが関係者によると機動力などを含めてかなり問題があったようだ。
東洋経済より
まーたキヨタニ記事引用で申し訳ないんだが、「小松製作所の技術力不足」が指摘されている。
が、僕に言わせれば、どちらかというと防衛省の腰が定まらなかったのが原因で、そもそも防弾性能や耐地雷性能を求めたところで、小松製作所にはそのノウハウがないのだから出来るはずもない。技術云々の世界とは違う部分、つまり防弾性能試験や耐地雷性能試験を行うことが困難だという事情と、開発費がショボかった(国が金を出さなかった)という事情があるので、やむを得ない判断だろうと思っている。とてもじゃないが、利益の出ない防衛省案件で更に開発費を積み増しするのは、民間企業として看過できないのである。
で、三菱重工は16式機動戦闘車両の技術流用を提案していたという話になるんだけど、こちらも効率の観点からすればファミリー化を推し進めるべきだった。でも、そもそも自衛隊員の命を守れなければ本末転倒であり、そういう意味でパトリアAMVの勝利は当然というか穏当というか。
隣国でも装輪装甲車開発が活発
なお、先に装輪装甲車の開発に成功して輸出も決めてホルホルしているのが韓国である。
残念ながら、K808「白虎」の能力については良く分からない。いや、兵員10名を収容でき乗務員2名で運用することや、全溶接装甲車体を持ち、小火器の射撃や砲弾の破片から車体を守り、追加装甲も装備できる。また、NBC防護システムの装備もなされているとか、そんな話は書かれているのだけれど、耐地雷性能やIED防御能力があるのかが不明。
ああ、水陸両用仕様にはなっているようだね。
国内製造も予定される
さて、隣国の話はさておき。
2023年8月末には開発元のパトリア社と日本製鋼所のあいだで、AMV(8×8)に関するライセンス生産契約が締結されており、数年後には日本国内で製造されたAMV(8×8)も陸上自衛隊に引き渡される予定です。
乗り物ニュース「ついに完成! 北欧生まれの自衛隊向け戦闘車両」より
パトリアAMVは、日本国内でも日本製鋼所でも製造が開始される予定になっている。
どうして日本製鋼所が選ばれたのかは経緯が良く分からないが、日本製鋼所は10式戦車の主砲の製造を含め、61式戦車以降の戦車の主砲の製造を行っている。その他、19式装輪自走りゅう弾砲やミサイル発射装置の製造をするなど、防衛産業にはそれなりに関わっている。
とはいえ、19式装輪自走りゅう弾砲の製造は、ラインメタル社(Rheinmetall MAN Military Vehicles社)から軍用トラックを輸入して、砲を架装する方式を採用しているので、車両そのものを製造する能力があるのか?という疑問はある。この会社、鉄道車両や台車は作っているみたいだけれどね。

だから、車体は作ってエンジンなんかは輸入するんじゃないかなと、そう思うのだけれど。最終的には国産化して欲しいところ。
コメント
こんにちは。
装輪装甲車、世界の趨勢は「パッと駆けつけてパッと撤収」になりつつありますから、機動性は重要ですよね。
そこで、今までは水平方向の耐弾だけ考えてれば(何なら正面と防盾だけ)よかったのに、イラクで下から@地雷、ウクライナで上から@ドローン、と、性能とトレードオフで装甲薄くしていたところを突かれまくっているので、開発側は(用兵側も)大変だろうなと。
適材適所で海外製品を入れるのは基本、是と考えます。16式のファミリー化も、計画は死んでは居ないのでしたっけ?自走臼砲みたいなのが計画されていたような。
https://ja.wikipedia.org/wiki/24%E5%BC%8F%E8%A3%85%E8%BC%AA%E8%A3%85%E7%94%B2%E6%88%A6%E9%97%98%E8%BB%8A
とにかく、ウクライナの戦訓も取り入れて(特にドローン対策)、国防をおろそかにして欲しくないと切に願います。
こんにちは。
そう、機動性はとても重要で、特に我が国は縦に長いので。
そして、16式のファミリー化は結構期待していただけに、ちょっと残念です。ですが、24式装輪装甲戦闘車なんて計画があったんですねぇ……。
あれ?このブログで触った可能性が。
https://trafficnews.jp/post/134692
ええと……。
https://www.kodama-yomoyama.com/20240908-1/
あ、これですな。
詳しい情報は出ていないので、今後に期待したいところではありますが。