この事件、有罪判決が出たか。
中国企業に技術を漏洩、産総研元研究員に有罪判決 被告は無罪主張
2025年2月25日 13時39分(2025年2月25日 17時18分更新)
国立の研究機関「産業技術総合研究所」(茨城県つくば市など)の研究データを中国企業に漏らしたとして、不正競争防止法違反(営業秘密の開示)の罪に問われた産総研の元主任研究員、権恒道(チュエンホンダオ)被告(61)に対し、東京地裁(馬場嘉郎裁判長)は25日、懲役2年6カ月執行猶予4年、罰金200万円(求刑懲役2年6カ月、罰金200万円)とする判決を言い渡した。
朝日新聞より
東京地裁としては、最大限、やれることはやったのだろう。今までこの手の事件は放置されがちだったし、デンソー情報漏洩事件(2007年3月頃)と思えば多少はマシになった。
不正競争防止法で裁くのが適切なのか
不正競争防止法の規定
この判決に関して「刑量が軽い」と感じる人が多かったようだが、本件はスパイ事件として処理されたのではなくて、あくまでも「営業秘密漏洩」という不正競争防止法の規定に基づいて裁かれている。
決によると、被告は2018年4月、産総研のフッ素化合物に関するデータを中国企業側にメールで漏らした。この企業は被告の妻が主な株主だった。
弁護側はデータについて、不正競争防止法が保護する「営業秘密」の要件を満たさないなどとして無罪を主張していたが、判決は「同様の研究成果は一般に知られておらず営業秘密にあたる」と判断した。そのうえで「中国企業がフッ素化合物を量産することで利益を図ろうとした身勝手な犯行」と指摘。「外国企業が適切な対価を払わずに成果を得ており、公正な競争を阻害する」とした。
朝日新聞「中国企業に技術を漏洩、産総研元研究員に有罪判決」より
構図的には、支那企業は全て支那共産党の息のかかった組織であって、言わば国家的犯罪に荷担した事件であるとみるべきである。
しかし、裁判所では不正競争防止法違反という観点で争われた。
第二十一条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
~~略~~
二 詐欺等行為又は管理侵害行為により取得した営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、使用し、又は開示したとき。
~~略~~
3 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 一 不正の目的をもって第二条第一項第一号又は第二十号に掲げる不正競争を行ったとき。
~~略~~
4 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 日本国外において使用する目的で、第一項第一号の罪を犯したとき。
e-Govより
恐らくは不正競争防止法の第21条あたりが問題とされたと思うが、何れも「懲役若しくは罰金」という規定になっていて、「懲役2年6カ月執行猶予4年、罰金200万円」となると、何らかの規定が併科された可能性が高そうだ。
スパイ行為としては重大だが
今回の件は、「フッ素化合物を量産することで利益を図ろうとした」とあり、おそらくは純度の高いフッ素化合物の製造方法を盗み出したというケースだろう。
中国企業に「フッ素化合物」情報漏えいか、逮捕の産総研研究員は「国防7校」兼任時期も
2023/06/16 05:00
国立研究開発法人「産業技術総合研究所」(茨城県つくば市、産総研)で行った研究の成果を中国企業に漏えいしたとして、警視庁公安部は15日、産総研の主任研究員で、中国籍の権恒道容疑者(59)(つくば市)を不正競争防止法違反(営業秘密の開示)容疑で逮捕した。公安部は、漏えいされた技術情報が中国企業に利用された可能性があるとみて解明を進める。
~~略~~
捜査関係者によると、中国企業は化学製品製造会社で、日本国内にも代理店を置いている。漏えいされた情報は、フッ素化合物の合成に関わる先端技術で、変圧器などに使われる「絶縁ガス」の製造に用いられ、地球温暖化対策にも有効性があるという。
讀賣新聞より
そして、研究機関から秘密が漏洩したというケースであるために、不正競争防止法の観点からはその損害を判断できないだろうと思われる。つまり、今回のケースは「国家的損失」という話で損害が認定されたのではなく、産業技術総合研究所から盗まれた秘密が開示されたときに生じうる研究所としての損害という認定になっているのだ。
「営業秘密の開示」と言われても、産業技術総合研究は営業していないので発生する損害は軽微になる。それが、「求刑懲役2年6カ月、罰金200万円」ということなのである。
執行猶予4年というのはかなり甘い判決と言わざるを得ないけれども、それでも刑量は求刑通りということなので検察側の主張は最大限汲んだということなんだろう。
しかし、国家的損失という意味ではかなり大きな損害を算定する必要がある。例えば、日本から輸出されるはずだったフッ素化合物が支那国内で製造される結果、輸出されなくなるということになれば、遺失利益は膨大になることも有り得る。
つまり、本件は不正競争防止法の範疇には収まらない話で、そういう意味でもスパイ防止法というものは整備しておかないと国家的損失を防げないということになる。外国による産業スパイ事案に関しては、別建てで法律を作るべきだと思うのだけれど。
コメント
こんにちは。
スパイ防止法、必要ですよね。
「反対する奴はスパイだ。反対しない奴は訓練されたスパイだ」
くらいの気持ちで行かないと。
※訓練されたスパイ≒スリーパ、と同義かと。
こんにちは。
現行法制ではカバーしきれない部分は大いにあるのですよ。
不正競争防止法や外為法を改正して、ある程度はカバー出来てはいますが、そもそも「国家的な損失」という観点で裁けない以上は、そこをカバーする法制度を作るより他ないのです。恣意的に用いられるから危険という話もある程度は理解しますが、現状は法でカバーしていない部分を狙い撃ちされているのです。
国益のためにスパイの排除をする法律は、必要ですよ。「運用でカバー」という層もいますが、それが出来ていないからこその法制化なんですから。