近況は「お知らせ」に紹介するようにしました。
スポンサーリンク

トランプ流交渉術に乗ったゼレンスキー氏

ウクライナニュース
この記事は約10分で読めます。

なるほど、と思った言説があったので紹介しておこう。

ゼレンスキー大統領「平和実現するなら大統領を辞任する用意」

2025年2月24日 5時20分

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から3年になるのを前にウクライナのゼレンスキー大統領は23日、記者会見を開き「ウクライナの平和が実現するなら大統領を辞任する用意がある」と述べ、みずからの進退をかけてウクライナに平和をもたらす覚悟があるという考えを示しました。

NHKニュースより

前回も触れたが、トランプ氏の不可解な言説が国際社会を混乱させているといった話がある。引用したゼレンスキー氏の発言を踏まえ、トランプ氏の狙いに関して少し言及しておきたい。

スポンサーリンク

交渉は進むのか

交渉のステージ

最初にお断りしておくが、僕自身はトランプ氏の言動について賛同はしていない。ただ、「結果が出るなら容認」とは思っている。

前回の記事では、トランプ氏が執拗にウクライナを攻撃する姿勢を示し、ヨーロッパを刺激しているのだという話を紹介した。

それが良いことか悪いことかは分からないが、このトランプ氏の言説が膠着した状況を動かす起爆際として作用していると感じている。

ウクライナ議長“鉱物資源協議めぐり米との協定締結へ本格化”

2025年2月22日 19時39分

ウクライナの議会にあたる最高会議のステファンチュク議長は、NHKの取材に対し、アメリカのトランプ政権との鉱物資源や安全の保証に関する協議をめぐり、ウクライナ政府は、協定の締結に向けて週明けから作業を本格化させると明らかにしました。

NHKニュースより

実際に、ウクライナも「交渉相手が登場した」という状況となったので、なんとかアメリカとの交渉を試みている。

この状況について、小泉悠氏が「トランプは、ウクライナでの戦争を政治の場に取り戻そうとしている」「戦場ではなく、政治で物事を解決しようと試みている」という風に説明して腑に落ちた。

確かに、ウクライナ侵略戦争が、ウクライナ軍対ロシア軍という構図で、戦力だけで決着を付けようという状況が続き、開始からもう3年も経過してしまった。その間、ウクライナとロシアとは交渉の場にすらつけてはいなかった。

それを別のステージに導こうとしているのが、トランプ氏なのである(注:良いとは言っていない)。

大国の論理

ロシアがウクライナとの交渉を行わなかった理由は簡単で、部分的にでも侵略が成功しているからに他ならない。

ロシアは表面上は有利をとっているので、「折れるのはウクライナ」で、「ロシアの総取り」が正しいと信じているのだ。

だからこそ、こちらの記事で紹介したロシアの戦争終了の条件というのが掲げられているわけだ。

  1. ウクライナの軍事力削減
  2. NATO加盟をウクライナが正式にあきらめること
  3. ウクライナ民族主義などの禁止
  4. ロシアが部分的に占領している4つの地域(ドネツク、ルハンスク、ヘルソン、ザポリッジャ各州)から、ウクライナ軍が撤退すること(ロシアの主権承認)
  5. ゼレンスキー氏の大統領辞任(新たな大統領選挙の実施)
  6. 対ロシア制裁の終了

なるほど、「国同士であれば、同一の立場で交渉できる」というような妄想を掲げる方には理解し難いロジックではあるが、「そもそも立場が違うのだ」ということを前提にすれば、ロシア側の主張の意図は理解できる。

ところが、ウクライナとしては当然ながら乗れる話ではない。特に3年も国力を消費して戦ってきて、ロシア側の言い分丸呑みというのは、「何のために戦ってきたのか」という話になってしまう。

しかし、いつまでも戦争を続けられないのも事実である。だから、ウクライナとしての勝利条件をどこに設定するのか?というシーンになってきてはいる。

戦争被害の規模

第二次世界大戦における犠牲者数は、全体で5,000万~8,000万人だといわれている。

一方で、ウクライナ侵略戦争での被害者はハッキリはしていないが、以下のような報道がある。

ヒト、モノ、カネを総動員 露・ウクライナの死傷者100万人突破か 侵略3年

2025/2/24 09:00

ロシアによるウクライナ侵略は24日、開始から3年を迎えた。戦闘は長期化し、両国の消耗戦と化している。両政府や英国政府の発表を総合すると、昨年末時点で両国の死傷者数は100万人を大きく超えた。戦況に決定的な変化はないが、ウクライナの支配域はじりじりと縮小しているのが現状だ。

産経新聞より

両国が公式に認めた数字というのはかなり過小報告されているが、それでもこんな感じの数字である。

ウクライナ兵の戦死者「4万3000人」 ゼレンスキー大統領が公表

2024年12月11日

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアによる全面侵攻が始まって以来、約4万3000人のウクライナ兵が死亡したと述べた。同大統領が犠牲者数の実態について認めたのはまれ。

BBCより

“ロシア軍兵士 死者数は9万5000人以上” 英BBC独自調査を報道

2025年2月22日 5時55分

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから3年近くで、これまでに確認されたロシア軍兵士の死者数は9万5000人以上に上ると、イギリスのBBCが独自の調査に基づき報じました。

NHKニュースより

士気に関わる問題にもなるため、ウクライナもロシアも公式に発表した死者数はかなり少なめに見積もっていると思われている。

よって、産経新聞の使っている両国合わせて死傷者が100万人を突破、というのと、死者数についてロシア側の兵士死者数は、14万人から最大で21万1000人以上、ウクライナ側の兵士死傷者数は、10万人を超えているという数字が、割と信頼のおける数字ではないかと。

なお、この数字には民間人被害者を含まず、行方不明者もカウントしていないようだ。悲惨な数字である。

一方、第2次世界大戦の時にソ連としては1,070万人の軍人と1,590万人の民間人被害者を出している。2,660万人もの損害を出して「戦争に勝利した」という認識である。

大東亜戦争における日本の死者は320万人程度という数字があるので、ソ連が如何に被害を出して「勝利」を勝ち取ったかという話である。本当にそれが勝利と呼べるのか?という疑問はあれど、ロシア人達は「多大な犠牲を出して勝った」と信じている。

おそらくはプーチン氏が「祖国のために」を掲げて戦う認識の裏側には、第2次世界大戦の被害者数を織り込んでいるのではないか。そうだとすると、何とも恐ろしい話である。

ゼレンスキー氏の提案

さて、そういう状況で、ロシアは交渉に乗らない。ウクライナとしてはこれ以上続けられないのだけれども、祖国の領土を奪われた状況を甘受するというのであれば、戦争を続けた意味がない。

そこで、ゼレンスキー氏が「切ることの出来るカード」を提示したというのが、冒頭のニュースである。

今月24日でロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから3年となるのを前にウクライナのゼレンスキー大統領は23日、首都キーウで記者会見を開きました。

この中でウクライナでの大統領選挙の実施の必要性について聞かれ「ウクライナの平和が実現するなら大統領を辞任する用意がある」と述べました。

その上で辞任と引き換えにNATO=北大西洋条約機構への加盟が実現するなら進んで辞めるとして、みずからの進退をかけてウクライナに平和をもたらす覚悟があるという考えを示しました。

NHKニュース「ゼレンスキー大統領「平和実現するなら大統領を辞任する用意」」より

この交渉カードがどう作用するかは分からないが、おそらくはウクライナ国内にはかなり響くと思われる。

トランプ氏は、ゼレンスキー氏が交渉相手であるという風には認識していない節があり、これはロシアの認識に沿ったものであろう。

ステファンチュク議長は、協定締結に向けて建設的な議論を重ねていくとしたうえで「ウクライナはできるだけ早く会談を実現させたい」と述べ、ゼレンスキー大統領とトランプ大統領による首脳会談の早期実現に期待を示しました。

一方、トランプ政権が実施する必要性に言及しているウクライナの大統領選挙について「ウクライナの法律には戒厳令の間は選挙を実施できないと明記されている。兵役についている人はどうやって参加するのか」と述べ、ロシアによる侵攻が続く中で、公正な選挙を行うのは不可能だと指摘しました。

NHKニュース「ウクライナ議長“鉱物資源協議めぐり米との協定締結へ本格化”」より

ただ、戦時下のウクライナで選挙を行うというのは現実的ではなく、少なくとも停戦して戦場に出ている兵士達も投票できるような状況を作り上げる必要がある。

また、交渉材料となっている鉱物資源の権益の部分でも、ウクライナはアメリカに譲歩するスタンスを見せている。流石に丸呑みは出来ないだろうが。

また、鉱物資源の権益をめぐるアメリカとの協議については「アメリカから最初に示された案には安全の保証は含まれていなかった」と指摘しました。

そして「経済協定が安全の保証の一部であるのなら自国の企業の利益が関わるウクライナになぜアメリカ軍の部隊を派遣できないのかとアメリカに聞いたが、まだ返答はない」と述べ、鉱物資源の権益をめぐっては安全の保証をあわせて協議することが欠かせないという考えを改めて強調しました。

NHKニュース「ゼレンスキー大統領「平和実現するなら大統領を辞任する用意」」より

ウクライナはアメリカと交渉しようとしていて、アメリカはロシアと交渉をしている。

ロシアにとってウクライナは交渉相手とは見ていないのだから、この構図はある意味仕方のない面はあるのだが、大国の論理を振りかざすアメリカやロシアを相手に、ウクライナがどこまで条件闘争で有利をとれるのか?というシーンを迎えている。

ただ、どこでウクライナが折れるのか?という話でもあるので、交渉が決裂する未来もあるんだよね。そうはなって欲しくないけれども。

現状、ロシアのプーチン氏は未だ戦争を続けられると思っている。トランプ氏としては一刻も早く停戦してもらって、アメリカが支援を注ぎ込み続けるという不毛な状態を止めたいと考えている。ウクライナのゼレンスキー氏としては、なるべく良い条件を勝ち取って戦争終結に漕ぎ着けたい。その最低条件は、ウクライナのNATO加盟であるという感じの条件提示になっている。

プーチン氏はウクライナのNATO加盟には絶対反対するだろうから、ここでどうやって条件のすりあわせを出来るのか?というのが当面の課題なんだろうね。

追記

ダメだ!

ちょっとは交渉の余地が生まれたかと思ったんだけど、そんなことは全然なかった。もはや、交渉の余地があるとは思えない。

ロシア大統領府、ウクライナ東部「放棄せず」 プーチン氏「神が望んだ」と侵攻正当化

2025年2月24日 12:27

ロシア大統領府(クレムリン)は23日、ウラジーミル・プーチン大統領とドナルド・トランプ米大統領という2人の「非凡な」大統領の電話会談について、「有望」なものだったと評価した。一方で、ウクライナ東部で奪取した領土は「決して」放棄しないと強調した。

AFPより

大統領から電波発信である。もはや、交渉相手としては見ることは出来ないだろう。流石、主席エクソシストだな。

ウクライナ侵攻開始から3年を迎える24日を翌日に控え、プーチン氏は、ウクライナ紛争で戦う兵士や退役軍人に向け、「いわば運命がそう望み、神がそう望んだのだ。われわれと君たちの肩には、名誉あると同時に困難な使命、すなわちロシアを守るという使命が託されている」とし、「きょう、兵士たちは命の危険を顧みず、勇敢に祖国と国益、そしてロシアの未来を断固として守っている」と訴えた。

AFP「ロシア大統領府、ウクライナ東部「放棄せず」」より

残念ながら僕は神を理由に持ち出すヤツを信用しない。交渉にならないからだ。

同氏は侵攻開始後に、ウクライナ東部のロシア支配地域で親ロシア派が実施したロシア編入の是非を問う住民投票を指し、「人々はずっと前から、ロシアに加わることを決めている」と主張。「これらの領土を売り払うことは決してない。それが最も重要なことだ」と語った。

AFP「ロシア大統領府、ウクライナ東部「放棄せず」」より

その割には「住民投票」を持ち出しているけれどね。和平のために、領土の譲歩を拒否するというのだから、このままの状況を維持する積もりなのだろう。「侵攻」が「信仰の問題」と言われたら、信者ではないところからの口出しは許されないということになる。

交渉とか、そういう段階ではなくなってしまったね。

コメント

  1. 山童 より:

    ゼレンスキーの辞任とNATO加盟の交換条件? 奴の首のどこにそんな価値が?
    傀儡の首なんか誰も欲しがらないでしょ?
    国内にゃ響くかも知れないが、ロシアも米国もウクライナなんか相手にしてないし。
    しかし米国抜きで解決する能力はEUにない。無い以上、彼の進退なぞ無価値なんですね。

    • 木霊 木霊 より:

      ロシアにとって、ゼレンスキー氏の首に価値はないのでしょうね。
      しかし、アメリカにとっては正当な民主的手続きを経て選ばれた大統領で、選挙を延期している理由についても法律で規定があります。その上で、進退について言及したわけですから、トランプ氏の意図がどうあろうと交渉相手としては正当な相手です。少なくとも無視はできないし、アメリカに利益をもたらす可能性のある相手であればそれなりの対応が必要でしょう。糾弾すべき相手ではなくなったのですから。もちろん、欧州へのアピールにもなりますし。
      数少ないカードの中では、悪くないカードを切ったと思いますよ。

      ウクライナに米軍が駐留する展開が最善なのでしょうけれど、どうなることやら。

      • 山童 より:

        ロシアにとってでなく西欧にとっててすけれども。だってNATO加盟させりゃ、ロシアが再侵した時に、自動的に戦争に巻き込まれる訳です!
        そうまで保証する程の価値がゼレンスキー1人の首(大統領の地位)ごときにあるんですか??
        ゼレンスキーが考えてるのは、他人に戦争リスクに巻き込んで、自国と自分の生命を護ろうしてるたけですね?
        それに「普遍的な価値観」を持ち出してウクライナがとうこう言うのは、
        ありもしない値札に高額をつけてるとしか思えませんが。
        正統かどうかを言われましたが、正統なら勝つのなら、とっくに戦争は終わってますよ。そして「正統な者が勝たねばならない」と言うのは普遍法則てはなく、願望でせう??

  2. 山童 より:

    追記)
    ネタニヤフがガザの事を話してるのかと思った😂

    まぁ、でも神を持ち出すのはキリスト教、イスラム教、ユダヤ教の国では普通。
    ドル札には「我らは神を信じる」と書いてありますよ。金の紙幣にね。
    宗教と金と武力は人類生まれてからの三大カードで、スターリングラード包囲戦では
    コミュニストのスターリンがロシア正教を持ち出して国民の士気をあげた訳です。
    神を持ち出すのは政治的に普遍的な手法てしょう。あげつらっても仕方ないてすよ。
    言ってる当人が陰で舌を出してますからね。

  3. BOOK より:

    まあこれ、ゼレンスキー氏の
    「レアアース出すから支援続けてくれ」に対し

    トランプ氏が「あるならレアアースで 今迄の支援返せ、但し支援額の5倍な(ウクライナGDPの約3倍)、ついでに大統領止めろ」と答え、

    報道等では何故そんな法外な額とか、、、 え何故そんな分析?

    要は「実施不可能な協定要求」 というスタイルの「拒否」なんでは?

    で、ゼレンスキー氏も、己の首がNATOと釣り合わないことぐら自明だし、
    協定サイン拒否にアメリカと同じスタイルで答えただけなのでは?

    – – – – –

    願望多々の妄想 :プロレス

    ヒントは出されてた?
    トランプ氏:カナダよこせ、アラスカよこせ、ガザよこせ

    ゼレンスキー氏:今後10世代も払い続けるなどまるで、、

    欧州にバレないよう三味線ひきなごら、国ごとよこせ(or 99年 借款?)
    良い手かわかんないけど当分 戦火は収まる?

    • 木霊 木霊 より:

      お断りの手続きという見方ですか。
      その可能性もありそうですね。トランプ氏の発言や狙いはイマイチ把握し切れていないので何とも言えません。

      ゼレンシキー氏の狙いは、「首を差し出すってことは、選挙できる環境にする=停戦協定の実現に向けて動くってことだよな」という話だと理解しています。
      ちょっと、どういう動きになるかは良く分かりませんが、停戦に向けて動き出してほしいものです。