経済が不安定になってきていて、移民問題が表面化してきたという面はあるのだろう。
ドイツの車暴走、容疑者は「反イスラム」主義者…移民に対する憎悪に拍車の恐れ
2024/12/22 09:40
ドイツ東部マグデブルクで20日にクリスマスマーケットを襲撃した容疑者の男は、サウジアラビア出身の医師で、特異な経歴から動機に注目が集まっている。来年2月に予定される独連邦議会選挙に向け、移民排斥を訴える右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が今回の事件を支持拡大に利用し、移民に対する憎悪をあおる可能性がある。
讀賣新聞より
大雑把に言ってしまえば、国の政策の多くは経済問題で片が付く。そういう意味で、ドイツは少々危うい状況にあるのだろう。
急激に悪化した移民問題
ドイツ経済の躓き
鶏が先か、卵が先かという議論にもなりかねないが、ドイツ経済は非常に宜しくない。
ドイツ「緩慢な衰退」の衝撃シナリオ、東西再統一以来で最大の危機か
2024年12月17日 11:34 JST
ドイツが引き返せない地点に踏み込もうとしている。ビジネスリーダーはそれを理解し、国民も実感しているが、政治家は答えを見いだせていない。
欧州最大の経済大国が衰退の道に向かい、後戻りできなくなる危険がある。ドイツ経済は停滞が5年続いた結果、新型コロナ禍前の成長トレンドが維持された場合と比べ、今や5%縮小している。
Bloombergより
2023年の日本の名目国内総生産(GDP)がドイツに抜かれた!と大騒ぎしていたのが今年初め頃のニューストレンドだった。
名目GDP、ドイツに抜かれ4位 23年4兆2106億ドル
2024年2月15日 10:43
2023年のドル建ての名目国内総生産(GDP)は日本がドイツに抜かれ、世界4位に後退した。内閣府が23年のGDP速報値をドル換算したところ、日本は4兆2106億ドルで、ドイツは4兆4561億ドルだった。
日本経済新聞より
日本はダメだ!ドイツを見習え!と大騒ぎしていたメディアだったが、何のことはない、円安傾向が続いていたお陰でドル建てGDPが相対的に下がっただけの話。
この時、ドイツ経済は既に傾いていたのである。
ドイツの失敗は幾つかあるが、一番の失敗はエネルギー政策の転換であったと僕は考えている。
エネルギー集約型の製造業がさらに失われ、国内投資は抑制され、輸出が減少することになりそうだ。生活水準の低下に伴い、非難すべき犯人を有権者は捜し回り、喉から手が出るほど欲しい外国人人材を社会的緊張が遠ざける。警戒と憤りが入り交じる有害な感情が、欧州各地にその後波及するだろう。
Bloomberg「ドイツ「緩慢な衰退」の衝撃シナリオ」より
製造業中心であったドイツ経済を牽引していたのは、安価で安定したエネルギー供給あってこそである。他にも、移民政策への迎合は大きな失敗だったとは思うが。
安い労働力に支払う対価
欧州が移民の受け入れを決めたのは、EUにとって安い労働力を得る事は魅力的であったことと、人道的な配慮できる国家という甘美な立場を得たかったこと、そして欧州にとって移民は古くから付き合ってきた隣人であったことなどが影響していたのだと思う。
また、移民受け入れの阻止は、ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可するシェンゲン協定の精神に反するという事情もあった。
逆に言えば、移民受け入れ阻止の為に防波堤となる立場の国家に、過大な負担を押しつけるのを嫌がったという事でもある。
ドイツが転向を迫られた「移民難民問題」の深刻
2024/09/19 5:00
ドイツで移民系住民によるテロや犯罪が多発しており、ナチ・ドイツの教訓から、これまで移民・難民受け入れに寛容だったドイツが、不法移民の流入阻止、不法残留者の送還に大きく舵を切っている。
移民排斥を主張する右派ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢」(AfD)への支持に歯止めがかからず、主要政党も国民の懸念に応えざるを得ないからだ。
東洋経済より
だが、「良き隣人」となるはずの移民達は、西欧人の根底にある差別意識に対して過激に反応した。
ドイツでイスラム原理主義に基づくテロ事件が相次いでいる。
今年(2024年)5月31日、ドイツ西部マンハイムで、アフガニスタン人の男(25歳)が、反イスラムを訴える右派団体の集会をナイフで襲い、警察官一人が刺殺され、5人が負傷した。この容疑者は現場で射殺された。
このアフガン人は2013年にドイツに来て、難民申請は却下されたが、未成年だったのでそのままドイツに残留した。トルコ系ドイツ人女性と結婚し子供も生まれ、期限付きの在留許可を得ていた。ユーチューブ番組で西側世界に対するジハード(聖戦)を呼び掛けるイスラム原理主義者に影響を受けたとみられる。
東洋経済「ドイツが転向を迫られた「移民難民問題」の深刻」より
そもそも、「EUとそれ以外」という価値観の彼らが、イスラム圏内の思想を忌避することや、イスラム国家で起きる人権蹂躙に口出しすることは、「当たり前」だったのだから、「下に見られていた国家」からの「移民」達がお行儀良く過ごす訳がないのである。
「同胞が苦しんでいるから」、「同じ宗教を信仰する仲間を攻撃したから」、など、行動の切っ掛けになれば理由は何でも良かったのである。
そうした失敗を、欧州はずっとやり続けてきていたのに、未だ気がつかないのかとため息が出るね。
「安い労働力が欲しい」という理由で受け入れれば、不満が溜まるに決まっている。
経済悪化で拍車がかかる
さて、こういった火種をドイツが国内に抱えていた状況で、ドイツ経済が悪化したらどうなるのか?といえば、弱い立場に居る移民達が最初に割を食うのは当然の流れだろう。
警察当局は20日夜、容疑者の取り調べを始めた。独紙ウェルトは、男が反イスラム主義の活動家で、寛容な移民政策を進めたドイツの「イスラム化」を懸念していたと報じた。男は今年5月、自身のSNSでイスラム教徒の入国を制限するべきだと主張し、AfDに共鳴していたという。
讀賣新聞「ドイツの車暴走、容疑者は「反イスラム」主義者」より
今回の冒頭の事件は、そういったドイツの社会情勢をバックに引き起こされた事件である。
興味深いのは、犯行を引き起こした人物は、サウジアラビア出身の医師であり比較的裕福な立場であったと想定されることと、反移民政策を唱えるAfDに共鳴していたことだ。
讀賣新聞は、「移民排斥思想が悲劇を生んだ」という記事の仕立てになっているが、僕はそうは思わない。
テューリンゲン州の有権者を対象とした、ARDが報じた世論調査では、「何に懸念を抱くか」という質問に対して、「犯罪が将来大きく増える」が前回調査に比較して17ポイント増の81%、「ウクライナ戦争に引き込まれる」77%、「イスラムの影響力がドイツで強くなりすぎる」が21ポイント増の75%、「多すぎる外国人がドイツにやってくる」68%となっている。
ウクライナ戦争は影を落としているものの、経済や気候変動問題よりも、移民・難民問題が有権者の懸念の上位を占めている。
東洋経済「ドイツが転向を迫られた「移民難民問題」の深刻」より
確かにAfDの主張が過激であり、移民・難民問題の解決を訴えていて、犯人はそれに沿った主張をしていたのかもしれない。
ドイツ クリスマス市場に車突っ込む 5人死亡 200人以上けが
2024年12月21日 21時16分
ドイツ東部の都市で20日、クリスマスマーケットを訪れていた人たちに車が突っ込み、5人の死亡が確認されたほか、200人以上がけがをしました。
NHKニュースより
クリスマスマーケットに来た人々が殆ど移民だったという話も聞かないし、車で突っ込むことの意義があるとも思えない。どんな主張をしていようと、単なるテロリストである。
だが、だからといって無差別テロに及ぶ理由にはならないだろう。そういう意味では移民問題がキッカケであったと判断するのは早計かも知れないが……、ドイツ社会の不安定さを反映したという事は言えると思う。テロリストにとって理由は何だって良いのだが、移民問題を理由に選んだ理由はそれが分かり易かったからであり、それだけ問題が深く深刻である事を意味する。
つまり、ドイツの社会不安は高まっていて、それは経済が傾いているからだろいうことは言える。
当然、こういったトラブルは世界各国、何処に行ったって有り得るのだ。日本だって、他人事ではない。
追記
あらー、薬物反応がでてしまったようだね。
クリスマス市襲撃の犯行は3分間、逮捕の男は薬物陽性の報道…ドイツ政府の亡命者対応に不満か
2024/12/22 21:21
ドイツ東部ザクセン・アンハルト州の州都マグデブルクで起きたクリスマスマーケット襲撃で、州の捜査当局は22日、拘束されたサウジアラビア出身の医師の男(50)について、殺人と殺人未遂の容疑で逮捕状を取ったと発表した。当局は、男がドイツ政府によるサウジ亡命者への対応に不満を持っていたとの見方を示し、動機の解明を進めている。
讀賣新聞より
AfD支持という話も、やや動機としては弱くなってきたみたいだね。
このニュースはまだまだ静観した方が良いかもしれない。
追記2
経済についてはこんな記事を見かけたので紹介しておこう。この記事では言及していないけれども、支那に依存しすぎたドイツ経済の凋落に関しては、以前言及しているよね。
中国がドイツ経済を「一人負け」に追い詰めている
2024年12月22日 10:00
ドイツの2024年の経済成長率の予測は、G7で唯一のマイナス(0.2%)に終わる見込みだ。
ドイツは東西ドイツの合併による苦難の時期を乗り越え、長きに渡り欧州経済を牽引してきたEUの優等生だった。だが、ここ3~4年は少数連立政権で政治が不安定となり、緊急の経済政策が打ち出せず、自動車を始めロボット、産業機械、化学、電子機器などの産業が軒並み低迷し「欧州の病人」と呼ばれるように。中でもドイツ経済の象徴であり、国民の誇りであった自動車産業が致命的な打撃を受けている。
Asagei bizより
ソースがソースだけに粗い分析になっているが、ドイツは支那に傾倒しすぎたんだよね。技術も軒並み持って行かれてしまった。
常に組む相手を間違えるんだよね……。
こんな記事も書いたっけ。
ドイツの対中戦略を読む:日本企業の欧州ビジネスと中国における競争への影響
2023-09-19
2023年7月13日、ドイツはその歴史上初となる対中戦略(China Strategy)を公表しました。この戦略の中でドイツは「中国はパートナーであり、競争相手であり、ライバルでもある」と位置付け、EUや同志国との協力のもと、対中関係のリスク回避(de-risking)を進めると明言しました。これは、「経済の分断(de-coupling)ではなくリスク回避(de-risking)」を進めるとしたEUの方針と軌を一にしています。
~~略~~
ドイツは第二次世界大戦の反省を踏まえ、軍事力ではなく経済的協力により相手方の体制の変化を誘導する「接近による変化(Wandel durch Annnaehrung)」「貿易による変化(Wandel durch Handel)」の考え方を取ってきました。その対象は東ドイツ、東欧、ロシア、そして中国と拡大し、2005年から21年まで続いたメルケル政権下で、ドイツは中国と蜜月とも言える関係を築きました。ドイツ政府は、経済発展の結果生まれる中間層が中国の民主化をもたらすとの考え方のもと、政府間対話においても中国に人権問題などの要求を突きつけることなく、企業による対中投資を後押ししました。そしてドイツ企業は、中国を絡めたサプライチェーンを強化し、また中国への販売を拡大しました。
今や、ドイツにとって最も大きな単一の貿易相手国は中国です。輸出先としては米国に次ぐ地位にあり、輸入元としては2015年以降7年間、中国は首位を維持しています(図表1)。ドイツの財貿易において1990年には1%に満たなかった中国の割合は、2021年には9.5%にまで上昇しました。ドイツの中国からの輸入額は2013年からの10年間で150%以上伸び、2022年には約850億ユーロの入超となっています(図表2)。
PWCより
ちょーっと、気がつくのが遅かったよね。結局のところ、戦犯はメルケル氏であったように思うんだけど、今尚、ドイツではメルケル氏の評価は高いんだよなぁ。
コメント
この記事で「あー、そうかも」と思い当たるのが①サウジ出身移民 ②医師 ちう辺りでした。先の米大統領選で移民(合法)がトランプ氏を支持するねすか。あれ。
実ぁ合法的にきちんと永住権や市民権を得た移民ほど内心は不法移民や経済難民を嫌う。そりゃそうでしょう、彼らから見ればズルだもの。
フランスに嫁いだ従妹もそうだし、その生粋仏人の旦那の友人である元日本人もそう。その友人は仏外人部隊に所属して、戦地へ行っており、文字通り体を張って仏国籍を得たわけです。彼に言わせれば戦地で負傷したり戦死した仲間もいて、そういう血や汗の対価を払おうとせず潜り込もうとする連中に反吐がでるそうです。
私はサウジの医師がこうした行動に出たのは、その元外人部隊兵と同じような動機なのでないか?と想うんですけれどね。
既得権をおかされる側というのは、そういうのに敏感ですよね。
トランプ氏も、「不法移民を許さない!」と怪気炎をあげて支持されましたから、そういうところは大きいのかと。
この件はまた、続報が出てきたら触れたいと思っています。
こんにちは。
>円安傾向が続いていたお陰でドル建てGDPが相対的に下がっただけ
「誰かが割合でエビデンスを示す時は、数量を確認せよ。数量で示す時は割合を確認せよ」でしたか、その延長線上みたいな話ですよね。
最近では、マイナ保険証の解約が1万件超だそうですが、実はマイナ保険証の登録件数は数百万件に達しているという……
一応、マスコミは、解約件数に対する登録件数はオマケみたいに報じてはいますが……
例:
https://www.asahi.com/articles/ASSDM1HRVSDMUTFL001M.html
今の時代、一次資料へのアクセスがたやすくなったのだから、利用しない手はないのですが、踊らされる阿呆の何と多い事か……
こんにちは。
韓国や台湾にも抜かされる~!一人当たりのGDPが!という記事も見かけましたが、何というか、アレを指標にするというのはイマイチ。
とはいえ、賃金が上がっていないからこんな状態になっているのは事実でありまして。
マイナ保険証の解約の件も、まあ、勝手にやられたら宜しいかと。
個人的に、いまのドイツの有り様は、自国経済のための安い外国人労働力という社会的要請を、人権保護とか人道主義でコーティングして、その美麗字句を振り飾し続けたドイツ人たちとメルケル政権が、知ってか知らずか仕掛けた時限爆弾が弾けたのだと思っています。
直近のドイツ連邦統計局の数字では、2023年末時点での移民(EU内の移動を含む)の総数は、2317万5千人おり、総人口に占める割合は27.6%にも達しています。
https://tinyurl.com/4hkaufa6
他方で、ドイツ人の人口は毎年純減しており、2023年末時点で5896万8千人ほど。
https://tinyurl.com/2535vt3h
EUでの移民問題に”イスラム”が絡むと、発火して燃え上がりやすいし、政治家やメディアは宗教を対立軸にしやすい。しかし、問題の本質は経済(カネ)というのが真理でしょう。
岸波政権と経団連も、現状でドイツと同じことをやっているので、我が国も近い将来にいまのドイツと同じ問題を抱えることは疑いようもないですね。
戦犯メルケルというのは、色々な方が指摘されていますね。
それにしても、移民が3割弱とは恐ろしい。
それでドイツの伝統文化はどうなっちゃうんでしょうかね?それは、守らなくても良いのかと。
不満が溜まるのは当然かと思います。その上で、経済的なダメージが入れば、捌け口を求めてというのはいつの時代も同じですね。
モヤモヤと腹立つ事をスッキリ言語化して頂き感謝! メルケル以後のドイツは大嫌い。ナチのくせに。