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モルドバがロシアからのガス供給停止に備えて非常事態宣言

東欧
この記事は約8分で読めます。

そういえば、未だに非常事態宣言の法制度が整っていない我が国は、モルドバのような動きは難しい。それでも、「必要ない」と叫ぶメディアや識者は多いみたいだね。

我が国の話はさておき、本日はモルドバの話をしようと思う。

モルドバが16日から60日間の非常事態宣言 ロシアのガス供給停止に備え

2024/12/13 19:46

モルドバ議会が16日から60日間の非常事態宣言を発令すると発表しました。今月末にロシア産ガスの供給が停止される懸念があり、迅速な対応ができるよう備えた形です。

テレ朝NEWSより

この話はなかなか面倒な背景があるようだ。

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ロシアの影響力

モルドバ共和国

モルドバという国がどこにあるのか?ということを考えると、この話はすぐに結論が出るような話である。

このブログでは、出来るだけ国の位置を地図を用いてお示ししている。皆さん探していただければすぐ分かる情報なのだが、念頭に置いているのといないのとでは全然話が違うからね。

そして、モルドバはロシアから天然ガスを購入している。

はい、もう大体構図が見えてきたと思う。

モルドバは旧ソ連構成国のうちの1つであり、ウクライナと同様にホロドモール(1932年~1934年)の同様の被害を受けた国でもある。にもかかわらず、親露国家として存続してきたんだよね。

とはいえ、流石にロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにして、明確にEU加盟を目指す方針転換を図ることにした。それまではEU諸国と仲良くしつつも、ロシアとの関係を疎かにしない立ち位置だったんだけどね。

トランスニストリア地域

ウクライナの状況を見てその判断をした理由は、トランスニストリア地域というロシア軍の駐留を許し、なおかつトランスニストリア戦争(1992年5月~同年7月)という、沿ドニエストル共和国との武力衝突を経験している。

そもそも1990年6月にモルダビア・ソビエト社会主義共和国がソ連からの独立宣言をし、同年9月にドニエストル川東岸のウクライナ国境に接する地域が沿ドニエストル共和国としてモルダビアからの独立宣言をしている。こうした背景があるので、翌1991年正式にモルダビアがモルドバ共和国として正式に独立した時には、沿ドニエストル共和国と対立する構図になるのは、ある意味当然なんだよね。

なお、沿ドニエストル共和国はモルダビアの領土とウクライナの領土に跨って領土主張をしていて、正直言って何が正しいのかは良くわからない。だが、沿ドニエストル共和国にロシア軍が駐留しているのが問題なんだよね。

で、この沿ドニエストル共和国の領土がモルドバの立場ではトランスニストリア地域として認識され、自国の領土という立場なんだよね。で、紛争勃発でモルドバの敗北で幕を引いたのだけれど。当然、これがロシアの関与があったってことで、かなりの反発を招いていたわけだ。

ウクライナ侵略の状況を見れば、トランスニストリア地域(沿ドニエストル共和国)にロシア軍が駐留しているリスクは重く見るのは当たり前である。

天然ガス供給はライフライン

それでも、天然ガスの購入は続けていたんだよねぇ。

ウクライナ経由のガス供給、ロシアは継続の意向=プーチン氏

2024年9月5日午後 7:49

ロシアのプーチン大統領は5日、ロシアはウクライナ経由で欧州連合(EU)への天然ガス供給を続けるつもりだが、今年末で期限が切れる通過契約を更新するようウクライナに強制することはできないと述べた。

ロイターより

それも、ウクライナ経由でモルドバは天然ガスのパイプラインが繋げられている。今回の騒ぎになった理由は、ロシアとウクライナとの間で結ばれている契約をウクライナ側が延長しないと表明しているからだ。

ロシアは欧州向けガス供給を停止しないとし、国営ガスプロムは長期契約を結んでいる顧客に対する義務を完全に果たす意向だからだと説明した。

「12月31日に終了する通過契約がある。ウクライナがこの通過を拒否した場合、われわれには強制することはできない」と語った。

ロイター「ウクライナ経由のガス供給」より

なかなか複雑な話ではあるが、ウクライナ侵略を続けているロシアにとって、自国を通過して供給される天然ガスパイプラインの存在は許容できないのも無理はない。ただ、開戦後即時遮断しなかった理由は、供給先がモルドバだけではなく欧州各国に繋がっているからというもの。

img

こんな感じでウクライナ国内に張り巡らされたパイプラインがあって、これが侵略戦争の影響を受けているという話なんだよね。

また、モルドバに供給されたロシア産ガスは親ロシア派の支配地域「沿ドニエストル共和国」にすべて供給される仕組みになっていて、契約の終了により「沿ドニエストル共和国」のガス不足も懸念されています。

テレ朝NEWS「モルドバが16日から60日間の非常事態宣言」より

更に構図的にトランスニストリア地域(沿ドニエストル共和国)にも影響が及ぶので、ロシアの支配力の源泉とも言える天然ガスが途絶えるというのは、モルドバにとってもロシアにとってもかなり大きな影響がある話だ。

選挙介入

ロシアの影響力に関連して国内不安が起きているのは、モルドバだけではなくって、ジョージアもおかしなことになっているのは既に言及した通りである。

で、似た構図になっているのがモルドバだ。これは「天然ガス云々」という話ではなく、選挙という意味で、だが。

このため、ロシアからの供給が止まった場合、天然ガスに発電を頼るモルドバではエネルギー不足になることが懸念されていて、モルドバ政府は「人道危機につながる」と危機感を示しています。

モルドバでは、欧米寄りのサンドゥ大統領が再選を果たした先月の大統領選挙で、ロシア側が選挙介入を行ったと、欧米諸国やモルドバ政府が厳しく批判しています。

NHKニュースより

そう、この話に似た事件が、最近もう1つあった。

ルーマニアの選挙のやり直しである。

ルーマニアはどこにあるかと言うと、モルドバのお隣である。そういえば、この記事を書いた時に既にモルドバの話にも触れていたね。

ロシアという国家は、こういった民主主義の弱みをよくよく理解したうえで、影響力工作をしてきた。今まではあまり目立たないようにやっていたが、ここの所形振り構っていられないようだ。

金の切れ目が縁の切れ目、なんてことにならなければ良いのだが。が、そういう話とは別にモルドバに限らずエネルギー供給の問題は国家を揺るがす大事件となり得る。隣国の大統領は良くわからないタイミングで戒厳令を発令してしまったが、モルドバのこれは国家非常事態宣言を出すに値する話。何しろ、対応次第では死者が出かねないのだから。

我が国は他人事ではない

非常事態宣言を出来る体制に

さて、何故、モルドバの話を取り上げたか?ということなんだけど。

「モルドバで非常事態宣言かぁ、大変ねぇ」という茶飲み話を提供する、という理由ではないことは、このブログに来ていただけている人であればなんとなく理解いただけると思う。

1つは、非常事態宣言の話だ。

隣国の大統領が……、いやもう諄いか。とにかく、隣国では出せる非常事態宣言(戒厳令)だが、我が国はこれを出すことが出来ない。武漢ウイルス感染症拡大によって、実は似たようなことをやったのだが、あれは法律に基づかないやり方なので非常にリスキーである。

何故ならば、あれで巨額の損害を被った企業が、国家賠償請求をしたらおそらく勝ち目がある。法律に基づかない要請だけで行った措置だからね。逆に言えば、国家の要請に対して従わずに企業活動を続けるという選択肢もあった。憲法や法律に根拠がない措置というのは、極めて不安定なのである。

我が国が法治国家である以上は、非常事態に対応する法体系、始める方法と終わらせる方法は定めておく必要があるのだ。

改憲へ論点すり替え懸念 韓国の非常戒厳宣布受け、緊急事態条項がやり玉に
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による「非常戒厳」宣布を受け、日本で議論が進む憲法改正による「緊急事態条項」新設がやり玉に挙がっている。一切の政治活動を…

メディアは反対しているけどね。

旧ソビエトのモルドバの議会は13日、今月16日から60日間にわたって非常事態宣言を発令する法案を可決しました。

NHKニュースより

モルドバでは慌てて法律を作って可決し、施行、発令と急ピッチで整備を進めたけれども、法律を作ったらどうしても穴が出てしまう。じっくり法案を作れる時に作り、各自治体に対応を通達し、スムーズに運用できるようにしておく必要がある。準備はできるうちにやるのが鉄則である。

シーレーンを脅かす存在

もう1つがシーレーンの話。

最近紹介した、第1列島線の話。これはこの海域が支那の影響下に入るリスクがあるという話に繋がるんだけど、「台湾有事は日本有事でもある」という言葉の通り、シーレーンが毀損されることはすなわちウクライナ侵攻と同じ結果になるという意味である。我が国はモルドバと同じ立場なのだ。

海に囲まれる我が国にとって、海から資源を運ぶ、或いは海から資源を得るということは、本気で取り組むテーマなのである。

最近はこんな話もしたよね。

そういう意味でもFOIPやクワッドを提唱した安倍晋三という人の先見の明が優れており、当面実現することが困難なアジア版NATOなどという寝言をいう石破氏の感覚がおかしいことは、言うまでもない。他の政策がどうかは知らないが、外交と安全保障に関しては安倍・菅・岸田の3政権が進めてきた方針を承継して欲しいと切に願う次第である。

コメント

  1. 山童 より:

    先ず、地図を先に提示して頭にイメージさせてくれてから解説する木霊様の記事はたいへん分かりやすい。あの位置で「なるほど…」とフックし、パイプラインの地図で、
    「そりゃそうだよなぁ」と納得できる。
    やはり位置関係は大事。地政学がそうですが、地理って決して受験科目の付け足しじゃなく「理解」に必要です。この点すごく「解ってる書き手」だと思います。
    んで……そもそもロシアって、アゼルバイジャンとアルメニアを観ても、味方にしても
    瞬時に裏切る見捨てる国ではないですか。
    まぁ、そういうの米国もやりますが、ロシアって露骨なんてすよね。
    なのでウクライナの惨劇を目にして、エネルギー源を(仮にロシア支持しても)平気で切られる可能性は大いにある。
    たまたま今日、アラビア石油、出光でのビジネスされてた方のマッサージ担当していて、この話は出たところでした。
    まぁロシアの原油や液化天然ガスはソ連時代から輸入できれば日本の得とは言われてましたが、「奴らが政治でパイプラインを切らないような分別ある国であれば、別な着地点があったろうに。けれどそうじゃない国だからこうなる」と言われてました。

    • 木霊 木霊 より:

      多少でも理解の足しになっていたのであれば、幸いです。

      今回、シリアの件で露骨に現れたと思うのですが、ロシアは容易に味方を見捨てる。その印象が顕著になってしまったので、コレから更にバタバタすると思いますよ。
      ロシアだってそんなことは百も承知なのでしょうが、それが出来ないほどウクライナ問題を引き摺っているのでしょうね。

  2. 砂漠の男 より:

    ウクライナがロシアのパイプラインを停止すると言い出した背景には、ウクライナにそれを停戦交渉の材料とする思惑がありそうです。トランプ氏仲介の停戦交渉は年明けから本格化するはずですから。
    ですが、EU仕向けの天然ガスが急減する事態になれば、EUが黙ってはいないでしょうから、ウクライナは停戦交渉のためにも調子づかないほうがいいのでは?

    • 木霊 木霊 より:

      ウクライナも、けっして正義のためだけに存在しているって訳じゃありませんからね。寧ろ、立ち位置としてはロシア寄りの、薄汚い裏切りをやるような国家だと思っています。
      しかし、国際関係って綺麗事では済まされないので、それも仕方がないと思います。
      そこを上手く立ち回れるのが優れた指導者ということですから。

      今回のウクライナの契約更新拒否って、調べた限りは影響の少ない部分みたいで、その辺りは分かった上でやっている気がしますよ。

  3. 七面鳥 より:

    こんにちは。

    不思議ですよね。

    >未だに非常事態宣言の法制度が整っていない(中略)「必要ない」と叫ぶメディアや識者は多い

    これ、同じ口で「日本で戒厳令が発令されたら云々」言ってるんですから。
    日本の首相に戒厳令出せる権限は事実上ないし、そのために非常事態関連法案整備しないと、正しい手順で解除する事も出来ないのに。
    まあ、バカなんでしょうけれど。

    ロシアがウクライナ攻めた理由の一つが「ガスパイプラインの借地に払う金がもったいない」だったら大笑いなんですが……

    • 木霊 木霊 より:

      こんいにちは。

      彼ら、自分たちのロジックが破綻していることに気がつかないのでしょうかね。
      ……気づくようなら、オールドメディアを続けていないのかもしれませんが。