アサド政権の圧政から解放されたということは、シリア系の難民は要件を満たさない状態になる可能性がある。つまり、難民から移民にジョブチェンジだ。
シリア人難民受け入れ、独仏英など欧州約10カ国が停止へ 2015年の流入危機で警戒
2024/12/10 09:18
シリアのアサド政権崩壊を受けて9日、ドイツやフランス、英国など欧州約10カ国がシリア人の難民申請受け入れや審査を一時停止する方針を発表した。「シリアの状況が流動的で審査が困難になった」のが主な理由だとしている。2015年、シリア内戦による難民流入で欧州が大混乱に陥った「教訓」が背景にある。
産経新聞より
日本にいるシリア系クルド人の方々は、難民ではなくなるはず。よって、速やかにお帰りいただけるよう働きかけるべきだ。もちろん、日本政府がシリア国内が安定するように働きかけるのは吝かでない。
難民問題は深刻な問題
イスラエルの動きが怪しい
さて、シリアは内戦終結に向けて動き始めたのだが。
周辺国も動き始めている。シリア国内の平定を反政府軍が出来るのかも不透明である。
イスラエル首相、軍にシリアとの緩衝地帯の「掌握」を指示
2024.12.09 Mon posted at 13:26 JST
イスラエルのネタニヤフ首相は8日、イスラエル軍に対し、イスラエルが占領しているゴラン高原とシリアの他の地域を隔てる緩衝地帯を「掌握」するよう指示したと明らかにした。
CNNより
隣国イスラエルは、どさくさに紛れてシリア国境付近の緩衝地帯を掌握。イスラエル側は「シリアの内政には干渉しない」などと嘯いているが、まあなんというか、1945年8月のソ連かな。
イスラエル軍、ダマスカスのシリア空軍基地を空爆…ネタニヤフ首相「歴史的な日だ」
2024/12/09 10:24
イスラエル紙タイムズ・オブ・イスラエルなどによると、イスラエル軍は8日、シリアの首都ダマスカスにあるシリア空軍の基地などを空爆した。弾薬庫や武器庫が標的とみられ、同紙は、シリアの武器を反体制派やレバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラなどに流出させないための攻撃との見方を示した。
讀賣新聞より
割とやりたい放題である。が、シリアとイスラエルの間での様々な摩擦を考えれば、ある程度は仕方のない部分はあるかもしれない。イスラエルが国際法に違反していることを除けば、納得できる話。
でも、こんなんだからイスラエルは中東で嫌われるのである。
難民は増えるかも
とまあそんな情勢もあって、難民が増える可能性も否定ができない。
申請受け入れ停止は、ドイツが最初に決定した。政府は声明で、難民申請者の審査も延期し、「状況が安定すれば、再開する」と表明した。現状ではシリアから難民が流出するのか、あるいはドイツ在住シリア人の帰還が進むのかの予測ができないとしている。
ドイツでは11月までに、シリア人の難民申請が約7万5千件にのぼった。国別では最多で、申請全体の3割を占める。
産経新聞「シリア人難民受け入れ、独仏英など欧州約10カ国が停止へ」より
真っ先にドイツが「難民申請受け入れ停止」を決定している。実はドイツさん、ちょっと前に記事にしたのだが、政局でかなりヤバイ。切実である。
特に、右派政党「ドイツのための選択肢」が勢力拡大していることもあって、ここが移民反対する姿勢を示していることから、「受け入れ拡大」などと表明して国内治安が更に悪化すれば、ショルツ氏の支持率は低下に歯止めがかからないだろう。
したがって、ドイツとしてはどうしたって難民が増えて貰っては困るのだ。
綺麗事大好きなドイツではあるが、2021年の難民認定者数は38,918人で、その時点で国内に2,230万人の難民を抱えている。ドイツの人口は8,448万人(2023年)なので、3割近くが移民という実態になっている。
労働力不足を移民で補うという発想だったドイツだが、急激な外国人増加は文化や経済が耐えられなくなってしまう。
混迷するドイツ経済
実際に、ドイツ経済の競争力は低下している。
ドイツの混乱、背景に100兆円超える資本流出-競争力喪失で経済衰退
2024年11月9日 7:12 JST
ドイツ経済の競争力喪失が顕著だ。それが経済から活力を奪ってもいる。
ドイツ連邦銀行(中央銀行)のデータによると、化学品メーカーのBASFや自動車部品のZFフリードリヒスハーフェン、家電のミーレなどの企業が国外に資源を移し、2010年以降の純資本流出額は6500億ユーロ(約107兆円)を超える。しかも、この約4割は、ショルツ首相率いる連立政権が発足した21年以降に発生した。
Bloombergより
移民のせいで経済が混乱しているというわけではないのだが、移民を支えるためにドイツ国民にかなりの重税を課しており、特に企業に対する締め付けがキツい。
そしてドイツが経済的に依存していた支那経済の失速があって、最大の貿易相手国が輸出品を買ってくれなくなった事が大きい。
「実際、ドイツへの投資を支持できる材料は何もない」と、シーメンスの税務担当グローバルヘッド、クリスティアン・ケーザー氏は10月半ばに同国議会の公聴会で述べ、低成長と重税を挙げた。「当社の最近の投資が外国で行われているのは、それが理由だ」と説明した。
Bloomberg「ドイツの混乱、背景に100兆円超える資本流出」より
そうすると、移民を受け入れる余裕が失われるという結果になるわけで、止むに止まれぬ判断ではある。
そんな背景から、政治的にも移民問題は非常に大きなテーマとなっている。
来春予定の総選挙では、移民問題が争点のひとつになっており、保守系の最大野党「キリスト教民主同盟」(CDU)からは、シリアへの帰国希望者に1千ユーロ(約16万円)を支給し、出国を後押しするべきだという主張も出た。
産経新聞「シリア人難民受け入れ、独仏英など欧州約10カ国が停止へ」より
労働力になるという事実はある一方で、治安の悪化など色々な社会的負担に耐えきれない状況で、寧ろ「帰ってもらえ」というのがドイツの今のスタンスなので、そりゃ受け入れ停止するよ。
フランスもイタリアも否定的
そして、他の国もコレに続いている。
フランスではルタイヨー内相が「シリア人の難民申請受け入れの停止に取り組んでいる。数時間で決める」と発言。イタリアやベルギー、ギリシャ、スウェーデンなど北欧諸国も続いた。オーストリアではカルナー内相が公共放送ORFで、難民申請の受け入れに加え、定住した難民の家族呼び寄せも停止すると述べた。さらに、「シリア人の秩序ある帰国や送還」に向けて準備を進めると表明した。
産経新聞「シリア人難民受け入れ、独仏英など欧州約10カ国が停止へ」より
何処の国も移民問題を抱えていて、これ以上爆発的に増えて貰うのは困るのだ。アサド政権は倒れたが、しかしその後継者がしっかり決まってくれて国内安定化に向けて進んでくれれば、この問題は解決する。
多くの国が似たような判断をしたようだ。
したがって、シリア反政府軍、いや、権限移譲で合意したらしいので救国政府ってことになるのだが、幸福な未来を迎えるために努力するしかない。
シリア、権限移譲で合意 反体制派の「救国政府」へ
2024年12月10日05時57分配信
シリアのアサド政権を倒した反体制派勢力は9日、指導者のジャウラニ氏がアサド政権のジャラリ首相と会談したと発表した。反体制派はSNSを通じ「権力移行に向けた連携が目的」と強調。ジャラリ氏は9日、中東のテレビ局アルアラビーヤで、2017年に反体制派が設立した「シリア救国政府」に権限を移譲することで合意したと語った。
時事通信より
そういえば、反政府勢力は複数あって連携していたわけではないのだよね。
追記
ええと、コレも追記しておきたい。
シリア各地に割拠する反体制派 イスラム過激派、親トルコ、クルド人…政権崩壊で混乱必至
2024/12/8 20:13
アサド政権が崩壊したシリアは2011年に始まった内戦の結果、各地にさまざまな反体制派が複雑な形で割拠する事態となった。それぞれ利害が異なる上、イスラム過激派は離合集散を繰り返すなどしており、政権崩壊後の情勢が混乱するのは必至だ。
産経新聞より
トルコもシリアのアサド政権崩壊によって、対応に苦慮しているようだ。ただ、やっているのはイスラエルと同じでテロリストの掃討作戦である。
北部のトルコ国境に面する一帯は、トルコのエルドアン政権が肩入れする「シリア国民軍」(SNA)の支配地域だ。HTSとともに政権側への攻撃に加わった。エルドアン大統領はアサド政権の退陣を求め、反体制派を通じてシリアへの影響力浸透を図ってきた。
また、北東部は少数民族クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が支配している。エルドアン政権はトルコ国内の非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)の分派だとして、過去にSDFに対する越境攻撃を行った。
産経新聞「シリア各地に割拠する反体制派」より
シリアの内戦が長期化したことで、シリア国内に周辺国にテロ行為をする組織が蔓延ってしまっているのは事実である。
そこで、コレを好機とばかりに越境攻撃を……。
なお、トルコから日本に渡航するクルド系難民の一部は、こうした背景をもってシリアから流れている人もそこそこ居るようで。早めにお帰りいただけるようにお願いしたいものだ。
コメント
騒ぎ出すのも撤退するのも一番はぇぇな????ドイツは。正直さまぁみろ!だけど。
まぁでも、今のスェーデンとか観るに、無理もないと思いますなぁ。シリア難民もアサド政権なくなりゃ難民指定する必要はないと想うし。もちろん平和に終結してのお話ですが、平和に収まらない場合、ここで難民を見捨てるか興味深い。
ドイツにとっては多分死活問題です。
さっさと撤退するに限ると見限ったのでしょうね。案外、今の首相は判断が早いですから。
シリア、平和になれば良いんですが、なかなかどうして厳しそうですよ。
HTSてしたっけナントカカントカ委員会。現在の反政府組織(あ、もう反政府じゃないか????)って、アルカイダ系の組織ですよね。つまりタリバン化して、シリアをアフガンみたくする?
まぁ、そうなると他が反発して元に戻るのでは?
2020年たったかな、ロシアとトルコは
シリア内戦に関しては停戦合意したはずですが、ロシアねぇ…シリアに空軍や海軍の基地を捨てますかね?
すてないと想うんですよね。するとトルコはほら、PKKと関係あるクルド人がシリアに残ってるから、
ロシアは合意破ったもん!と出張ってきて…と、ドミノ倒しでまたグチャグチャになる気がするんですよ。
だいたいシリアは観光旅行に行けた国ですよ。独裁国だけど治安が良くて、割と平和だった。
アラブの春からでしょ、アサドがああなっていくのって。もともと英国留学後に眼科医やってた人で、親父と違い割と民主化を当初は進めてた。
結局、アラブの春とはアラブの冬だったという結末ですねぇ。死者50万人に国外難民が600万人。国内難民が700万人として、2200万人だった国民の半数以上がそうなった訳です。これ旧ユーゴスラビア紛争やボスニア・ヘルツェゴビナより酷くね?です。
平和になるとはとうてい思えない。
シャーム解放機構(HTS:Hay’at Tahrir al-Sham)ですが、シリアでの支配地域は狭いんですよね。
ある程度、要所を押さえているので、国際社会との交渉を担う立場なんでしょうが、国内を統一するにはまだまだ。
独裁者が掌握していた時代の方がマシだったなんて話にならなければ良いんですがね。
実際のところ、独裁者が統治するというのは悪い話ばかりではありません。
大抵が暴走するんで、長期間続くと碌な事にはなりませんが、優れた統治能力のある人物が独裁的に国家の方向性を定めるというのは、安定期を迎えやすいと思います。ただ、二代目、三代目は保身に走るのでどうにもならない状況になりがちなんで、長期政権を維持するのは独裁ではちょっと……。
これから反政府組織同士の主導権争いが始まり、再びシリアは内戦に突入するのでは?
、と危惧します。
やはりというべきか、イスラエル軍がシリアとの緩衝地帯を越えてシリア領土内に侵攻し、ゴラン高原を完全に自国領土に組み込もうと動いているようです。ネタニヤフ氏は手が速い。
https://apnews.com/syria-civil-war-live-updates-assad-rebels-israel
イスラエル軍は、シリア国内の300か所以上の目標を空爆したとの報道も出ていますから、
今度は旧シリア政府支配地域の住民が難民化しそうです。
横合いから失礼。
>再びシリアは内戦に突入するのでは?
突入する方に100カノッサ、です。
再度の難民申請が始まる前に、日本政府は今すぐにも難民認定の拒否を!
※いっぺん止めとけば、再開まで時間稼げる。
そうですねぇ。
シリアからの申請やトルコ経由の申請になんとか歯止めを掛けておきたいところ。
トルコ政府だって日本に厄介払いしているような話ですから、本当に止めて欲しい。
イスラエル軍にとって、HTSが強い軍事力を持ってシリアを平定するのは良しとしないのでしょう。
適当にグダグダで居てくれる方が、都合が良い。
そういう国ですからねぇ……。