JSF氏が「不自然なニュース」として指摘していたので、少し言及してみようと思う。
災害時の活用念頭に無人機の実証実験 南紀白浜空港で来月から
11月25日 17時20分
災害時に被害状況を素早く把握することなどを念頭に、和歌山県などでパイロットが乗らない無人の航空機で地上の様子を撮影するなどの実証実験が始まるのを前に、25日、機体が公開されました。
NHKニュースより
川崎重工は、無人航空機システム設計部を持っていて、バイクのNINJAのエンジンを使った無人機を公開していたりもしている。
不自然な報道とその意味
無人機開発
これ、なんかの時に紹介したかも知れないが。

こんな感じのヘリコプターである。
無人ヘリコプター「K-RACER」
K-RACERは、少子高齢化による労働力不足や激甚化する災害などの社会問題に対し、無人機ならではのサービスで課題解決を目指す、ヘリコプターとドローンの強みを兼ね備えた新たな空の物流用モビリティです。
一般的なドローンは手軽に使えるという利点がある一方、貨物搭載量や航続距離、耐風性能などに課題がありました。
これに対し川崎重工は、蓄積してきたヘリコプターの開発ノウハウとモーターサイクルで培った小型ハイパワーエンジンを組み合わせることで、パワフルかつ高い安定性を持つ無人ヘリコプターを提案します。最大で200kgの重量物を100km離れた場所まで1時間弱で輸送することができます。
川崎重工のサイトより
ええと、記事の中にはエンジンの紹介がないな。
なお、本機は航空宇宙システムカンパニーが開発し、動力源はモーターサイクル&エンジンカンパニーおよび技術開発本部の技術シナジーにより、当社製モーターサイクル「Ninja H2R」のスーパーチャージドエンジンを搭載しています。
川崎重工のサイトより
川崎重工はヘリコプター開発もやっていたので、組み合わせて無人機を作ったというのは然程不思議な話ではない。
そして、能力的にはまあまあの性能を持っているし、何より市販のバイクエンジンを使ったというのが、メンテナンス性について有利であることを考えても良いことなんじゃないかと思う。
とまあ、こういうのも開発しているので、固定翼機を開発していても不思議ではない、というような印象を持たせる狙いがあるのだろうね。
イスラエル製無人機
さて、冒頭のニュースについてだが。
和歌山県白浜町の南紀白浜空港で公開されたのは、「しらさぎ」と名付けられた無人の航空機で、全長が9.7メートル、幅16.6メートル、重さ1.5トンあります。
~~略~~
機体の開発を担当する川崎重工業無人航空機システム設計部の大堀雅司 部長は、「自動車のように航空機でも無人化を進められると考えている。さまざまな映像を撮影して災害時にどのように活用できるか研究を進めていきたい」と話していました。
NHKニュース「災害時の活用念頭に無人機の実証実験」より
なんか、川崎重工が独自に開発したようにも読める。
だが、もうちょっと詳しく報じている記事を読むと、不自然さを感じることになる。
無人航空機の飛行へ 川崎重工が災害での活用探る、和歌山・白浜空港拠点
2024年11月25日 14時30分 更新
航空機などを製造している川崎重工業(神戸市)は来月から、和歌山県白浜町の南紀白浜空港を拠点に、パイロットが乗らない無操縦者航空機を飛ばす。
~~略~~
航空機は海外製で、大きさは長さ9・7メートル、幅16・6メートル、重さ約1・5トン。名前は「しらさぎ」。ガソリンエンジンを搭載。無線や衛星通信を使って遠隔操作する。
AGARAより
「航空機は海外製」と書かれているが、何処から購入したかが書かれていない。

ただ、機影を見れば大体何処の機体かは判断できるんだよね。

機体の細部は写真だけで判断しにくいが、恐らくはIAI社のヘロンMK2である。
これに関してはJSF氏もそのように言及している。
どうして隠すかなあ。
防衛省も導入検討
イスラエル製無人機の優秀さは戦場でも証明されていて、防衛省も導入を検討していた。
「バイラクタル」陸自ついに導入か ウクライナの英雄的トルコ製無人機で“部隊”編成? その背景
2023.08.10
陸上自衛隊中央会計隊は2023年8月4日(金)、トルコのバイカル・テクノロジーズが開発したUAS(無人航空機システム)の「バイラクタルTB2S」の調査を行う企業を選定する一般競争入札を実施しました。
~~略~~
防衛省はバイラクタルTB2Sの調査と並行して、イスラエルのIAI(Israel Aerospace Industries)が開発したMALE「ヘロンMk.2」の調査にも着手しています。
ヘロンMk.2は2020年2月に開催されたシンガポールエアショーで発表された、IAIのUAS「ヘロン」シリーズの最新型です。エンジンの変更によりヘロンに比べて速度性能と航続性能が向上しており、広域監視システム「WASP」を搭載すれば、国境を超えることなく広域を監視する能力も備えます。
乗り物ニュースより
この計画がどうなったかは不明だ。トルコ製の「バイラクタルTB2S」もイスラエル製の「ヘロンMk.2」も、お国の事情で採用しにくくなっているからだ。
バイラクタルTB2の方はまだギリギリ導入可能だと思うが、イスラエルは国内事情というかパレスチナとの戦争というか、そういう状況にあって人道的に非常に不味い事をやらかしている。トルコはセーフかというと、どうなんだろうと思わなくもないが、イスラエルの方は完全にアウトである。
流石に、JSF氏もこれに関しては前々から反対している(注:今回のこの記事について反対を唱えたわけではないことに注意)。
なお、川崎重工の方は特に隠す意図はないらしく、「ヘロン(白鷺の意味)」の名前をルーツとして「しらさぎ」と命名しているようだ。
堂々と報じれば良い
イスラエル製の製品自体に罪はないが、イスラエルの現状を考えると「海外製」を「イスラエル製」と報じるのに抵抗があったのはなんとなく事情を理解はするが、別にそのままの機体を採用しなければいいわけで。
実証実験に使っているという点に関して、わざわざ隠す必要はないと思う。
実際、海上保安庁が運用している(実質、自衛隊運用の機体)のは、「シーガーディアン」と名前の付いた機体である。
だが、このベースになっているのは、アメリカ製のMQ-9「リーパー」だ。

リーパーは死神(刈り取る者)の意味で、無人攻撃機としてイラクやアフガニスタンへの実戦配備実績のある機体である。
尤も、アメリカにおいてMQ-9「リーパー」はアメリカ空軍が導入した機体で、その後に沿岸警備隊向けにMQ-9B「シーガーディアン」として機体の延長やウイングレットの追加など、海上運用に特化(注:実際にはNATO向けに改良されたMQ-9B「スカイガーディアン」と同型で更に改良されたもの)したものを海上保安庁が導入したので、こちらに関して特に何か問題があるわけではない。
一方のヘロンMK2に関しては、イスラエルが現在進行形であの状況なので、反対者が出ても不思議はない。だけど、調べれば直ぐに分かることなのに、何故隠すのかと。
川崎重工は応援しているけれども、こんな感じの「後ろ暗い雰囲気」を報道で出してしまうのはどうなんだろう。騒がれたくないので情報を隠しても、ご活動をされる方はこういうのを調べるのは得意だし、隠して良いことはない。災害救助用に開発していますと、堂々と発表すれば良いのに。
コメント
こんにちは。
川重は、嫌いじゃないんですが、新幹線でやらかして以来、どうにも海外がらみは生暖かい目で見ちゃいますね。
別にイスラエルの技術が悪いわけじゃない、自動運転とかでイスラエル企業はあっちこっちガッツリ食い込んでるし。
それとも、いざとなれば武装出来るようにしてあって、それを隠したいのかな?
こんにちは。
イスラエルの技術はかなり優れていてそこは認めざるを得ないんですが、それとは別に政治的な意味合いで配慮することも必要ではあると思います。
いま、イスラエルの名前を出すのを控えたいという気持ちは分からんでもないのですが、悪手ですよね。
日本は軍事用の無人機とかドローン分野で技術的に遅れすぎ
その通りではあるんですが、日本国内で規制が厳しすぎるので商売にならないと言うところが一番問題なんだと思いますよ。