なんだか、ICBM初使用!とか騒いでいる人もいるけど。どうやら違うらしいという話もあって、まだ確定した話では無いんだよね。
ロシアのICBM使用、事実なら史上初の事例 米英のテコ入れへの焦りの裏返し
2024/11/21 21:56
ロシアがウクライナ東部ドニプロの標的に対して大陸間弾道ミサイル(ICBM)による攻撃を実施したのが事実とすれば、ICBMが武力紛争で使用された史上初の事例となる。
産経新聞より
正直、飛翔する距離が違うだけで、弾道ミサイルのテストをバンバン行う国が近くにある日本にとって、驚くような話ではないと思う。
脅しに屈するわけにはいかない
核恫喝の一環
じゃあなにかといえば、ロシアからの脅しのトーンが1つあがったってことなんだろうと思う。
プーチン露政権によるICBMの使用は、露政権が19日に核兵器の使用基準を引き下げ、ロシア領土に対する通常兵器による攻撃に核兵器で報復できると定めたのに続くものだ。
産経新聞「ロシアのICBM使用、事実なら史上初の事例」より
ここにも書いてあるけれど、核恫喝の一環だよね。
でも、「だからどうなの」という気はする。
国連軍縮研究所(UNIDIR)の研究員はX(旧ツイッター)への投稿で「通常弾頭を搭載したICBM攻撃は低精度かつ高コストで無意味だ」と指摘した。今回の攻撃は、露政権が今後、ウクライナの攻撃に対して核による反撃を辞さないという脅しをほぼ唯一の目的としていたのは明白だ。
産経新聞「ロシアのICBM使用、事実なら史上初の事例」より
実際に、国連軍縮研究所の研究員からは「無意味なことしやがって」的なツッコミをされている。同感である。
ATACMSとストームシャドーの使用
さて、ロシアが長距離弾道ミサイルを使ってみせた背景には、西側がATACMSやストームシャドーの使用許可を出したことが関係していると言われている。
“ウクライナ軍がATACMSでロシア西部を攻撃” ロシア国防省
2024年11月20日 12時36分
ロシア国防省は、ウクライナ軍がアメリカのバイデン政権からロシア領内への攻撃に使う許可を得たとされる、射程の長いミサイルATACMSでロシア西部を攻撃したと発表しました。
ロシア国防省の発表によりますと、19日未明、ウクライナ軍がATACMS、6発を使ってウクライナと国境を接するロシア西部ブリャンスク州への攻撃を行いました。
NHKニュースより
ウクライナ、英製巡航ミサイルストームシャドーを露領内へ初使用 米に続き英も使用容認か
2024/11/21 08:28
ロシアに侵略されたウクライナは20日、英国から供与された巡航ミサイル「ストームシャドー」(射程250キロ以上)でロシア領内の標的に対して初めて攻撃を実施した。英メディアが一斉に報じた。バイデン米政権がウクライナに対して米国製の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」の露領内への使用制限を解除したのに続き、スターマー英政権も使用容認に転じたとみられる。
産経新聞より
ロシアにとっては「長距離兵器」が使われたというインパクトよりも、おそらくは弾薬庫の攻撃のほうがダメージが大きかったと思う。
一方、ウクライナ軍はブリャンスク州にある弾薬庫を攻撃し、12回の爆発を引き起こしたと発表していますが、使用した兵器については明らかにしていません。
NHKニュース「“ウクライナ軍がATACMSでロシア西部を攻撃” ロシア国防省」より
弾薬庫の移設というのは容易ではないらしく、ここを重点的に攻撃されると兵站に大きな影響が出てしまう。
そういった話に絡んでロシア側に長距離弾道ミサイルを使わせた、という側面はあると思う。
ただ、ロシアには現時点で核兵器を使うメリットがない。結局のところ、単なる恫喝の一種だと考えて差し支えないと僕はそのように考えている。
ウクライナ戦線は、ウクライナ側がかなり不利な状況に追い込まれているので、ロシア側が苦しいからといってこれから盛り返せる可能性は薄い。だから、ウクライナにとっては本件は割とどうでも良いニュースで、どちらかというとロシアがアメリカや北欧諸国に対して「いつでも打ち込める」という恫喝をした構図なんだろう。
追記
そうそう、ロシア経済が厳しい状況にあるのも、影響があるんだろう。
バターが盗まれるロシア、背景にインフレ 急激な利上げに混乱懸念も
2024年11月15日 18時00分
ロシアが大幅なインフレ(物価高)に直面している。ロシア中央銀行はインフレ抑止のため、急速に政策金利を引き上げており、その水準はウクライナ侵攻直後の「緊急措置」だった20%を超えた。表向き安定したロシア社会だが、混乱を懸念する声も出始めた。
朝日新聞より
政策金利は21%となっているので、市中の金利は25%~30%とかそういうレベルなんだと思う。
中銀、政策金利を21%に引き上げ、3会合連続の利上げ
2024年10月31日
ロシア中央銀行は10月25日に行われた金融政策決定会合で、主要政策金利(キーレート)を19.0%から21.0%とすることを決定し、28日から適用した(添付資料図参照)。9月に続き、3会合連続の引き上げとなった(2024年9月20日記事参照)。中銀の予想を大幅に上回るインフレ率を、2025年末までに目標の4%に抑制するのが狙い。
JETROより
インフレ率は8.51%(10月時点)と高い状況になっていて、政策金利を引き上げてもインフレ率を抑えられない事態を迎えている。
これは単純に需要と供給のバランスの問題だと考えられ、恐らくは供給が細っていることでインフレが加速しているのだろう。何しろ、市中の労働力も足りないので、給与などを上げざるを得ない。金融政策だけでなんとかなる話ではないのだ。
とはいえ、欧州からの財やサービスがロシアに迂回流入している状況で、欧州としても経済状況を考えると黙認する部分があるようだ。
ロシアは戦時経済下で大幅な財政出動を行っているので、ルーブルが余っているというのもインフレに影響がある模様。ロシアも本音では休戦したいようだが、メンツの為にはそういうわけにも行かないというジレンマが。
追記2
ええと、ICBM否定の話も紹介しておく。
ロシアのミサイル 西側当局者「弾道ミサイルだがICBMではない」
2024/11/21 21:31(最終更新 11/21 21:31)
ウクライナ空軍は21日、ロシアがウクライナへ大陸間弾道ミサイル(ICBM)1発を露南部アストラハン州から発射したと発表した。ロイター通信が報じた。ウクライナ中部ドニプロに落下し、地元知事によると2人が負傷、建物の損壊も発生したという。ゼレンスキー大統領は「ロシアが新たなミサイルで攻撃した。速度と高度からするとICBMだ」と述べた。専門家が分析を進めているという。
タス通信によると、ペスコフ露大統領報道官は21日、ウクライナ側の発表について「何も話すことはない」と言及を避けた。米CNNは21日、西側の当局者が「弾道ミサイルだがICBMではない」と話したと報じた。
毎日新聞より
大陸間弾道ミサイル(intercontinental ballistic missile : ICBM)は、単純に他の大陸まで届くよという話で、ICBMだったかそうでなかったかは大した話ではないと思う。
使い方に経済性がなかったと言えばそうなんだろうけれど、単なる脅しだからねぇ。不良在庫処分とか、新製品テストだったという可能性も。
追記3
ああ、とうとう下手人が。
プーチン氏、ウクライナに「新型の中距離弾道ミサイル」使用と
2024/11/22
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は21日、ウクライナ東部ドニプロ市への攻撃で、「新しい通常兵器の中距離弾道ミサイル」を使用したと明らかにした。ウクライナ政府はこれに先立ち、ロシアが大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したと発表していた。
プーチン大統領は演説で、「オレシュニク」と名付けた新しい極超音速の中距離弾道ミサイルの発射「実験」を実施し、「目標に到達した」のだと述べた。
大統領は、「アメリカ製とイギリス製の長距離ミサイルが使用されたことに対応し、今年の11月21日、ロシア軍はウクライナの軍産複合体拠点のひとつを攻撃した」とも述べた。
BBCより
行方不明になっていたといわれていたプーチン氏が表に出てきて、「新しい極超音速の中距離弾道ミサイルの発射」をしたと表明した。
これで、ICBMではなかったことが明らかになったんだけど、中距離核戦力全廃条約(Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty:INF条約)で開発が禁じられていたカテゴリーの新開発弾道ミサイルだったってことも明らかになった。
少し昔の話をすると、核戦争は世界を滅ぼすという話が出てから、米ソで話し合いが持たれて開発にブレーキを掛けようという話になって、第一次戦略兵器削減条約だとか新戦略兵器削減条約だとか、色々な条約が結ばれ、そのうちの1つがINF条約で、中距離弾道ミサイルの開発は止めようって話になっていた。
ところが、アメリカが「こんな条約意味がない」と2019年2月1日、ロシア連邦に対し条約破棄を通告。INF条約は失効した。アメリカがキレた理由は簡単で、ソ連やロシア連邦はINF条約など無視して巡航ミサイルの開発をし、この網にかからない支那が凄い勢いで弾道ミサイルの開発をやったので、相対的にアメリカだけが戦力を減らした(実質あまり減っていないと言われているが)として、条約を破棄したんだよね。
で、ロシアは大手を振って中距離弾道ミサイルの開発も出来るようになった。
プーチン大統領は、新型ミサイルの速度がマッハ10(秒速2.5~3キロ)のため、迎撃は不可能だと強調。さらに西側諸諸国に対して、「どういう展開があってもロシアは対応できる。これを疑う者がいるなら、疑うのをやめるべきだ。我々は必ず反撃する」と警告した。
BBC「プーチン氏、ウクライナに「新型の中距離弾道ミサイル」使用と」より
今回のミサイルはそうした背景で作られた中距離弾道ミサイルだったようで、これはすなわちヨーロッパが射程圏内に収まるよと言うことを意味するんだな。
そういう意味でも「脅し」は鮮明になったね。
コメント
こんにちは。
ニュークを積んでないICBMなんて「トンデモ残念兵器」が存在するのか!っていうことに一番びっくりしてました。
まあ、地続きの所に撃ってるから、「大陸間」じゃないわけですが。
着弾の被害がはっきりしないですが、思いの外小さいように報道されてますから(負傷者二人、でしたっけ?)、弾頭外したICBMというのも有り得るかなとは思いますが……
逆に、核搭載可能なICBMを、アメリカの監視網下にあるサイロから打上げたら、ペンタゴンが蜂の巣を突いたみたいになってると思うので、その意味でも「ICBMではない」のかも、とは思えます。普通の中距離弾道弾で充分同じ事出来るでしょうから。
どっちにしても、米英の長距離兵器に対する回答なんでしょうけれど、やる事が雑すぎる気がしますね。
こんにちは。
弾頭積まない弾道ミサイルを撃ったというパターンだと思うのですよね。
そして、アメリカはこのミサイル発射、案外把握出来ていたんじゃないのかな、という風に考えています。根拠はありませんが。
昔、大友克洋の「気分はもう戦争」という劇画で、核弾頭を外した(ラーメンどんぶり模様の)ICBMが、林彪の頭骨を積んでホワイトハウスに着弾する(爆発なし)というシーンを観てゲラゲラ笑ったですが、それを彷彿させましたね????
通常戦力でロシアはアメリカに敵わない。けど核を使えば、もう制限が無くなって、国連安全保障理事会の国々から核使用(可能性)のタガが外れるの目に見えてます。パキスタンにインドにイスラエルに…。そうなると核大国のアドバンテージは「人類破滅させるぞ」のワイルドカードしかなくなる!
それ一番に困るのロシアと中国。
撃てるわけないんですよ! だって少なくとも核攻撃のイニシアティブを失うもの。そこ解らないほどプーチンはアホではないと思いますが。
だてに元KGB中佐ではなかろうし。
ただ……「すでにイカれている」という想定になると解らない????????
たぶんウクライナの保有する超距離ミサイル、これまで8回は攻撃に使ってるから、そろそろネタ切れとなる。
その時に、追加補充を(ペンタゴンも反対してるし)断り、そこそこウクライナに条件をマシマシにして交渉する……そこで終わりでないすか?
ガチでやり合う度胸はバイデンにもプーチンにもないでせう。
まぁウクライナに勝って欲しい……のはムリだから、とっちも条件交渉の為にガタガタやってるだけな気がします。
ご指摘の通り、ウクライナ側はもう継戦も厳しくって、何とか一発逆転を狙ってロシアに侵攻しましたが、その占領地の維持にすら四苦八苦しています。軍の内部もかなりガタガタですね。
チキンゲームは、現時点ではロシアに部があるんですが、そもそもロシアは最初の時点で失敗していますからねぇ。
侵略戦争をやって経済制裁をくらう。これは本当に不味かった。
クリミア半島だけで満足していられれば良かったのですが。
で、条件闘争の段取りでガタガタ言っている感じなんですけど、見ている感じプーチン氏の方が一枚上手な気がします。
横合いから失礼します。
>そこ解らないほどプーチンはアホではないと思いますが
これが本当なら、過去の戦争は多分1/10くらいになってるのでは、って思います。
少なくとも、太平洋戦争は起こらなかったかなと。
※アレは、軍部と国民を煽った新聞の責任も相当にデカいと思ってます。そして、煽りに乗った国民が一番悪い。
※それはそれとして、関東軍はこれっぽっちも擁護する気はありませんが。
「予想出来る範囲の事は起こらない」って、十二国記の延王の台詞がものすごく重く記憶に残ってる七面鳥でした。