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「103万円の壁」の誤解と財務省の暗躍

報道
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何だろうなぁ、これ。

公明 国民幹事長会談 「103万円の壁」見直しなど協議へ

2024年11月1日 17時36分

衆議院で与党が過半数を割り込む状況となる中、公明党と国民民主党の幹事長が会談し、いわゆる「年収の壁」をめぐって国民民主党が主張している「103万円の壁」の見直しなどについて、協議を進めていくことで一致しました。

NHKニュースより

意図的なのか、意図せずなのかは知らないけれども、おかしな報道も散見されるよね。わざと誤解を広げようというような意志も見えるのだけれど。

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国民民主党の政策は受け入れられるか

単なる基準値に過ぎない

先ずは「103万の壁」というものが何なのかを説明していく。

「103万円超で働き損」は誤解 年収の壁、トリガー解除…自民、国民に譲歩の公算も課題

2024/11/3 16:18

自民党と国民民主党の政策連携では、年収が103万円を超えると所得税が発生する「103万円の壁」の解消と、ガソリン税の一部を軽減するトリガー条項の凍結解除という国民民主の目玉政策に対し、自民がどう対応するかが焦点だ。自民は国会での多数派工作のため国民民主に譲歩する公算が大きいが、それぞれの政策には課題もある。

産経新聞より

産経新聞が用意した図が分かりやすいかと言うと、どうかと思うのだけれど。

税制上、年間103万円を超える所得があると所得税が課され、130万円を超えると社会保険料が課され、150万円を超えると配偶者特別控除が減少するような話になっている。

国民民主党が主張しているのは、この仕切りを移動させようという話で、なにか法改正が必要だとかそういった話にならないので、比較的容易に変更可能である。

結果的に税収減になる?

さて、そういう話の中で、例えば所得税が発生する金額を178万円からという風に移動させると、「結果的に徴税できると見込める金額が手に入らない」ということになる。

「年収103万円の壁」解消で年7兆~8兆円減収 官房長官見解

2024/10/31 13:23(最終更新 10/31 18:15)

林芳正官房長官は31日の記者会見で、国民民主党の主張通り「年収103万円の壁」を解消した場合、国、地方で7兆~8兆円程度の減収が見込まれるとの見解を示した。

国民民主は、年収が103万円を超えると所得税が課税され手取りが伸びなくなる「年収103万円の壁」の解消を目指し、基礎控除などの合計額を75万円引き上げ178万円とするよう求めている。

林氏は「政府としてのコメントは差し控える」とした上で「単純に基礎控除の額を国と地方で75万円ずつ引き上げた場合の減収額を計算すると、国、地方で7兆~8兆円程度の減収と見込まれる」と説明した。

毎日新聞より

官房長官の林芳正氏が「説明」している内容なのだが、これの計算は単純に103万円を178万円にすると、「本来、徴税できたはずの税金が減ってしまう」というもので、実際に減収するという意味ではない。

例えて言えば、1000円の商品を900円に値下げしたら売り上げが10%減ってしまう!と言っているようなモノだ。売り上げは当然、実際の商売の結果によって生じるわけで、値下げして売り上げが増えるかどうかは結果を見てみないと分からない。世の中に「売り上げセール」とか言って一部目玉商品を値下げしての集客拡大を見込む商売の仕方があるのだが、財務省やマスコミの方々はそういう日常は見えていないらしい。

実際、減税した効果で国民の手取りが増えるので、それが全部貯蓄に回るなんてことにならなければ、税収は増える。更に、「働き控え」が減ることで経済が活性化する可能性がある。いわゆる乗数効果という奴なのだけれど、そういう話も完全無視。

「7兆円の減税」は、国民に「7兆円を配る」ことに他ならないので、つまり経済効果が出る。この計算は財務省の「試算」には入っていないのである。

だがその議論をするのは、財務省にとって都合が悪い話となる。

働き控えは存在するのか

分かりやすい話がこちら。

改革本丸は社会保険料

2024年11月1日 2:00

働き控えを招くとされる「年収の壁」は税金の103万円だけではない。むしろ手取りが大きく減る社会保険料の106万円と130万円の方が影響が大きい。課税や保険料負担を避ける目的で働く時間を抑える人が出る現状を改めないと、人手不足という日本経済の問題に対処できない。

日本経済新聞より

103万円の壁よりも、他の壁にヒビが入ってしまうのが困るということになっている。

だからといって、この壁、所得税の「基礎控除」(現在48万円)と「給与所得控除」の最低保障額(現在55万円)の合計が103万円ということになっていて、これが改定されたのが1995年のことで、それから28年間固定のままなんだよね。

そもそも「基礎控除」と「給与所得控除」というのは、「収入が最低限の人からは徴税をやめましょう」ということなのだけれども、年収103万円ではまともに暮らしていけないのは説明するまでもない。最低賃金を上げる話をしたり、生活保護を上げる話をしていても、この壁の変更をするのは嫌だというのはちょっと理屈に合わないよね。

デフレが続いていた日本だが、流石にインフレ状況にあって、こういった数値の見直しが必要とされる時期に来ている。そもそも、この手の数字は経済状況に合わせて毎年見直しされるものなので、28年間も同じ数字のまま放置したことこそがおかしい。

また、「ブラケットクリープ」と呼ばれる経済現象があるが、これはインフレによる物価上昇で賃金が上がっても、所得税額がそれ以上の比率で上がり、実質所得が目減りしてしまう現象である。このブラケットクリープを抑制するという意味でも、減税措置は妥当であると言え、「103万円の壁」は割と手頃な手段なのである。

したがって、国民民主党の主張は割と妥当なのだ。

こんな感じの説明をしている玉木氏だが、みんな手取りが増えるということは歓迎することだろうと思ったが、メディアはこぞって反対を表明していてなかなか興味深いね。

財源の話

あと、「高所得者優遇だ」という議論もあるのだが、これは木を見て森を見ずといったものだ。

国民民主党の減税案

2024年10月24日(木)

今回の選挙で、国民民主党は「基礎控除等の合計を103万円から178万円に引き上げ」るという政策を掲げています。同党の玉木代表がXに掲載した減税額の試算などから分析すると、この減税案の問題点が浮き彫りになってきました。

~~略~~

第二に、国民民主党は「103万円の壁」を引き上げるといいますが、年収103万円を少し超えた程度の低所得者には、わずかな減税にしかなりません。基礎控除が大きくなっても、控除しきれないからです。たとえば、独身の労働者の場合、給与年収が120万円なら2400円、130万円で1・5万円、150万円でも4万円程度の減税にしかなりません。

第三に、75万円に適用税率を掛けた額が減税額となるため、税率が高い高所得者ほど減税額が大きくなります。年収2000万円では33万円、年収2500万円では38万円の減税です。

しんぶん赤旗より

いつも思うのだが、大抵「金持ち優遇だ」という批判をする展開は筋が悪い。この話は、額面だけ見ると高所得者ほど減税額が大きくなるが、率で見れば低所得者に厚い制度とも言える。

高所得者から税金をとって、低所得者に給付しろというロジックは、実は極めて筋が悪い。

年収の分布(人数)
リクルートのサイトより

日本における年収の分布はこんな感じになっていて、「高所得者」というのは人口に対する割合が少ない。そこからどれだけ搾り取ったところで、低所得者に向けて配る(再配分)には僅かな金額となってしまうのが現実である。

税制上、850万円以上を高所得者と呼んでいるようだが、日本の人口のせいぜい9%程度である。徴税のことを考えれば、収入を得ているみんなに配分される方が経済効果は高い。

国の23年度税収、還付増でも2.5兆円上振れ 最高72兆円

2024年7月31日 11:35

財務省は31日、2023年度の国の一般会計に関する決算概要を発表した。税収は72兆761億円で、4年連続で過去最高を更新した。制度改正などで税の還付が増えたものの、企業の好業績を背景に想定よりも2.5兆円上振れした。24年度への繰り越しは11兆632億円で高水準にある。

日本経済新聞より

財源は増えた税収分で賄えば良い話で、「恒久財源が」というのであれば、寧ろ税収を確保できるような経済成長を目指すべきである。そもそも「財源」云々いう前に、税金として徴収しないという話なのだ。捕らぬ狸の皮算用をされても困る。国庫に納められて再配布するのであれば「財源が必要」という議論も出てくるが、そもそも徴税しないのだから「財源」の議論は不要である。

Xでは「税収が減ると再配分できなくなるから、困るのはみなさんだ」というおかしな主張をされている方もお見かけするのだが、働いたら手取りが増える方策のほうが健全だとは思わないのかね?そして、上に書いたように税収は別のところから取れるので、目減りするかもしれないがそこまで心配する必要はない。

そして、税務上、毎年のように色々な数値が見直されていて、ココだけが28年間変わっていなかったという程度のことなので、変えてしまえば良いのである。むしろ、アナウンス効果で景気にプラスの影響も期待できそうだしね。

追記

ええと、新宿会計士さんが分かりやすいポストを投稿していたので、紹介しておきたい。

引用すると、畳まれてしまうのが残念だが…。「103万円の壁」だけが問題ではなく、社会保障費なども関係あるよという話である。

別の記事だと、こんなのもある。

103万の壁、106万の壁、130万の壁、150万の壁とは?知らないと損する税金・社会保険の「収入の壁」│#タウンワークマガジン
パートやアルバイトで働く中で「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」「150万円の壁」という言葉を聞いたことはありませんか。これらは「収入の壁」と呼ばれ、夫や妻、親などの扶養家族でありながらパートやアルバイトで働く人にとって、...

税制上、どこかで線を引く必要はあるので、その線が「壁」になることは避けられない。そして、不公平が生じることもあるのだが…。これを緩和することもこれまで以上にやっていく必要があると思う。

追記2

さて、もう1つ紹介しておきたいポストがある。

米山氏は全力で財務省の「ご説明」に乗っかっちゃっているようなのだが、細かく計算している割に抜けが多い議論をしていて、実にご丁寧に説明を受けたのだなと感心した。

米山氏の議論に寄れば、「そもそも103万円の壁」などは存在せず、働き控えも存在しないということになっているのだが、しかし現実は労働調整をしている学生や主婦は少なくない。

何故か?それは親の扶養に入っている状態だから、103万円を超えないようにしないと、親が働いている会社に税務署から 「扶養控除等の控除誤りの是正について」というお便りが届いてしまう。

そして、親は指摘を受けた年度に遡って年末調整の再計算を行ってもらい、追加で納付する税額を算出し、 勤務先を経由して納付をすることになる。税法上の計算はおのおのやって貰えば良いのだが、概ね20万円分の追加納付が必要になったりするようだ。

まあ、2024年は今から働きを増やしても問題にはならないが、2025年度分から調整が必要になってくる。

追記3

まーたアホな記事が。

国民民主の減税案、実現なら自治体に打撃か「地方税収4兆円減」試算

2024年11月5日 18時36分

国民民主党が掲げる減税案について、村上誠一郎総務相は5日の閣議後会見で、地方税の減収が4兆円にのぼるとの試算を明らかにした。国と地方を合わせた減収分7兆~8兆円のうち過半を占め、地方への影響がより大きいとみられる。

朝日新聞より

もうね、どうしてこんな記事を書いて「新聞紙だ」と偉そうな顔を出来るのか。大体、試算したなら計算根拠を示しなさいよ。

総務省は住民税が非課税になる枠も75万円引き上げて、118万円にすると仮定。村上総務相は会見で「機械的に計算すれば、地方の個人住民税だけで4兆円程度の減収と見込まれる」とした。

朝日新聞「国民民主の減税案、実現なら自治体に打撃か」より

地方自治体に働きかけるためにこんな阿呆な記事を書いたようなんだけど、前提がおかしいんだよね。

高所得者ほど税率が高くなる所得税と異なり、住民税(所得割)の税率は一律10%。非課税枠が75万円広がった場合、年収118万円より多い人は、単純計算で年7万5千円ほどの減税になる。

朝日新聞「国民民主の減税案、実現なら自治体に打撃か」より

インフレ基調で賃上げの期待が高まっている状況なのだから、所得が高くなった場合の計算を何故しないのか良く分からない。

「機械的に計算」がごまかしのためのレトリックで、住民の所得が高くなる想定は全くしていないという意味である。当然、103万円の壁として働き控えをしている人の事情も全く考慮していない。

恐らくは所得税収は減るのだろうけれど、何の参考にもならない数値を挙げるのは如何なモノか。もし地方税が減るのであれば、政府から補填するということを考えれば宜しい。

なお、真面目に計算した方の記事を紹介しておこう。

国民民主党・経済政策の財源問題①:減税は財政赤字を削減させる?

2024/11/05

~~略~~

ちなみに、所得税の基礎控除などを103万円から178万円まで引き上げ、それ以上の年収の人には従来通りに103万円の基礎控除などを適用する場合には、筆者の計算によれば、税収の減少規模は年間1030億円程度にとどまる(コラム「国民民主党の基礎控除等拡大策(年収の壁対策):1,030億円程度の減税規模で217億円程度の景気浮揚効果か」、2024年10月30日、「国民民主党の減税策(103万円の壁対策)を与党は修正のうえ受け入れるか」、2024年10月30日)。

NRIのサイトより

具体的な数字を示した試算によれば、税収の減少規模は年間1030億円程度だって話になっているんだけど?4兆円減収はどこから来たのさ。

なお、情報はキチンと開示する必要があるので、ネガティブな情報も紹介しておこう。

政府試算の7.6兆円規模の所得減税(103万円の壁対策)が実施される場合、内閣府の「短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版)」による計算では、GDPは1年間で0.27%押し上げられる。他方で、財政収支の名目GDP比で1.20%悪化してしまうのである。1年以上先まで見ても、財政収支は改善しない。

大規模減税で財政再建ができるといった主張は魅力的ではあるが、実際にはそのようなことは起こらない。

NRIのサイトより

「大規模減税で、経済活性化だ!」というバラ色シナリオはちょっと懐疑的だよ、という話。せめてこうした議論を真面目にやろうぜ。

コメント

  1. 砂漠の男 より:

    総税率が50%を超えているといわれる日本の現状を恥じる政治家がいないことが大問題。

    財務省は昔から恥知らずですけど。

    そもそも日本の税制は歪で、数字をこねくり回していることが元凶です。

    とりあえず、現状の改革には財務省を歳入庁・歳出庁に分割し、金融庁と国税庁を独立組織にすることからでしょうか(横滑りの天下り禁止)。

    • 木霊 木霊 より:

      税制の話は政治家としてもやりにくいのかもしれませんね。
      しかし国民を代表して議員になっているのですから、その辺りはしっかり国民の声を聞いて欲しいものです。

  2. 七面鳥 より:

    こんにちは。

    もう、新聞は労働者の味方ではない、と言うのを自分でゲロってどうする!って感じですね。
    坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとはよく言ったものです。
    袈裟どころか、檀家もまとめて呪う勢いですが……

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。

      新聞はメイン読者層が既にリタイア組なので、そこに阿る記事を各紙か無いのでは?

  3. 七面鳥 より:

    こんにちは。

    本件、国民民主にはある程度の期待をしていたのですが……

    タマキン……

    ※この渾名に恥じないお下劣な騒動で風向き変えるとは……