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太陽光発電事業者買収を後押しする制度の意味

環境技術
この記事は約12分で読めます。

これも過去に書いた記事ですね。頂いたコメントは読ませて頂いていますが、現時点ではお返事は書けそうにないのでご了承下さい。

面白い制度を始めたと、少し興味を惹かれたのでニュースを読んで行きたいと思う。

太陽光発電 “事業者買収を後押しする制度”導入の方針 経産省

2024年10月19日 11時29分

日本のエネルギーにおける太陽光発電の存在感が増す中、経済産業省は来年度から一定の要件を満たした事業者に国のお墨付きを与え、ほかの事業者の買収を後押しする制度を導入する方針を固めました。太陽光発電が増えるきっかけになった優遇措置が2032年以降、順次終了するのを前に、優良な事業者による再編を進めたい考えです。

NHKニュースより

一見、太陽光発電を推進する制度に見えるが、どうやらそればかりでもないようだ。

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太陽光発電が抱える問題

発電方法として安定的な電力供給が出来ない欠点がある

僕自身は太陽光発電を増やすことに関しては否定的だ。理由は幾つかあるのだが、大きな理由としては2つ。

  • 天候に左右される発電方法であるため、電力需要とマッチしないことが多い
  • 自然破壊を伴う開発が行われがちな現場がある

大体の人は、「ああ、それはそうかも」という風に理解いただけると思う。他にも色々あるのだろうがが、今回はこの2つについて少し解説しておきたい。

先ずは、電力需要に関するグラフを2つご紹介しよう。

一日の電力需要変化
一年の電力需要変化

ちょっと過去のデータも入っていて分かりにくい部分はあるが、1日の変化においては、近年の大体の傾向として15時~16時頃がピークで、5時~6時頃が需要が最も少なくなる時間帯となっている。

一方で年間の傾向としてはピークは2つ。7月が最も電力需要が盛んであり、ついで1月も電力需要が高まる時期になっている。

では次に、太陽光発電の発電量はどのような変化を辿るか、をお示ししたい。

一日の発電量の変化
一年の発電量の変化

当ブログでデータを作っていないので、グラフの種類を揃えられず申し訳ないが、他所のサイトが示しているデータのほうが信憑性という意味では良いだろう。

で、1日の発電量推移に関して言えば、ピークは12時半頃。18時から翌日5時半くらいまでは発電はしない。

年間の推移で言うと5月が最も発電量が多く、8月が2番目となっている。

詳しい分析はしないが、需要と供給がマッチしていないことはグラフから一目瞭然だろう。まあ、太陽が出ていなければ発電できないのは自明の理なのではあるが。

需要の穴埋めできる手段が必要

需要はあるのに全く発電できない時間、つまり夜間はどうしても他の発電方法に頼らざるを得ず、日中でも曇天や雨天などは発電量が減るので、別の発電方法で補う必要がある。このあたりは共通認識としてまず押さえておきたい。

では、現状はどうしているのかと言うと、主に火力発電により補っている。あと、可能であるところは揚水発電を利用している。

2017年4月30日における、九州電力の実際の電力需給実績を示したグラフです。

このグラフは2017年4月30日の九州の電力需給実績で、九州地方は比較的日照条件が良く、太陽光発電向きの土地だとは言われているが、比較的太陽光発電に有利な時期の状況を見ても他の発電手段によって補う部分が多いことはわかる。

さて、このグラフについて少し解説しておきたい。

まず、原子力発電や水力発電だが、これは全国的に新たに増やすことは難しい状況だ。水力や地熱も同様。直ぐにたくさんの発電所を作るということは不可能だという事情があるので、徐々に増やすしかないだろう。揚水発電は悪くないのだが、これも事情があって簡単には増やせない。

が、これらの発電方法は、24時間安定的に発電できる有用な発電方法でもある。

火力発電は、出力調整が容易なので一番割合が多いが、燃料費高騰の影響があって安く発電する手法とは言い難い。

揚水発電は電池のような役割を果たすが、適地を探すのは結構難しいらしく、場所を選ぶ発電手法と言える。九州地方の現状では太陽光発電のカウンターパート的な役割を果たしていると言えよう。

それぞれの発電方式が抱える問題

さて、もう少し具体的に発電方式に関する問題をまとめておく。

原子力発電の方は、事故による風評被害が大きく、新設はほぼ絶望的である。確かに事故の影響は甚大なので、無ければそれに越したことはないのだが、現実問題として国内には未だ50基近くの原子炉が残っていて、有効活用できるのは27基だ。内訳は再稼働12基、審査中10基、設置変更許可中5基、未申請9基、廃炉24基だ(2024年4月19日時点)。ここで言う設置変更許可申請は、新規制基準を受けて変更を加えたものの事である。稼働していてもしていなくても安全性に大差はないし、稼働しないままにしておくと燃料を冷やすために電力を喰う困った存在なのである。利用価値のある施設は積極的に有効活用していきたい。

そして、再稼働数の多い九州では4基が稼働していて、これが電気料金にも影響している。原発で作る電力は安く、安定供給が可能なんだよね。価格に関する議論は多少あるけれども。

次に、水力発電。水利権などの絡みがあって、ダムなどを新設するのに30年とかざらで、水力発電に適した河川をこれ以上探すことも難しいため、積極的に増やせない。比較的安く安定的に電力供給できるから、作ることができれば優秀な発電方法なんだけどね。

一方お仲間の小水力発電は有望視されるが、メンテナンスなどの手間がコストに見合わないとしてあまり拡大はしていない。ポテンシャルは1500万kWと世界でも破格だが、実際に増やすとなると現実的ではないケースが多いのも事実だ。

揚水発電は、水力発電に類する発電方法で、電力供給過多な時間で水を汲み上げ、電力需要型な時間に放水する一種の電池のような役割を果たしてくれる発電で、有望視はされている。ただし、将来的な需要が見通せないという事情(国の電力計画がブレていることも一因)や、主体的に発電するわけではないので、投資効果が見込めるか不確実性が高いと見られていることが原因で、積極的な開発は行われていない。発電コストは高めだしね。

そして、地熱発電は九州地方では有力な発電方法だと見られているけれど、温泉地との調整が難しいことが多く、爆発的な増加は見込めない。

太陽光発電はそういう意味で増やしやすい発電方法なのだが、上で説明したように発電の調整が困難なことから「出力制限」が求められている。

出力制限って何?

一応、出力制限にも簡単に言及しておく。

発電所の発電量(出力)を調整することで、電力需給のバランスをとる「出力制御」。その順番は大まかに言って、①火力→②揚水→③大型バイオマス→④太陽光・風力→⑤原子力・水力・地熱(長期固定電源)の順となります。これを「優先給電ルール」と言います。

九州においては、上の図に示した2017年4月のタイミングでは2基の原発が動いていましたが(鹿児島県・川内原発)、2018年3月には佐賀県・玄海原発も再稼働しました。一方で、九州の太陽光発電はこの1年でも増加傾向にあります。このため、前述したようなあらかじめ決められた順番にしたがって、火力発電の出力制御や揚水発電の活用をしても、なお需要以上に電気が発電され、電気が余る可能性があります。その場合には、太陽光・風力までも出力制御をするような事態になることが考えられるのです。

経済産業省のサイトより

上で書いたように太陽光発電は自分で発電量を調整できないということと、天候に左右されるという特性がある。それ故に、優先給電順位を下げる理由となっている。

これを「勿体ない」と喚くアホウがいるが、電力の安定供給が第一優先である。したがって、発電量を調整できない欠陥を持つ発電方法はペナルティーを受けても仕方がない。

このため、たとえば昼間の時間帯に、太陽光を優先して原子力の出力を落としてしまうと、朝や夕方など太陽光の発電量が減少する時間帯になった時、原子力をすぐ元の出力に戻して不足分を補うことができません。そこで、すぐに稼動できる火力をたき増すことが必要になってしまい、結局、コストとCO2排出量の両面からマイナスとなってしまうのです。

経済産業省のサイトより

合理的に考えて、制限をした方が良いというのが現状の判断なのである。

蓄電所を増やせるか?

これを解決する方法としては、1つは上に挙げた揚水発電と組み合わせること。もう1つが似たような話で大規模充電施設の利用である。

「蓄電所」ビジネスが本格始動、再エネ移行の鍵握る-新規参入相次ぐ

2022年9月2日 6:00 JST

電力を蓄える「蓄電所」ビジネスが、国の後押しを受けて本格的に始動する。電力会社に加え、オリックス住友商事などの事業会社も同事業への参入を表明した。

Bloombergより

蓄電所の利点は平地が利用できるということだ。「何言っているの?」と言われるかもしれないが、揚水発電が高低差を利用する発電方法である以上、山間地でないと作ることが出来ない制約がある(無理やり高所を作る方法もあるが、採算が採れるかは疑問)。

というわけで、平地に蓄電所を作るとなると、二次電池などを利用した方法がある。

住友商広報担当の長尾拓海氏によると、同社は20メガワット時の容量を持つ蓄電所を北海道千歳市に建設中で、24年3月までの稼働を目標としている。日産自動車の電気自動車の使用済み電池を再利用しているのが特徴だ。

Bloombergより

ふむ、20メガワット時の容量ね。

国内で系統蓄電所が急増、テスラやCATLも参入

2024.07.23

電力系統に接続して、電力の平準化を図るための大規模蓄電システム(系統蓄電所)が国内で急速に増えている。これまでは、いわゆる実証実験がほとんどだったが、ここへきて事業化を進めるフェーズに移行した。

日経XTECHより

ビジネスとしては、出力制限を受けるレベルで太陽光発電する場所で、安く電力を買って、電力需要の高い時間に売るという手法で利益を出すことができる。

具体的には、2024年4月から蓄電池が得意とする応動時間†が短い「二次調整力(2)」「二次調整力(1)」「一次調整力」といった市場取引の商品区分における調整力としての電力の調達が始まった(図3)ことである。これにより、電力系統における余剰電力が増えて市場価格が下がった時に電力を蓄電(買電)し、不足気味の時間帯に放電(売電)する「アービトラージ」と呼ばれる運用などで、高い収益を得られる可能性が広がった。

日経XTECHより

面倒なことを書いているが、要は安く買って高く売れる状況ができたという意味だな。これはこれで良いのだが、蓄電所は発電施設ではないので自分で電力を生み出さない。需要と供給のミスマッチがなければ成立しない商売でもある。

優遇措置ありきの発電方法

さて、色々な問題があることは指摘したが、もう1つ指摘していない問題がある。それが「優遇措置」の話だ。

日本の太陽光発電は2012年に事業者が発電した電気を電力会社が固定価格で買い取る国の優遇措置が始まって以降急速に広がり、2022年度には日本の発電電力量全体の9%余りを占めるようになりました。

ただ、20年間の優遇措置が終わる2032年からは採算がとれなくなった事業者の撤退が相次ぐのではないかという指摘が出ています。

NHKニュース「太陽光発電 “事業者買収を後押しする制度”導入の方針 経産省」より

もともと菅直人政権の時代に始まった、無理のある発電方法が太陽光発電の正体である。当初は採算割れ確実だったので、下駄を履かせる制度を作った。でも、増え続ける太陽光発電に下駄を履かせ続けることは出来ないので、優遇措置を絞りつつある。そして、最初に申し込んだ業者は、2032年に期限を迎えるわけだ。

下駄がなくなれば採算割れする可能性は十分にあるのだけれど、これは設備投資を新たにしなければならないタイミングで、十分な資産がない業者がいる可能性があるという意味だろう。

こうした中、関係者によりますと、経済産業省は国内全体で太陽光発電を長期安定的に続けられるようにするため、来年度から優良な事業者による再編を後押しする制度を導入する方針を固めました。

具体的には一定の要件を満たした事業者を国が認定し、ほかの事業者を買収する際の手続きを簡略化する仕組みで、今月22日に開かれる経済産業省の審議会で素案が示される見通しです。

NHKニュース「太陽光発電 “事業者買収を後押しする制度”導入の方針 経産省」より

で、買収とか合併とかしやすい環境にして、継続的に太陽光発電を続けてくれる業者を優遇しようという話になったようだ。

そうしないと、全部の業者が太陽光発電を放棄する可能性がある。何しろ、採算性に問題がある発電方法だからね。

ある意味環境保全にも繋がる

まあ、山に発電パネル並べたまま放置するような悪質な輩もいるので、集約していくこと自体は悪くないと思う。

つまり、今回の制度設計は、おかしな中小業者が増えすぎたので質が悪いところを駆逐したいという狙いがありそうだ。放棄すればいいやという業者は、土地の基盤づくりから排水などの設計などのノウハウなど何もなしに工事を始めてしまう。そんな業者が日本各地に溢れてしまい、流石に対応を考えざるを得なくなったということもあるんだろう。

小規模太陽光の売却情報、長期運転の事業者に先行提供/エネ庁

2024/10/23

経済産業省・資源エネルギー庁は22日、各地に分散する低圧の小規模な太陽光発電事業を集約して、効率的に運用する「長期安定適格太陽光発電事業者」の認定要件案を示した。小規模事業を集約する適格事業者が、事業売却希望の情報を一般への公表前に先行して取得できるようにする方針。

エネ庁によると、事業用太陽光のうち、10~50キロワットの低圧は34%を占め、発電設備の所有者も分散している状況だ。FIT(固定価格買取制度)が始まった2012年度から16年度に導入された計約2900万キロワットの事業用太陽光が、20年間の支援を終える32~36年度以降も長期に運転を続けるためには、設備に再投資できる事業者に集約することで、効率化を図る必要がある。

電気新聞より

まあ、電気新聞にはそのものズバリ、狙いが書かれているんだけどもね。ただ、これだけ読んでも「どうしてそうなのか」がやや理解しにくいと感じたので、少し掘り下げてみた次第。

地元の理解を得る

当たり前の話ではあるが、こういった事業者買収を認めた背景には「信用のおける業者が、適切な運用をして欲しい」という、事業を継続する上では当然考えて然るべきな話がある。

太陽光発電の再編促す…エネ庁、有力事業者の買収に優遇措置

2024年10月28日

経済産業省・資源エネルギー庁は太陽光発電事業の再編を促すため、5万キロワット以上の発電実績を持つ企業を認定し、同業他社の買収に関する優遇措置を行う仕組み案を示した。審議会などで検討を進め、2025年度の導入を目指す。

~~略~~

適格事業者の要件案には、周辺地域の住民など地域関係者からの信頼を得ることなどが盛り込まれた。今後は25年春めどの制度開始を目指し、認定要件や優遇措置などの詳細を詰める。

ニュースイッチより

地元の反対を押し切って、太陽光発電パネルを設置可能な制度というのがそもそもおかしいんだよね。

火災発生時にどのような対応をするとか、トラブルがあった際には何処に連絡するだとか、色々なことが決まっていないところが太陽光発電をやっているから問題なのであって、最低限のところを抑えるべく制度を修正する必要があるんだろう。

今回のコレは、おそらくそれが狙いなのだろうけれど……、骨抜きにされて巨大資本を持った外資が買収する展開も考えられる。要注意な話ではあるよね。

コメント

  1. 河太郎 より:

    はっきり言ってムダだと想うすよ。
    居住する農園が風力活用している話はしましたが、海を見下ろす丘という立地条件があっての事で、他では通用しない!
    太陽光発電も同じすね。
    廃棄時の土壌汚染の可能性を考えるに、太陽光発電パネルの方が深刻かと。あれやると木々を伐採しまくるので山津波の可能性が高まる。それまで根に頼っていた土の結束力が突然死なくなるから、大雨の時に流砂化して山津波を起こす。当然にパネルは廃棄で、長く放置すると汚染になる!
    木霊様も申されたように、全地球的におきている熱波は、これ二酸化炭素と無関係とは言わないが、明らかに太陽活動が主因であり、脱炭素くらいじゃ屁にもならんでしょう。藻類からのバイオエタノールとか、
    他の研究に金をつぎ込むべきで。

    • 木霊 木霊 より:

      既に日本各地に太陽光パネルが設置されていますから、放置されるよりは責任持てる企業に集約できた方がマシだと思いますよ。
      上手いこと行くかはわかりませんが。
      メガソーラーは無くしていくことが理想ではありますが。

  2. 砂漠の男 より:

    政府・経産省の電力自由化政策の波に乗って、数多の電力事業会社が粗製乱造されてきた感がありますが、当然乱脈経営も相当あるのでしょう。

    先月、特捜がとある新電力投資ファンドにガサ入れして代表者を逮捕しました。いまやこの分野は伏魔殿の様相ですが、真の実態はこんなものではないでしょう。
    https://www.yomiuri.co.jp/national/20241002-OYT1T50197/

    支那による東アジアスーパーグリッド構想や日本国内での海上風力発電事業、韓国資本による日本国内での山林乱伐を伴う太陽光パネル事業など、不要な電力事業は引きも切りません。政府・経産省が電力の安定供給を本気で目指すなら、いくつかの原子炉運転再開で事足ります。

    電力は止められない経済基幹事業だけに、電力自由化の失敗には高い代償を払わされるでしょう。支那に電力事業を乗っ取られているフィリピンが悪例かと。

    • 木霊 木霊 より:

      新電力は何というか有象無象が湧いて出て大変ですね。
      そういえば、女川原発再稼働が実現したので、これで東北地方の電力供給は随分と楽になるように思います。
      価格も少し下げられるのでは?