いや、勤労奉仕団と言うべきか。
ロシア、鉄道建設などで14歳も勤労動員 軍民で人材争奪
2024年10月8日 17:03
ウクライナ侵略が長期化するロシアで働き手の不足が目立ち、労働市場における学生への依存が強まってきた。鉄道建設で組織的に学徒を勤労動員する案などが浮上する。小売りや工場の現場でパート勤務に就く学生が増えており、軍の徴兵計画に狂いが生じる可能性もある。
日本経済新聞より
労働力不足で学生を労働に駆り出す状況というのは、なかなかにヤバい感じがするね。
労働力不足は深刻に
学徒動員と日本の歴史
歴史を紐解いてみるまでもなく、大東亜戦争のさなかに日本政府が学生を労働力として使ったことは有名である。まあ、割とどこの国でもそういう事例は見られるのだが、国家存亡の時に貴重な労働力を遊ばせておくわけにも行かないという理屈はわかる。
でも、ロシアの場合は侵略戦争をやっているという状況だから、学生を労働力としてあてにする前に撤退しろよと。
日本の場合、盧溝橋事件(昭和12年:1937年7月7日)がキッカケとなって大東亜戦争に突入するわけだが、その翌年昭和13年には休暇中に学生は労働に従事することという通達を出している。本格的に労働力としてあてにしだしたのは昭和16年頃から。学徒戦時動員体制確立要綱の閣議決定は昭和18年6月25日で、労働力の不足が深刻化し始めたのもこの頃のようだ。
つまり、終戦の2年前にはあちらこちらで労働力不足が深刻化したという意味である。
「戦争は最悪だ」と、言葉にしてしまえば簡単だが、国の未来を背負う子供達の学習機会を奪うというのは、なかなか罪の重い話だ。もちろん、その時点で国家が消滅してしまえば未来を語ることもできなくなるわけだが、学徒動員に頼らざるを得なくなった時点でかなり絶望的な状況と言えるだろう。
やはり、日本も盧溝橋事件以後、何処かで大戦を回避する選択をしなければならなかったのだと思う。歴史に「if」はないのだけれど。
動員は評判が悪い
さておき、現代において「動員」を政策レベルで実施しようというのがロシアで、その実行はなかなか大変なようだ。
プーチン氏が命じた「動員」100万人規模か…対象外の大学生にも招集令状
2022/09/25 09:23
ロシアのプーチン政権が、ウクライナ侵略の兵員を補充するため発令した部分的動員を巡り、強引な招集の実態が次々と明らかになっている。動員規模についても、セルゲイ・ショイグ国防相が21日に言及した30万人にとどまらず、100万人規模との報道が相次ぎ、国民の不満は高まるばかりだ。露独立系人権団体によると、モスクワなどで24日、再び抗議デモが行われ、少なくとも554人が治安当局に拘束された。
讀賣新聞より
左派寄りの新聞は、現代の動員のことについて書きたがらないが、ロシアでの動員は2022年から既に始まっていて、この時は100万人規模で動員をかけたとされている。
ブリヤートでは、動員対象外のはずの大学生にも招集令状が渡された。南部ボルゴグラード州では、63歳で糖尿病などの持病も抱える退役軍人が、身体検査を受けずに招集された。
讀賣新聞「プーチン氏が命じた「動員」100万人規模か」より
ただし、この時の動員は非常に評判が悪かったらしく、それ以降、ロシアが日々戦力が損耗する中で追加動員という方針はなかなか実施されなかった。
が、今年の7月にはこんなニュースが。
ロシア 契約軍人19万人加わる 国民の追加動員避け兵力増強か
ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、ロシアの安全保障会議のメドベージェフ副議長は、ことし新たに19万人が契約軍人として加わったことを明らかにしました。国民のあいだで不満が根強い追加の動員を避けて、兵力増強をはかるねらいがあるものとみられます。
NHKニュースより
この時は「動員」ではなかったが、契約の仕方はかなり強引だったようだ。
契約軍人の実態はよくわかっていませんが、地方で暮らす生活が苦しい人や受刑者などに高額の報酬を提示して入隊者を集めたり、ロシアに移住して国籍を取得した移民を、ウクライナの前線に投入したりするケースが報じられています。
NHKニュース「ロシア 契約軍人19万人加わる」より
どうやら、入隊時に70万円の一時金を支給するというような方法を使ったようだ。

この一時金、入隊時に支給されるとされているのだが、地方政府が更にここに上乗せをするらしく、一時金は330万円にもなるケースもあるのだとか。
大盤振る舞いだが、ここまでしないと兵士が集まらないというのがロシアの現状である。
労働力も不足
さて、前線での兵士が不足しているのは、それだけ損耗しているという意味でもある。
ロシアの戦死者が7万人超す、約2割は志願兵 BBCなどの調査で明らかに
2024年9月20日
ウクライナにおけるロシア兵の死者数が7万人を突破したことが、BBCが分析したデータから明らかになった。
また、これらの死者の約20%が志願兵(開戦後にロシア軍に加わった民間人)だった。志願兵が戦場での死者数の最多を占めたのは、2022年にロシアがウクライナ全面侵攻を開始して以降で初めて。
~~略~~
私たちは、ウクライナで死亡したロシア兵7万112人の名前を特定したが、実際の死者数はこれよりも相当多いと思われる。死亡した人の詳細を公にしない遺族もいる。また、この分析結果には、私たちが確認できなかった名前や、ロシア占領下のウクライナ東部ドネツク州とルハンスク州における民兵の死は含まれていない。
BBCより

驚くことに、今年に入ってからの死者数が膨大な数に上っていて、攻勢が伝えられているロシア軍ではあるが、かなり無理な作戦を敢行している様子がこのグラフから伺える。
ロシア軍の死傷者31.5万人、ウクライナ紛争で=関係筋
2023年12月13日午前 4:09
ウクライナ紛争で、ロシア軍の死傷者がこれまでに31万5000人に達した。機密解除された米情報機関の報告書の情報を関係筋が明らかにした。ロシアがウクライナ侵攻に踏み切った2022年2月時点のロシア軍事要員は36万人規模で、そのほぼ87%に相当するとみられる。
ロイターより
去年末のデータだと31.5万人の死傷者だということだったので、7万人は如何にも少ない数字ではあるが、名前の特定できた死者だけなので、矛盾する数字ではない可能性はある。

いずれにせよ、労働力不足は去年末辺りから出ていたんだけど……。今回は鉄道工事に動員するという話。
教育省の高官は9月、教育政策を巡るシンクタンクの会合で鉄道の近代化工事に14歳以上の学生を動員する計画を提案した。
日本経済新聞「ロシア、鉄道建設などで14歳も勤労動員」より
これがまた、ちょっと意味深長なんだよね。
7月の事故
というのも、ちょっと前にこんな事故が。
ロシア南部で列車事故、トラックと衝突し脱線 140人負傷
2024年7月30日午前 2:15
ロシア南部のボルゴグラード州で29日、列車がトラックと衝突して脱線し、少なくとも140人が負傷した。ロシア鉄道が明らかにした。ロシア非常事態省によると、この事故で9両の車両が脱線し、消防と救助隊による乗客の救出作業が続いている。
ロシア鉄道によると、列車はタタールスタン共和国の首都カザンから黒海沿岸のアドレルへ向かって走行中、交通規則を破り踏切内に進入したトラックと衝突した。
ロイターより
全容ははっきりしないのだが、かなり大きな事故だったようだ。

これより遡って、去年末の事件。
ウクライナ、ロシア極東のシベリア鉄道の橋など「爆破」 BBC報道
2023年12月3日 1時35分
英BBCは、ウクライナ治安部隊幹部の話として、ウクライナがロシア極東シベリア鉄道の関連施設を11月末に爆破した、と1日に報じた。BBCによると、ロシアが「テロリズムによる犯罪行為」として調査を始めたという。
爆破されたのは、ロシアと中国の国境付近を走る、バイカル・アムール鉄道のトンネルや橋。爆発は11月29日と30日に発生し、報道によると、燃料タンクや線路などが損傷した。現時点で、ロシア当局からの爆発についての公式発表はないという。BBCは、爆発による損傷の程度は「確認できていない」とする。
朝日新聞より
これはテロ事件として処理されたわけなんだけれども、全体的にロシア国内の鉄道が随分と疲弊している印象が強いんだよね。
そもそも老朽化が問題とされているロシアの鉄道なんだけれど、制裁によって外国から鉄道用の資材が手に入りにくくなっている状況である。鉄道大国支那からの支援があるとはいえ、欲しい部品が十全に入ってこない。
そんな中での「近代化工事」というのが、一体何を意味するのかは、なかなか興味深い。ロシアは航空機産業の方が危機的なので、鉄道の方を拡充することで何とか流通を維持しようという思惑があるのかもしれないが……。
国防費増額
そういえば先日こんな記事を紹介した。
この時は「予定」の話だったが、実際に予算を組むことになったようだ。
ロシアの25年国防費、前年比25%増 予算案の3割超に
2024年10月1日午前 8:59
ロシア連邦政府は30日、2025年予算案を連邦議会に提出した。国防費は前年比25%増の13兆5000億ルーブル(1450億ドル)で、国内総生産(GDP)比6.3%となり、冷戦後の最高水準に達する。
国防費は予算全体の32%を占める。昨年の草案で政府は25年の国防費を21%削減する計画だった。
ウクライナ戦争を開始した22年に国防費は5兆5000億ルーブルだった。
ロイターより
国防費に概ね20.5兆円を突っ込む大盤振る舞いだが、そこまで兵器が損耗していることをも意味する。ロシアのGDPは更に押し上げられるんだろうね。
一方のウクライナ側は、というと、こちらはもう言及するのも気の毒になるような状況で、軍もそうだが政治もかなり救い難いまでに疲弊している。

もともと、ウクライナ政府の汚職と腐敗は深刻で、ゼレンスキー氏が2019年に大統領に当選した背景にもそういった事情があった。だが、それから3年。ゼレンスキー氏は大統領としては全く政治手腕を発揮できなかった。そりゃそうだろう、ウクライナの山本太郎と揶揄される人物である。政治のイロハも分からない素人に、腐りきった中央政府の中で仕事が出来るはずもない。
ウクライナの悪夢の始まった2022年2月24日が来るまで、ゼレンスキー氏は仕事らしい仕事が出来なかった。そのまま戦争に突入してしまって、なし崩し的に今まで大統領の座に留まっている理由は、良くも悪くもロシアの影響があったお陰であると言える。が、ウクライナという国家単位で見ると、全く何も前に進んではいないのだ。良くなる理由は何もないが、EU加盟へ進んでいることくらいは、明るい話題なのだろうか?EUは失敗同盟の様相が色濃くなってきているけれども。
というわけで、ウクライナも大概だが、ロシアもかなり疲弊しているよと言う話である。まあ、2年も戦争を続けていれば侵略側も疲弊するということなのだろうけれど、想像以上にロシア経済は痛んでいる感じがする。

次は学生を戦場に連れて行くようなことになるんじゃないだろうか。
追記
価格統制も始まったか?!
当局は地域がすべての商品の価格を制限できるようにすることを計画している
2024/10/10
政府は、必要に応じてあらゆる商品の価格を安定させるための協定を企業と結ぶ権利を地域に与える準備を進めている。これは連邦独占禁止庁(FAS)が作成した政府決議草案に基づくものだとイズベスチヤは書いている。
これ以前は、地域は社会的に重要な必需品に限り値上げを制限することができた。リストにはパン、牛乳、バター、鶏卵などを含む計24品目が含まれていた。非食料品を含むすべての物品を対象とするリストを拡大することは、「物品の価格を安定させ、国民の入手しやすさを高めるのに役立つ」とFASは指摘した。
このような措置を正当化する理由として、同サービスは、社会的に重要な食品のリストに含まれていない食品の価格が高いことに対する多くの国民の苦情を挙げた。したがって、今年の初め以来、FAS は食品価格に関する同様のリクエストを 1,200 件、その他の製品の価格に関するメッセージを 452 件受け取りました。
モスクワタイムスより
こ、これは。
次は配給だろうか?
追記2
人買いもやり始めているが、コレは以前からか。
アフリカ女性ら無人機製造か ロシア、虚偽広告で渡航200人
2024/10/11
AP通信は10日、無料航空券や接客業などの仕事を約束するソーシャルメディアの広告を見てロシアに渡航したアフリカ出身の女性ら約200人が、ウクライナ侵攻で多用される無人機の製造に従事させられていると、当事者の話を引用して報じた。
共同通信より
アフリカで部品組み立てやらせたら問題にはならなかったかも知れないけれど、ロシアに連れて行って部品組み立てやらせているのは国際的にも問題になりそう。
コメント
日本にとっては、とにかくロシアが疲弊してくれることだけが幸いですね。ロシアが勝利したとしても、高齢化、少子化、若者世代の消滅、永遠の経済制裁で日本を侵略する目は無くなりましたからね。
ロシアが疲弊したところで、北方領土を金で解決。
流れ的はそんなところでしょうか。
勤労動員が学徒出陣に変わる時があれば、
そこがロシア敗北の潮目でせうね。かつての大日本帝国みたく。
良く解るたのは、ロシアもウクライナも、どっちも戦後は疲労困憊で、第三者の金がないと悲惨な未来なことですね。
戦争を2年もやっていますから、人材枯渇は両国とも深刻ですよ。
経済は言わずもがな。
こんにちは。
航空万能論GFさんの所を見ていると、ウクライナはジリジリ、というかかなりの火勢の野火のごとくにロシアに攻め込まれ続けているわけですが、起死回生の一手はあり得ないので、ロシアが疲弊してどうにかなるのを待つ以外に打開策はないのだと思ってます。
※その意味で、クルスク州侵攻は「成功」とは考えてません。むしろ悪手かと。
ウクライナ自身もジリ貧ですが、西側が支えてくれていれば、何とか国体を維持することは出来る、犠牲は計り知れませんが……
問題は、鉄のカーテンの向こうは視えづらいので、ロシアの実態は誰も知らない、恐らくプーチンですら把握出来てはいないだろうという事ですね。
>勤労動員が学徒出陣に変わる時があれば
これを含め、いろんな約束を反故にする時が来たら、あるいは反故にしているのがバレたときが潮目なんだろうと思いますが、さて、何時になるか、バレたとして政権がどう動くか……
その時は、浸透しているはずの、西側の工作員に期待出来るのでしょうかね……
こんにちは。
ウクライナ軍が苦戦しているのは間違いありませんし、劣勢なのも事実でしょうね。
個人的には悲観する状況では未だないとは思っていますが、時間の問題なのかも知れませんね。
ロシアの疲弊度合いがどの程度なのか?チキンレースの様相ですね。