「ううん?何言ってんだコイツ」と思ってしまった記事があったので、一応紹介しておこう。
高度範囲はドローン以上…「無人航空機」事業化へ、新明和工業の危機感
2024年09月24日
新明和工業は電動やエンジンで飛ぶ無人航空機の事業化に挑む。無人飛行体では近年、垂直プロペラの飛行ロボット(ドローン)が急速に市場を席巻した。しかし、同社は有人機より高く飛行し重量物も積める無人機などで、新たな市場の創出を目指す。試験飛行を重ね用途も探索し、5年後に実用化の域へ達したい考えだ。
ニュースイッチより
ドローンという言葉が一人歩きすることで、混乱する人も増えているのか、こんな記事を見かけた。僕自身も混乱してしまったよ。
全体的な印象はギリギリ外れていないような気もするけれど、細部の表現にはどうにも引っかかる。
新明和工業とドローン
ドローンの定義
最近、ドローンという言葉を良く耳にするが、ドローン(drone)が「無人航空機(Unmanned aerial vehicle, UAV:遠隔操作で指向され、操縦手の搭乗しない航空機ないし飛翔体)」を含む概念であることが分かっていない人は意外に多いかも知れない。無人地上車両(unmanned ground vehicle, UGV)や無人水上艇(Unmanned surface vehicle, USV)、無人潜水機(Unmanned underwater vehicle, UUV)などまで含むことがあるので、広義には飛行体に限定されず、自立型の無人運転をするものを指す言葉として使われる。
ただ、断りなくドローンという言葉が使われる場合、多くは無人運転の飛行体を指すことが多い。尤も、明確な定義があるわけじゃないんだけれども。
一般的なドローンのイメージは、確かにクワッドローターの機体なのかもしれないが、クワッドローターだからといって無人機であるとは限らない。

或いは更に羽の枚数が多いものを含むかも知れないが、こういうのはほんの一部である。

イメージ的には分かりやすいが、では固定翼機はドローンに含まれないか?というとそんなことはない。


最近開発されているこの手の「空飛ぶクルマ」は、クルマかどうかは怪しいモノの、万博で飛ばすなんて話も実際にあったのだ。実現は不可能だって話にはなっているけどね。で、これはドローンに含まれるのだろうか?
答えはYes。
この手の乗員を必要としない人員輸送や旅客用途の無人機も、ドローンと呼ばれるのだけれど、人が乗るので有人ドローンと呼ばれるようだ。

小型の固定翼機もドローンとして開発が進んでいて、世界的に有名になっているのはトルコ製のこちら。

つまりね、基本「ドローン」は無人機なわけよ。したがって、紹介した通り固定翼機のドローンも当然ながら世の中に多く存在する。
だが、ニュースイッチの文章はかなり謎めいている。
無人飛行体では近年、垂直プロペラの飛行ロボット(ドローン)が急速に市場を席巻した。しかし、同社は有人機より高く飛行し重量物も積める無人機などで、新たな市場の創出を目指す。
ニュースイッチより
先ずこの文章だが、「垂直プロペラの飛行ロボット」がドローンなのか、「飛行ロボット」がドローンなのか、不明である。更にその後、「しかし」で文章を繋いでいるが、それだと「無人機」はドローンではないかのような印象を受ける。
そして、「無人飛行体」と「無人機」、その前に出てくる単語は「無人航空機」を何故書き分けたのか、意味が良く分からない。
また、「垂直プロペラの飛行ロボット」を「しかし」の前に持ち出したのに、「有人機より高く飛行し重量物も積める無人機」を対比に用いているのは垂直プロペラ式のドローンが、「重量物を積めない」かのような印象を受けてしまう。
色々不味いのでは?
高高度を飛行できるドローンといえば
で、新明和工業がドローン(無人航空機)に手を出そうというのだけれど、新明和工業と言えばUS2作っている会社だね。

かっこいいね!
ちなみに、高高度を飛行するドローン(無人航空機)といえば、日本はアメリカからお高い無人航空機を買っている。
大型無人航空機「シーガーディアン」である。
おそらく支那としては結構厄介だと思っている機体なのだが、海上保安庁でも使っていける機体であるので、まあまあ有用である。

とはいえ、運用行動は7,600m程度で、最高高度が15,200m程度なので、RQ-4「グローバルホーク」の方がより高高度で使える。RQ-4は実用上昇限度が19,800mだからね。もちろん、RQ-4もアメリカ製のアイテムだ。

残念なことに、自衛隊の保有する無人航空機はアメリカ製で、国産のものは少ない。
こちらの記事はNHKの社会部が取材したものなので穴だらけだが、雰囲気だけなら伝わるだろう。

この2種類の他に、実用機としてはスキャンイーグル(アメリカ製)なんてのもある。

一応、国産ドローンも採用はされているが…。

高高度で監視任務に関してはかなり少ない状況であるので、それを開発するというのはありだと思う。実際のところRQ-4「グローバルホーク」はコストが掛かりすぎて、アメリカでは退役する方針になっているし。
XU-S

新明和工業も、こうした方針は把握していたことと、いつまでもUS2一本槍というわけには行かないので、新たな分野を模索していたようだ。
いわゆる「ドローン」を含む無人航空機の市場は年々成長の一途をたどり、活用領域のさらなる拡大が見込まれている。同時に「長時間」「高高度」での飛行に耐え得る機体開発への関心も高まっている。
~~略~~
2019年10月9日には、新潟市の協力を得て、同市内で「XU-S」の飛行試験を行い、高度100m、見通し範囲内で1時間を超える自律飛行に成功するとともに、基本的な飛行性能を確認した。
新明和工業のサイトより
……ニュースイッチさんさぁ、記事書くんだったら、せめて新明和工業のサイトくらい熟読しようよ。書いてあるよ。「いわゆる「ドローン」を含む無人航空機」って。「それを開発した」って。
まあいいや。

実際に何度かテストをしていて、それなりにモノにはなっているようなのだけれど、じゃあ、どこがなんのために使うのか?というレベルのあるかというと、そうでもないようだ。
固定翼型ドローンを用いた上空の環境観測試験を実施しました
2020年12月7日
日本気象株式会社(本社:大阪、代表取締役:鈴木 正徳、以下 日本気象)は、兵庫県及び新産業創造研究機構(NIRO)が推進する「ドローン先行的利活用事業」として、2020年11月30日~12月2日に兵庫県淡路市において、新明和工業株式会社および神戸大学と共同で、長時間飛行可能な固定翼無人航空機(ドローン)による上空の環境観測試験を実施しました。 「ドローン先行的利活用事業」は、多様な分野で最新技術を用いたドローンを先行的に活用し、民間分野での利活用を促進するものです。
新明和工業のサイトより
以前からコツコツとテストはやっている様だけれど、今ひとつ業務に結びついていない感じだろうか。
共同開発・資金提供求む!
で、順調に開発できたか?といえば、そうでもなかったようだ。
宮内空野技術部UAV開発課長は「研究を続けるには社会の要望を聞き、資金協力も得る仕組みが必要。開発コストや労力が見合うには、万人が使う自動車のようなニーズがないと難しいと痛感した」と説明する。
ニュースイッチより
なるほど、金にならないと開発ができないと。それは真理だよね。
本研究は2015年にスタートしました。企業における研究活動は止まれば溺れる鮫のようなもので、あれこれ考えるばかりでモノを形にできなければ、社会にPRし反響を得てニーズを汲み取ることもできません。従って、「常に何を作るべきか悩みつつも人を説得し資金・場所・機会を獲得し続けなければならない」というのが一番苦労している点です。
新明和工業のサイトより
なお、新明和工業のサイトに紹介されている文章も開発課長の宮内氏のインタビュー形式となっているが、新明和工業のサイトの文章のほうが分かり易い。
今般開発している技術は、上記分野以外にもニーズに応じて機体規模・推進システム・ペイロード搭載方法・離着陸/水システムなどを変更することが可能です。性能・ミッションに関するご要望や、共同開発に関するご相談を受け付けておりますので、以下担当部門までメールでお気軽にお問い合わせください。
新明和工業のサイトより
で、平たく言えばパトロン募集と、そういうことらしい。
流れとしてはUS2の開発は一段落ついていて、新たな開発をやりたいけど新明和工業に投資してねという話である。で、その一環として考えているのが高高度を飛行できる無人航空機が挙げられていると、そういう話なんだよね。
そして、ニュースイッチもそういう文章の流れであったと思うんだ。ところが、後半を読むとそうでもなさそうなのである。
高高度固定翼無人航空機の開発
エルロンの研究
さて、最後の部分だが、NEDOといっしょに開発しているのが、エルロンなのだそうな。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から、他社と共同で採択されたエンジン機の計画もある。最高高度50キロメートルで成層圏に及び、積載可能量数十キロ。カメラや通信、光学、赤外線など多くの計測機器を積み観測範囲数百キロを想定する。一般に高度数百メートル、観測範囲数十キロメートルのドローンに比べ、明確に差別化できる。「気象や災害、海洋を広く高精度に観測したり、上空から中継し大規模な通信障害を復旧したりする用途で要望がある」(宮内課長)。人工衛星の一部役割を低コストと高度な観測分解能で補完する潜在需要を見込む。
ニュースイッチより
あれ?エルロン?

エルロンとは補助翼のことで、従来は金属構造のエルロンを採用しているのだとか。しかし、複合材料を用いることで軽量化が出来るのだとか。
2.航空機主要構造部品の複雑形状・飛躍的軽量化開発(別紙2-2)
2035年以降に投入される航空機への搭載を目指し、主翼などの重要構造部材に関して、既存の金属部材から約30%の軽量化(既存の複合材部材と比較すると約10%の軽量化)を達成します。
NEDOのサイトより
あれ、新明和工業が応募しているのはグリーンイノベーション基金事業で、「航空機主要構造部品の複雑形状・飛躍的軽量化開発」のハズなんだが。

なにかこう、ニュースイッチの書き方だと、エンジン開発やっているように読めるんだが。
航空機メーカーとしては空気力学や形状・構造、軽量化、自律・遠隔による飛行制御などで技術力を発揮する。自動車並みの小型エンジンに複数の過給器を設け、希薄な大気でも推進力を強める。3次元(3D)プリンターやシミュレーション(模擬実験)を駆使し、過給器や冷却の最適配置を設計する。
ニュースイッチより
うーん?
グリーンイノベーション基金事業の一環
ええと、政府主導(NEDO)で、水素航空機向けエンジン燃焼器の開発は川崎重工がやっていて、将来的には水素を燃料に使った航空機を実用化させたいという狙いがあるようだ。
グリーンイノベーション基金事業の一環として、水素航空機のコア技術開発や、次世代航空機に必要とされる航空機主要構造部品の複雑形状・飛躍的軽量化開発に取り組みます。本プロジェクトを通じて、カーボンニュートラルを目指す動きを国内航空機産業の競争力を飛躍的に強化する機会として捉え、水素や素材など国内の要素技術の強みを最大限活用することで機体・エンジンの国際共同開発参画比率(現状約2~3割)向上を目指します。また、航空分野の脱炭素化に貢献します。
NEDOのサイトより
圧力容器などとんでもない強度を要求されそうだが、研究開発するというからにはなにか目処はあるのだろう。
で、それとは別に航空機の燃費改善のための軽量化の一環として、エルロンに複合材料を用いる話がでているようだ。そこを新明和工業が担当していると。
高高度を飛べるドローンの実用化とはまた別の話で、なんというかニュースイッチの記事は、色々ごちゃまぜになっている感じがしてならない。
それとは別に新明和工業は高高度飛行の技術を用いた「高高度無人機による海洋状況把握技術の開発・実証」をNEDOから採択はしているようだが。
ううん、意味が良くわからない。ニュースイッチの記事の後半は新明和工業の話だけではない切り口になっていて、記事構成に問題がありそうな。
国産ドローンの開発を
とはいえ、最後のこの下りには賛同したい。
宮内課長は「海外は軍事用を含め日本よりはるかに進み、民間も法令が整備され活用機運が高い。日本は10年出遅れ、海外製を売りつけられるだけだ」と危機感を示す。官民の協力をリードし「メード・イン・ジャパン」の先陣を切る。
NEDOのサイトより
途中の流れはモヤモヤするものの、ギリギリ高高度飛行タイプの固定翼機の開発を頑張っているという内容に理解すれば、完全に間違いというわけではなさそうだ。
そして、日本がドローンの国産化を目指し研究を続けていくことは良いことである。何でもかんでもアメリカの開発品を買うという流れは業腹だからね。
コメント
こんにちは。
「エルロン」といえば、故アート・ショールの愛犬エルロン君……なんて、ここの方ですら多分誰も知らないネタはさておきまして。
ドローンといえばファイアビーとかそういう「オレンジ色の演習用ターゲットドローン」が真っ先に思い浮かぶ七面鳥であります。
ドローンとはオスバチ、つまり使い捨てとかそういう意味合いから来た言葉のはずですが……クァッドコプタをドローンだと思い込んでるのは、理系に関する知識が皆無の文系記者あるあるですね……困ったもんです(それを鵜呑みにする、鵜呑みにせざるを得ない、ソースをそれしか持たない情弱一般大衆も、ですが)。
昨今の、ロシアの弾薬庫爆破に成功したドローンなんて、巡航ミサイルと何が違うの?って言う話なんですが……「ドローン」の定義づけがなされてない、含まれる概念が大きすぎるのですよね。
で、新明和ですが……US-2の新規取得も決まったようですし、ここは一発頑張ってほしいところ(同期が就職していたはず)。
無人水上機の開発も始めてるはずなので、その話しとごっちゃになってるかな?って気はします。
https://www.shinmaywa.co.jp/insight/xum/xum_1stf.html
「航空機事業部が開発中の無人飛行艇「XU-M」 ドローンサミットでデモフライトを実施 2022年10月06日」
飛行艇の火を絶やしてほしくないです。二式大艇大好きオジサンとしては。
※アート・ショール:「トップガン」の空撮に関わったスタントパイロット、撮影中に墜落死されてますが、その事実を知る人は少ない……F14がフラットスピンするシーンの撮影だったと聞いてますが……
https://theriver.jp/tpgun-mvk-kosinski-pressure/
https://aviationworld.jp/aicphoto_detail.html&id=637
こんにちは。
アート・ショール、存じ上げませんでしたが、1作目のトップガンの撮影中になくなっているんですね。
調べてもネットからはあまり情報が出てきませんが、紹介頂いた記事を読む限り優秀な乗り手だったようで。
二式大艇、いいですね!US-2の新規取得はめでたいことですが、残念ながら更に製品開発という流れにはならないように思います。
なんにせよ、技術力のあるところにお金が流れて開発してくれることは、喜ばしいことです。ただ、開発費に困って変なところに情報が流れていかないか?ということも心配しなければならないんですよね……。