偶には政治や経済ではなくて、科学技術的な話を取り扱いたいね。
軽量で曲げられる次世代太陽電池、量産化へ導入補助案…主原料のヨウ素は日本が資源大国
2024/09/12 05:00
政府が次世代の太陽光発電の切り札と位置づけるペロブスカイト太陽電池について、今秋にもまとめる普及促進戦略の骨子案が判明した。ペロブスカイトの導入費用を補助する支援策を盛り込むのが柱だ。政府の後押しで需要を作り出すことでメーカーの量産化を促し、価格低下を図る。
讀賣新聞より
ペロブスカイトの技術は数年前から騒がれてはいるけれど、イマイチ技術的には進歩していない印象だ。
量産化を急いで欲しい
日本発の技術
というわけで、本日取り扱うのはペロブスカイト太陽電池という奴である。
ペロブスカイトは日本発の技術で、軽量で薄く、曲げられるのが特徴だ。
讀賣新聞より
名前が覚えにくい、発音しにくいというのがネックではあるのだが、何故、「ペロブスカイト太陽電池」というのか?といえば、ペロブスカイト結晶を使った太陽電池だから、仕方がない。
別の呼び方としては、色素増感太陽電池というのがあるのだが(正確には、色素増感太陽電池の一種がペロブスカイト太陽電池)、これも呼びにくいよね。
で、「日本発の技術」と書かれているのだが、2009年に桐蔭横浜大学の教授によって発明されたからであり、CH3NH3PbI3 を用いた当時の太陽光発電の効率は3.9%。
ただ、印刷技術を用いた製造が可能というところがポイントで、樹脂系素材に印刷すれば曲げられる太陽光発電池が出来上がる。シリコン型太陽電池は、シリコン結晶を使う関係で曲面に使うことが極めて困難である。そういう意味では形状的なアドバンテージはある。

だが、重要な点は日本国内でも容易に製造が可能という点である。シリコン系の太陽電池を製造するためには、原料を完全に支那に依存することになる。その点、国内で原料を調達可能なペロブスカイト太陽電池は、安全保障の観点からもメリットがある。
もう1つ大切なメリットがあるのだが、それは後述しよう。
日本政府も力を入れる
そんなわけで、日本政府も力を入れている。
“次世代の太陽電池”実用化に向けた事業の実施決定 政府
2024年9月10日 17時17分
次世代の太陽電池として研究開発が進められている、薄くて軽く、折り曲げることもできる「ペロブスカイト太陽電池」の実用化に向けて、国が福島県内の3か所に試験的に設置する実証事業を行うことになりました。
NHKニュースより
実証実験を国内で行う場所を確保したのだが、このペロブスカイト太陽電池がイマイチ製造に踏み切られない理由は2つ程ある。
1つは発電効率が低めであるということ。近年は様々な技術によってシリコン型太陽電池並の発電効率が実現できるようになったが、発電効率を上げるためにはコストが上がってしまうところがネックではある。
もう1つは、印刷技術で製造できる反面、寿命が短くなりがちであるという点。コストが劇的に下がればそれでも問題ないのだろうが、この辺りの改善のためにはコストが上がってしまう。形状が自由になるので建材に使えるのだが、寿命が短いことが足を引っ張るわけだ。この辺りが研究課題ということみたいだね。
日本がこのペロブスカイト太陽電池に力を入れている理由は他にもある。

これ、平地面積あたりの太陽光設備容量をグラフにしたものだが、結構な割合で日本では太陽光発電が普及している。意外な情報ではあるが、逆に言えば日本は平地面積が極めて少ないという意味でもあるんだよね。
そして、シリコン型太陽電池は重量があるために屋根に設置するケースが殆どである。ところが、ペロブスカイト太陽電池はその特性上、壁面にも使えるんだよね。
効率9.7%の半透明ペロブスカイト太陽電池、窓ガラスに応用も
2017.12.11
東京大学は11月29日、半透明ながらエネルギー変換効率9.7%と高効率のペロブスカイト太陽電池を開発したと発表した。人間の視覚は青(短波長)や赤(長波長)の光にはそれほど敏感ではないという特性を利用し、それらの光を効率よく吸収してエネルギーに変換することで、エネルギー変換効率を落とさずに透明度を高めた。
日経XTECHより
発電効率を犠牲にすれば窓ガラスに使ってもある程度の視界は確保できるし、壁面素材にも使える。屋根だけに使うという発想のシリコン型太陽電池とは違う分野で使うことができるというのがメリットとなる。
この記事は2017年のものであるが、半透明の太陽光発電パネルができるというのが大きなメリットがある。


構造図を見せても仕方がないのだが、何が言いたいかというと、色々な使用態様が考えられるってことなのである。

夢は広がるんだけど、日本だけが技術的に先行しているというわけではないところが、残念だよね。
早期に国内市場を立ち上げる
で、技術的には割と使えるだろうというところまでは来ているんだけど、実際に使ってみたというケースが少ないところがネックとなっている。
骨子案では「官民で連携して量産技術の確立、生産体制整備、需要創出を三位一体で進める」としたうえで、「事業者の生産体制構築を促す観点から、早期に国内市場の立ち上げを進める」と明記。補助制度で太陽光パネルとの価格差を埋め、国内市場を育成する。
讀賣新聞「軽量で曲げられる次世代太陽電池、量産化へ導入補助案」より
だからこそ、さっさと実証実験しましょうという流れになったわけなんだけれども、生産体制の構築を急いで低コストで生産できる目処がつけられれば勝機はあるんだよね。
パナソニックも頑張っているみたいではあるんだけど。
パナソニックHDがペロブスカイト太陽電池で発電するガラスを開発、透過度を調整可能
2023年08月31日 11時00分
パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)は2023年8月31日、開発中の「ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池」の概要について発表した。
~~略~~
ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の量産化および実用化の時期については2028年までを予定している。「大規模な実証実験を行った後に量産化と実用化を行う見込みだ」と金子氏は語った。
MONOistより
2028年までに量産化かぁ。時間は未だ必要だってことらしいのだけれど、もうちょっと急げると良いんだけど。今、支那はお金無くて困っているからね。
ペロブスカイトで発電した電気について、再生可能エネルギー買い取り制度の適用を検討することも盛り込んだ。政府はペロブスカイトを含む太陽光パネルのリサイクル費用補助も導入する方針で、これらの支援策で普及拡大を目指す。
讀賣新聞「軽量で曲げられる次世代太陽電池、量産化へ導入補助案」より
政府の梃子入れが何処まで効果があるのか?というところがポイントになってくるかも知れない。

この程度には可視光を透過するので、ビルのガラスなんかに使うには、かなり有用な気がするんだけれど。製造コストが電気代でペイできるような段階に至れば、広まるかも?
パナソニックHDでは現在、より大きなガラス基板にペロブスカイト太陽電池を形成するために、塗布面積が1m×1.8mという大型のインクジェット塗布装置の導入を進めている。
すでにこのインクジェット塗布装置の設置は完了しており、テストや調整を急いでいる。夏ころには、この新たなインクジェット塗布装置を使った1m級以上のガラス基板へのペロブスカイト太陽電池の試作を始めたいとしている。
そして2025年度末までに、この大型のインクジェット塗布装置で製造したペロブスカイト太陽電池のサンプル品を有償で出荷し始める計画である。
日経XTECHより
この辺り、投資ができる資金力のあるメーカー、国家が強いんだよね。半導体でも同じことが言えるんだけど。
コメント
こんにちは。
>この辺り、投資ができる資金力のあるメーカー、国家が強い
これに限らず「失敗を恐れずガンガン投資して、成功したものから製品化してバンバン売りまくる」が出来る企業や国(あるいはその複合体)が強いのは、
・半導体メモリでこれやって業界を焼け野原にしてからシェア取った半島国
・それを見て、今あっちこっちでそれやってる赤い国
が証明してますよね。
翻って我が国は、財務と経産の保身に凝り固まった官僚どもをなんとかしないと……
トヨタが一人気を吐くにしても、限度ってものがありますから……
こんにちは。
失敗する側に回りたくないという個人的な願いはともかくとして、産業の発展には失敗は付きもの。ある程度の失敗を織り込んで、失敗できる社会にして欲しいものです。
チャレンジから次のイノベーションが生まれますから、失敗を許さない社会なんてしょーもないことを言っていないで、失敗を許容できる社会であって欲しいものです。
頭が良くてお勉強のできる官僚の方々には馴染まない思想なので、政治家主導で頑張って政策を組み上げて貰うしかありません。
そして、開発は民間にお願いするというスタンスで、失敗したときのダメージコントロールがし易いような仕組みを考えて作り上げると良いかも知れませんね。
そういう意味では、日本も「水に落ちた犬を棒で叩く」文化なんですよね、哀しいことに。
そういう格言が存在しないだけまだマシですが。
かのトランプ氏ですら、何度か破産してますから、そういう「再起」が出来る部分は、アメリカを見習いたいものです。
※事故調が責任者の吊し上げしているうちはダメでしょうけれど。
確かに、敗者に厳しい社会ですよね、日本社会は。