良いとは思うんだけど、安易だなーとも思う。
防衛省、退役装備を長期保管へ 継戦能力強化、74式戦車対象―概算要求
2024年08月31日07時07分配信
防衛省は使用を終えた装備品を廃棄せず、長期間保管する運用を始める方針を固め、2025年度予算の概算要求に経費7億円を計上した。この対応は軍事分野で通称「モスボール(防虫剤)」と呼ばれ、継戦能力を強化するのが狙い。現役装備品を大量に損耗した際の再利用を想定している。23年度に運用を終えた74式戦車などから始め、将来的に対象を拡大する。
時事通信より
日本の場合、モスボール保管って結構コストがお高いのよね。過去は「だったら、設備更新に金を使ったほうが良くね?」という結論だったはずなんだが、やはりウクライナの惨状というか、ロシアの惨状を見ると、「保管したほうが良いんじゃない?」とはなると思う。ええ、ええ、戦車の話だよ。
兵器の保管は戦略上重要に
アメリカでは一般的にやられるモスボール保管
さて、「モスボール保管」だが、個人的にはmoss-ball(苔玉)かなと勘違していたんだけれど、正確にはmothball(防虫剤)らしい。

これはWikipediaに紹介されているフィラデルフィア海軍工廠で撮影されたモスボール保管の例で、左から戦艦アイオワ、戦艦ウィスコンシン、空母シャングリラ(1978年撮影)ということになっているらしい。
戦艦アイオワなどは、25年もモスボール保管されてレーガン政権下で再就役するなど、活躍をしたうえで、現在はロサンゼルス港で博物館として展示されているのだとか。
もちろん船舶だけではなく航空機も戦車もモスボール保管しているから、凄いと思う。が、一から作るよりも再生するほうがコストが安く早く使用状態に持って行ける状況だから成立する話なんだよねぇ。
自衛隊の場合
では、自衛隊が戦車のモスボール保管するとなると、どうするかといえば……。
自衛隊はこれまで、不用となった装備品を原則廃棄してきた。新たに始めるモスボールは「部隊改編などで使用しなくなったものの、能力を発揮し得る装備品」を対象とし、25年度は74式戦車30両程度に加え、90式戦車や多連装ロケットシステム(MLRS)を保管する。既存施設内に倉庫を整備し、部隊に補充できる態勢を構築する。
時事通信「防衛省、退役装備を長期保管へ」より
既存施設内に倉庫を整備して、と書かれている。
Wikipediaにもあるんだけど、実のところ過去にもトライしたことはあったんだよね、自衛隊はモスボール保管を。
航空自衛隊では、余剰機や試作機が予備機扱いとなってモスボール保管される場合が多い。F-4EJ戦闘機がモスボール保管され、その後、RF-4EJに改造されたこともある。T-2CCVは試験後岐阜基地にてモスボール保管されたが、2014年からは岐阜かかみがはら航空宇宙博物館で展示されている。 そのほか、部品単体でモスボール保管されている場合もある。
Wikipedia「モスボール(軍事)」より
というか、航空自衛隊はやっていて、陸自と海事はこれまであまり積極的ではなかった、ということだね。噂だと「潜水艦はー」みたいな話はあったけど、これは海上自衛隊発足直後に米海軍からガトー級潜水艦を貸与された時に、モスボール状態の艦を貸与されたという話から来ているようで、予算措置などを見ても保管されている様子はない。
陸上自衛隊は、そういう噂すらないという。
ただ、ウクライナの話を見ると戦車の数はやっぱり必要だよね、という話が出たんだろうねぇ。あと、戦車だけいても仕方がないわけで。
継戦能力の確保に向けては、弾薬・ミサイルの備蓄強化に6502億円を求めた。海上自衛隊舞鶴基地(京都府)、佐世保基地(長崎県)、鹿屋基地(鹿児島県)、陸上自衛隊瀬戸内分屯地(鹿児島県)で火薬庫新設の適地を調査する。
時事通信「防衛省、退役装備を長期保管へ」より
火薬庫新設という話も出てきている。
……訓練用の弾薬も足りないんだが、その辺りも含めて改善されるといいねぇ。
ともあれ、ウクライナの話からこっち、日本が侵略されるという話が現実味を帯びてきているというか、他国を侵略するのを冗談抜きでやってくる国が隣りにあるということを、思い出させてくれた為に、「上陸させなければ良い」という戦車不要論の方々の肩身が狭くなったのは事実だ。
それでも、戦略的には戦車の数を減らしていく方向なんだろうと思うんだけども。
陸自の新装備
ええと、これは8月末の記事で、ブログで触れようと思って見送ったやつなんだけど。
陸自の新装備ついに正式名称が決定! ただ決まったのは2車種だけ 配備先は?
2024.08.30
防衛省は2024年8月30日、2025(令和7)年度予算の概算要求を発表しました。そのなかで陸上自衛隊向けの新装備として218億円で18両の調達が明記されていたのが「24式装輪装甲戦闘車」です。
24式装輪装甲戦闘車は従来、「共通戦術装輪車(歩兵戦闘車)」と呼ばれていたものです。同車はすでに2024(令和6)年度予算で24両の調達が盛り込まれていますが、このときは「24式装輪装甲戦闘車」などとは呼ばれていませんでした。
「24式」と付与されている点からわかる通り、2024年度に採用された装備のため、昨年に国会で予算承認されたときには、まだ名称が定まっていなかった模様です。
乗りものニュースより


この手の装輪装甲車が増えているんだよね。

こっちは16式機動戦闘車だ。
戦車と戦えるのは戦車だけ。良くも悪くも機動戦闘車は戦車ではないわけで、戦車と似ていたとしても同じ働きが出来るわけではないのだ。
近年の傾向は、無限軌道車よりも装輪車を揃える方向に向いていて、おそらくは90式戦車の後継機を開発する余裕はない。10式と90式では求められる役割が違って、90式でないと北海道の防衛は不安な面があると言われていたんだけど、10式戦車の調達傾向を見ていると90式戦車の刷新は10式戦車で、ということにしたのだろうか?それとも、若干不安があるから74式戦車を退役させてモスボール保管する方針にしたのだろうか。
装輪装甲車の調達方針も若干不可解ではあるが。
パトリアAMVを調達
実は、装輪装甲車に関してはパトリアAMVと呼ばれるフィンランド製の車両を採用していた。
「自衛隊も太鼓判」北欧メーカーの新型装甲車パリデビュー! 欧州の将来を担うかも!?
2024.06.25
北欧フィンランドのパトリア社は2024年6月17日、フランスのパリで開催されている防衛装備品展示会「ユーロサトリ2024」にて、新型の全地形対応車(ATV)のコンセプトモデルを発表しました。
~~略~~
FAMOUSプログラムは、装軌式車両であるATVと、タイヤ式の「LAV(軽装甲車両)」とのあいだで動力源やセンサー、装甲、指揮通信システムなどさまざまなものを共通化し、さらにそれを各国の主力戦車の能力向上にもつなげるべく、必要な各種技術やコンセプトを開発しようというものになります。
乗り物ニュースより

この車両、何が凄いって単体の性能も実証されていて素晴らしいながらも、ファミリー化されていて履帯式(無限軌道車)にも換装できるシステムになっていることだ。

まだ、コンセプトモデルなので実用化されたわけではないが、ファミリー化したことで様々な運用プランが用意されていることが魅力であるパトリアシリーズの採用を前提にしていたと思っていたのだが……。
どういうわけか、三菱重工の24式装輪装甲戦闘車を採用している。キヨタニ氏と意見が一部でも被るのは不本意だが、こればっかりは意味が良くわからない。

っと、話が逸れてしまった。キヨタニ氏の様に国内企業や自衛隊をクサすつもりは全く無いので、方針が良くわからないという点だけに同意する話ではあるが、話を戻すと全体的な傾向として装輪装甲車を増やす方向に触れていたという話である。
即応性を考えれば、装輪装甲車を増やす理由は理解はし易い。が、戦車の相手をできるのはやっぱり戦車しかいないわけで、モスボール保管は多分そういう意味も含まれるんだろうなという感想である。
コンセプトはそれで良いのか
そして、言いたくはないが陸上自衛隊の行動指針はイマイチコンセプトが定まっていないように見える。戦車のモスボール保管が戦略的に必要との判断であればいいが、上に書いたように倉庫を建ててその中に保管する必要があるのが日本の事情である。
アメリカのコンセプトはだだっ広い乾燥地域に、カバーを掛けただけの状態で保管できるから、コストの面で見合うモスボール保管が有効だということになる。
しかし、日本の場合は湿気が多く、大雨になればそこそこアチラコチラが水に浸かってしまう。真っ当に考えれば、屋根のないところにカバーを掛けただけで保管をするのはメリットが薄いのである。そうした事情あってこそのこれまでの判断だったはずなんだが、今回の方針転換は本当に理にかなった判断だったのだろうか。
確かに、10式戦車を1両作ると10億円程度は必要で、年間生産量もせいぜい20両程度だろうと思われる。そういう生産体制だったんだから仕方がないよね。だから74式戦車を保管しておいて、イザという時には使えるようにしたいという思惑はわかるんだけども。
でも、装輪装甲車の採用傾向とか見ていると、若干コンセプトにブレがあるように思えてならない。その辺りは是非とも払拭して欲しいなぁ。
コメント
う〜ん。戦艦はともかく、航空機はネヴァダとかの砂漠など、乾燥地帯で包装保管してるんですよね。電子装備は写真のF4ファントム時代から装備されています。
そういう精密機器を積んた機体を湿度の高い日本でやって、果たして効果あるのてすかね? だいたいスクランブル発進を無数に繰り返した戦闘機なんか保存しても使い道があるのだろか?
なるべく劣化が起こらない処置を取った上で保存(保管)するのがモスボール保管なので、精密機器は取り外しをするのでしょう。
だから、モスボールから復帰させるにも、翌日から使えますよーという話ではない模様。
恐らくは日本でもそれなりの保管方法が確立されていると思いますよ。
戦車や装甲車は面での制圧が可能なので、そりゃ必需品ですけど。他国との戦闘で考えるとどうなのだろう?
時代遅れの戦闘車両を出してもドローンで破壊されるだけなのをウクライナのロシア軍で見てますからねぇ。
その予算をドローンや無人攻撃機に使う方が良いのでは??
使い道があると判断したから、74式戦車の保管を決めたんだとは思いますけど、実際にどうかは微妙ですよね。
こんにちは。
遅刻コメ失礼します。
・陸自の場合、財政的な理由もさることながら、上の方の意思によって朝令暮改が頻発する事情もあるようです。先日、95式軽戦車(レプリカ)をアメリカに送り出す「お別れ会」で聞いたのですが、霞ヶ浦の武器学校の八九式中戦車(復元)は、当時の武器学校の校長が「俺が責任とる!」でレストアしたものの、次の校長に変わった途端にお不動様になってしまったと。現場の上の方レベルでそういう方向性の迷走があるので、本当の雲の上からガツンと方向性を決めて大号令かけないとダメで、今回のはそれにあたるのかと思っています。まあ、近未来予測するとどう考えても今鋳つぶすのは得策じゃない、二世代遅れでも撃てる砲は残しておきたいというのが本音でしょうけれど。
・あと、それだけの予算があるなら、ちょっとで良いから分けて、鹿屋の二式大艇にお家を作ってあげて欲しい。戦力的には何の意味も無いけど。PS-1とUS-1も。
・事ほど左様に、トヨタと国交省じゃありませんが、省庁の頑迷化、動脈硬化がすすんでいて、今の時代のスピードについていく柔軟性が失われている、そこに対して一矢報いる方針変更なのかなという気はしてます。前例主義の省庁の、その頭ごなしに法整備しちゃえばもうダメとは言えませんから(法整備、最低でも「このやり方はOK」の書類を残す事が役所との交渉では大事、というのも「お別れ会」で聞きました。Youtubeでそのうち公開されると思いますが……)
こんにちは。
「上の方の意思によって朝令暮改」ですか、日本型企業にはあるあるな風景ですね。
自衛隊は体育会系組織ですから、政治家主導で色々決まるとスムーズです。そういう意味で、防衛大臣はとても大切。
それと、「法整備は大切」というのは僕も聞きました。まあ、形にして残しておくのは大切ですよね。