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ウクライナ大統領、ロシアとの戦争を終わらせる計画を提示へ

ウクライナニュース
この記事は約11分で読めます。

果たして、ウクライナ大統領のゼレンスキー氏の狙いは、上手く行くのだろうか。

ウクライナのゼレンスキー大統領、ロシアとの戦争を終わらせる計画をバイデン大統領に提示へ

2024年8月28日午前6時23分

キエフ、8月27日(ロイター) – ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は27日、ロシアとの戦争は最終的には対話で終わるだろうが、キエフは強い立場に立つ必要があり、ジョー・バイデン米大統領と2人の後継者候補に計画を提示すると述べた。

ロイターより

コメントを頂いて、さっそく記事にしたのだけれども、僕の見立てだとウクライナ軍の試みは弱点を抱えている為に、維持出来ない可能性の方が高い。ゼレンスキー氏の次の一手は何なのだろうか。

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アメリカ大統領選挙を見据えて

ウクライナ軍のドクトリン

この話、こちらの記事のコメントに頂いた内容をベースに考えてみると、なかなか興味深いことが言えると思う。

先ず、前提としてウクライナにとってロシアへの越境攻撃というのは、一方的に侵攻されているという建前が崩れてしまう為に、なかなかリスキーな選択だった、という話がある。

アメリカやヨーロッパなど、ウクライナへの国際的な支援の輪が構築されているが、何れの国の首長も経済支援の継続には苦しんでいる。

各国にとってウクライナの継戦、或いはロシア軍を撃退するということは、国際秩序の維持に必要なことである。万が一、ロシア侵攻を容認した場合には、自国に侵攻された時、他国には「侵攻されても問題ないと言っていたよね」という弱味を作ってしまう。

よって、2022年2月24日のウクライナ侵攻開始から長く、越境攻撃は極力控えていた。散発的に策源地攻撃に類することはやっても、ロシア領土へ軍隊を踏み込ませるようなことはやってこなかったのである。

しかし、その戦略を一転させてロシア領土への侵攻を成功させて世界を驚かせたというのが、今回の話。

狙いは不明だが

さて、そうするとこの戦略を一転させた理由や切っ掛け、今後の狙いは一体何なのだ?という話になる。

“The main point of this plan is to force Russia to end the war. And I want that very much – (that it would be) fair for Ukraine,” he told reporters in Kyiv of the war launched by Russia’s full-scale invasion in February 2022.

He did not elaborate further on the next steps, but said he would also discuss the plan with Democratic Vice President Kamala Harris and probably also with Republican Donald Trump, the two nominees for the U.S. presidential election.

~~対訳~~

「この計画の要点は、ロシアに戦争を終結させることだ。そして私は、ウクライナにとって公平であることを強く望んでいる」と、2022年2月にロシアが全面侵攻して始まった戦争について、キエフで記者団に語った。

彼は次のステップについてそれ以上詳しくは語らなかったが、民主党のカマラ・ハリス副大統領、そしておそらく共和党のドナルド・トランプ候補ともこの計画について話し合うだろうと述べた。

ロイター「Ukraine’s Zelenskiy to present plan to Biden to end war with Russia」より

色々な人が、ゼレンスキー氏の狙いについて憶測を出しているが、このロイターの記事からも「停戦条件の1つとする」狙いがあったことは窺える。

問題は、その状態が維持出来るのか?という点である。

ウクライナ、ロシア国境で新たな越境攻撃 地元知事「状況は厳しい」

2024年8月27日 19時24分

ロシア南西部ベルゴロド州のグラトコフ知事は27日、ウクライナ軍の地上部隊が同州への侵入を試みているとSNSに投稿した。ロシアの複数の軍事ブロガーは同日朝、ウクライナ国境沿いの複数の国境検問所が攻撃を受けたと伝えている。

朝日新聞より

ウクライナ軍は、更なる越境攻撃を仕掛けている可能性について報道されているが、今の方針を更に続ける予定であるようだ。

戦略維持を困難にするいくつかの状況

しかし、ロシア軍側も黙ってみているわけはない。ウクライナ東部はロシア軍によってジリジリと削られ続けていて、ウクライナ軍はこれを阻止できないでいる。

ロシア軍が東部要衝ポクロウシクの東10kmに進軍 逆侵攻による「兵力分散」は不発に

2024.08.26 17:00

ウクライナがロシア西部クルスク州に逆侵攻を仕掛けて約3週間が経過した。ウクライナ軍の指揮官たちは、これによってウクライナ東部からロシア軍の優秀な連隊や旅団を引き離し、ウクライナ軍にとって最も脆弱になっている正面での圧力を軽減することを望んでいたのだとすれば、失望しているに違いない。

ロシア側は東部の部隊をほぼ動かさず、クルスク州への増援には主に、練度の低い若年の徴集兵を充てたからだ。

そのため、ロシア軍が東部で昨年秋に開始し、年明け前後に拡大した攻勢は、妨げられることもなく8月も続いている。そして、ウクライナ軍にとって東部の防衛戦は依然として深刻な状況にある。

端的に言えば、ロシア側はウクライナ東部の一部を獲得するためにクルスク州の一部を犠牲にし、ウクライナ側はクルスク州の一部を獲得するために東部の一部を犠牲にしている。どちらにとっても、犠牲が見合うものなのかのかは政治的な問題であり、容易には答えが出ないだろう。

Forbesより

ウクライナ東部では、兵站が細って補給が上手くいっていないことと、兵士数の不足や地形的な条件が宜しくないこともあって、防衛に苦心している様子が窺える。

更に、ウクライナ全土にロシア側が大規模空爆攻撃を仕掛けている状況となっている。

ウクライナに「最大規模」の空爆、7人死亡 ロシアはインフラが標的と発表

2024年8月27日

ロシアは26日、ウクライナに対し、現在の戦争で最大規模となる空爆を実施した。ウクライナ空軍のトップが述べた。多数の死傷者が出たとしている。

ウクライナのデニス・シュミハル首相は、同国の州の半数以上の15州ほどがドローン(無人機)や巡航ミサイル、超音速ミサイルなどで攻撃され、「負傷者と死者が出ている」と、メッセージアプリ「テレグラム」に投稿した。

BBCより

ロシア軍、ウクライナに2日連続で大規模攻撃 少なくとも4人死亡

2024年8月27日

ロシアは27日未明、ウクライナに対して2日連続の空爆を実施した。ウクライナ当局によると、クリヴィー・リフのホテルが攻撃を受けて少なくとも2人が死亡したほか、南東部ザポリッジャ州でもドローン(無人機)による攻撃で2人が亡くなった。

BBCより

報道によると、民間施設や発電所などの施設も狙われていて、国際法に著しく抵触する攻撃のようだ。だが、ウクライナ国民は動揺しているし、ウクライナ軍の進軍を支持し続けることができるのかは、怪しい。

更に、ベラルーシが余計な動きをしている。

ウクライナ、ベラルーシに国境からの軍部隊撤収を要求

2024年8月26日午前 9:27

ウクライナ外務省は25日、ベラルーシに対し、両国国境地帯に配備している部隊や装備を撤収するよう求めた。ロシアからの圧力下で「悲劇的な過ち」を犯さないよう警告した。

ベラルーシ軍部隊に対し「非友好的な行動」をやめるよう訴えた。同省によると、ベラルーシの特殊部隊やロシア民間軍事会社ワグネルの元戦闘員などが国境地帯に配備されているという。

ロイターより

ベラルーシ大統領のルカシェンコ氏は、ロシア大統領のプーチン氏の子分なので、プーチン氏から「やれ」と言われてウクライナ側に圧力をかける目的で軍隊を集めているらしい。

コレだけでウクライナ側はこの方面の監視をせざるを得ないので、ウクライナにとってはかなり嫌な行動だと言える。

捕虜交換を発表

次のウクライナ側がどんな戦略を打ってくるのかは良く分からないが、今回の越境攻撃の成果として、こんな話はあったようだ。

ウクライナ侵攻開始から2年半 ゼレンスキー大統領、越境攻撃続ける姿勢示す ロシアとの捕虜交換も発表

8/25(日) 4:29配信

ロシアがウクライナ侵攻を開始して24日で2年半となりました、ウクライナのゼレンスキー大統領はロシア西部への越境攻撃について「われわれは必ず借りを返す」と攻撃を続ける姿勢を示しました。

~~略~~

また、ゼレンスキー大統領は、ロシアとの間でそれぞれ115人の捕虜交換がUAE=アラブ首長国連邦の仲介で行われたと発表しました。ウクライナが越境攻撃を始めてから初めてとなる捕虜交換で、ロシア兵は西部クルスク州で捕えた兵士だということです。

Yahooニュースより

捕虜交換ということは、捉えられたウクライナ軍側の人員を国内に取り返したという意味でもあって、ウクライナ兵士が国内に帰ってきたという話は、それなりにインパクトのあるニュースだろう。

Putin has said any deal needs to start with Ukraine’s acceptance of “realities on the ground”, that would leave Russia with possession of substantial chunks of four Ukrainian regions as well as Crimea. Now Ukraine says it controls more than 1,200 square km (463 sq miles) of Russia’s Kursk region.

~~対訳~~

プーチンは、いかなる取引もウクライナが「現地の現実」を受け入れることから始める必要があると述べている。現在、ウクライナはロシアのクルスク地方の1,200平方キロメートル(463平方マイル)以上を支配しているという。

ロイター「Ukraine’s Zelenskiy to present plan to Biden to end war with Russia」より

とはいえ、現状、外交取引にプーチン氏が応じる様子はない。

プーチン氏の主張する「現地の現実」を受け入れる、というのは、現在ウクライナ侵攻をしてロシア軍が占領しているドネツク州、ヘルソン州、ルハンシク州、ザポリージャ州からウクライナ軍を撤退させるという意味である。

彼にとって、そこは既にロシア領であり、さっさと明け渡せという主張なのだけれど、ウクライナ側はコレを受け入れるわけには行かない。

「力による現状変更を許さない」というロジックが使えなくなった

では、現在ウクライナ軍が占領しているクルスクと、ロシア占領地域を交換するという話ができるのか?というと、コレも難しいだろう。

プーチン氏のメンツを完全に潰してしまう選択は、プーチン氏が政権の座にいるうちはとれないだろうと思う。

“There can be no compromises with Putin, dialogue today is in principle empty and meaningless because he does not want to end the war diplomatically,” Zelenskiy said at the news conference.

He said the offensive into the Kursk region had reduced the number of governments around the world calling for Ukraine to make compromises with Russia to end the war and give up swathes of territory.

~~対訳~~

「プーチンは外交的に戦争を終わらせることを望んでいないのだから、今日の対話は原則的に空虚で無意味だ」とゼレンスキーは記者会見で述べた。

クルスク地方への攻勢によって、ウクライナがロシアと妥協して戦争を終結させ、領土の大部分を放棄することを求める世界中の政府の数は減少したと語った。

ロイター「Ukraine’s Zelenskiy to present plan to Biden to end war with Russia」より

ゼレンスキー氏は、「世界が言う、ウクライナのロシア占領地を全て放棄して戦争を終わらせろ」という論調は少なくなったと指摘するが、明確なゴールが何処に示されたのかについては言及していない。

ウクライナがロシアに侵攻した事で、「力による現状変更を許さない」というロジックが封じられてしまったからだ。

しかし、占領地同士を交換するというのもまた、現状では厳しいのである。一番甘い見立ては、ウクライナ軍がロシア領土に侵攻したらウクライナ侵攻が止まるのでは?というものだったと思うが、現状それは空振りである。

それどころか兵力が薄くなった分、ウクライナ東部の戦線が厳しくなってしまっている。これで、ロシア国境辺りで側面からの攻撃を受けると兵站が失われてしまうリスクがある。しかし、ゼレンスキー氏は、少なくともアメリカ大統領選挙が終わって交渉する相手が確定するまでは、現状を維持する必要がある。

「次の一手」をうたないと、現状維持すら覚束ないのが、ウクライナの弱味なんだと思う。

コメント

  1. 河太郎 より:

    大統領選は11月ですかるねぇ。
    侵攻したウクライナ軍が頑張っても、東部が総崩れしたり、兵站が伸び切ったところで
    ロシア軍の総攻撃を受ければ、持ちこたえられない……包囲殲滅される事すらも。
    大統領選が終わるまで敵地で持ちこたえられるか怪しいけれど、うまくいくと交換によって停戦がなされないかとも期待するのてすが。

    • 木霊 木霊 より:

      11月以降(大統領就任を考えれば1月以降)の対策だと考えると、仕掛けるのが早すぎたように思います。
      どう考えても持ち堪えるというのは悪手だと思うんですよね。
      そうだとすると、もう1枚くらいはカードを残してありそうなんですが……。

  2. 七面鳥 より:

    こんにちは。

    >ウクライナがロシアに侵攻した事で、「力による現状変更を許さない」というロジックが封じられてしまった

    ウクライナは、今回侵攻した地域を未来永劫所有するつもりの発言はしていなかったと思うので、まだワンチャンあるかなと。

    ※あくまで「ロシア人に」プレッシャーをかけるのが狙い、可能なら発電所とかクレムリンとかにもプレッシャーかけたいけど、流石にそこまでは。
    ※東部からの兵力引き抜きは失敗した模様ですし、というかウクライナの防御線が想像以上にボロボロだったと。あそこら辺は平地で守りにくいのは確かですが。

    結局、西側が腰が据わってないのがダメなんだと思います。
    腰が退けてるから、決定打が出ない。
    EUが「第三次大戦もやむなし」と腹くくって戦力出せば、ロシアは考えを変える(か、自暴自棄になるか)、中華もそれ見て考えを改める、と思うのです、良循環の世界で。
    悪循環の世界だと……現状は悪循環ですが、ロシアがブラフに乗らないと本当に戦争になりますから、核の心配まで必要で、為政者としては博打は打てない、という事なんでしょうけれど。
    欧州の政治家には(本邦もですが)ばくち打ちはいないって事ですね。
    そうなると。博打or死の共産圏には、迫力で通用しない。
    理屈は分かるし正論なのですが、悪意のやったもん勝ちの世界(≒国連)は、本当に困ったものです。

    • 河太郎 より:

      結局、ケンカ売るならこっちは殺すまでやる。皆殺しにする。そういう姿勢でやらなきゃ、悪意の確信犯を止める事はできないんですね。そういう意味じゃEUは弱い。
      戦争反対〜とか騒ぐ御花畑にしても、ロシアは前線に放り込むか、収容所に入れる。それに比べりゃEU各国は笑っちまうほど弱い。だいたいが仮にロシアと戦うとして、
      ロシア並みに戦死者が出たら、NATO所属国で反戦デモが起きて、政権交代、継戦不能になるだけでないですかね。

      • 七面鳥 より:

        >NATO所属国で反戦デモが起きて

        ナム戦の裏での平和運動とかヒッピーとか、もう、今思うと何でもかんでも「東側の工作員」が煽動してたんじゃないかって思っちゃいます。
        ※ラノベの話しで申し訳ありませんが、「GATE」のコミックス版、今ちょうどそれに近い話(銀座のGATEを奪取するため、中国が過激派デモを煽動して破壊工作をしかける)のシーンになってます。「GATE」、ラノベなのに現代政治が絡むから面白い(漫画は小説の補完になるのでとても良い)。

        • 河太郎 より:

          GATEは社会・地理・歴史をファンタジーに重ねるという点では、
          七面鳥さまに芸風が似てるのかもしれませんね。
          ヒッピームーブメントの背景には冷戦もあったと思います。ヒッピー思想?そのものが共産主義とは相容れないですが、より浸透したかったてあろうステューデントパワーに潜り込むには、ヒッピーの格好して、ドラッグ持ち込めば、
          当局のSという疑いには良い煙幕になったでしょうから。
          ただ、オウムと同じで学生運動系の新左翼は無能すぎたんですね。
          まぁ、そのお陰で新左翼は公安警察の予算獲得用に生かされてきたわけですけれど(笑)

          • 七面鳥 より:

            極左と特高、仲よくケンカしな。

            で済んでればいいのですが。
            どっちも先鋭化すると、必ず民間に被害が出るので、ノーサンキューですね。

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。

      そうなんですよ。一応、ウクライナ軍は規律をかなり引き締めた状態で侵攻しているらしく、「ウクライナ領になった方が幸せ」という形にしたいようですね。
      そして、ご指摘のように所有を否定していますから、ロシアと同じ土俵に上がったという意味ではないんですけどね。
      ただ、その辺りは引き際の問題でありまして、よく練られて作戦目標を達成したかもしれない作戦なのですが、この後の展開は心配です。

      ヨーロッパは一応ウクライナを応援するスタンスで続けているんですがねぇ。今ひとつ、腰が据わらない印象が強いですね。