海上保安庁が大型巡視船の建造を検討しているらしいという報道がNHKによって行われていた。
海保 ゴムボート多数搭載の巡視船建造を検討 尖閣対応を念頭に
2024年6月7日 18時50分
尖閣諸島周辺での対応を念頭に海上保安庁が高性能のゴムボートを多数搭載できる、これまでで最も大きい巡視船の建造を検討し、昨年度、調査のための予算を計上していたことがわかりました。一方、内部からは人手不足が続くなか実際に運用できるのかといった疑問の声も出ていて、今後、詳細を検討するということです。
NHKニュースより
NHKは批判的な記事を書いているな。やっぱり支那に尖閣諸島を献上するにあたって邪魔する組織にはいい顔を出来ないのか。
有事対応を想定
検討中の巡視船
さて、このニュースで気になったのは「ゴムボート」の部分だ。
……ゴムボート?
知らなかったのだが、海上保安庁でも複合型ゴムボート(硬式ゴムボート)をかなり活用しているようだ。なぜ「でも」と書いたかといえば、海上自衛隊も特別機動船として配備しているからだ。
この手のゴムボートは世界の海軍でも便利に使われているようだね。

この手の複合型ゴムボートは、高速で移動出来るうえに荒天時の運用にも耐えられるとあって、利便性が高いのだとか。
関係者によりますと、海上保安庁が建造を検討しているのは、高速で移動可能なゴムボートを多数搭載し、ヘリコプターも載せることができるこれまでで最も大きい巡視船です。
NHKニュースより
それにしても「ゴムボートを多数搭載」ってどんな作戦を想定しているのやら。
総トン数3万t
そして、驚きの3万t。一体、なにゆえ?
高性能のゴムボートは警備任務の際に海上保安庁の巡視船を上回る数の船に対応するケースなどを想定し、多数搭載するとしています。
海上保安庁は昨年度予算、数千万円を計上し、船の基本構造に関する設計前の調査を民間企業に依頼していて、ことし3月に報告書を受け取っています。
具体的な大きさについては、現在、全長200メートル、総トン数3万トン程度で検討が進められていて、3万トンとなった場合、海上保安庁がいま保有する最も大きい巡視船の3倍から4倍の大きさになります。
NHKニュースより
現在、海上保安庁が保有している船の中で、最大のものは巡視船「あきつしま」なのだが。

大型巡視船「しきしま」に引き続いて採用された同型艦「あきつしま」、建造時期が異なるために設計もかなり違うようだが、一応、当初はしきしま型巡視船ということになっていた。海賊退治用に外洋航海が必要ってことで、大型化させたんだけど、しかしこれらの大型巡視船でも「しきしま」「あきつしま」で総トン数が6,500tである。
更にその後に建造された「れいめい」がある。多少大型化されて7,200tとなったが、検討されている新型はいきなり総トン数3万tである。
参考までに、いずも型護衛艦の満水排水量が2万6千tである。

検討中の巡視船は、さすがにいずも型護衛艦程はデカくないと思うのだが、今までの巡視船の大きさからは一線を画す大きさにはなりそうである。
避難誘導も想定?
どうしてここまで大方化する必要があって、どうして多数のゴムボートを考えているのか?というと、どうやら住民の避難に使うことも想定している模様。
ゴムボート数十隻とヘリコプター3機の搭載、住民など最大で1500人が乗船できるスペースや、コンテナを運搬するためのスペースの設置も検討しているということです。
実用化は5年後の2029年度を目指していて、将来的には2隻体制とすることも検討しています。
NHKニュースより
いや、どうやら上陸阻止も考えているそうな。思った以上に武闘派だな?!とか思ったが、しかしよく考えたら、尖閣周辺で体張っているのは海上保安庁である。
そして、NHKでは「検討」としていたが、讀賣新聞では「方針を固めた」ということになっている。
海保最大の巡視船建造で「海上基地」、尖閣への上陸阻止や台湾有事の避難想定
2024/06/08 05:00
海上保安庁は、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺で領海侵入を繰り返す中国公船への対応を強化するため、同庁で最大となる多目的型巡視船を建造する方針を固めた。多数の小型ボートを搭載できる「海上基地」の機能を持たせ、島への上陸を阻止する役割を想定する。台湾有事などに際し、住民の避難に利用することも視野に入れる。
讀賣新聞より
それにしても、NHKは批判的な事書いていたけれど、讀賣新聞は案外好意的のような印象だね。
そして、書いてあることから判断すると、「巡視船」というよりは、移動可能な「海上基地」にしたいらしい。小型ボート(複合型ゴムボート)の発着が出来る機能を備えるということから、おそらくは巡視船そのものが速力の出るタイプを想定しているというわけではないのだろう。
政府は23年、自衛隊と海保による有事の連携手順となる「統制要領」を決定した。統制要領で、有事の際の海保の任務は、住民避難や海上での捜索・救難などと定められた。
讀賣新聞より
何れにせよ装備の充実は急務なのだから、頑張っていただきたい。
……でもさ、これって本当に今の海上保安庁の仕事の範疇なの?建造することの是非はともかくとして、尖閣諸島周辺の話は、もはや国防の領域になっているのに、海上自衛隊の出る幕ではないということなのだろうか。権益拡大とかそういう話ではなくて、プロにスムーズに引き継げる体制構築の方が優先されるべきではないのだろうか。
追記
記事の中で巡視船しきしまについて言及しているのだが、調べていたら引退することが決まっていると分かって、ちょっとビックリ。
航続距離も武装も異次元!? 海保の歴史を変えたスーパー巡視船「しきしま」引退 ムダになりかけた元「核を護る船」の30年
2024.03.25
海上保安庁の大型巡視船「しきしま」(7175総トン)が2024年4月15日付で引退することが決まりました。
2024年3月現在、第10管区海上保安本部の鹿児島海上保安部に所属している「しきしま」は、7000総トンを超える大型巡視船の先駆者となった、海上保安庁にとって記念すべき船でもあります。
30年以上、常に第一線で活動し、その間、多くの外国要人が集まるサミットや、緊迫感が増す尖閣諸島周辺海域の警備、大規模災害での物資輸送など、さまざまな場面に投入されてきました。
乗り物ニュースより
お疲れ様でした。
しかし、これで海上保安庁の大型巡視船は……、書き忘れていたがしゅんこう型巡視船が3隻就役しているはずだし、れいめい型巡視船は3隻就役している。追加でもう2隻ぐらいは予定されているようだね。

が、こういった大型巡視船の追加だけでは十分じゃないという風に判断されたんだろう。
2000年より英語表記がJapan Coast Guardになっているのだから、海上での警察権執行だけでなく、純軍事的組織としての脱皮が必要な時期になっているのではないか。
コメント
海上保安官が「海の警察」なのは解るのですが、もっと強武装させるべきです!
本来、コーストガードというのは軍の仕事であるし、米国の沿岸警備隊がそうであるように軍としての運用を考えるべきかと想うんです。
北朝鮮の不審船と対峙した20世紀末を忘れてはいけませんよ。しかもポリスアクションとしても、重武装した麻薬マフィアやテロリストなども存在する。
とくに外洋では黒社会が水産資源を奴隷労働で不正に荒稼ぎするのが国際的な問題になっていて、日本近海でもヤクザ組織がこうしたシンジケートとツルんで密漁から荒稼ぎしてます!
陸地の警察とは違う重武装が必要とされるケースがあるんですよ。もっと武装を強化してあげるべきと感じます。
重武装が海上保安庁職員のためになるのか?ということを考えると何とも。
海上保安庁は警察権の行使という建前に立っているので、脅威の排除は出来ないんですよね。
警察と軍隊の間を埋めるグレーゾーンをどの様に連携するのかというのは、ずっと考えられてきた課題ではありますが、なかなかに難しそうです。
こんにちは。
・「しきしま」は、核物質輸送の護衛に特化した船、と思ってました。
比較的高齢だし、実戦的(コラ!)な船に入れ換えても良い時期なのかも。
・海保の機銃は、「仮想敵」(笑)の砲より口径で劣りますが精度とFSCで勝るので、実質的には同等以上、と、「世界各国についてのネタ」
https://wikiwiki.jp/yusuki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%90%84%E5%9B%BD%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%81%AE%E3%83%8D%E3%82%BF
のどこかで読みました。本当にそうであれば嬉しい限り、操艦技術や艦そのものの性能でも上らしいので。油断は出来ませんが。
・「容積トン」で3万tって……排水量でないのは、商船構造だからなのでしょうかね。「いずも」型を越える艦様となるかもですが、ウェルドックと耐熱飛行甲板を付けて欲しいものです。
※救難活動のためのウェルドックはともかく、コスト的に耐熱甲板はキツそう。
こんにちは。
海保の機銃に関しては、あの口径になった理由があるんだそうで。大口径ではダメだったのだとかなんとか。噂でしか知らないので、「何故」なのかは調べ切れていませんが。
ただ、海自から船を調達するようなシステムを構築するというのは、ありのように思いますよ。人材を含めて海自から海上保安庁への転職が出来るような感じに出来ると良いのですけれど。
Top > 海上保安庁・中国海警の船艇装備火砲の特性
https://wikiwiki.jp/yusuki/%E6%B5%B7%E4%B8%8A%E4%BF%9D%E5%AE%89%E5%BA%81%E3%83%BB%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E6%B5%B7%E8%AD%A6%E3%81%AE%E8%88%B9%E8%89%87%E8%A3%85%E5%82%99%E7%81%AB%E7%A0%B2%E3%81%AE%E7%89%B9%E6%80%A7
あちらさんの76mmに、こちらの40mmは射程と回転数で上回る(カタログ上は)との事ですね。
商船構造同士なら、これはかなりのアドバンテージ。
海保と海自の軋轢は、戦後のアレコレがあったと聞きますが……最近はかなり仲良く出来ている印象で、世代交代の成果ですかね?
とはいえ、軍艦構造でミサイルも撃てる船を海保にあてがうのは、相手側にエスカレートする口実を与えるので痛し痒し。
海保の「声が聞こえる」所に海自が遊弋している、が基本になるのではないかと思います。
※そしてそれは相手も同じ
※多分、水面上だけでなく水面下でも。
なるほど、火砲の話は非常に参考になりました。
考えられた戦略というわけですな。
海保と海自の間の軋轢の1つに国交省の関与があるんで、ここは本当に解消して欲しいところ。
確かに、軍艦構造の船を海保にというのは少々無理があるきはするんですが、相手側はとっくに軍艦を海警局に採用しているので、体当たりすると負けちゃうのが海保の船の辛いところ。痛し痒しという点には賛同しますが、人員確保を含めて海保の体制は何とかしたいところだと思っております。