奇っ怪な記事タイトルを見つけたが、どうやらネットでは「羨ましい」と盛り上がる向きもある様だ。
ドイツは太陽光パネルを設置しすぎた…供給が需要を上回ると電力価格はマイナスに
May. 30, 2024, 07:30 AM
再生可能エネルギーへの取り組みの結果、エネルギーが過剰になってしまい、ドイツでは晴天が続いても、太陽光発電の収益性には暗雲が立ち込めている。
スウェーデンの金融サービスグループ、SEBリサーチ(SEB Research)のメモによると、過去10日間で、太陽光発電事業者は生産時間中に87%の価格引き下げを余儀なくされたという。実際、生産がピークに達すると、価格はゼロを大きく下回っている。
BUSINESS INSIDERより
結構衝撃的なタイトルで、電力価格高騰の続く日本人にとっては「羨ましい」と感じてしまうかも知れない。
電力取引の仕組みを理解しよう
電力取引の仕組み
このブログでは太陽光パネルを用いた発電手法には総じて批判的であることは、ご存じの通り。メガソーラー発電は論外。これ以上増やすなという立場だし、家庭用の太陽光発電設備設置についても、自身が使っていながら「メリットは薄い」と指摘している。
あくまで趣味の範囲において家庭用太陽光発電パネルの設置をして欲しいと、常々思っているし、そのような趣旨の主張をしてきているつもりである。
その上で、冒頭の記事にも批判的な気持ちで読み進めた訳だが、重要な背景情報が欠けている感じだったので、記事にすることに。少々お付き合い願いたい。
要点は3つ。
- 風力発電でも似た事案が発生している。
- ドイツ、太陽光パネルを設置しすぎで電力価格がマイナスにの意味
- 需要者にとってプラスではない
この3本立てでお届けしたい。
先ずは、風力発電を含む、欧州の電力価格のシステムについて解説している記事を引用しておこう。
なぜ起こる? 欧州、電力マイナス価格の謎に迫る
2020年05月11日 07時00分 公開
新型コロナによる経済停滞の影響により、原油先物価格が史上初のマイナス価格となったニュースが反響を呼んでいる(原油が驚異のマイナス価格)。しかし、欧州では既に2008年から、電力の先物取引においてマイナス価格の制度が導入されている。実際、電力の先物取引での値段がマイナスになることは、ごく当たり前のことだといわれている。
ではなぜ、欧州において電力のマイナス価格という制度があるのか、どういう時に電力がマイナス価格となるのか、ドイツの再生可能エネルギー機関、AEE(Agentur fur Erneuerbare Energien)の研究員、梶村良太郎氏に、Zoomインタビューを行った。また、日本の電力市場の現状については、日本の大手シンクタンクに所属し、世界の電力事情に詳しい左門さん(仮名)からも話を聞いた。
ITmedhiaビジネスONLINEより
記事にある様に、欧州では電力先物取引に関してマイナス価格の制度が導入されている。残念ながらこの記事、会員しか読めないのだけれど。
BUSINESS INSIDERの記事に意図的にか、或いは知らずかは分からないが、この電力先物取引に関する説明がない。こちらも途中から会員しか読めないね。
最近よくあるのがタイトルに誤解を招くような意図的な言葉を選び、会員限定記事の中で詳しい解説をやるといった手法で、マスメディアの腐敗を感じる。タイトル詐欺は有害だとすら思える。
さておき、まず電力の先物取引であり、電力会社などが将来の電気を事前に決めた価格で売買する金融取引である。
電力需要が増えそうであれば価格は高くなるし、電力供給が増えそうであれば価格は低くなる。日本は電力の市場取引の自由化を果たしたが、FIT・FIP制度には最低価格が設定されている。人為的な最低価格(0.01円/kWh)が現行ルールで、場合によっては買い取り拒否がなされる。
欧州では先物取引価格がマイナスになる、それだけの話である。電力事業者はその時間帯に売りたくなければ売らなければ良いのだ。
「電力を無駄に捨てるな」のミスリード
さて、買い取り拒否は多くのメディアが口を揃えて「電気を無駄に捨てるな」と大合唱をするのだが、えげつないのはどちらなのか?という話である。
こちらの記事でも言及したが、電力インフラには設備容量というものが存在する。

現在は、設備容量に対して運用容量は5割程度に設定されているが、「コネクト&マネージ」という手法を導入することで、この容量をもう少し効果的に使おうという試みはなされている。
何れにしても、電力網の運用容量を超える電力は買い取ることができない。この容量を超えてしまうと、全域停電(ブラックアウト)に繋がってしまう。
日本はそのブラックアウトを経験していて、2018年9月6日(木)未明、北海道胆振東部を最大震度7の地震が襲い、その影響で北海道全域でブラックアウトに至る。

部分的に復旧したのは9月8日で、節電タイムを設けて綱渡りで電力供給を行い、全域が復旧したのは9月19日のことだった。
東京、名古屋、大阪で同じ事が起きれば、日本経済が麻痺すること請け合いである。
故に、無制限に再生可能エネルギー発電の電力を買い取り続けるのはナンセンスであり、場合によっては再生可能エネルギー発電側から金を取るマイナス価格の適用するというのは、割と理にかなっているのである。
なお、再生可能エネルギー発電がマイナス価格で供給されたとしても、この穴埋めをするために用意されている火力発電所の運用で費用が発生するので、需要者の利用価格がマイナスになるということにはならない。いや、論理的にはマイナスになる可能性はゼロではないのだが、先ずあり得ない。
太陽光発電の導入を増やしすぎたことのツケ
実際、ドイツの場合にどのようなことになったかだが。
ドイツにおける2023年の記録的な太陽光発電導入の波は、電力の在庫が消費を上回ってしまうという価格「破壊」の原因となっている。
「2023年末までに太陽光発電の総発電容量は81.7ギガワット(GW)に達したが、需要量は52.2GWにしかならなかった」とSEBリサーチの商品アナリスト主任のビャルネ・シールドロップ( Bjarne Schieldrop)は指摘する。
電力の生産がピークに達し、需要が減少する夏には両者の差はさらに拡大する。
また、消費者は通常、太陽光発電のない時間帯により多くのエネルギーを消費するため、必ずしも低価格の恩恵を受けているわけではない。
補助金や電力購入契約によって新規導入が促進されない限り、採算性は圧迫されるため、ドイツの太陽光発電の拡大はいずれ止まってしまう可能性があるとシールドロップは述べている。
BUSINESS INSIDER「ドイツは太陽光パネルを設置しすぎた」より
電力発電総量が需要量を上回ってしまい、恐らくはこの余った電力は外国に安く販売したのだと思われる。
こうしたドイツでの電力の価格破壊は、周辺国にも迷惑をかけることになる。
代わりに、バッテリーや送電網のインフラへの投資など、生産されたこの電力のエネルギーをより活用するための改善に焦点が移る可能性が高い。
BUSINESS INSIDER「ドイツは太陽光パネルを設置しすぎた」より
そこで、欧州でもバッテリー設備の普及や送電網の強化などが行われるのだが、これが電気代に価格転嫁されることになるので、結局のところ需要者にとっては価格が安くなるような流れにはならないのだ。
なお、支那製パネルは価格が暴落しすぎて、フェンスとしての用途が模索されているようだ。

バカバカしい話だね。
これで欧州の太陽光パネル事業を手掛ける会社は軒並み滅んでしまった。今や、支那製パネルのシェアは8割を超える。

これが如何に歪なことなのかは、言うまでもないだろう。
釧路湿原など自然環境を蝕むパネル設置
さて、最近、SNSなどで盛んに反対の声が挙がっているのだが、蟷螂の斧といった感はある。が、自然破壊を続けている太陽光パネルの姿を見ると、見るに堪えないとは感じるのである。



これらは釧路湿原の「自然に配慮した」と謳う太陽光発電パネル設置事例である。

ただし、規制指針に反し建設した事例もあって、これを直ちに中止できないという仕組みなので、なかなか「自然に配慮した」という意味が一体何なのかが不明である。
ドイツを始め、欧州は割と平野が多いこともあって、太陽光発電パネルの設置には困らないのだが、それ故にやたらと増えてしまった。一方の日本はどうか?というと、山肌を削って設置するなど惨いこともやっている。

この光景を「美しい」と感じる人はいるかも知れないが、ここに大量の雨が降れば、雨水は山肌に留まらずに一気に山の麓に下ることになるわけで、どう考えても良いはずがない。
コレで「何がエコだ」と言った方が説得力はあるのだと思うが、仕組みから考えても太陽光発電パネルを増やす事は、メガソーラー発電施設を増やす事が適切だとはどうしても思えないのである。短期的に一部の人が儲けを出すことを、FITなどの手厚い制度で保護する時代は終わったのだ。再エネ賦課金も不適切なんだよね。
こういった問題は風力発電も別の問題を抱えているが、発電方法のマイナス面にも目を向ける必要は同様にある。今回は触れないけどね。
その辺りは冷静に判断・議論して欲しいところである。
コメント
この話、なにか裏があるなと思っていたんですよ。やっぱり。
そこを木霊様が暴いてゆくのが痛快でもありました。
とはいえメガソーラーもうやめたい!
環境破壊でしかない(笑)
こないだYouTubeで、新潟のロシア村たかの廃墟で、その周りが一面メガソーラーになっていて、それが雪に埋もれている映像を観ました。結局は政府の助成金ありきの赤字ダダ漏れ事業なのを若者のユーチューバーに冷笑されてましたね。
普通に考えれば、電気を使ったらお金が貰える!なんてことにはなりませんから、タイトルの付け方がおかしいですよね。
メガソーラーが増えるのは支那の陰謀です!というのが、笑えない時代ですから。
こんにちは。
太陽電池は、もう、衛星軌道上に発電ステーション作れば良いんですよ。
で、ロボットに制御させる。
※そのロボットが言うこと聞かなくなって、見に行ったら閉じ込められてさあ大変、太陽風来るし、マイクロ波ビームの照準ズレたら大惨事……ってのがアシモフ先生の短編にありましたよね。
メガソーラーは、ある意味原発以上に、後世から「どうすんだよこれ」って言われると思ってます。
※飛行機から地上見ると、ゴルフ場の侵食が山の虫食いみたいで醜いのですが、それを超える醜さですよね……
こんにちは。
太陽光発電という手法そのものがマズイとは言わないのですが、メガソーラー発電は色々なデメリットの方が目立つんですよね。為政者達は、何故そんな方法を好んで選択するのやら。
ちなみに風力もねぇ……。居住してます農園では採用してますが、これには理由ある。地理的条件が揃ってるから。
海から崖でそそり立つ台地の丘に農園があり、常に湾から上がる風や、内陸部からの吹き下ろしを受けるから。こういう海を見下ろし、丘を背負う条件だからこそ風は常に絶えないんです。
でも稀有な条件と思いますね。何故ならば小さな半島の中で、うちの農園を除く農家や施設は、風力導入してことごとく(経済的効率から)失敗してますので。
あと風力がある程度にアテになる条件下だと太陽光はガチで危ないすね。暴風の時に他者に被害を出す可能性が高いす。
面白いのは古代中国の風水の良地と、再生可能エネルギーの可能な土地は割と合致する事ですね。だが、逆に言えば「そういう土地は少ない」からこそ、風水という占い・自然「哲学」が継承されてきた訳で、ありふれていたら体系化されてない。それだけ普遍化はムリな技術って事ですね。
日本で風況が良い場所(つまり風力発電に向く場所)は、北海道くらいで、本州では半島の先端とかそういう場所に限定されるとかなんとか。
そうした場所でも、台風が怖いのでなかなか採算ベースに載せるのは難しいとか。
条件の良い場所で細々とやる程度なら未だしも、商用発電するのには難しいのでしょうね。