時々は、科学ネタを書いていきたいので、本日は過去にも触れたことのある「高温ガス炉」に関して。
実は、新宿会計士さんの所で三菱のマイクロ炉の話題が出ていて、何か新しい情報でもあったのかとワクワクして調べたら、2年前のネタだったというオチがついてガッカリ。いや、今もマイクロ炉の開発はやっているんだろうけど。
それでも、関連する話はないかなーと思っていたら、こんなニュースが。
世界初の第4世代原子炉の実証機「HTR-PM」が、中国で商用運転を開始
2024-1-10
中国の国有企業である中国核工業集団公司(CNNC)は、2023年12月6日、独自に開発した高温ガス冷却炉の実証機「HTR-PM(High-Temperature gas-cooled Reactor Pebble-bed Module)」が、商用運転を開始したと発表した。
高温ガス冷却炉の利点には、高い安全性、発電効率、環境適応性があり、その応用範囲は幅広く、発電や熱電併給(コジェネレーション)などがある。中国のエネルギー構造の最適化と、信頼できるエネルギー源の確保がねらいだ。
Xfabcrossより
今年1月の記事ではあるが、個人的にはそれなりに衝撃を受けた。「ああ、あれ始まったんだ」と思うと共に、「日本政府ももうちょっと力を入れてくれたら」とガッカリ。という訳で、本日はそんなネタである。
第四世代原子炉の高温ガス炉
高温ガス炉は原子力発電炉
まず、高温ガス炉とは一体なんぞや、という話なのだけれども、簡単に言うと次世代原子炉である。
現状日本にある原子炉は第三世代原子炉と呼ばれるシロモノで、安全性と経済性を高めたものが第四世代原子炉という事になっている。一応、国際フォーラムで決められた要件を満たすことが定められていて、「より高い安全性」「核拡散抵抗性」「廃棄物と天然資源利用の最小化」「原子炉の建設運用費用の低減」が第四世代原子炉には求められている。
で、その第四世代原子炉のうちまあまあ開発が進んでいるのが高温ガス炉と呼ばれる方式だ。

冒頭に紹介した支那の高温ガス炉はペブルベッド型と呼ばれる方式で、2023年に商業運転を開始している。実証炉として2016年に完成。2018年から試運転が行われて2021年に臨界に成功した。第4世代原子炉の中では一番進んでいると言ってもいいだろう。世界初の商業運転を開始したからね。
本プロジェクトの建設では、大規模インフラ建設では一般的な「EPC(Engineering, procurement, and construction)契約」のもと、燃料要素の製造、プロジェクト建設などの役割を担ったCNNCの他、清華大学の原子力・新エネルギー技術研究所が協力している。
Xfabcross「世界初の第4世代原子炉の実証機」より
国家の威信をかけて支那もずいぶんと力を入れているようだ。
日本の高温工学試験研究炉
日本はというと、茨城県にある日本原子力研究開発機構(JAEA)にある高温工学試験研究炉(HTTR)が、安全実証実験に成功している。
制御棒を抜いた高温ガス炉を強制冷却せず停止、原子力機構が成功
2024.04.02
日本原子力研究開発機構(JAEA)は2024年3月28日、高温ガス炉(HTGR)の安全性実証試験に成功したと発表した。試験を行ったのは、JAEAが大洗研究所に保有する「高温工学試験研究炉(HTTR)」。強制冷却の機能が失われる事故を模擬した内容で、原子炉を出力100%で運転したまま、冷却材であるヘリウムガスの供給を停止した。制御棒を使わずに原子炉を停止できることを確認できたという。
日経XTECHより
日本のHTTRは30MW程度なので、200 MW規模の支那の高温ガス炉よりも小さなものではあるが、実のところ平成10年11月10日に初臨界を迎えていて、実験炉の稼働としては支那よりも日本のほうが早かった。進捗が遅いのは資金力の差、ということかもしれないね。

日本のHTTRは支那のHTR-PMと少々方式が異なりブロック型炉を採用していて、プペルベッド型と比べて多少面倒な構造をしているが、FP(核分裂生成物)閉じ込め性能が高いという優位性がある。また、ブロック型の方が大型化に向いていると言われているため、開発が進めばより優位な技術となり得るものである。頑張って開発して欲しいものだ。
高温ガス炉は大型化に向かない
ただ、高温ガス炉全般に言えることらしいが、大型化には限界があるようだ。現在日本で計画されているGTHTR300という高温ガス炉は600MWの出力があるようだが、それでも軽水炉の1/4程度の出力ということになる。高温ガス炉の大きさの限界は概ねこの辺りだといわれているので、軽水炉と比べてもイニシャルコストを押し上げる可能性はある。
これに経済性があるかどうかも含め、これからの研究開発次第ということになるようだ。
が、少なくとも安全性については格段に上がる見積もりとなっている。

また、高温ガス炉はヘリウムガスを用いて冷却するので、他の第四世代原子炉のように液体金属を用いた冷却よりは安全性は高いだろう。尤も、ヘリウムガス自身は無毒であっても、酸素濃度低下などを招くと人体には危険である。また、燃料に黒鉛を用いていることから、火災のリスクは指摘されている。よって、他の形式の原子炉と比べて比較的安全ということに過ぎない。
まあ、アレだ。どんな技術にも危険性は伴うものだから。

発電原価が下げられる見込みだという話もあるけれど、まあ、この手の話は新技術に常に付きまとう。話半分に聞いておくべきだろう。
マイクロ炉の開発
小型モジュール炉(SMR)の失敗
さて、第四世代原子炉の話から少し逸れるのだが、日本政府としては小型モジュール炉(SMR)の研究開発を進めていて、高市氏辺りが積極的であった。
しかし、このSMRの話がどうにも怪しくなってきた。
「夢の小型原子炉」開発が頓挫、日本企業も100億円以上を出資 そもそも実現に疑問の声も…
2023年11月18日 12時00分
次世代の小型原発「小型モジュール炉(SMR)」開発を進める米新興企業ニュースケール・パワーが米アイダホ州での建設計画を中止した。「安価で安全」という触れ込みの下、米国初のSMR建設計画として注目されたが、世界的なインフレで採算が見込めなくなったという。
東京新聞より
正直、技術関連のニュースで東京新聞の引用などしたくはないのだが、まあちょうどいい内容になっていたで紹介した。
しかし、米エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)のデビッド・シュリセル氏はリポートで、今回のプロジェクトの建設コストが53億ドルから93億ドルへ上昇したと推計。今後のインフレでさらにコストが上がる可能性があるとし、「SMR建設が安価であるという主張は覆される」と指摘した。
東京新聞「「夢の小型原子炉」開発が頓挫」より
実は、一番技術的に進んでいたとされる米ニュースケール社が「発電原価が高くなってしまう」と音を上げて、SMR初号機の計画を中止してしまった。東京新聞は大喜びである。ついでに小泉純一郎氏も狂喜乱舞したことが書かれている。バカバカしい。
◆デスクメモ
小型というからには電気出力も小さくなる。仮に既存原発と同じレベルの電力を担わせるのなら、分散してそこら中に小型原発を造らざるを得なくなるだろう。だが、そんな原発建設に適した土地が、日本にどれだけあるだろうか。ちょっと考えれば無理筋と分かりそうな話なのだが。
東京新聞「「夢の小型原子炉」開発が頓挫」より
そして一番最後のデスクメモ。馬鹿じゃないの?
指摘している内容は大きく間違っているとは言えないのだが、前提がおかしい。SMRがスケールメリットを生かせないことは計画当初から分かっていた。子供でも分かる話である。SMRのメリットはモジュール化して工業製品にすることで建設コストを下げられることと、建設時間を短くできることである。
SMRの一番の問題点は、ニュースケール社が実験炉→実証炉→商用炉という段階を経ずにいきなり商用炉を造ろうとしたことだ。

それは加圧水型軽水炉(PWR)をSMRにするという発想である程度実証されている技術ではあるのだが、そもそもPWRをSMRにしてどうしろと。もっと効率が良い方式を選べよ……。
支那でSMRの建設が始まる
なお、アメリカや日本で足踏みをしている間に、支那でSMRの建設が始まった。
中国の小型モジュール炉「玲竜1号」、制御システムの設置開始
2024年4月17日 14:00
中国海南省の昌江原子力発電所で建設されている世界初の陸上商用小型モジュール原子炉(SMR)「玲竜1号」でこのほど、デジタル制御システム(DCS)の最初のキャビネットが運び込まれ、設置や調整の作業が始まった。同発電所の建造・運営を担う海南核電が明らかにした。「玲竜1号」の建設はDCSの設置段階に入り、中央制御室の整備などの後続作業に向けた土台が整いつつある。
AFPより
玲竜1号の方式がどんなものか明かされていないのだが、おそらくはPWRではないかと。
なお、「あの」自然エネルギー財団も、大喜びで記事を書いていたので、紹介しておこう。引用する価値はないのだが。

支那のSMR開発がうまくいけば、自然エネルギー財団としてはミッション達成ということなのかもしれない。大林ミカ氏もニッコリだね。
三菱重工が開発中のマイクロ炉
さて、そもそもSMRは小型化・モジュール化して経済性や安全性を高めようという狙いがあった。新宿会計士さんが引用していた記事はこちら。
直径1mで25年間燃料交換なし、三菱重工の超小型原子炉はどう動く
2022.06.10
三菱重工業が超小型原子炉(マイクロ炉)の開発を進めている(図1)。炉心サイズが直径1m×長さ2mとトラックで運べる小ささだ。可搬性に優れることから、離島やへき地、災害時の電源として期待できる。次世代原子炉としては電気出力300MW以下の「小型モジュール炉(SMR)」などにも注目が集まっているが、マイクロ炉はそのSMRよりも小さい。果たしてどのような構造、仕組みなのか。
日経XTECHより

直径1mとして設計されているこの原子炉は、トラックで搬送可能だといわれている。想定する熱出力は1MW程度と相当に小さく経済性はない。では何に使うのかと言うと、離島やへき地、災害時の電源として使うことを想定している。

スケジュール的には、小型炉は次世代軽水炉の研究よりも後ということになっているのだが、もうちょっと前倒しで良いのよ?
とはいえ、現実問題としてこういった技術開発はすべきだとして、出来上がった原子炉を日本に建設可能か?というと、現状でもなかなか厳しいと思う。まあ、リプレイスくらいは許されるんじゃないかな?という気はするんだけど、放射性廃棄物処理の方法もしっかり確立していかないと駄目だからね。
この辺りの話を少し書き足そうと思ったのだけれど、自分の中でもうまく落とし所を見つけられなかったので、とりあえず技術開発は進められているよという話だけにしたいと思う。
コメント
ウランは石炭より早く無くなる限りある資源なので これから作る原子炉は増殖炉であるか、MOXやプルトニウム燃料対応が必要と考えられるが 第4世代にそういう要件は無いの?
第4世代国際フォーラム(GIF)にて、第四世代原子炉に求められる要件が挙げられています。
https://gif.jaea.go.jp/about/
そのうち、「廃棄物と天然資源利用の最小化」というのがご指摘の点にあたりますが、第四世代原子炉のアプローチの1つとして「MOXやプルトニウム燃料対応」或いは「増殖炉」という形で提唱されています。SMRやマイクロ炉、或いは高温ガス炉はそこを主眼とはおいていませんが、天然資源利用の最小化という意味で、高効率で発電が可能な構成を目指しているようですね(注:SMRやマイクロ炉は厳密には第四世代原子炉には含みません)。
こんにちは。
マイクロ炉は、いろんな工場のパワープラントエリアにひっそりと稼働していると一番良いのですが。
あるいは、ある程度大きい船舶の動力として。
出てくるのが電気なら、これほど便利な「動力源の置き換え」も無いでしょう。
あ。ガソリンスタンドにおいて、電気自動車に給電するのもいいですね。
一挙にEVのインフラ問題が解決しますよね。
こんにちは。
マイクロ炉の利便性はかなりのものがあると思っています。が、盗難対策などはしなければならず、テロの標的にならないような運用がネックでしょう。
そういう意味で船舶に乗せるというのは、アリだと思います。潜水艦とか潜水艦とか(苦笑
こんにちは。
核融合発電できればいいのでしょうがまだまだ課題が多く商業化には時間がかかるでしょうね。
早くても2050年代でしょうから。
2030年代には稼働を目指しますとどこかで言ってたのを見ましたけど。
こんにちは。
核融合発電の実現はまだまだ先っぽいですね。
この分野も日本は得意としていますが、支那の猛追を受けている状況でもあります。試験機で発電に漕ぎ着けられるのがいつになるのか?と、機体はしているんですけどね。