容量市場という言葉が分かりにくいことも一因だとは思うけど、こちらの記事は最近流行のエコテロリストのお仲間だろうか?
地域新電力の半数「価格転嫁」 将来の電力不足防ぐ「容量市場」本格開始 朝日新聞社・NGOに75社回答
2024年4月14日 5時00分
将来の電力不足を防ぐため、発電所の維持・建設費を捻出する制度で負担の支払いが今年度から始まる。1・6兆円の大半は、電気を売る小売り電力会社が負う。発電設備を持つ大手電力は追加収入が見込める一方、発電設備をほとんど持たない新電力には新たな負担だ。
朝日新聞より
「何を言っているんだコイツは」と思っていたら、新宿会計士さんのところでも同趣旨の記事があった。まあ、普通はそう思うよね。

正直、これ以上何を突っ込めば良いんだ、という感じではあるんだけど、僕も記事に言及していこう。
電力会社の使命である電力の安定供給と小売自由化は相容れない
容量市場とは
まず、そもそも容量市場って何かという話なんだけど。
こうした課題を解決し、電力供給の長期的な安定をはかるために、導入が検討されてきたのが、「容量メカニズム」です。
「容量」というのは、少々わかりづらい言葉ですが、「必要な時に発電することができる能力(kW)」のことを意味しています。たとえば火力発電のような、電力が必要となった時すぐに発電できる設備を持っている発電事業者は、その能力があるといえるでしょう。
「容量メカニズム」とは、そのような「容量」に応じて、対価が支払われるしくみです。海外では、すでにさまざまな容量メカニズムが導入されています。
資源エネルギー庁のサイトより
「容量」という言葉が適切なのかという気はするんだけど、要は発電量を調整可能な設備に対して、対価を支払おうということだね。何しろ電気は基本的に溜められないのだ。

発電事業者は電力を供給可能な状態とするよう発電所のメンテナンスなどをおこない、広域機関から対価を受け取ります。小売電気事業者は、将来必要となる電源の容量を確実に確保する対価として、広域機関にその費用を支払います。
資源エネルギー庁のサイトより
結果的には、火力発電所を優遇する措置に繋がるんだけれども。
FIT制度導入という失敗
基本的に電力は需要と供給のバランスが大切である。このバランスが崩れてしまうと、ブラックアウトに繋がってしまう。電力需要に対して電力供給が過剰であれば良さそうなものだが、実際には誤差10%以内くらいでバランスしないとまずい。しかし、基本的に電気を溜めておくことは出来ない。
だから、各電力会社が需要予測を立てながら供給を行っている。今使う電気は今作っている。リアルタイムで変化する需要に対応させる必要がある。
ところが、そのコントロールができない発電方法がある。それが再エネ発電なのである。しかし、悪夢の民主党政権時代、ドイツの失敗政策を真似て作ったFIT制度により、再エネ発電の促進という名目で電力会社は再エネで発電された電力は無制限に高価買取をさせられる羽目になる。
しかし、太陽光にせよ風力にせよ、その発電量は常に天候任せになる。

良く出てくる絵がこちらで、ベースドーロ電源として位置づけた定量発電の他に、需要にあわせて再エネで発電した電力から足りない部分を穴埋めして発電するのが火力発電の役回りとなっている。
だが、火力発電だって調整が容易というだけで、出力一定で稼働させる方が発電効率が良い。
それどころか、調整用に動いている火力発電所の稼働率が5割くらいで採算ラインだとすると、それより稼働率が落ちると赤字になってしまう。そうするとメンテナンスも覚束なくなる。
実際に、老朽化して効率の悪い火力発電所は次々と廃止されてしまった。
JERA、福島の広野火力発電所を3基廃止 10月5日に
2023年9月25日 15:37
東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資する発電会社JERAは25日、広野火力発電所1、3、4号機(福島県広野町、計260万キロワット)を10月5日に廃止すると発表した。運転開始から30〜40年がたち、発電効率が低いため。すでに5〜7年前から発電を止めているため、電力需給には直ちに影響しない。
廃止する3基はいずれも重油や原油を燃料とする。老朽化によって維持管理のコストがかさんでいた。10月5日に電気を送るための電力系統から切り離す。設備の解体工事の時期や跡地の活用法は決まっていない。
日本経済新聞より
「発電効率の悪い発電所なら、廃止しても問題ないのでは」「むしろ、廃止できて良かった」などと言う人もいるかも知れないのだが、それはあまりに浅慮である。
何しろ、西日本大震災からこっち、日本の原子力発電所は容易に稼働できなくなった。今でも数基稼働する程度で、その足りない大部分を老朽化して休止させていた火力発電所を無理やり再稼働して帳尻を合わせた事実がある。そしてそれは今も続いている。
高価で電力の安定供給ができない再エネ発電はどんどん増える一方で、安価に電気が生み出せる原子力発電所(注:実際には言うほど安くなかったことが後にわかったが、それでも再エネ発電よりはるかに安い)が使えなくなった。
更に電力の小売全面自由化をする前は、電力事業者が責任を持って電力の安定供給を行っていたので問題なかった。問題になったのは、小売全面自由化したことで、電力調整の責務が一方的に大手に押しつけられ、小売事業者はその責任を負わなかった。それを許したのがFIT制度である。
つまり責任を負わない再エネ発電事業者にも負担を追わせようという話なのだ。
反発したのは小売業者?
コレを補う制度が「容量市場」という考え方で、容量メカニズムを導入することで電力小売業者にも負担して貰おうということになって、制度自体は令和2年から開始したようだ。が、本格開始は令和6年4月からである。冒頭の朝日新聞の記事はコレに文句を付けたという話なのだ。
その前段階として、影響調査を行っている。
この記事を材料にもう一度、頭のおかしな内容に仕立てたのが冒頭の記事なんだよね。
発電所維持費の負担開始 地域新電力、半数以上が「電気料金に反映」
2024年4月5日 10時00分
~~略~~
地域振興や脱炭素化の担い手として期待される地域新電力への影響を探ろうと、再生可能エネルギーの導入拡大に取り組む環境NGOでつくる「パワーシフト・キャンペーン」と朝日新聞が調査を行った。
朝日新聞より
ただこの時の事前調査も公平性の観点から言うと、なかなかちょっとどうかと思う。

記事に出てくる組織が、市民活動をやられている組織の元締めのようなところで、反原発運動されるところも参加しているようなのだ。例えば、首都圏反原発連合は色々な活動を為されているようで。
電気事業連合会が反発
当然、事実関係がおかしいので、流石にこれに対して電気事業連合会が文句を言った。
容量市場における容量拠出金負担に関する一部報道について
2024年4月16日
4月14日付朝日新聞1面において、容量市場における容量拠出金負担に関する記事が掲載されております。
記事では、容量拠出金の負担が大手電力と新電力の間で公平になっていないとの印象や、正当な競争状態が損なわれ電力自由化に逆行するとの印象を読者に与える内容になっていると考えております。
電気事業連合会のサイトより
いや、こんなひっそりとした記事じゃなくて、風説の流布などの罪状で訴えた方が良いよ。
・将来の安定供給への影響が懸念される中、容量市場は、日本全体で必要な中長期的な供給力(kW)を効率的に確保するための仕組みとして設けられたものであり、容量拠出金についても、全ての小売電気事業者に需要規模に応じて、負担が公平に求められているものと承知している。このため、「公平な費用負担になっていない」や「正当な競争状態が損なわれ、電力自由化に逆行する」との指摘はあたらないと考えている。
電気事業連合会のサイトより
かなり抑制的に書いているけれども、朝日新聞の記事の内容は会員限定記事になっているけど、完全なデマ記事であり活動家に対する呼びかけのようなものである。
新宿会計士さんは、「どちらが正しいのかは読者に委ねる」旨の記載に留めているけれども、朝日新聞の記事が会員限定になっている辺りが理由なんだろうね。
エコテロリスト達の夕べ
電力小売事業を歪めるとはどういう意味か
なお、これに関しては当然のように毎日新聞もキャンペーンに参加しているし、調べる気にもならないが恐らくは東京新聞も同じだろう。

引用するのもアホらしいので、リンクだけにしておく。
そもそも、電力小売りの自由化で参入した「新電力」の多くは、外部からの電力調達が中心とした業態である。
新電力事業は薄利多売なビジネスだ。だからこそ需給管理と電源調達の巧拙が業績に直結する。ざっくり金額感を説明しよう。
ある新電力が、10円/kWhで電力を調達したとする。電力網の使用料金(託送料金)を支払って17円/kWh。販管費を2円/kWh加えて19円/kWh。これを電力の利用者である需要家に20円/kWhで販売して、1円/kWhの利益を得る。これはあくまで簡易的な例だが、新電力事業は、これほどの薄利多売な利益構造であり、電源調達費用の原価に占める割合が高いのが特徴だ。
この例では、電源調達費用が1円/kWh下がれば、それだけで粗利が2倍になる。安く電源を調達できれば、一気に収益が増えるというわけだ。その反面、今回の市場高騰のように、電源調達費用が上振れすれば大きな損失が出てしまう。
日経エネルギーNEXTより
こちらのサイトの説明が分かりやすかったので紹介するが、「電力小売事業の完全自由化」によって、発電された電力を調達して需要家に販売するという業態が生まれた。要は、電力の転売屋なのである、新電力は。
ところがこれ、少しでもバランスが崩れると商売にならない。というか、商売にならなくなったから、撤退や廃業をしているんだよね。
冒頭の朝日新聞の悪質なところは、コレを歪めて報じているところだ。

この図だと、大手電力会社が得をしているように見えるのだが、前提となっているFIT制度がそもそも歪んでいるので、この図は完全にミスリードを誘うものだ。
こちらが正しい。

新電力が拠出金を受け取れないのは、主に再エネ発電から電力を買っているからである。にもかかわらず、新電力が損をするという理由でこんな記事が書かれる始末。

これも引用は止めておくが、基本的に朝日新聞の記事と根っこは同じである。つまり、電力小売事業の実態を歪めているのは朝日新聞の報道というわけだ。
再エネ発電推進はエネルギー政策の放棄
困ったことに、現政権は再エネ推進の姿勢を示している。
国産再エネで新議員連盟 発起人に岸田首相・麻生副総裁
2023年2月14日 18:22 (2023年2月14日 19:22更新)
自民党の有志議員は16日、脱炭素社会の実現に向けて国産の再生可能エネルギーを推進する議員連盟を発足させる。発起人に岸田文雄首相、麻生太郎副総裁、森山裕選挙対策委員長、鈴木俊一財務相の4人が名を連ねた。16日に国会内で設立総会を開く。
日本経済新聞より
国産の再生可能エネルギーを推進する議員連盟が掲げる方向性について、僕自身は否定するものではない。むしろ、国産の再生可能エネルギー発電を増やすことは、外国製の再エネ発電を推進するよりは良いとは思うんだけど、現実はそんな簡単じゃないんだよね。
次世代の太陽光発電や洋上風力発電など再生可能エネルギーの新たな技術分野での国産化を目指す、としている。太陽光も風力も、かつては日本企業が技術面でも先頭を走った時期があった。だが、経済産業省が石炭火力等の化石燃料事業との競合を恐れ、再エネ技術の開発に意図的に力を入れてこなかったことが大きな要因となり、現在は両事業とも欧米だけでなく、アジアの主要国にも後れを取る状況になっている。
自民党のサイトより
国内で開発してくれるのは良いのだけれど、メガソーラーも国内でバンバン増えているんだよね。そちらは止める位の事をして欲しいのだけれど……。
日本とASEAN首脳会合 “脱炭素化の取り組みをリード”岸田首相
日本とASEAN=東南アジア諸国連合が連携してアジア地域の脱炭素化を目指す首脳会合が初めて開かれ、岸田総理大臣は、日本の技術力などを生かしながら取り組みをリードしていく考えを示しました。
NHKニュースより
日本が脱炭素のリーダーみたいな顔をして動いているので、国内の再エネ発電にブレーキをかけるのは難しいのかもしれない。
でも、電力の安定供給を第一に考えて頂かないと、エネルギー安全保障の観点からしてもリスキーだと思う。日本政府は、現在の再エネ発電推進姿勢は早々に撤回しなければならないと思う。
マスコミの大部分がその方針に反対するだろうけれど、そこは頑張って欲しい。
コメント
こんにちは。
>現政権は再エネ推進の姿勢を示している。
鼻薬嗅がされてるヤツ、慢性化しているヤツが居るに違いないと思い込んでますが(親子二代ってのも居ますし)、なんとかしてパージ出来ないもんですかねぇ……
そもそも本邦は、自然エネルギーを利用する環境としては厳しすぎる。
台風の来ない、地震の来ない、豪雨豪雪の来ない欧州とは何もかもが違うというのに。
こんにちは。
まあ、河野太郎氏の功罪はさておき、歪んでいる状況を正す意味でも、議員にもセキュリティクリアランス制度を適用しておかないと安心できませんよね。いや、セキュリティクリアランス制度適用で無いにしろ、この人物が何者なのか?という事に関しては詳らかにしていただかないと、有権者としては困ります。
自然エネルギーの利用というのは、個人でやる程度の規模なら良いんですけどね。
地産地消を謳う時代は良かったと思いますが、今や大規模発電で長距離電送という方向を向いています。そこはどうあっても批判すべき対象だと思っています。