世界的にEVの売り上げが鈍化する中で、売り上げを伸ばしている企業があるそうな。それがBYDである。
中国BYD、「垂直統合モデル」が生む圧倒的競争力
2024/04/15 13:00
中国のEV(電気自動車)最大手、比亜迪(BYD)の躍進が止まらない。同社は3月26日、2023年の通期決算を発表。同年の売上高は前年比42%増の6023億1500万元(約12兆6291億円)、純利益は同80.7%増の300億4000万元(約6299億円)に達し、大幅な増収増益を達成した。
東洋経済より
なんと、粗利率が23%という脅威の製品で、販売価格は格安というのだから「どうなっているのか」との疑念が生じる。
支那人らしい割り切りではあるが
垂直統合型がメリットというが
記事には、ビジネスモデルの勝利だと説明されている。
にもかかわらず、BYDは率先して価格を下げると同時に、収益力を高めることにも成功した。その秘密は、同社が車載電池の部材からEV・PHVの完成車まで一貫して手がける「垂直統合型」のビジネスモデルを作り上げたことにある。
BYDは中国のEV・PHVの最大手であると同時に、車載電池でも(寧徳時代新能源科技[CATL]に次ぐ)市場シェア第2位の大手だ。完成車と電池の両方で市場のプライスリーダーの地位にあることが、高い収益力の源泉になっている。
東洋経済「中国BYD、「垂直統合モデル」が生む圧倒的競争力」より
垂直統合型というのは、内製化を進めることで自前調達できる部品が多いから、安く車が開発できるのだ、という説明をしている。
しかし、内製化によってスピード開発が可能だからといって、安くなるかといえばそうではない。結局開発に時間がかかってしまえばコストは高くなるのであるから、どちらかというとBYD内部に技術を取り込んで内製化できたことがポイントだといえるのかもしれない。
が、これに伴って安全マージンを勝手に削っているのではないか?という懸念は残る。コストがかかるのは、部品の安全性の確保なのだから。
内製化における過剰品質を抑制という側面もあるので一概には言えないのだけれど、トータルで考えて安全性を担保できれば良いので、コストダウンの余地がある世界ではあるが、安易にできない部分でもある。
ECUの削減
実際に、コストダウンされている部分に関する記事があったので1つ紹介しておきたい。
「たったこれだけ?」、BYDのECUの少なさに衝撃
2023.10.03
さかのぼること5カ月。2023年のゴールデンウイークに、日経BP 総合研究所と、日経クロステックが新潟市で実施した、中国・比亜迪(BYD)の電気自動車(EV)「SEAL(シール)」の分解に立ち会った。実施場所は、新潟国際自動車大学校(GIA)の自動車整備演習施設である。分解は、主に1級自動車整備士免許を持つGIAの講師が実施した(図1)。EVは、ガソリン車に比べ電子部品点数が多いと言われているが、シールから出てきたのは「たったこれだけ?」と驚くほど少ないECU(電子制御ユニット)だった。今回はこの分解の様子を紹介する。
日経XTECHより
日経XTECHの記事には、割と肯定的にECUの削減について言及されていて、どうやらBYDは統合ECUを集約することで結果的にコストダウンを成功させているようだという話になっている。
似た記事はこちらにもある。
BYDの e-Platform 3.0が秘めた「統合ECU」と大衆車EV開発への可能性
2022年8月24日
日本の乗用車市場参入を発表して注目を集めるBYDは、導入する電気自動車3車種に「e-Platform3.0」と呼ぶプラットフォームを採用している。モーターやバッテリー、車両を制御するECUを集約して一体化させた先進のプラットフォームこそ、大衆的かつ魅力的なEVを実現するために不可欠な要素になる可能性がある。
EVsmartより
確かに、従来よりある自動車メーカーは、コンポーネントごとの電子化・電子制御化を行うために、結果的にECUの数が多くなってしまうという問題はあるんだけど、統合ECUアーキテクチャにはメリットばかりではない。部品交換するモジュールの単位が大きくなってしまうのである。要は、修理する時にコストがかかりやすいことと、故障した時に制御不能になる可能性が高くなる。
もちろん、こうした話は設計次第で何とでもなる部分で、従来の自動車メーカーでは気がつけないようなコストダウンができるという話にはなるんだけれども。
垂直統合型がメリットに繋がるというのは、そういうトータルでコスト削減するにあたってやりやすいということになる面だと思う。
経済環境が生み出す価格破壊
ただ、ネガティブな話を1つしておくと、現在の支那経済はこのブログで紹介しているように極めて悪い。
したがって、支那指導部としては「期待の出来る産業には積極的に支援」していきたいと思っていて、実際にそのようになっている。
問題を悪化させているのが、貯蓄を革新的なビジネスに振り向ける活発な資本市場の不在である。中国では社会融資総量の70%を銀行融資が占め、銀行は革新的な事業への投資に消極的だ。
そのため投資はEVや代替エネルギーやAI(人工知能)など一部の有望なテック産業に集中し、こうした分野の過剰生産につながっている。
Newsweek「中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題」より
そして、支那では一部の分野で過剰生産気味になっているので、EVなどはかなり価格を抑えて輸出する事が可能になる。開発費や税金なども政府補助によって安く抑えられるしね。
何より支那では現在労働力が安く手に入る。これが、世界のEV市場に価格破壊を起こす可能性があることは疑いようがない。

この記事ではLFP電池「ブレードバッテリー」の搭載が、コスト削減に貢献しているということらしいのだが、リチウムイオン蓄電池よりは安全性が高いとの触れ込みである。一方でエネルギー密度が低くなるので、バッテリー搭載量が多くなることと、ブレードバッテリーが車体の強度の一部を担っているので、簡単に電池交換ができないという問題も抱えているし、フレームの歪みで運転ができないというような話にも繋がってしまう。まあ、この話はテスラも似たような話を抱えているので、BYDがどうこうという問題ではないのだけれど。
技術的にはそれなりに優れているが
BYDに関する記事を色々読みあさったが、総じて高い評価を付けている。提灯記事ばかりだと思ったが、ただ幾つかの記事は構造的な優位点を示していて、コレがなかなか良くできているようだ。
リチウムイオン蓄電池を搭載すると、隙間などが沢山できる為に空間におけるエネルギー密度というのは高めることが難しい。ところが、ブレードバッテリーはある程度この課題を克服できる構造になっているのだ。そういう意味では優れていると思う。
が、ちょっと面白い記事を最後に紹介しておこう。
これがBYDの「ブレードバッテリー」、再利用・リサイクルとは相性悪く
2023.07.07
これが、中国・比亜迪(BYD)が独自開発した電池「ブレードバッテリー」である(図1)。いわゆる角形缶タイプのリチウムイオン電池だが、かなり長くて重い。量産されている電気自動車(EV)向け電池としては「異質の存在」(電池の専門家)といえる。
日経XTECHより

こんな感じの電池パックをずらりと平行に並べる構造なのだが……。

こう、びっしりと平行に並べられていて、樹脂で固められているので天板を天井クレーンで外しているの図らしい。
「ちょっと厳しいですね。諦めますか……」。こんな弱音が漏れるほど、BYDのシールに搭載されていた電池パックは分解しづらい設計だった。
日経XTECH「これがBYDの「ブレードバッテリー」」より
会員記事なので、興味のある方は会員になって読んで頂ければ楽しく読めると思う。解体するのが大変だったってなことが延々と書かれている。
つまり、BYDの車は短期で交換するものだと割り切って買える人向けで、全然エコじゃない事が分かると思う。分解修理がかなり難しい構造になっているのだ。
「よく考えた」と言うべきか、「考えていない」と言うべきか。良く言えば割り切りの産物ではあるのだが、これに環境保護を謳って補助金を付けるというのは何かの悪い冗談のような話でもある。
そして、このようなEVが市場価格を破壊していくというのだから、「ありかも、BYD」などという暢気なCMに踊らされてEVを買うと、「そりゃねーよ」という思いをすることになるかもしれない。
安くて沢山売れる車という評価になるだろうBYDのEVだが、廃棄を含めてどうするかという話になった十年後くらいには大きな問題になりそうな構造みたいだよ。
コメント
こんにちは。
BYDはまだマシな方で、国内の過剰生産分を「デフレを輸出する」政策でバンバン国外に出しているそうですが……日本は良くも悪くも「トヨタ帝国」で本当に良かったと思います。
※かなり特殊なアーリーアダプタ以外に飛びつくヤツがいない、と言う意味で。
しがらみとか、過去のあれこれがない分、チャレンジングな事が色々出来る※という強みはあるのですが、『爆燃する車』は、いくら安くてもノーサンキューですよね……インフラも不十分だし。
※半年前のモーターショーでもデモったそうですが、四輪逆回転による信地旋回とか。
こんにちは。
そうなんですよ、BYDはまだマシなんですよね。
日本に支部を作ることが出来る程度にはBYDは自信があるわけで、まあ、韓国の現代自動車は色々失敗しましたけどね。
少なからず日本に入ってくることを考えると、厄介だなーという感想ですかね。既に入ってきていますし。
最近聞くのは、BYDのダンピング輸出と市場でのEV余り。
BYDは当然ダンピング輸出を始めているでしょう。その理由は、EVの過剰生産と市場でのダブつきだろうとは予想が着きます。
いちばんEVへの乗り換えに積極的な欧州でもEV離れが始まり、PHV人気が再燃していますし、とある国際貿易港(ロッテルダムだかブレ―マーファーフェンだか)の岸壁には、保税在庫のままのEVが数千台も潮風に晒されています(BYDかは不明)。
様々な事情はあれど、自動車には高い需要があり、買い手も人それぞれなので、BYDだろうがヒュンダイだろうが買う人は買うんでしょう。EV自体はいまだチャレンジングな車種だと思いますけどね。
考えてみると、EVはいまの支那では一応前向きな業種ではないですかね。
ダンピング輸出をしているのは間違いなく、EVが過剰生産されているので、安値でも売ってしまおうという判断なんだと思います。
安ければ良いという人もいて、EVであっても気にしないということなのでしょうな。つまり、どうあっても一定のマーケットは確保できると。ただ、支那企業は赤字を垂れ流すことになりますが。