セキュリティ・クリアランス制度に関して、身辺調査法案とか秘密保護法大改悪法とか言うアホが居るんだけど、どうしようもない。
身辺調査は「中小企業社員も含め相当な数」に 「経済安保」法案、自民と公明は異論なく条文案を了承
2024年2月16日 06時00分
政府は15日、国が指定した経済安全保障上の機密情報を扱う人を認定する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の導入を盛り込んだ「重要経済安全保障情報保護・活用法案」の条文案を自民、公明両党に説明した。両党とも部会で約1時間審査したが異論は出ず了承。政府は今月下旬にも法案提出する。世論を二分した特定秘密保護法の経済安保版で、何が機密情報に当たるかの基準はあいまいなままだ。
東京新聞より
まーた、アジビラへの突っ込みで申し訳ないんだけど、この手のデマが後を絶たないので、ちょっとお付き合い願いたい。
デマであるかどうかは、少し考えれば直ぐに分かる
重要経済安全保障情報保護・活用法案
先ずはセキュリティ・クリアランス制度に関して、前回のリンクを貼っておく。
あまり読まれていない記事なので若干残念な気はするんだけど、要点は4つだ。
- 本人の同意を得た上での適正評価を行う
- 対象は公務員や民間企業だが、あくまで重要機密に関する内容に関わる方を対象としている
- 情報漏洩した場合には罰則が適用される
- 適用分野は経済安全保障上の秘密情報となる
この点を押さえた上で、冒頭の記事を読んでいこう。ああ、参考資料は添付しておくべきだろうね。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyo_sc/dai10/siryou.pdf
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20240227_siryou.pdf
法律の話は面倒に感じるんだけど、読み方のコツさえ知っておけばそれなりに読める。
でも、解説してくれる方がいたら、参考になるよね!
間違った解説には注意
ただし、こんな間違ったことを言っている人もいるので、注意して頂きたい。なお、本人は弁護士資格を持つ頭の良い方で、某党の党首であるという……。
困ったことにこんな動画をポストしているのだが、大きく間違っている。彼女たちにとっては、とても都合の悪い法案であるようだ。
これについて、具体的に解説していこう。
秘密保護法の大開悪法
本件は秘密保護法と無関係である。具体的には直接的な関連がないという意味なんだけれども、困ったことに関係を指摘しているメディアもある。
冒頭に紹介した東京新聞も、ソレだ。
「特定秘密保護法の経済安保版」とか解説しているが、あれだけメディアが騒いだ秘密保護法で国民生活に何か悪影響があったかを考えてみても、思い当たらない。

なお、日弁連も強硬に反対しているが、その理由は「十分な審議時間が確保されない」ことと、「国家機密とされる内容が明らかにされない」という恐るべき意見であった。
特に、この「国家秘密の流出」という話で持ち出してきたのが、尖閣諸島事件ビデオ流出問題である。
なお、この話は元海上保安官が中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突してきた事件の映像をインターネットに流出させたという疑いを持たれ、それを認めたために起訴猶予処分となった事案である。

なお、この件、民主党政権時代に発生した事件(平成22年9月77日発生)であり、当時の国交大臣が事件発生後1月経過した後に、事件の隠蔽を目的に映像を秘密指定した。
日弁連は「そもそも秘密として指定する必要の無い映像だった」と判断しているが、つまりおかしな政権が保身のために秘密指定を乱発したら困るという発想なのだ。……お仲間なのに。
さておき、この問題は秘密の指定の適否を、勝手に法律の要否に変換しているし、そもそも特定秘密保護法(平成25年12月6日成立)とは無関係な案件である。
結局、国民の政治不信を利用して、不安を煽った上で「政府が信用出来ないから」「政府が指定した秘密も信用出来ない」「何か隠すのではないか」という話をしている。
しかし、このロジックも、特定秘密保護法にもセキュリティ・クリアランス制度にも何の関係もない。
国民総身辺調査法
どうしてパヨクは話を大きくしがちなのか。
「これは“1億総身辺調査法”だ」 福島氏「経済安保情報保護法案」に警鐘
2024年3月3日(日) 05:40
機密情報の保全を先端技術や重要インフラなど経済安全保障分野に広げる新法案「重要経済安保情報保護・活用法案」を政府が国会に提出した。
カナコロより
特に、福島氏の話だけをピックアップして、カナコロは話を拡大解釈している模様。あ、これは有料記事なので読めないのだが、福島氏が出てきた時点で読む価値はないので問題ない。
似たような論調なのが、しんぶん赤旗である。
秘密保護法案 プライバシーが危ない
2013年11月1日(金)
秘密保護法案には“秘密”をあつかっていい人物かどうかを公務員、民間人を問わず身辺調査をする「適性評価制度」が盛り込まれています。本紙が入手した防衛省・自衛隊の内部資料からは、調査対象者のプライバシーが侵害されるだけでなく、一見無関係の多くの国民が知らぬ間に個人情報を調べられるという恐ろしい実態が浮かび上がってきました。
しんぶん赤旗より
え?日付?
そう、実はこの記事は平成25年11月の記事で、秘密保護法に関する警鐘を鳴らす記事なのだが、流石に、今現在、秘密保護法が身辺調査法であると曲解する人はいないだろう。
だって、そんな事案が確認された事実は無いのだから。
何が面白いって、福島氏はそんな見当違いの話を、「秘密保護法に似ているから」という理由で引っ張ってきたのである。いやはや。
海外共同研究、参加しやすく=身辺調査に懸念も―経済安保情報、取り扱い資格認定
2024/02/27
政府は27日、経済安全保障上の重要な情報を扱う資格者を政府が認定する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」の制度創設に向けた法案を国会に提出した。制度を整備することで海外との共同研究に参加しやすくなり、企業のビジネスチャンス拡大が期待される。一方、身辺調査を含むため、調査対象者が不利益を被らないかとの懸念もある。
~~略~~
一方、資格の付与に当たっては、飲酒の節度や精神疾患、家族の国籍など7項目を調査する予定だ。政府は「本人の同意を得た上で実施」とするが、日本弁護士連合会は「拒めば、人事考課や給与査定などで不利益を受ける可能性も否定できない」と危惧する。
高市早苗経済安保担当相は27日の閣議後記者会見で、「適性評価の結果や内容は大切な個人情報で、企業側には伝わらない」と説明したが、国民や事業者の疑念払拭に向け、国会審議での丁寧な議論が求められる。
リスク対策comより
もう少し丁寧な議論をしているのが、このサイトで、他のメディアでも、適正評価について不安を指摘している。
この懸念は正しい部分もあるが、根本的に「適正評価を受けて合否がでた」という情報を外部に伝えることはリスクに繋がりかねないのでやらないし、すべきでもない。
適正評価を受け、合否の結果を周知することは、合格した場合でも失格だった場合にもその人のリスクを高める結果となる。運用上に置いても、その情報は極めて丁寧に取り扱う必要がある。
何が秘密かが秘密であることが問題
なかなか凄いロジックではあるが、不安をかきたてる意味では有効な手法だろう。

これ、以前にも紹介した話なのだが、秘密指定される分野というのはある程度開示されている。
そして、多くの国民が日常生活において知る必要のない情報が、その対象となっている。
確かに秘密保護法の秘密の範囲が拡大された、という理解をするのは間違いではないのだが、秘密が漏洩した場合に被害が甚大なモノとなるという観点で考えるアメリカの同様の法律を鑑みれば、個人に不要な損害賠償責任を負わせないようにする、リスク回避を目的とした法律なのだから、ある意味良心的であるとも言える。

これはトレンドマイクロ社が解説するアメリカの法令における秘密の範囲の指定概念である。
例えば戦闘機のエンジンに関する情報は、こうした秘密の指定がかけられている。確かに、漏洩すればエンジンの脆弱部分が明らかになるので、戦闘機の墜落に繋がるリスクがある。コレが敵に知られれば、その脆弱性を突いた攻撃が為されることになり、戦闘機が墜落したときに、100億円以上の損害が生じる。
しかし、一般のアメリカ国民にとって戦闘機のエンジンに関する秘密が必要とは思えない。そういう話なのである。
もちろん、国民生活に大きく関わる重大な秘密が秘密指定される可能性だってあるが、それが秘密にされているうちは対象になっているかどうかも不明であり、周知されれば秘密でもなんでもなくなってしまう。
既に秘密ではない状態の情報を秘密にすることは不可能であり、それを根拠に罪に問うことも不可能である。よって、「秘密であることが秘密」というのは、寧ろ国民を守る話だし、不安をかきたてる言葉ではあるものの、現実問題としては割とどうでも良い話でもある。
全ての国民の情報を内閣総理大臣が握れる
……荒唐無稽すぎてお話にならない。
それが可能であれば、内閣総理大臣は神に等しい能力の持ち主ということになる。必要な時間的にも能力的にもまあ不可能である。
怖いとか怖くないとか言う以前に、福島氏の発想が怖い。

これもアメリカのセキュリティ・クリアランス制度の手順を説明するトレンドマイクロ社からの情報なのだが、適正評価には時間もコストもかかる。それの対象者が何人も存在すれば、その状態を維持していく上でかなりの維持費が必要となる。
そうまでしてでも利益に繋がると判断されれば、適正評価を行い、そうでないと判断されればそもそも秘密の価値がないという話になる。
企業の経済活動を制限?!
そして、内閣総理大臣が個人情報を取得できることで、企業の経済活動を阻害するという話に繋げているのだが……、話が飛躍しすぎて意味が分からない。
以前も言及させて頂いたが、本件は次期戦闘機開発に必須である。
戦闘機開発は、国際的にも秘密指定されるに足る事案である。イギリスとイタリアにとって、日本と組むことは、素材技術的なアドバンテージのある日本の製品を使う上で重要である一方、必要な法整備が為されていない不安がある。
そもそも戦闘機開発をやるとはいえ、やるのは民間企業である。それはイギリスでもイタリアでも同じ。日本の場合は三菱重工やIHIが中心となっていくはハズだが、現時点で適正評価されない人材をこの戦闘機開発に参加させるわけには行かない。
情報が漏れれば各国に大きな損害をもたらすからである。
他にも、NTTが6Gの技術開発を使用と躍起になっているが、国際的な協力無しにその技術は外国に広めることが難しい。5Gの時にも問題になっていた通信速度の問題が改善されることで、より軍事転用したときのメリットに繋がる。
しかし、そうした話にNTTは加わることが出来ないし、グローバルスタンダードにしようと思えば、国際的な実験や研究の協力は不可欠となる。だが、外国がNTTが噛む6Gに関する技術開発内容の一部を秘密に指定してしまえば、NTTは外国に情報を出すことは難しくなる。それどころか、不用意に情報を出せば逮捕されかねない。この解説は先ほどの説明と矛盾するように思えるが、技術開発とはノウハウが漏れないようにクローズドでやることが一般的なので、おかしな話とも言えない。
つまり、日本が法整備をやっておかねば、民間企業にとっての不利益に繋がりかねないという話で、これがセキュリティ・クリアランス制度の本質でもある。
国会に報告されない
この辺りになってくると、何が言いたいのか理解不能である。
だが、おそらくは附則10条辺りの話をしているのだと思われる。
(国会に対する特定秘密の提供及び国会におけるその保護措置の在り方)
第十条 国会に対する特定秘密の提供については、政府は、国会が国権の最高機関であり各議院がその会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定める権能を有することを定める日本国憲法及びこれに基づく国会法等の精神にのっとり、この法律を運用するものとし、特定秘密の提供を受ける国会におけるその保護に関する方策については、国会において、検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
特定秘密の保護に関する法律・附則より
ただこの附則は、あくまで特定秘密が指定された情報を国会に提出する場合において、「検討」と「必要な措置を講ずる」必要があるという話を盛り込んだもので、そもそも国会で審議が必要な事案かどうかの判断をする材料が外に漏れない設計になっているのだから、完全に理念法扱いだろう。
可能性がゼロでない以上は、手続きを決めておく必要があるね、と、それだけの話だ。
今回のセキュリティ・クリアランス制度に関しては特定秘密保護法の射程範囲外の、セキュリティレベルが一段落ちる情報なので、こうした手当も必要がなく、漏洩した時点で秘密とは言えなくなる。それだけの話だ。
懸念は分かるが正しい情報を得よう
というわけで論外の話を紹介してしまったが、不要な怯えや煽りを感じる必要はないのがセキュリティ・クリアランス制度の話である。福島氏の話は、要約すると「良く分からないから止めよう」という大変雑な話だ。
だが、この手の話は情報が出てきにくい部類の話なので、必要かを判断することがなかなか難しいのは事実である。
上に紹介した基本の4要点は押さえた上で、多角的な情報を得るようにすることが好ましい。
僕としては、現時点では必要な法整備の一環だと思っている。
コメント
こんにちは。
>「国家機密とされる内容が明らかにされない」
それを明らかにしたら「機密」じゃないだろう……バカだバカだと思っていたけど、バカなんですね、新聞屋さんは。
セルフ追記です。
LINEヤフーが業務改善命令喰らったそうですが、そういうところを政府の仕事に食い込ませるバカ議員はどこのどいつだ、一体どこの国の議員だ?
こんにちは。
国家機密の話には、新聞屋さんも興味津々なのでしょう。
で、行政にLINEを使って情報が漏洩すると。業務改善もなにも、あれ、わざとでしょう。