凄いこと言い始めたな、マクロン氏は。
仏大統領 ウクライナへ地上部隊派遣 “排除されるべきでない”
2024年2月27日 12時45分
フランスのマクロン大統領は、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナに対し、欧米側が地上部隊を派遣する可能性について「合意はない」としながらも、「いかなることも排除されるべきではない」と述べました。
NHKニュースより
発言の軽いマクロン氏のことであるから、この程度の発言に驚く必要はないだろう。多分数日のウチに議会から怒られて発言の修正をするから。現時点でフランス軍が確実に動く、という話ではないのだ。
では、何故この話題を取り上げたのかと言えば、EUの状況が対ロシア強硬姿勢に移りつつある、ということと、発言の軽いマクロン氏の影響は軽くない可能性があること、を感じているからだ。
情勢が変わりつつあるヨーロッパ
スロバキアはロシアとの取引を再開したい
この話、ウクライナへの支援に関する会合で、スロバキアの首相が「一部の欧米諸国が、ウクライナ派兵検討」とぺろっと喋ってしまったことに起因しているらしい。
この会合に先立ってロイター通信などは、ウクライナへの軍事支援に否定的な立場を取るスロバキアのフィツォ首相が「一部の欧米諸国がウクライナへの派兵を検討している」などと発言したと報じました。
NHKニュース「仏大統領 ウクライナへ地上部隊派遣 “排除されるべきでない”」より
んー?
スロバキア新首相 ウクライナ軍事支援停止の方針を正式表明
2023年10月27日 7時39分
ウクライナへの軍事支援の停止を訴え、ヨーロッパ中部スロバキアの新たな首相に就任したフィツォ氏が、26日、支援を停止する方針を正式に表明しました。今後、ウクライナ支援などを巡ってEUの結束に乱れが生じないか注目されています。
NHKニュースより
そういえばこのスロバキアの首相、ウクライナ支援について「俺、支援しねーよ」と、就任早々表明してしまったことがニュースになっていたな。
前の政権は、ウクライナに戦闘機を供与するなど、軍事支援を積極的に行ってきましたが、フィツォ氏は、選挙戦で、戦闘の終結にはロシアとの交渉が必要だと主張し軍事支援を停止すると訴えてきました。
NHKニュース「スロバキア新首相 ウクライナ軍事支援停止の方針を正式表明」より
まあ、フィツォ氏が選挙戦で「ロシアと交渉するぜ!」「軍事支援なんか止めだ!」と訴えて当選したのだから、当然と言えば当然である。
スロバキア経済は大打撃を受けている
実は、ロシアに対する世界的な経済制裁開始に伴い、スロバキアは経済的に随分と苦しんでいるようで。スロバキアの情報は少ないのだが、こんな情報が。
欧州、インフレ格差10倍
2023年7月19日 2:00
欧州各国のインフレに差が広がっている。スペインやルクセンブルクで消費者物価の上昇率が1%台に鈍化した半面、スロバキアは11%台と単純計算で最大10倍超の差が開いている。インフレ抑制の必要性にばらつきがある中、欧州中央銀行(ECB)は金融政策をめぐり難しい判断を迫られている。
日本経済新聞より
この話の関連情報としてこんな話もある。
スロバキア、ロシア産原油禁輸の免除要請へ EU制裁第6弾
May 3, 202211:02 PM
スロバキア経済省は3日、欧州連合(EU)が準備中の対ロシア制裁第6弾でロシア産原油の輸入禁止措置が盛り込まれた場合、順守免除を求める方針を示した。
欧州委員会は対ロシア制裁第6弾を3日に取りまとめる見通し。EU当局者2人は2日、ロシア産原油への依存度が特に高いハンガリーとスロバキアは免除する可能性があると述べていた。
スロバキアは、原油輸入のほぼ全量をロシアに依存しており主にパイプライン経由で調達している。備蓄は120日分。
ロイターより
スロバキアは原油輸入のほぼ全量をロシアに依存していた国家である。もちろん天然ガスも、なのだが。

結局、スロバキアは原油と天然ガスについてロシア依存から脱却を出来ていないようで、結局のところ2023年末まではお目こぼしを貰いつつ、EUからの供給ルート開拓を急いでいたハズである。
おそらくは未だにこの問題は解消していないのだろうね。スロバキアがEUに属しながらも、まだロシア側に引っ張られているのは、ある意味仕方がないね。
スロバキア経済を安定化させるためには、「色々」やることも吝かではないのだろう。
ハンガリーも
なお、スロバキアと同じ立場にいるのがハンガリーである。
フィツォ首相は同じくEU加盟国でロシア寄りの姿勢を示すハンガリーのオルバン首相と行動をともにするとの見方も出ていて、今後、ウクライナへの支援などをめぐるEUの結束に乱れが生じないか注目されています。
NHKニュース「スロバキア新首相 ウクライナ軍事支援停止の方針を正式表明」より
ハンガリーもEUに加盟している上に、NATOの一員でもある。その上でロシアに魂を売っているのだから世話はない。
しかし、数年前まではヨーロッパ全体でロシアからのエネルギー供給に頼りっきりで経済を回してきたのだから、EUとしてもハンガリーやスロバキアを責めるのはお門違いというものである。
EUの安全保障の観点からすれば、独裁国家にエネルギー供給を依存することは愚かしいことで、そんなことは指摘するまでもないのだが、「まさかロシアが」と、正に平和ボケの空気がEUにも蔓延していただけに、その部分に目を瞑っていたのだろうね。
「もしトラ」で早期決着が求められる
で、こんな話が出始めた理由は、NATOがアメリカ頼みで構築されていたという歪んだ形になっていたことをトランプ氏に突きつけられたことと、ロシアの狂気を目の当たりにしたからだろう。
アメリカ大統領選挙で、トランプ氏が当選した時にEUはアメリカ抜きの安全保障が成り立つのかについて真剣に考えざるを得ない。
「ウクライナへの支援」とは、今やそういう文脈で語られるようになっているのである。
会合のあと、マクロン大統領は記者会見で、欧米側がウクライナへ地上部隊を派遣する可能性について質問されたのに対し「会合では、自由で直接的にさまざまな議論が行われた。正式な形で地上部隊を派遣することについて合意はない。しかし、いかなることも排除されるべきではない」と述べました。
また「フランスは戦略を明確にしない立場を取る。ロシアを勝たせないというわれわれの目的のためだ」と述べました。
NHKニュース「仏大統領 ウクライナへ地上部隊派遣 “排除されるべきでない”」より
だからこそ、マクロン氏は「正式に何も決まっていない」と断りを入れつつ「いかなることも排除されるべきではない」と、軍事介入を臭わせたわけだ。
軽率な発言が目立つマクロン氏らしいな。
盤面を変えたスウェーデン
NATO加盟国が増える
さて、このような発言が出た背景について考えてみたい。1つの材料として考え得るのが、スウェーデンのNATO加盟が決定した事である。
スウェーデンNATO加盟へ、ハンガリーが承認 米も歓迎
2024年2月27日午前 6:09
ハンガリー議会は26日、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を承認した。スウェーデンは2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻を受け長年の中立政策を転換。北欧ではフィンランドが昨年に加盟を果たしており、NATOにとって1990年代以降で最も有意な拡大となる。
ロイターより
この話は先ず地図を見て貰った方が良いだろう。

スウェーデンのNATO加盟によって何が起こったかと言えば、バルト海がNATO加盟国によって囲まれる事になった。
NATOは欧州北部のバルト海をほぼ囲う形となり、ロシアにとっては、同海に面する飛び地カリーニングラードからの軍事展開が難しくなる。ロシアはNATO拡大を警戒してウクライナに侵攻したとされるが、裏目に出た形だ。
時事通信社「スウェーデンNATO加盟、32カ国目」より
ロシアはカリーニングラードを維持してロシア艦隊の展開を行うための出口を確保していた。既に黒海の出口はNATO加盟国に封鎖されているため、ロシア海軍の運用は更に厳しくなることが確実である。
一応、ロシアは北極海航路を開発中ではあるが、氷によって閉ざされる北極海は航路として機能するかが今以てハッキリしない。温暖化によって北極海の氷が溶けているとされているが、定期的に砕氷する必要があるのは変わらない。
つまり、ロシアにとって海上航路の確保は昔から課題であったが、スウェーデンのNATO加盟によって更に厳しい状況になっているという意味である。
ただし経済の話でもある
ただまあ、こうしたNATOの膨張というか、EUの再編というか、こうした動きは、ロシアとの関係で語っても分かりにくい部分もある。
安全保障と経済は裏表のコインのような話だから、経済面での関係を語らないと片手オチになってしまうしね。
NATO加盟条件クリア? スウェーデン、ハンガリーに戦闘機売却へ
2024年2月24日 5時00分
スウェーデンのクリステション首相は23日、ハンガリーの首都ブダペストを訪問し、オルバン首相と会談した。両首脳は記者会見で、スウェーデンが自国の航空機製造会社「サーブ」製のグリペン戦闘機4機をハンガリーに追加で売却することで合意したと発表した。
~~略~~
グリペン戦闘機の追加売却がNATO加盟承認の取引条件なのかどうかについては「取引ではない」と否定した。ただ、防衛分野での合意が「明らかに二国間の信頼関係の再建に役立つ」とも述べた。
朝日新聞より
サーブ社が作っているグリペン戦闘機だが、これがなかなか出来が良いのだ。ただ、外国に輸出できているかというと、大人気というところまでは行かないようで。

たしか、先日ブラジルが購入するとかいう話もあったね。ブラジル空軍はミラージュとかF-5Eとかを運用していたけれど、流石に老朽化してグリペンE/F型の戦闘機を導入することを決定して、現在製造中である。
で、ハンガリー空軍は14機をリースで運用していたが、コレにプラス4機の運用ということになったらしい。これはスウェーデンがセールスしたという意味なのか、スウェーデンのNATO加盟に最後まで反対していたハンガリーが良い条件を引き出したという意味なのか。
そういえば、スウェーデンはハンガリーと仲が宜しくなかったな。
一方、スウェーデンは、ハンガリーがEUの民主主義の原則から離れていると非難するEU加盟国の一つ。
これに対してオルバン氏の報道官は、スウェーデンを「崩れかけた道徳的優位の王座」に座っていると非難していた。
BBC「スウェーデン、NATO加盟へ ハンガリーが承認」より
あー、嫌だ嫌だ。ヨーロッパでは笑顔で殴り合いする外交が盛んだから、こういうのは挨拶代わり程度の話である。
ただ、全体的な傾向を見ると、ロシアへの圧力を強めていく方針だと言うことが、EUで共有された感じなんだろうね。
追記
フランス国内での火消しはまだ無いようだが、NATO各国は火消しに走っているね。
NATO各国、地上部隊のウクライナ派遣を否定 マクロン仏大統領の発言受け
2024年2月28日
イギリスやアメリカ、ドイツを含む北大西洋条約機構(NATO)の一部加盟国は27日、ウクライナに西側の地上部隊を派遣する可能性を否定した。フランスのエマニュエル・マクロン大統領が前日、派遣について「何も排除すべきではない」と述べたことを受けてのもの。
BBCより
まあ、否定はするよね。
マクロン氏の発言に、欧州各国やNATO加盟国は即座に反応した。
米ホワイトハウスは声明で、ジョー・バイデン大統領は「勝利への道」は軍事支援を提供し、「ウクライナ軍が自衛に必要な武器と弾薬を持つこと」だと信じているとした。
そして、「バイデン大統領はアメリカがウクライナでの戦闘のために部隊を派遣することはないと明言している」と付け加えた。
ドイツのオラフ・ショルツ首相も、欧州やNATO加盟国はウクライナに部隊を送らないという合意された立場に変更はないと述べた。
イギリスのリシ・スーナク首相の報道官は、イギリスは現在ウクライナ軍を訓練している少人数の軍人以外に、ウクライナに大規模な軍事派遣をする計画はないと述べた。
イタリアのジョルジャ・メローニ首相の事務所も、イタリアの「支援には欧州やNATO加盟国の軍隊がウクライナ領土に滞在することは含まれていない」とした。
BBCより
ふーん。もう少し臭わせても良かったように思うけれど、想定の範囲内の動きではある。ロシア側もビビって声明を出していたし、フランスの態度にロシアが危機感を持ったということなんだろう。フランスの強気がどこまで続くのか?も興味深いんだけど、各国の思惑も交錯しているようだね。ただ、何れにしても対ロシアのボルテージはあがりそうな情勢である。
追記2
ちなみにプーチン氏の側近からもお墨付きを貰った模様。
仏大統領は「ナポレオン気取り」、プーチン氏側近が派兵発言非難
2024年2月29日午前 9:41
ーチン・ロシア大統領の側近は28日、ウクライナ派兵の可能性に触れたマクロン仏大統領に対し、派兵すればナポレオンの大軍が1812年のロシア侵攻で敗北したのと同じ結末を迎えることになると警告した。
ロイターより
ロシア侵攻ねぇ。
長引くとアレだから、地上侵攻せずに空爆で。
コメント
中欧の内陸諸国はロシア産に依存してきたから、その部分で一番割を喰っているのだろうね。
対ロ強硬派のフィンランドとポーランド、バルト諸国は、いち早くノルウェーからの共同パイプラインや域内パイプラインの敷設、また原発建設を進めて、脱ロシアを図っているけど、ハンガリーを含めた内陸諸国は、効率的なロシア産を捨ててまで、そんな大胆な手段を取れなかったんだろうね。
さて、マクロン氏の真意は判らないけど、個別にはフランスとロシアは中東やアフリカで利権争いをしてきたから、今回の発言はロシアへのジャブ(嫌がらせ)なのかも。フランスは利権に敏感だし、ウクライナそのものが大きな利権の塊でもあるしね。
中欧の内陸諸国、特にロシアと国境の近い地域ではそういう判断も仕方がないのでしょう。
しかし、それにしたって脱原発の方向に向いちゃったのは失敗だった気がしますよ。
こんにちは。
東西の狭間で右往左往する小国は、いよいよ旗色を明らかにする局面に来たようですね。
西側が天国、理想の国とは口が裂けても言えませんが。
EUにしても、一部「貴族の国」が「労働者の国」から搾取する構造は改善されていませんし。
合議制故のリアクションの遅さも問題ですし。
でも、独裁故の朝令暮改、自分の首の物理的心配がないだけマシなのかな。
マクロンの発言の真意はわかりませんね。
マクロンが正しくて、他国が火消しに回ってるのか、マクロンが事実無根の虚言癖なのか。
ただ、事態を大きく動かし、鎮静化するためには、国連軍……は無理でしょうけれど、「自由諸国義勇連合軍」くらいは投入しないとどうにもならないでしょうね。
こんにちは。
国力の小さい国家は、大国に押しつぶされないように四苦八苦するしかありません。
なかなか厳しい局面なのではないでしょうか。
脱ロシアの流れは止まりそうにありませんが、果たしてロシアの脅威になるかどうかは。
マクロン氏の動きは今のところ把握していませんが、フランス議会も同じ方向を向いているとすると、興味深い話ですよ。フランスは結構争い事に首を突っ込みたがる習性がありましたから、今回の話はある意味当然の流れなのかも知れませんね。
そういや、フランスには伝統の「外人部隊」がありましたっけ……
なかなか外人部隊は優秀だと聞きましたけど、今はどうなんでしょうかね。